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暴発の脈動
集会所の日常・8
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今のベスルベルクの中枢にある機関は、元老院と自治団。他国の仕組みと比べるなら、元老院が「議会・政府」で、自治団が「司法・警察・軍隊」と言ったところだ。
ただし、元老院と自治団は兼任制であるから、実質的には、自治団がこの国の全ての権力を掌握していると言っても、何ら差し支えない。
自治団は、ゴルドー隊のような18の小隊で構成され、それを自治団長が束ねている。そして、それぞれの小隊の隊長は元老院議員を兼任し、国政に参画する。
元老院は、議員と議長という二役で構成されているとされるが、それ以上の情報は公開されておらず、意思決定の手順や議長の役割などは、コーのような外部の人間には知る由もない。
恣意的な密室政治。それが、ベスルベルクという国の体制を表すのに適している。この意味で、今のベスルベルクに民主主義と呼ばれる制度は存在しない。選挙もなければ、外部機関による権力の監視もないのである。
海を挟んだ友好国であるペストーレ共和国と比べて、いや、共和国に限らず国民の政治参加が広く保障された諸外国と比べ、ベスルベルクの国家体制はより強権的だ。
とは言え、ベスルベルク国民が体制への不信感を持っているかと言うと、答えは明らかに否である。近年の「トラビス推進計画」を背景に、この国は繁栄を謳歌している。その繁栄を享受してきた国民に、体制への不満・危惧などあろうはずもない。
「小さな大国」、ベスルベルク。その栄華を語る際に、「トラビス」を抜かすことは愚かなことだ。「トラビス」とは、独立戦争の時期に登場したベスルベルクの固有技術である。
その原理詳細は、国家機密に指定されているため、諸外国の関知するところではない。この技術の詳細を知る者は、ベスルベルクの体制内部でも限られているだろう。
この技術について一つ確かなことがあるとすれば、「トラビス」は、どこからともなくエネルギーを生み出し、動力とすることが出来る技術だ、という事である。
コーは、空気中の成分をエネルギーに変換しているのではと考えていたが、推測に過ぎない。諸外国も、輸入したトラビス機器を分解・解析しようと努力しているようだが、コーの知る限りでは、全ての試みは今のところ徒労に終わっている。
コルツは、この技術の研究を進めることで、国民生活の利便性を大きく向上させるとともに、この国へ巨万の富をもたらした。トラビス機器を輸出しても、その原理は盗めない。当然、そういう確信がコルツにはあったはずだ。
「トラビス」の活用例は、列挙に暇がない。独立戦争の際も、この技術を使った兵器で帝国軍を大いに苦しめたというし、今日のベスルベルク国内にはトラビス式の機械が多く設置されている。
電気やガスを動力とする機械は、一昔前まではベスルベルクでも主流だったと言われているが、今となっては国内で見かけることは殆ど無い。この点は、他国と比して、ベスルベルクに大きな優位性があると言える。
何せ、「トラビス」を使えば、エネルギーをほぼ無尽蔵に生産することが出来るのである。どこかと事を構えることになったとしても、この国は強い。これこそが、ベスルベルクが「小さな大国」と呼ばれる所以であった。
この国は、確かに繁栄している。トラビスの技術供与を条件に、各国から多くの譲歩を引き出したコルツは、ベスルベルクの国際的な影響力を確立し、この国は帝国に勝るとも劣らない実力を得た。
ベスルベルクの行く先には、明るい未来が広がっていると固く信じ、全てを信託する国民と、その期待に十二分に応える自治団。この数年来の成長を考えても、悲観的な予測を持つことは愚かだと主張する者も多い。
「本当に、そうなんだろうか?」
ゴルドーが座っていた上座の椅子に腰かけたまま、コーは小さく呟いた。人知を大きく超えた技術発展と引き換えに、この国は歪みを増してはいないだろうか?
膨らみ続けてきた何かが弾ける。そんなときが刻一刻と近づいている。コーは、そんな予感を振り払えずにいた。
ただし、元老院と自治団は兼任制であるから、実質的には、自治団がこの国の全ての権力を掌握していると言っても、何ら差し支えない。
自治団は、ゴルドー隊のような18の小隊で構成され、それを自治団長が束ねている。そして、それぞれの小隊の隊長は元老院議員を兼任し、国政に参画する。
元老院は、議員と議長という二役で構成されているとされるが、それ以上の情報は公開されておらず、意思決定の手順や議長の役割などは、コーのような外部の人間には知る由もない。
恣意的な密室政治。それが、ベスルベルクという国の体制を表すのに適している。この意味で、今のベスルベルクに民主主義と呼ばれる制度は存在しない。選挙もなければ、外部機関による権力の監視もないのである。
海を挟んだ友好国であるペストーレ共和国と比べて、いや、共和国に限らず国民の政治参加が広く保障された諸外国と比べ、ベスルベルクの国家体制はより強権的だ。
とは言え、ベスルベルク国民が体制への不信感を持っているかと言うと、答えは明らかに否である。近年の「トラビス推進計画」を背景に、この国は繁栄を謳歌している。その繁栄を享受してきた国民に、体制への不満・危惧などあろうはずもない。
「小さな大国」、ベスルベルク。その栄華を語る際に、「トラビス」を抜かすことは愚かなことだ。「トラビス」とは、独立戦争の時期に登場したベスルベルクの固有技術である。
その原理詳細は、国家機密に指定されているため、諸外国の関知するところではない。この技術の詳細を知る者は、ベスルベルクの体制内部でも限られているだろう。
この技術について一つ確かなことがあるとすれば、「トラビス」は、どこからともなくエネルギーを生み出し、動力とすることが出来る技術だ、という事である。
コーは、空気中の成分をエネルギーに変換しているのではと考えていたが、推測に過ぎない。諸外国も、輸入したトラビス機器を分解・解析しようと努力しているようだが、コーの知る限りでは、全ての試みは今のところ徒労に終わっている。
コルツは、この技術の研究を進めることで、国民生活の利便性を大きく向上させるとともに、この国へ巨万の富をもたらした。トラビス機器を輸出しても、その原理は盗めない。当然、そういう確信がコルツにはあったはずだ。
「トラビス」の活用例は、列挙に暇がない。独立戦争の際も、この技術を使った兵器で帝国軍を大いに苦しめたというし、今日のベスルベルク国内にはトラビス式の機械が多く設置されている。
電気やガスを動力とする機械は、一昔前まではベスルベルクでも主流だったと言われているが、今となっては国内で見かけることは殆ど無い。この点は、他国と比して、ベスルベルクに大きな優位性があると言える。
何せ、「トラビス」を使えば、エネルギーをほぼ無尽蔵に生産することが出来るのである。どこかと事を構えることになったとしても、この国は強い。これこそが、ベスルベルクが「小さな大国」と呼ばれる所以であった。
この国は、確かに繁栄している。トラビスの技術供与を条件に、各国から多くの譲歩を引き出したコルツは、ベスルベルクの国際的な影響力を確立し、この国は帝国に勝るとも劣らない実力を得た。
ベスルベルクの行く先には、明るい未来が広がっていると固く信じ、全てを信託する国民と、その期待に十二分に応える自治団。この数年来の成長を考えても、悲観的な予測を持つことは愚かだと主張する者も多い。
「本当に、そうなんだろうか?」
ゴルドーが座っていた上座の椅子に腰かけたまま、コーは小さく呟いた。人知を大きく超えた技術発展と引き換えに、この国は歪みを増してはいないだろうか?
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