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運命の秋
新しい日々・2
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アルバンの新作にしばらく付きあった後で、夕食を片付け、コーは自室へと戻った。アルバン自慢の新作は、彼の自信作と言うだけあり、思ったほど悪くなかった。
今日のジョークは、毎晩毎晩、熱心に穴を掘り続けた男の話。男の熱意にほだされ、周囲の男達も協力するようになる。そして、ついには温泉を掘り当てる。しかし、男はイラついた様子で叫んだ。「ちくしょう、脱獄経路が潰されちまった!」
最近の話の中では、アイディアは悪くない。コーは、そう思った。ただし、その設定には大きな欠陥があったと言わざるを得ない。
例えば、脱獄する人は、惑星の裏を目指すのでもない限り、垂直に穴は掘らない。また、温泉に達するには相当な深さを掘る必要がある。彼らがモグラの生まれ変わりでもない限り、刑務所の男達にはとても無理だ。
コーがアルバンにそう伝えると、「ジョークでもダメか」と少し落胆したようだった。何が現実的の範疇で、何がそうでないか。このあたりの感覚が人とずれているから、アルバンのジョークはつまらない。
ただ、また明日には笑って新しい作品を考え始めるのだろう。失敗にも懲りず、挑戦を続けるという点で、その姿勢には微笑ましい部分がある。アルバンの姿をそう評したのは、シンシアだった。
(シンシア、か)
コーは、シャールに目をつけられてしまったシンシアの身が少し心配だった。しかし、アルバンの言葉を聞いて、少し安心した。心配しすぎだったかもしれない。アルバンの言う通り、ゴルドーがいる。
一連の出来事は、ゴルドーの目の前でのことだったのだから、ゴルドーもシャールの計画をはっきりと認識したはずだ。
あの時点では何も言わなかったが、シャールが何かしらの問題行動を取ろうとすれば、制止してくれるかもしれない。アルバンが信を置く男を信じてみるのも、悪くないかもしれない。
(それにしても・・・)
コーは、右手に持った白い紙を、顔の前で揺らしながら呟いた。この紙のことを、検討しなくてはならない。ゴルドーが残していった紙。いや、本当にそうか?ただ、忘れただけかもしれない。
折り目がついている以外、何の変哲もないように思えるその白紙。しかし、良く見ると右下の隅に小さく書き込みがなされている。
ーーーー 第87回 自治団入団試験 11月8日 ーーーー
今日のジョークは、毎晩毎晩、熱心に穴を掘り続けた男の話。男の熱意にほだされ、周囲の男達も協力するようになる。そして、ついには温泉を掘り当てる。しかし、男はイラついた様子で叫んだ。「ちくしょう、脱獄経路が潰されちまった!」
最近の話の中では、アイディアは悪くない。コーは、そう思った。ただし、その設定には大きな欠陥があったと言わざるを得ない。
例えば、脱獄する人は、惑星の裏を目指すのでもない限り、垂直に穴は掘らない。また、温泉に達するには相当な深さを掘る必要がある。彼らがモグラの生まれ変わりでもない限り、刑務所の男達にはとても無理だ。
コーがアルバンにそう伝えると、「ジョークでもダメか」と少し落胆したようだった。何が現実的の範疇で、何がそうでないか。このあたりの感覚が人とずれているから、アルバンのジョークはつまらない。
ただ、また明日には笑って新しい作品を考え始めるのだろう。失敗にも懲りず、挑戦を続けるという点で、その姿勢には微笑ましい部分がある。アルバンの姿をそう評したのは、シンシアだった。
(シンシア、か)
コーは、シャールに目をつけられてしまったシンシアの身が少し心配だった。しかし、アルバンの言葉を聞いて、少し安心した。心配しすぎだったかもしれない。アルバンの言う通り、ゴルドーがいる。
一連の出来事は、ゴルドーの目の前でのことだったのだから、ゴルドーもシャールの計画をはっきりと認識したはずだ。
あの時点では何も言わなかったが、シャールが何かしらの問題行動を取ろうとすれば、制止してくれるかもしれない。アルバンが信を置く男を信じてみるのも、悪くないかもしれない。
(それにしても・・・)
コーは、右手に持った白い紙を、顔の前で揺らしながら呟いた。この紙のことを、検討しなくてはならない。ゴルドーが残していった紙。いや、本当にそうか?ただ、忘れただけかもしれない。
折り目がついている以外、何の変哲もないように思えるその白紙。しかし、良く見ると右下の隅に小さく書き込みがなされている。
ーーーー 第87回 自治団入団試験 11月8日 ーーーー
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