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第一章 出会いと別れ
20 最悪な展開。
しおりを挟む嘘だ。さっきまで城外へ出ようとしていたのに。何故、こんな小さな酒場へ? しかもこの酒場は路地裏の道にある人気の少ないところにあったというのに。
「どーも、626番さん。今朝ぶりだね」
後ろに何人もの兵士を引き連れて、ルーツは満面な笑みを浮かべる。それは私を恐怖におとす。
待って。待って……。嫌な噂と嫌な事態が同時に起きてる。これは本当に、ベルと離れ離れになってしまうんじゃ。
「ルーツ……!」
ベルが私の前に立つ。
「や、やだ……! 嫌! 嫌です……!!」
私はベルの腰にしがみつく。ルーツの黒い笑い声がした。
「ふふふ……ホントに仲が良いよ。だから僕は反対したんだ。なのに上官は僕の話を聞かない」
恐らくその話は、私の牢獄にベルを入れたことだと思う。
ルーツは言い終えた後に、舌打ちと共に唾を吐き出す。
「嫌なら、お得意の魔力で操れば良かっただろう?」
「兄さん……。僕の今の立場を知ってそれを言うのかい? リスクが大きすぎるでしょ」
「なんだそれ……本当にこの国の犬になったのか」
煽っちゃ駄目だよベル……! 今はこの状況を穏便に済ませないとなのに……!
「よぉよぉ、ルーツ兵長。お久しぶり、元気してたか? どうせなら、座って飲めばいいのになぁ」
「ショウさん、お久しぶり。でも僕は今それどころじゃないんだ。ここで兄さんを捕まえれば僕はもっと出世できる。――そうでしょう?」
「ちっ……ベル、問題ないぞ。一応、裏に逃げ道がある」
「ははは! ショウさ~ん、もしかしてあの下水道のことを言ってるのかい? もう手遅れだよ」
「なっ……! あ、ああ、もう塞がれてるのかよぉ……??」
どうやらもう逃げ道は無い……? 私達より前にいたお客さん達も唖然とした表情を向けて、黙り込んでいる。
「ええい。商売の邪魔だ! やんなら外でやってくれ」
「どうやら、そうもいかないようだよ。その大量なヘデラの実、中級が保管していい数に反してる。大分ストックしてるようだね。――これで僕が国に報告すれば、ショウさんのご立派な酒場もここで終わりになるだろうけど」
「くっ……!」
「ねえ! 君たち、今回のタダ飯は僕に免じて見逃そう。今すぐにそこの窓を破って避難してほしい」
ルーツは客に向けてそう言い放った。お客さん達は指示通りに窓を破って逃げ始める。別の兵士たちが窓前まで行き、避難の誘導を始める。元性奴隷であった店員達もその窓から逃げ出そうとするが、一人だけルーツの前に歩み寄り、腕をルーツの腰に回ししがみついた。
「どうか……私を雇ってくださいまし。私は一人では生きていけません……!」
彼女の背はルーツを見上げるほどの高さだった。互いの唇が当たりそうになっている。ルーツは彼女の唇を手のひらで覆い被せた。
「受刑者は今後、我々の未来の希望となる。彼らにも奉仕が必要となってくるだろう。君はそれに務めなさい」
ええっ……!? と声をあげ、彼女の全身が震え上がった。別の兵士が彼女を外へと誘導し、連れて行かれる。
「わ、わた、くしは……! 貴方の元で働きたかったのですが……!」
捨て台詞を最後に、ルーツはフッと嘲笑った。
「それならもう間に合っている。――ね? 626番さん」
ズキッ……。その言葉に、胸が何かに刺されたような感覚がした。それから痛みで悲鳴をあげるように、鼓動が高鳴っていく。
ベルは……? 隙を見せない為かルーツが前にいる以上、彼はもう私に目を向けようとしない。
「――おい、ルーツ。俺はお前の案は呑まない。受刑者を兵士にするなんてあり得ないだろ。俺は絶対にやらないからな」
「選抜はもうとっくに済んでるんだ。兄さんは勿論、選ばれたよ? 僕の推薦でね」
「知るか! いい加減にしろ。俺は何としてでもやらない」
「それこそ直ぐに処刑だ。国に誠意を持つ者が生き残る。だから兄さんに残された選択肢は、国へ未来を与えるか、国の為に死んで償うかのどちらかだ」
ルーツは眉を寄せつつも笑み続けた。
「兄さん。僕はまた一緒に兄さんと協力し合って戦いたい。これはある意味、兄さんを兵士として昇格させてこの牢獄から助け出す唯一のチャンスなんだ! 分かってくれるでしょ?」
心にもない言葉だと、私は知っている。
今朝、ルーツは兄に自分の将来を邪魔されたくないからと、今まで兄が牢獄にいようと助けるなんてしてこなかった。そうルーツは自ら私に言ったんだ。
「俺を十分に利用したいだけだろ?」
ベルがあっさりと跳ね返す。お見通しだった。
「酷いなぁ。弟である僕の話を信じようともしないんだ」
ルーツが降ろしていた手を上に、手で何かを掴むような動作をする。
すると、私がベルの腰にしがみついていたのに、急にショウが私を押し退けてベルの腰に腕を回す。
「きゃっ……!」
「キラ!! お、おい! 何やってんだよ!?」
「悪い……!! ルーツに操られて、手が勝手に……!!」
ベルが抵抗しようとしても、ショウは力が強いのか抵抗を妨げる。
「おいで? 626番。君は僕についてくるんだ」
「あっ、ああっ……!! ベルさん! ベルさん……!!」
ルーツの指示通りに、私まで彼の元へと近づいていく。ベルと漸く目が合ったが、ベルの吊り上がった眉と血走った目が一瞬だけ元に戻ったような気がした。
「キラ!」
「助けて……!!」
私の苦しい叫び声に、ベルはルーツに手を向ける。
「やめときなよ。兄さんの場合だと、命を削るようなもんだよ。それに、さっきはよくも部下達を操ってくれたな?」
……それが敗因だったのか。でも、上手くやってたように感じたけれど……。いや、きっと、それ以外にもっと何かあったはずだ。
ルーツは笑みは止まず、ベルのように眉が釣り上がり目を見開かせた。
魔力……?? こんな時に、私はまたしても目眩が押し寄せてくる。
誰にだろうか。どこかで足を引っ掛けたのか。私はそのまま誰かの胸に飛び込むように、倒れた。
***
「っう………!! んん……!! 頭痛い……!!」
窓から差し込む光に目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。
ふかふかな布……? これは、ベッド?
真っ白なベッドと、そして、私は薄布のふわっとしたピンク色の服を着ていた。
頭の痛みは窓の隙間からくる優しい風と共に過ぎ去っていく。
なんだろう、ここは?
周りを見渡すと、まるで王宮のような高価なインテリアが並んだ部屋に居た。
十二畳……? いや、それ以上にあるのでは。広々とした空間。
「やっ……夢? ここは……?」
三メートルほど先に低めのテーブルがあり、丁寧にレースか掛かっている。その前には背もたれ付きの椅子がある。やけに背もたれの座高が高いような。
「ベルは……? いない……」
でも、椅子をよくよく見ると……。誰かが腰掛けているような。椅子の足元から誰かの足が見える。そして、両脇には腕らしきものも。
――きっと、誰か座ってる!
「あのっ……」
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