英雄の息子

全幻庵

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運命の秋

新しい日々・4

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   翌朝。コーは、小鳥たちの囀りさえずりで目を覚ました。あの紙切れのことを考えているうちに、いつの間にか眠ってしまったらしい。ただし、部屋の主が眠りについたことを認識したトラビス灯は、独りでにその輝きを消していた。

 寝ぼけ眼で目をやった枕元の時計は、午前7時を指し示している。今日は休日。もう少し寝ていたい気もしたが、小さな旅人達の陽気な会話に耳を澄ましているうちに、すっかり目が覚めた。

 大きく伸びをしてから、布団をはねのけ、ベッドから飛び降りる。肌を刺すような朝の冷気に小さく身震いした。この調子なら、凍えるような寒さがやってくるのもそう遠くないだろう。

 素足で触れた木製の床の冷たさを感じながら窓へと近づき、カーテンを開く。差し込む眩しい光に目を細めながら、コーは大きな期待感を持って空を見上げた。小鳥たちの陽気な会話が意味するものは・・・。

 期待通り!見上げた空には一点の曇りもなく、ただ、青、青、青。コーの瞳に映るのは、これ以上ない秋晴れ。これほどの空は、年に何度も拝めるものではない。コーは突然、世界の全てに感謝を捧げたい気持になり、その場で小さく飛び跳ねた。

 なんて素晴らしい天気だろう!高揚した気分で窓を開け放つと、凛とした緑の香りが鼻腔を満たすのを感じた。小鳥たちの歌声も、より一層の輝きを持って響き渡る。

 市街地から少し離れた小さな丘の上に立つ、コー達の小さな家。それを取り巻くように広がる全てに、コーは心を奪われていた。

 好き好きにその装いを変えた、山々の樹々。橙、赤、黄色が流行りの中で、頑固に緑を貫く者もいるのも面白い。協調性が足らない樹々が作り上げるのは、しかし、言葉にならないほど瑞々しく、艶やかな景色。

 そんな鮮やかな色彩の下では、多くの生命が、歌い、踊り、争いながら、その存在の証を刻んでいる。そして、全ての生命はいずれその役割を終えて地へと還り、次代の輝きの源となっていくのだろう。

 。コーは、そう信じている。その身をもって優しさと厳しさを教えてくれる、かけがえのないもの。この瞬間に感じる昂ぶりが、この大自然がコーにくれた何度目の感動になるのかは数えようがない。

 しかし。コーの高揚した気分を嘲笑うかのように、脳裏をよぎる事実がある。現在のベスルベルクの人々を熱狂させるのは、トラビスと、それがもたらす栄耀栄華な暮らしであって、彼らに富をもたらさないこの景色ではないという事実。

 コーにとっては信じがたいことだが、この美しい景色は今や、ベスルベルクの象徴となり果てた。まさに、過去の遺物。かつてこの地を象徴したこの素晴らしき奇跡を気に掛ける者は、もはや多くは無いのだ。

 今は昔、と言っても僅か数十年前の話ではあるが、ベスルベルクがまだ帝国の一地方であったころ。この地は、厳しい生活環境で知られていた。地域の多くが山岳地帯からなり、人が居住しやすい丘陵地や平地は少ないからだ。

 厳しく貧しい暮らしではあったろうが、当時のベスルベルクの人々の側にはこの大自然があったはずだ。しかし、今はどうだろう。トラビスの力によって大地を切り開いた人々は、自然の恵みを遠ざけ、文明の狂乱の中で生きている。

 国の発展は、悲しいことに、彼らを傲慢な存在へと変えてしまった。彼らにとって、自然とは感謝の対象ではなく、切り開き、克服する物なのだ。

 に包まれたベスルベルクからは、自然との調和と言う言葉は消え去ったに等しい。本当に、嘆かわしいことだ。目の前に広がる鮮やかな感動を眺めながら、コーは小さくため息をついた。
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