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暴発の脈動
集会所の日常・9
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18歳になってからの約2年間、コーは、この場所からこの国を観察してきた。集会所という場所と、自身に向けられた落ちこぼれという評判は、社会の表と裏を見るのに大変役立った。
特に目についたのは、傲慢と欺瞞。これらを毎日のように目にするうち、コーの胸の内には単純な疑問が生まれた。どうして人は、傍若無人に振舞ってしまうのか?どうして人は、騙し合いの世界で生きることを是としてしまうのか?
人は元来そういう性質だと主張する者もいるが、コーはそうは考えていなかった。人々を変えてしまう、「何か」が、ある。だから、問題なのはその「何か」だ。
人々を変えてしまう物。それは、やはり「欲望」であるというのが、コーの結論だった。より正確に言うなら、「麻痺した欲望」こそが、その「何か」だ。
欲望を持つことは悪ではない。人の行動原理の根幹にあるのは、それがどんな形であれ、欲望なのだから。これを否定するのは、愚かなことだ。
そして、ベスルベルクの国民の多くは、国家の繁栄に胸を躍らせ、常により上を見上げ、そこを目指している。それ自体は、決して悪いことではない。
便利な富なる暮らしを目指して全力を尽くすことは、美しいとさえ言える。ただし、麻痺した欲望によって動かされていなければ、だ。
麻痺した欲望は、大変危険なものだ。人間が本来持っているはずの美徳を、余すところなく覆い隠してしまうからだ。そして、この種の欲望に支配された人々は、決まってお決まりの自己正当化を始めるのだ。
「世の中は、生きるか死ぬか、喰うか喰われるか。騙される奴が悪いし、勝負の世界に勝ち負けは付き物。他人の人生がどうなろうと知ったことではないし、そんなことを心配するフリをするのは偽善者だ」。大抵は、こういった調子だ。
こんなことが真実であり続けるから、この国は歪んでいるのだ。欺瞞の中で踊り続けるうちに、いつしか自分自身の歪みにも気づけなくなる。その夢の果てに何が起こるのか、誰にも分からない。
これが、コーの見たベスルベルクの現在だった。国は繁栄し、国民の多くは、自分達は幸せに暮らしていると思っている。だが、いつまでもこの方法で進んでいけるとは思えない。コーは、この国の未来のための軌道修正が必要だと考えていた。
ただし、コーは、他者を変えようと熱心に説得してきたわけではない。今のコーはあくまで、集会所の落ちこぼれ管理人に過ぎず、社会的には何者でもない。他者の夢を阻む力などないし、そもそも権利もないからだ。
勿論、コー個人としては、国のため、そして人々自身のために、その考え方が変わっていけば良いと思っているが、それを実行に移すのは今ではない。
やるべきことをやりながら、必ずやって来る秋を、待て。
特に目についたのは、傲慢と欺瞞。これらを毎日のように目にするうち、コーの胸の内には単純な疑問が生まれた。どうして人は、傍若無人に振舞ってしまうのか?どうして人は、騙し合いの世界で生きることを是としてしまうのか?
人は元来そういう性質だと主張する者もいるが、コーはそうは考えていなかった。人々を変えてしまう、「何か」が、ある。だから、問題なのはその「何か」だ。
人々を変えてしまう物。それは、やはり「欲望」であるというのが、コーの結論だった。より正確に言うなら、「麻痺した欲望」こそが、その「何か」だ。
欲望を持つことは悪ではない。人の行動原理の根幹にあるのは、それがどんな形であれ、欲望なのだから。これを否定するのは、愚かなことだ。
そして、ベスルベルクの国民の多くは、国家の繁栄に胸を躍らせ、常により上を見上げ、そこを目指している。それ自体は、決して悪いことではない。
便利な富なる暮らしを目指して全力を尽くすことは、美しいとさえ言える。ただし、麻痺した欲望によって動かされていなければ、だ。
麻痺した欲望は、大変危険なものだ。人間が本来持っているはずの美徳を、余すところなく覆い隠してしまうからだ。そして、この種の欲望に支配された人々は、決まってお決まりの自己正当化を始めるのだ。
「世の中は、生きるか死ぬか、喰うか喰われるか。騙される奴が悪いし、勝負の世界に勝ち負けは付き物。他人の人生がどうなろうと知ったことではないし、そんなことを心配するフリをするのは偽善者だ」。大抵は、こういった調子だ。
こんなことが真実であり続けるから、この国は歪んでいるのだ。欺瞞の中で踊り続けるうちに、いつしか自分自身の歪みにも気づけなくなる。その夢の果てに何が起こるのか、誰にも分からない。
これが、コーの見たベスルベルクの現在だった。国は繁栄し、国民の多くは、自分達は幸せに暮らしていると思っている。だが、いつまでもこの方法で進んでいけるとは思えない。コーは、この国の未来のための軌道修正が必要だと考えていた。
ただし、コーは、他者を変えようと熱心に説得してきたわけではない。今のコーはあくまで、集会所の落ちこぼれ管理人に過ぎず、社会的には何者でもない。他者の夢を阻む力などないし、そもそも権利もないからだ。
勿論、コー個人としては、国のため、そして人々自身のために、その考え方が変わっていけば良いと思っているが、それを実行に移すのは今ではない。
やるべきことをやりながら、必ずやって来る秋を、待て。
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