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序章『理不尽な世界』

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 正直に言えば憧れていなかったと言ったら嘘になる。
 それが『転移』にせよ『転生』だとしても……。
 だがそれはフィクションだからこそである。
 現実に起こったとすればどうだろうか?
 ご都合主義的にチート能力や神の顕現などそうそうあるものじゃない。
 まあ、勇者召喚なら扱いがどうあれ『生きていける』だけの『衣・食・住』は確保できる。
 出なければ安穏とした平和な世界で生きてきた自分たちにファンタジーな世界で生き残れるのだろうか?
 それも、転移した場所が人里にいたならまだしもどこだか分からない森の中だったら?

「ハハハ……。詰んだな」

 目の前には俺の世界にはいない『野獣』がいる。
 爬虫類特有の目に、トカゲのような外皮なのに二足歩行で熊並みの大きさと言う姿に『死』を感じていた。

 武器もない。出来ることと言えば逃げることくらいだが……背を向けて逃げるには怖すぎる。
 後ずさるように後ろに下がるがそれも数センチを何十秒もかけてだ。

『キシャァァァァァッ!』
「うわわわわ―――っ!」

 突然の攻撃。
 咄嗟にバックステップするも、地面を抉った際に起きた衝撃で吹き飛ぶ。

 痛ってー。当たってないのに衝撃だけで服はボロボロになり体の節々が打ち身のようにジンジンする。

「――くっ。早く立ち上がらないと……」

 逃げるために体制を整えようとするも、体に力が入らない。
 近くの木にしがみつき立ち上がろうとすると木の陰に『あるもの』を見た。

「う、嘘だろ……」

 西洋っぽい鎧を身に着けた骸骨が木に寄り掛かるように佇んでいた。

「これは……」

 骸骨の手元には西洋の剣があった。
 俺は考える間もなく本能でその剣を手に取る。

 正直な話、逃げられるイメージが湧かない。
 とはいえ素人の俺がまともに戦えるわけもない。
 この剣はあくまでも『牽制』のためだ。

 木を利用して隠れながら逃げる。
 剣も杖代わりだ。

 重い体を引きづるように逃げるも、近づいてくる気配を感じる。
 追いつかれるのも時間の問題だ。

「ダメだ……。こうなったら木の陰に隠れて隙を突くしかない」

 息を殺し、木の陰に潜む。
 来るのを待つ間思い出したことがある。
 爬虫類系の生き物は腹側が柔らかいということだ。

「き、来た」

 ズルズルっと尻尾を引きずる音が聞こえる。
 辺りを見渡す姿を確認して、俺は『チャンス』を伺う。

「よし」

 俺は足元の意思を掴み、自分とは真逆の方向に投げる。

『キィヤァッ』

 今だ。

「うおおおおおおっ!」

 気合いとともに木の陰から突進する。
 グサッと嫌な感触が手に伝わる。

『ギャイイイィィィィィ』

 悲鳴とともに振り回す腕が俺のコメカミに当たり、声を上げる間もなく膝をつく。
 視界がぼやける。フラフラする。

 このままじゃ殺される……。

 死にたくない。

 こんな何も分からないまま死ぬのは嫌だ。

 俺は無意識の中、剣を両手で持ち振り上げていた。

「……『閃刃センジン』」

 『言葉』とともに剣を袈裟斬りの要領で振り下ろす。

『キシャ?』

 一拍の間の後、首から頭が離れる。
 爬虫類の野獣は動くこともなく血を噴き出している。

 俺はそれをぼやける視界の中でそれを見届けてその場に倒れた。

 (ああ……。眠い)

 意識を手放して、深い眠りに落ちるのだった。


 ◆◆◇◆◆◇◆◆


 4つの人型の光が向き合うように真っ白な空間に浮かび上がっている。

「まさか、勇者召喚に巻き込まれた上に全く関係のない世界に飛ばされるなんて……」
「不幸の上にさらに不幸が重なるとは……」
「しかも飛ばされた先は『ミスティリア』ですよ。戦いと無縁の世界の彼では生き残れるかどうか……」
「我々、神の『恩恵ギフト』もちゃんと与えられたのかしら?」

 心なしか光が弱まった気がする。

「あまりに突然で、しかも『勇者召喚』には関係なかったので『マニュアル』にない対応でしたから……」
「一応、『恩恵ギフト』を授けるには授けたが……」
「どういったものかは確認できませんでしたね?」
「まさに『恩恵ギフト』の言葉通りってわけね」

 通常の『勇者召喚』ならば与えられる『恩恵ギフト』も決まっているのだが、こういう突発な場合の対処には『対応』できるようにはなっていなかったのだ。
 まさに『恩恵ギフト』を『与える』という『対処』しかできなかったのだ。

「どれ、確認してみましょう」
「……ふむ。これは?」
「やれやれ……これ使えるのでしょうか?」
「こんな『恩恵ギフト』ってあったんだねぇ。自分で与えてなんだけどどんな効果のある『恩恵ギフト』なんだろう?」
「私のは逆に分かりやすいのですが……使えるかどうかと言うと微妙です」
「俺のは言葉の意味は分かるんだが、スキルとしての『質』が分からん」
「自分のは意味も性質も分かるのですが『恩恵ギフト』と呼べるかどうかは微妙ですね」
「私のは聞いたことがない『魔法』だったよ。正直、使えるかどうかも分かんない」

 黙り込む4つの光る人型。

「こうなったら、我々『四神』の力を集結させて『サポート生物』を贈りましょう」
「それは良い考えだな」
「どうせなら生物の姿も決めずに創るというのはどうでしょう?」
「良いね。その方が面白い」
「では、始めましょう」

 四神は自らに流れる光を1つに凝縮させていく。
 そして1つになった光をミスティリアの大地にへと降臨させたのだった。
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