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暴発の脈動
集会所の日常・2
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もうすぐ、冬がやってくる。それはつまり、ベスルベルク国民が待ち望んだ独立記念日が近づいているということでもある。
約1か月後に迫った独立記念日は、前夜祭も含めて2日にわたって行われるベスルベルクの最大行事。出店や花火、各種出し物はもちろんのこと、自治団によるパレード、自治団長による演説、剣術大会などがその目玉となる行事である。
元来、ベスルベルクの勝利と独立を祝う催しであったが、現在は扇情的な政治色は殆ど感じられなくなった。自治団長の演説など政治的な側面はあれど、帝国に対しての扇動的なものではない。祭りを目当てに帝国からやってくる旅行者も多い。
独立記念日はベスルベルクの商人たちにとっては書き入れ時であるし、自治団の面々にとっても、自分たちの功績を高らかに主張する晴れの舞台だ。一般国民にとっても、日常を忘れて心行くまで楽しむ絶好の機会であることは言うまでもない。
であるが故に、ベスルベルクの国内は冬に向かうにつれて活気を増していくのだ。その後にやってくる厳しい冬に打ち勝つための、空元気、決起大会的な側面も否定できないだろう。ベスルベルクの冬は、なかなかに過酷なのだ。
長机に集って大騒ぎをしていた男達も、各々が独立記念日に思いをはせているのかもしれない。コーによって酒が配られたのち、男たちは無言で酒を飲み続けている。カウンター裏のコーの姿も、いつの間にか見えなくなっている。
そのまま、5分ほどは経っただろか。男たちの間でしばらく続いた沈黙に終止符を打ったのは、銀髪の男の小さな呟きだった。
「新皇帝とやらは、どの程度の男だ?」
一瞬で、場の空気が引き締まった物へと変わる。腐っても自治団員ならば、やはり帝国の動きは気になるものだ。ましてや先日、帝国先帝が崩御し、新帝が即位している。その男の力量は、誰しもが気になるところだ。小柄な男が即座に答える。
「国内処理ではそこそこの実績はあるようですが、まだまだ若造です」
「お前の見立てでは、与しやすい相手という訳か?」
「いえ、流石にそこまでは。ただ、経験値から言ってコルツ団長には遠く及びません。全くもってご懸念には及ばないでしょう。」
「俺が何を心配していると言った?」
銀髪の男が、眼光鋭く切り返す。一瞬たじろいだ小柄な男は、「出過ぎた真似を」と言った趣旨のことをモゴモゴと呟き、俯いて黙りこんだ。男たちの間に再び沈黙が訪れる。今度の沈黙は、しかし、頬傷の大男によってすぐに断ち切られた。
「ところで、シャール。お前、独立記念日の相手は決めたのか?」
シャールと呼ばれた銀髪の男が、軽く首を振って言う。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
「いや、まだだ。だが、マリアを連れて行く気はない」
「そう言うと思ったよ」
「お互い散々に利用し合ったが、もう仕舞だ。アイツも文句ないだろう」
「まあ、そうだろうな。お互い様だ」
「お前はどうなんだ、ボルツ?」
頬傷の大男、ボルツは、肩をすくめて見せた。
「俺にはいつだってランがいる」
「そうか。お前がそれでいいなら何も言うことは無い」
「何か、言いたそうじゃないか、ええ?」
そう言ったボルツもニヤリと笑う。シャールとボルツは気心の知れた仲。事実、この二人の間では、かなり際どいジョークも頻繁に飛び交っている。
「いや、ただお前ほどの男なら、少しくらい遊んでも罰は当たらんと思ってな」
「昔はそうだったさ。だが、ランに出会ってからは、そんな気持ちはなくなった」
「生真面目なことで」
「ほおっておけ」
「もし、シャール様?」
シャールとボルツの会話に割って入るように、小男が、恐る恐る声を上げた。先ほど受けた叱責を気にしているに違いない。シャールは、冷静な視線を小男に投げる。特に怒っている様子はない。ボルツも特に気分を害した様子はない。
「なんだ、ルーカス」
「はい。恐れながら、もしお相手をお探しながら、私に心当たりがございます」
約1か月後に迫った独立記念日は、前夜祭も含めて2日にわたって行われるベスルベルクの最大行事。出店や花火、各種出し物はもちろんのこと、自治団によるパレード、自治団長による演説、剣術大会などがその目玉となる行事である。
元来、ベスルベルクの勝利と独立を祝う催しであったが、現在は扇情的な政治色は殆ど感じられなくなった。自治団長の演説など政治的な側面はあれど、帝国に対しての扇動的なものではない。祭りを目当てに帝国からやってくる旅行者も多い。
独立記念日はベスルベルクの商人たちにとっては書き入れ時であるし、自治団の面々にとっても、自分たちの功績を高らかに主張する晴れの舞台だ。一般国民にとっても、日常を忘れて心行くまで楽しむ絶好の機会であることは言うまでもない。
であるが故に、ベスルベルクの国内は冬に向かうにつれて活気を増していくのだ。その後にやってくる厳しい冬に打ち勝つための、空元気、決起大会的な側面も否定できないだろう。ベスルベルクの冬は、なかなかに過酷なのだ。
長机に集って大騒ぎをしていた男達も、各々が独立記念日に思いをはせているのかもしれない。コーによって酒が配られたのち、男たちは無言で酒を飲み続けている。カウンター裏のコーの姿も、いつの間にか見えなくなっている。
そのまま、5分ほどは経っただろか。男たちの間でしばらく続いた沈黙に終止符を打ったのは、銀髪の男の小さな呟きだった。
「新皇帝とやらは、どの程度の男だ?」
一瞬で、場の空気が引き締まった物へと変わる。腐っても自治団員ならば、やはり帝国の動きは気になるものだ。ましてや先日、帝国先帝が崩御し、新帝が即位している。その男の力量は、誰しもが気になるところだ。小柄な男が即座に答える。
「国内処理ではそこそこの実績はあるようですが、まだまだ若造です」
「お前の見立てでは、与しやすい相手という訳か?」
「いえ、流石にそこまでは。ただ、経験値から言ってコルツ団長には遠く及びません。全くもってご懸念には及ばないでしょう。」
「俺が何を心配していると言った?」
銀髪の男が、眼光鋭く切り返す。一瞬たじろいだ小柄な男は、「出過ぎた真似を」と言った趣旨のことをモゴモゴと呟き、俯いて黙りこんだ。男たちの間に再び沈黙が訪れる。今度の沈黙は、しかし、頬傷の大男によってすぐに断ち切られた。
「ところで、シャール。お前、独立記念日の相手は決めたのか?」
シャールと呼ばれた銀髪の男が、軽く首を振って言う。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいる。
「いや、まだだ。だが、マリアを連れて行く気はない」
「そう言うと思ったよ」
「お互い散々に利用し合ったが、もう仕舞だ。アイツも文句ないだろう」
「まあ、そうだろうな。お互い様だ」
「お前はどうなんだ、ボルツ?」
頬傷の大男、ボルツは、肩をすくめて見せた。
「俺にはいつだってランがいる」
「そうか。お前がそれでいいなら何も言うことは無い」
「何か、言いたそうじゃないか、ええ?」
そう言ったボルツもニヤリと笑う。シャールとボルツは気心の知れた仲。事実、この二人の間では、かなり際どいジョークも頻繁に飛び交っている。
「いや、ただお前ほどの男なら、少しくらい遊んでも罰は当たらんと思ってな」
「昔はそうだったさ。だが、ランに出会ってからは、そんな気持ちはなくなった」
「生真面目なことで」
「ほおっておけ」
「もし、シャール様?」
シャールとボルツの会話に割って入るように、小男が、恐る恐る声を上げた。先ほど受けた叱責を気にしているに違いない。シャールは、冷静な視線を小男に投げる。特に怒っている様子はない。ボルツも特に気分を害した様子はない。
「なんだ、ルーカス」
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