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運命の秋
新しい日々・1
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「ほう、シンシアがのう」
水の入ったグラスに手を伸ばしながら、アルバンが可笑しそうにニヤリと笑った。午後8時過ぎ。アルバンと二人で囲む、少し遅めの夕食の席。二人は基本的に外食はしない。いつも、自宅の小さな円卓を囲むのだ。
夕食の席で、その日にあったことを語り合うのは、コー達が大切にしている習慣だった。この日のコーは、シンシアが定例会議で話題となっていたことを話した。コーとしては、少し心配なことだった。
「大丈夫かな?」
事の顛末を聞いても、アルバンの顔に深刻さが一切無いのが、コーには意外だった。シャールのような男に目をつけられると、碌なことが無いと思っていたからだ。
「コー、どちらの心配をしておるのじゃ?」
何処か揶揄うような口調でアルバンが尋ねた。質問の体はとっているが、実際はそうではない。その裏にある意味は読めた。「哀れなシャールに、合掌」。
「あのね、アルバン。これは笑い事じゃないと思うんだ。シンシアがこんな誘いに乗るわけないし、シャールがおとなしく引き下がるとも思えないよ。だから、シンシアの身に良くないことが起こるんじゃないかって」
そう言ったコーはアルバンの顔を覗ったが、その顔にはコーを揶揄うような笑みが張り付いたままだ。アルバンは、白髪交じりの長い顎髭を指でしごきながら言った。
「コー。気持ちは分からんでもないが、嫌がる娘を無理やり拉致するような真似はできん。自治団の連中にとって、民衆からの支持が大切なのは知っとるじゃろう?」
それは、その通りだ。自治団の小隊には、それぞれ幾つかの受け持ち地区がある。そして、自治団内部での隊の影響力は、受け持ち地区からの評判に応じて、上下していると噂されているのだ。
実際の仕組みはともかく、地区からの良い評判が、彼ら団員に何らかの恩恵をもたらすことは間違いない。そうでもなければ、あの連中が表の顔を作る理由もない。
「まあ、確かにそうかもしれないけど。連中は、裏で色々やりそうじゃないか」
「それは、心配ない。他の隊なら別じゃが、ゴルドーがいる限り、コーが心配しているようなことは絶対に見逃さない」
どういう理由か具体的に聞いたことは無い。だが、アルバンはゴルドーを高く買っているのだ。彼の剣才を好ましく思っているのかもしれないし、ゴルドーの愚直さを買っているのかもしれない。
「確かに、ゴルドーさんが止めてくれれば大丈夫だろうけど・・・」
傲慢な振る舞いを見せるシャールだが、ゴルドーのことを強く尊敬していることは常々感じている。実際、今日もゴルドーを賞賛するような言葉を口にしていた。
酒をあまり飲まないコーには受け売りでしかないが、酔ったときには本性が出るともいう。恐らく、あれは本心なのだろう。
シャールも剣で鳴らす男だから、自身より優れた剣士には尊敬の念を抱いているのかもしれない。自分より優れた相手に嫉みではなく、敬意と言う感情を向けているのは、普段の振る舞いを見れば意外なことだ。
「そんなことより、コーよ」
背筋を伸ばしたアルバンの顔に、今日一番の笑みが浮かぶ。コーはこの笑みを知っている。またか。コーには、アルバンが何を考えているか良く分かった。
「新しいアイディアが浮かんだのじゃ。今度の物は今年一番の出来と言っても過言ではないの。年の瀬が近づいてくると、儂の才能は開かずにはおられぬようじゃ」
(また、くだらないジョークに違いない)
苦笑いしたコーをしり目に、アルバンは嬉々として自作の披露を始めた・・・。
水の入ったグラスに手を伸ばしながら、アルバンが可笑しそうにニヤリと笑った。午後8時過ぎ。アルバンと二人で囲む、少し遅めの夕食の席。二人は基本的に外食はしない。いつも、自宅の小さな円卓を囲むのだ。
夕食の席で、その日にあったことを語り合うのは、コー達が大切にしている習慣だった。この日のコーは、シンシアが定例会議で話題となっていたことを話した。コーとしては、少し心配なことだった。
「大丈夫かな?」
事の顛末を聞いても、アルバンの顔に深刻さが一切無いのが、コーには意外だった。シャールのような男に目をつけられると、碌なことが無いと思っていたからだ。
「コー、どちらの心配をしておるのじゃ?」
何処か揶揄うような口調でアルバンが尋ねた。質問の体はとっているが、実際はそうではない。その裏にある意味は読めた。「哀れなシャールに、合掌」。
「あのね、アルバン。これは笑い事じゃないと思うんだ。シンシアがこんな誘いに乗るわけないし、シャールがおとなしく引き下がるとも思えないよ。だから、シンシアの身に良くないことが起こるんじゃないかって」
そう言ったコーはアルバンの顔を覗ったが、その顔にはコーを揶揄うような笑みが張り付いたままだ。アルバンは、白髪交じりの長い顎髭を指でしごきながら言った。
「コー。気持ちは分からんでもないが、嫌がる娘を無理やり拉致するような真似はできん。自治団の連中にとって、民衆からの支持が大切なのは知っとるじゃろう?」
それは、その通りだ。自治団の小隊には、それぞれ幾つかの受け持ち地区がある。そして、自治団内部での隊の影響力は、受け持ち地区からの評判に応じて、上下していると噂されているのだ。
実際の仕組みはともかく、地区からの良い評判が、彼ら団員に何らかの恩恵をもたらすことは間違いない。そうでもなければ、あの連中が表の顔を作る理由もない。
「まあ、確かにそうかもしれないけど。連中は、裏で色々やりそうじゃないか」
「それは、心配ない。他の隊なら別じゃが、ゴルドーがいる限り、コーが心配しているようなことは絶対に見逃さない」
どういう理由か具体的に聞いたことは無い。だが、アルバンはゴルドーを高く買っているのだ。彼の剣才を好ましく思っているのかもしれないし、ゴルドーの愚直さを買っているのかもしれない。
「確かに、ゴルドーさんが止めてくれれば大丈夫だろうけど・・・」
傲慢な振る舞いを見せるシャールだが、ゴルドーのことを強く尊敬していることは常々感じている。実際、今日もゴルドーを賞賛するような言葉を口にしていた。
酒をあまり飲まないコーには受け売りでしかないが、酔ったときには本性が出るともいう。恐らく、あれは本心なのだろう。
シャールも剣で鳴らす男だから、自身より優れた剣士には尊敬の念を抱いているのかもしれない。自分より優れた相手に嫉みではなく、敬意と言う感情を向けているのは、普段の振る舞いを見れば意外なことだ。
「そんなことより、コーよ」
背筋を伸ばしたアルバンの顔に、今日一番の笑みが浮かぶ。コーはこの笑みを知っている。またか。コーには、アルバンが何を考えているか良く分かった。
「新しいアイディアが浮かんだのじゃ。今度の物は今年一番の出来と言っても過言ではないの。年の瀬が近づいてくると、儂の才能は開かずにはおられぬようじゃ」
(また、くだらないジョークに違いない)
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