170 / 211
・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話】
27.ラーメン屋で
しおりを挟む
小さな古いお店は、ユニフォーム姿の男子で一杯だった。スライディングで汚れてしまったらしく勇気は上のユニフォームを脱いで黒いアンダーウェア姿になっている。下はそのままだが、店に入る前にほろって(『ほろう』は『払う』と言う意味の北海道の方言です)奥の小上がりには上がらず、テーブルの席に座った。
「こっち座ったら」
先ほど私を誘った先輩らしき人が、勝手がわからずキョロキョロしている私に手招きした。
小上がりに上がれと言う事か。
そこは知らない大きい男子ばかりで、人見知りの私は震え上がった。
「スイマセン、こいつ人見知りなんで」
そう言ってムスッと勇気は私の手首を掴んで自分の隣に座らせた。先輩はクスリと笑うとそれ以上追及する事もせず、口を噤んだ。
するとカウンターの近くにいる男子が声を上げた。
「大盛醤油の人~」
バババッと手が上がり、その男子の横にいるもう1人がすかさず数を数えた。比較的体が細くヒョロヒョロしている気がする。顔も幼さが残っているから1年生なのかもしれない。
「大盛味噌の人~」
さっきより数は少ないが、何人か手を上げる。
「大盛塩の人!」
残りのほとんどが手を上げた。勇気と中崎君もここで手を上げる。
あれ?あれ?
どうすれば良いの?
心配になって隣の勇気を見上げる。
「ねえ、ここって大盛しかないの?」
囁くように尋ねると、勇気は笑って言った。
「いや、普通盛もある。後は個別に頼むよ」
「何にしよう」
「昔ラーメンの塩って言うのが、一番人気」
「じゃ、それにする」
メニューに悩む余裕も無くて、勧められるままに頷くと勇気が女将さんらしき60絡みの奥さんに「昔ラーメン塩ひとつ」と声を掛けてくれた。女子マネが咎めるように眉を顰めてこちらを見、それから隣の女子達と一緒に「塩ひとつ」「醤油ひとつ」などと個別に注文を追加する。
なるほど、たくさん頼むものは取りまとめて注文すれば効率良いよね。いつも家族と一緒か、澪か勇気と一緒と言う少人数行動しかしない私には物珍しい光景に思えた。団体行動に慣れている人達って言うのは、手際が良いなぁと感心してしまう。
注文が終わるとワイワイがやがやと、それぞれテーブルごとに話し始めるが、試合の反省らしき話題はいつまで経っても出てこない。
「ねえ、勇気?」
「ん?」
中崎君とふざけている勇気のシャツを指で摘まんで、話しかけた。
「ミーティングはラーメン食べた後?」
すると中崎君がブッと噴き出してケラケラ笑い出した。勇気はハーっと溜息を吐いて首を振った。
「ミーティングなんて無いよ」
「えっ無いの?」
じゃあ帰っても良かったのでは……なんて考えたのを読み取ったように中崎君が言った。
「一緒にラーメンを食べて、親睦を深める。そんでチームワークが円滑に進むなら、話なんかしなくてもミーティングみたいなモンでしょ?」
「……そういうモン?」
「そう言うモンです」
真面目な顔で頷いて見せる中崎君に向かって、勇気は思いっきり眉を顰めた。
「違うだろ?だから帰りたかったのに……」
「お前は『凛ちゃん』を、他人に見せたくないだけだろ」
えっそれはどう言う……人見知りの私なんかチームメイトの前に出せないって、そういう事だろうか。それとも私と一緒で揶揄われるのが嫌なのかな。
「『凜ちゃん』って言うな」
ブスッと勇気が不機嫌を露わにする。
中崎君が面白そうに笑って、隣の野球部員に向かって「こいつ余裕無さ過ぎ」と言うと目を丸くしていたその男子はコクリと頷いた。
居心地が悪いなあ……やっぱりこれ、揶揄われている?
私はいたたまれなくなって視線を逸らした。小上がりに目を向けると、私を誘った先輩らしき人がこちらを見ていて、私と目が合うとニコリと笑った。
「こっち座ったら」
先ほど私を誘った先輩らしき人が、勝手がわからずキョロキョロしている私に手招きした。
小上がりに上がれと言う事か。
そこは知らない大きい男子ばかりで、人見知りの私は震え上がった。
「スイマセン、こいつ人見知りなんで」
そう言ってムスッと勇気は私の手首を掴んで自分の隣に座らせた。先輩はクスリと笑うとそれ以上追及する事もせず、口を噤んだ。
するとカウンターの近くにいる男子が声を上げた。
「大盛醤油の人~」
バババッと手が上がり、その男子の横にいるもう1人がすかさず数を数えた。比較的体が細くヒョロヒョロしている気がする。顔も幼さが残っているから1年生なのかもしれない。
「大盛味噌の人~」
さっきより数は少ないが、何人か手を上げる。
「大盛塩の人!」
残りのほとんどが手を上げた。勇気と中崎君もここで手を上げる。
あれ?あれ?
どうすれば良いの?
心配になって隣の勇気を見上げる。
「ねえ、ここって大盛しかないの?」
囁くように尋ねると、勇気は笑って言った。
「いや、普通盛もある。後は個別に頼むよ」
「何にしよう」
「昔ラーメンの塩って言うのが、一番人気」
「じゃ、それにする」
メニューに悩む余裕も無くて、勧められるままに頷くと勇気が女将さんらしき60絡みの奥さんに「昔ラーメン塩ひとつ」と声を掛けてくれた。女子マネが咎めるように眉を顰めてこちらを見、それから隣の女子達と一緒に「塩ひとつ」「醤油ひとつ」などと個別に注文を追加する。
なるほど、たくさん頼むものは取りまとめて注文すれば効率良いよね。いつも家族と一緒か、澪か勇気と一緒と言う少人数行動しかしない私には物珍しい光景に思えた。団体行動に慣れている人達って言うのは、手際が良いなぁと感心してしまう。
注文が終わるとワイワイがやがやと、それぞれテーブルごとに話し始めるが、試合の反省らしき話題はいつまで経っても出てこない。
「ねえ、勇気?」
「ん?」
中崎君とふざけている勇気のシャツを指で摘まんで、話しかけた。
「ミーティングはラーメン食べた後?」
すると中崎君がブッと噴き出してケラケラ笑い出した。勇気はハーっと溜息を吐いて首を振った。
「ミーティングなんて無いよ」
「えっ無いの?」
じゃあ帰っても良かったのでは……なんて考えたのを読み取ったように中崎君が言った。
「一緒にラーメンを食べて、親睦を深める。そんでチームワークが円滑に進むなら、話なんかしなくてもミーティングみたいなモンでしょ?」
「……そういうモン?」
「そう言うモンです」
真面目な顔で頷いて見せる中崎君に向かって、勇気は思いっきり眉を顰めた。
「違うだろ?だから帰りたかったのに……」
「お前は『凛ちゃん』を、他人に見せたくないだけだろ」
えっそれはどう言う……人見知りの私なんかチームメイトの前に出せないって、そういう事だろうか。それとも私と一緒で揶揄われるのが嫌なのかな。
「『凜ちゃん』って言うな」
ブスッと勇気が不機嫌を露わにする。
中崎君が面白そうに笑って、隣の野球部員に向かって「こいつ余裕無さ過ぎ」と言うと目を丸くしていたその男子はコクリと頷いた。
居心地が悪いなあ……やっぱりこれ、揶揄われている?
私はいたたまれなくなって視線を逸らした。小上がりに目を向けると、私を誘った先輩らしき人がこちらを見ていて、私と目が合うとニコリと笑った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる