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暴発の脈動
集会所の日常・3
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「ほう、言ってみろ」
シャールが静かに言った。声にはヒヤリとさせる冷たさがあったが、その表情には危険な雰囲気は感じられない。どうやら今度の申し出は、それほど的外れではなかったようだ。僅かに安堵の表情を浮かべたルーカスが続ける。
「街中で、最近噂が立ち始めている娘です。なかなかの器量よしですな。名をシンシアと言いまして、宿屋の看板娘として働いています」
上座に座る金髪の男の表情が、僅かに動いた。しかし、その口を開くことは無い。彼だけが、終始沈黙を保っている。騒がしい集団の中において明らかに不自然だが、他の男たちに戸惑った様子はない。これが、いつものことなのだろう。
金髪の男とは対照的に、何人かの男たちからは、シンシアと言う名を聞くなり小さな声が漏れた。それなりに知名度のある娘なのかもしれない。シャールは、周りの反応からそれに気づいたようだ。少し興味を持ったようで、眉を上げて質問する。
「どんな女だ?」
「はい、今年で二十歳になる娘です。近頃、どうにも美しさを増してきたと専らの評判で、注目を集めつつあります。私も実際にこの目で確かめてきました」
「それで?」
「はい、噂に違わぬと。あえて申すなら、一昨年のヘレナにどこか似た顔立ち。背丈などはずいぶんと異なりますが、目元の雰囲気は、よく似ています」
「ほう、それはいい。あの女はなかなかに美しかった」
シャールは、より興味を強めたようだ。ビールを片手に、ルーカスに向って手招きする。ルーカスは、待ってましたと言わんばかりに、勢いよく長机の端から立ち上がった。
ルーカスは、長机を迂回するようにシャールの下へ速足で進み、促されるままにシャールの隣の席につく。そして、シャールに顔を近づけ、何やらヒソヒソと耳打ちをする。シャールは、何度か頷きながらその話を聴いている。
しばらくして、シャールが両手で両膝を打つ。その表情は、明らかに満足げだ。ルーカスもそこで耳打ちを止め、隣の席に戻る。そして、ジョッキを手に取ったシャールがその中身を飲み干すのを待ってから、話しかけた。
「それでは、私が諸々の手配を進めてもよろしいですか?」
「いや待て。その女、生まれは?」
「宿の女傑、ネットの一人娘ですから、生粋のベスルベルク人です」
「よし、それならいい。噂の立ち始めた女をさっそく側に置いているとなれば、俺の株も上がるだろう。万事、お前に任せる」
「はい、お任せください。すぐに、一度お引き合わせします」
「お前も、気が利くようになったな」
そう言われたルーカスが嬉しそうに微笑むと、シャールが右手で宙を払う様な仕草を見せた。ルーカスは直ぐに立ち上がり、シャールに一礼して、長机の下座へと戻っていく。シャールは、その後姿に一瞬目をやった後で、ボルツに話しかけた。
「お前は、シンシアとかいう女を知っているか?」
シャールの質問と重なるように、入口の扉が小さな軋みと共に開き、人影が入ってきた。男たちの目線は、一瞬入り口に集まったが、直ぐにそこを離れる。入ってきた男が、「取るに足らない男」だったからだ。その手には、箒が握られている。
随分と静かだな。コーは、ぼんやりとそう思った。コーは、予想外の雰囲気に少し戸惑いながら、カウンター奥の定位置へと歩みを進める。男たちのジョッキを横目で確認するが、それほど減ってはいない。そろそろ、宴もたけなわか。
「ああ、お前は知らんのだろうが、宿屋のシンシアといえば、ベイストリクト区の紅一点と評判だぞ。俺は、直接会ったことは無いが、仕事ぶりもなかなか良いらしい。まあそうでなくてはあの宿屋では働けんがな」
低く響くボルツの声で、ぼんやりと片付けの段取りを考えていたコーは、一気に現実に引き戻された。宿屋のシンシアだって?少し驚いて、コーは目を上げた。コーが良く知る名前だ。何故、シンシアの名前が今、ここで?
シャールが静かに言った。声にはヒヤリとさせる冷たさがあったが、その表情には危険な雰囲気は感じられない。どうやら今度の申し出は、それほど的外れではなかったようだ。僅かに安堵の表情を浮かべたルーカスが続ける。
「街中で、最近噂が立ち始めている娘です。なかなかの器量よしですな。名をシンシアと言いまして、宿屋の看板娘として働いています」
上座に座る金髪の男の表情が、僅かに動いた。しかし、その口を開くことは無い。彼だけが、終始沈黙を保っている。騒がしい集団の中において明らかに不自然だが、他の男たちに戸惑った様子はない。これが、いつものことなのだろう。
金髪の男とは対照的に、何人かの男たちからは、シンシアと言う名を聞くなり小さな声が漏れた。それなりに知名度のある娘なのかもしれない。シャールは、周りの反応からそれに気づいたようだ。少し興味を持ったようで、眉を上げて質問する。
「どんな女だ?」
「はい、今年で二十歳になる娘です。近頃、どうにも美しさを増してきたと専らの評判で、注目を集めつつあります。私も実際にこの目で確かめてきました」
「それで?」
「はい、噂に違わぬと。あえて申すなら、一昨年のヘレナにどこか似た顔立ち。背丈などはずいぶんと異なりますが、目元の雰囲気は、よく似ています」
「ほう、それはいい。あの女はなかなかに美しかった」
シャールは、より興味を強めたようだ。ビールを片手に、ルーカスに向って手招きする。ルーカスは、待ってましたと言わんばかりに、勢いよく長机の端から立ち上がった。
ルーカスは、長机を迂回するようにシャールの下へ速足で進み、促されるままにシャールの隣の席につく。そして、シャールに顔を近づけ、何やらヒソヒソと耳打ちをする。シャールは、何度か頷きながらその話を聴いている。
しばらくして、シャールが両手で両膝を打つ。その表情は、明らかに満足げだ。ルーカスもそこで耳打ちを止め、隣の席に戻る。そして、ジョッキを手に取ったシャールがその中身を飲み干すのを待ってから、話しかけた。
「それでは、私が諸々の手配を進めてもよろしいですか?」
「いや待て。その女、生まれは?」
「宿の女傑、ネットの一人娘ですから、生粋のベスルベルク人です」
「よし、それならいい。噂の立ち始めた女をさっそく側に置いているとなれば、俺の株も上がるだろう。万事、お前に任せる」
「はい、お任せください。すぐに、一度お引き合わせします」
「お前も、気が利くようになったな」
そう言われたルーカスが嬉しそうに微笑むと、シャールが右手で宙を払う様な仕草を見せた。ルーカスは直ぐに立ち上がり、シャールに一礼して、長机の下座へと戻っていく。シャールは、その後姿に一瞬目をやった後で、ボルツに話しかけた。
「お前は、シンシアとかいう女を知っているか?」
シャールの質問と重なるように、入口の扉が小さな軋みと共に開き、人影が入ってきた。男たちの目線は、一瞬入り口に集まったが、直ぐにそこを離れる。入ってきた男が、「取るに足らない男」だったからだ。その手には、箒が握られている。
随分と静かだな。コーは、ぼんやりとそう思った。コーは、予想外の雰囲気に少し戸惑いながら、カウンター奥の定位置へと歩みを進める。男たちのジョッキを横目で確認するが、それほど減ってはいない。そろそろ、宴もたけなわか。
「ああ、お前は知らんのだろうが、宿屋のシンシアといえば、ベイストリクト区の紅一点と評判だぞ。俺は、直接会ったことは無いが、仕事ぶりもなかなか良いらしい。まあそうでなくてはあの宿屋では働けんがな」
低く響くボルツの声で、ぼんやりと片付けの段取りを考えていたコーは、一気に現実に引き戻された。宿屋のシンシアだって?少し驚いて、コーは目を上げた。コーが良く知る名前だ。何故、シンシアの名前が今、ここで?
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