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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話 別視点1】
52.清美
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お兄ちゃん、蓮の高校の後輩、森清美視点です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「お前、離婚しろ」
「はあ?!」
高校時代のバスケ部で一緒だった高坂先輩に、滅多に出入りしないような素敵なダイニングバーに呼び出された。いきなりの呼び出しだったので、15分遅れで到着すると既に勝手に始めている彼の目が―――座っていた。
15分でか?!はえーな!
思わず心の中で派手に突っ込みをいれる。
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
鞄と上着を足元の籠に入れて、俺は半個室のテーブル席に腰掛けた。
一体全体どうした事か。いつも俺の5倍は余裕かましている先輩がこんなに苛立っている所を初めて見た。
しかし彼は俺の前で遠慮なく不機嫌を纏いながらも―――注文を取りに来た若い女の子にニコリと微笑むのだけは忘れない。その様子は嫌になる位の色男っぷりである。俺も現役時代は結構な人気選手だったのだけれど―――この人と居ると霞んで見えるらしく、一緒に居ると落ち着いて飲めるので、非常に居心地が良い。
仙台市で妻の晶と暮らしていた俺は、仕事を引退するのを機に小学校から高校まで暮らしていた両親の暮らす札幌市に戻ってきた。ちょうど2人目の子供を身籠った晶にも仕事を辞めて貰い、高坂先輩の義母である蓉子さんの伝手で通訳や翻訳の他英会話教室も経営している会社を紹介を受けて、俺は現在講師兼通訳として働いている。設計事務所を定年で引退した両親は何故かまだ忙しく働いていて、母親は独立して古巣から仕事を受注したり、個人で戸建て住宅の設計を請け負ったりと忙しく立ち回っていて、父親は主に大学の建築学科の雇われ講師としてあちこち飛び回っている。
妻の晶は大学で天文学を勉強していて仙台市の天文台で働いていたのだけれども、今は二人の子供の面倒をみながら専ら家事を担当している。彼女は高坂先輩と同じ大学の大学院を卒業した才媛だ。本来なら俺が家庭に入るべきなのかもしれないが―――彼女は本を読めて星空が見られれば幸せ、という人なのであまりこだわりはないらしい。
元々人見知りで家に閉じこもるのが好きな人だし、俺は外に出て体を動かしたり、人と接するのが好きなタイプなので今はこういう形に落ち着いている。幸い両親が未だに仕事人間の小金持ちなので生活費には困らないから「このままのんびり引き籠りたいな」なんて彼女は満足気に呟いている。
そんな訳で、俺の家庭は今スッゴく上手く行っているのだ。
俺はずっと妻が大好きで、妻も俺の事を大事にしてくれている。2人の子供達は元気過ぎて相手するのが大変な時期なのだけど―――まあ、可愛いから何とかやっている。ついでに両親も仲が良い。もの凄い円満な家庭なのだ。
なのに目の前の迫力のあるデカい色男は―――何故『離婚しろ』などとあり得ない事を言い出すのだ?
「もう酔ってるんですか?」
「まだグラスワイン1杯しか飲んでねえ」
言動がおかしいから、てっきりもう泥酔しているのかと思った。確かに見た目は変わらないが……この人はいくら飲んでも顔色が変わらないので、酔っているのかいないのか見た目では判断が付かないのだ。
「一体、どうしたんです?」
取りあえず、変な事を口走った理由を尋ねてみる事にした。
すると色男はキッと俺を睨みつけた。
「凛が―――俺を避けるんだ」
「凜ちゃんが……?そう言えば今は……中2でしたっけ」
そろそろ思春期に差し掛かっている頃だ。中学時代、自分がかなり色々拗らせていたので、何となく想像がつく。ついこの間顔を合わせた時は、まだ漫画とゲームが大好きな子供って感じだったが―――そろそろシスコンの兄の介入に嫌な顔をし始める時期なのかもしれない。
「ああ。相変わらず天使のように可愛らしいぞ」
「はあ……」
昔『どシスコン』と散々俺を貶しておいて、その当人がどの口で言う……と思ったが、怖いので逆らわない事にしている。妻の事では勿論譲れない。が、そのほかの事に関しては―――小学生のミニバス時代からの先輩である彼に対して、刷り込みでどうにも逆らえない俺だった。
「そろそろ思春期ですもんね。お兄ちゃん離れし始めたって事じゃないすか」
「いや、凛は俺の事を『世界一大好き』なんだ。そう言ったんだ」
「はあ……」
一体これは何の話なんだ。ひょっとしてただの惚気なのか……?それともいつもの妹自慢なのか?
「ちゃんと恋人を作れば、また元の関係に戻れるんだ。だから―――清美、お前晶ちゃんと別れて俺に譲れ」
「なっ……」
「日本の法律の範囲内で、彼女を作れって言われた。晶ちゃんが独身になればOKだ」
「ちょっ……冗談は休み休み言ってくださいよ!そんなんで譲る訳ないじゃないですか!」
テーブルをバンッと叩いて立ち上がる。
「お飲み物お持ちしました~」
そこへタイミング良く(悪く?)先ほど注文を取った若い女性店員が、微笑みながら現れた。
俺は咄嗟にストンと、腰を下ろす。
「有難う」
余裕の笑顔で女性店員を軽く魅了する高坂先輩。
うーん……よく、疲れないよな。俺なんか試合とかバスケファンの人に注目されるのは嬉しいけど、それ以外の理由で知らない女性に構われるのはハッキリ言って負担に感じてしまうから、変に感心してしまう。基本的にこの人、女の人が好きなんだよな。
俺は溜息を吐いて、高坂先輩が女性店員と軽口を交わす様子を眺めていた。彼女が立ち去った後、彼は少し疲れたような顔をして俺に視線を戻す。
珍しいな。この人が女の子と話した後こんな表情になるのって。
「……冗談だよ」
ハーっと溜息を吐いて、高坂先輩はゴクリと手元のワインを飲み干した。
そうして、憂い顔で椅子に背を預ける。
「お前はいーよなー。大好きなお姉さんと血が繋がって無くてさ。その上法律上も結婚しても問題ないんだし」
そんな事言われてもなぁ。
俺だって両想いになるまで、それから結婚するまでかなり茨の道を歩いて来たのだけれど。まあ、何となく―――高坂先輩の初恋相手に想像が付くので、彼の苦悩は分からないでもないが。確かに俺はラッキーなのだろう、彼に比べれば。
「凛がさ、言うのよ。『お兄ちゃんは妹離れしなさい。これからの私の1番は彼氏になる予定だから、お兄ちゃんも他に1番大好きな人を探して』って」
「……は、はあ」
血の繋がった妹の台詞としては、ごく当たり前のものだと思うが。
「『お兄ちゃんはお母さんと私以外に好きな人を作りなさい。人妻も、義母も血縁関係も無しで、日本の法律の範囲で恋をしなさい』って―――無茶なことを言い出したんだよ」
「……」
無茶って言うか、ごくごく真面な言い分だと思うが……。
「『婚活してちゃんと好きな人が出来るまで抱っこ禁止』って言うんだぞ?『私にもお母さんにも抱き着いちゃ駄目なんだから』って、そんな事言われたら俺は愛情不足で干からびちまうよ」
いや、正論だと思う。
そもそも義母と妹に抱き着くのは、そろそろ……というかいい加減止めた方が良い。
「えーと、それで晶を?」
「……ダメか?」
ちょっと、何でそんな迷子のような目で俺を見るんすか?!
気弱な高坂先輩……初めて見たけど。ハッキリ言って、見たかねーよ!!
「駄目に決まってます」
俺は怒りを込めて、彼を睨みつけた。
冗談でも言って良い事と悪い事がある。
俺の妻の晶は、高坂先輩を友人として大事に思っているのだから―――余計性質が悪い。
「……だよなー……」
そう言って肩を竦めた高坂先輩は、それ以上執拗に追い縋っては来なかったが。
コイツ―――危ないから暫く森家、出禁にしよう。
そう俺は密かに決意を固めたのであった。
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「はあ?!」
高校時代のバスケ部で一緒だった高坂先輩に、滅多に出入りしないような素敵なダイニングバーに呼び出された。いきなりの呼び出しだったので、15分遅れで到着すると既に勝手に始めている彼の目が―――座っていた。
15分でか?!はえーな!
思わず心の中で派手に突っ込みをいれる。
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
鞄と上着を足元の籠に入れて、俺は半個室のテーブル席に腰掛けた。
一体全体どうした事か。いつも俺の5倍は余裕かましている先輩がこんなに苛立っている所を初めて見た。
しかし彼は俺の前で遠慮なく不機嫌を纏いながらも―――注文を取りに来た若い女の子にニコリと微笑むのだけは忘れない。その様子は嫌になる位の色男っぷりである。俺も現役時代は結構な人気選手だったのだけれど―――この人と居ると霞んで見えるらしく、一緒に居ると落ち着いて飲めるので、非常に居心地が良い。
仙台市で妻の晶と暮らしていた俺は、仕事を引退するのを機に小学校から高校まで暮らしていた両親の暮らす札幌市に戻ってきた。ちょうど2人目の子供を身籠った晶にも仕事を辞めて貰い、高坂先輩の義母である蓉子さんの伝手で通訳や翻訳の他英会話教室も経営している会社を紹介を受けて、俺は現在講師兼通訳として働いている。設計事務所を定年で引退した両親は何故かまだ忙しく働いていて、母親は独立して古巣から仕事を受注したり、個人で戸建て住宅の設計を請け負ったりと忙しく立ち回っていて、父親は主に大学の建築学科の雇われ講師としてあちこち飛び回っている。
妻の晶は大学で天文学を勉強していて仙台市の天文台で働いていたのだけれども、今は二人の子供の面倒をみながら専ら家事を担当している。彼女は高坂先輩と同じ大学の大学院を卒業した才媛だ。本来なら俺が家庭に入るべきなのかもしれないが―――彼女は本を読めて星空が見られれば幸せ、という人なのであまりこだわりはないらしい。
元々人見知りで家に閉じこもるのが好きな人だし、俺は外に出て体を動かしたり、人と接するのが好きなタイプなので今はこういう形に落ち着いている。幸い両親が未だに仕事人間の小金持ちなので生活費には困らないから「このままのんびり引き籠りたいな」なんて彼女は満足気に呟いている。
そんな訳で、俺の家庭は今スッゴく上手く行っているのだ。
俺はずっと妻が大好きで、妻も俺の事を大事にしてくれている。2人の子供達は元気過ぎて相手するのが大変な時期なのだけど―――まあ、可愛いから何とかやっている。ついでに両親も仲が良い。もの凄い円満な家庭なのだ。
なのに目の前の迫力のあるデカい色男は―――何故『離婚しろ』などとあり得ない事を言い出すのだ?
「もう酔ってるんですか?」
「まだグラスワイン1杯しか飲んでねえ」
言動がおかしいから、てっきりもう泥酔しているのかと思った。確かに見た目は変わらないが……この人はいくら飲んでも顔色が変わらないので、酔っているのかいないのか見た目では判断が付かないのだ。
「一体、どうしたんです?」
取りあえず、変な事を口走った理由を尋ねてみる事にした。
すると色男はキッと俺を睨みつけた。
「凛が―――俺を避けるんだ」
「凜ちゃんが……?そう言えば今は……中2でしたっけ」
そろそろ思春期に差し掛かっている頃だ。中学時代、自分がかなり色々拗らせていたので、何となく想像がつく。ついこの間顔を合わせた時は、まだ漫画とゲームが大好きな子供って感じだったが―――そろそろシスコンの兄の介入に嫌な顔をし始める時期なのかもしれない。
「ああ。相変わらず天使のように可愛らしいぞ」
「はあ……」
昔『どシスコン』と散々俺を貶しておいて、その当人がどの口で言う……と思ったが、怖いので逆らわない事にしている。妻の事では勿論譲れない。が、そのほかの事に関しては―――小学生のミニバス時代からの先輩である彼に対して、刷り込みでどうにも逆らえない俺だった。
「そろそろ思春期ですもんね。お兄ちゃん離れし始めたって事じゃないすか」
「いや、凛は俺の事を『世界一大好き』なんだ。そう言ったんだ」
「はあ……」
一体これは何の話なんだ。ひょっとしてただの惚気なのか……?それともいつもの妹自慢なのか?
「ちゃんと恋人を作れば、また元の関係に戻れるんだ。だから―――清美、お前晶ちゃんと別れて俺に譲れ」
「なっ……」
「日本の法律の範囲内で、彼女を作れって言われた。晶ちゃんが独身になればOKだ」
「ちょっ……冗談は休み休み言ってくださいよ!そんなんで譲る訳ないじゃないですか!」
テーブルをバンッと叩いて立ち上がる。
「お飲み物お持ちしました~」
そこへタイミング良く(悪く?)先ほど注文を取った若い女性店員が、微笑みながら現れた。
俺は咄嗟にストンと、腰を下ろす。
「有難う」
余裕の笑顔で女性店員を軽く魅了する高坂先輩。
うーん……よく、疲れないよな。俺なんか試合とかバスケファンの人に注目されるのは嬉しいけど、それ以外の理由で知らない女性に構われるのはハッキリ言って負担に感じてしまうから、変に感心してしまう。基本的にこの人、女の人が好きなんだよな。
俺は溜息を吐いて、高坂先輩が女性店員と軽口を交わす様子を眺めていた。彼女が立ち去った後、彼は少し疲れたような顔をして俺に視線を戻す。
珍しいな。この人が女の子と話した後こんな表情になるのって。
「……冗談だよ」
ハーっと溜息を吐いて、高坂先輩はゴクリと手元のワインを飲み干した。
そうして、憂い顔で椅子に背を預ける。
「お前はいーよなー。大好きなお姉さんと血が繋がって無くてさ。その上法律上も結婚しても問題ないんだし」
そんな事言われてもなぁ。
俺だって両想いになるまで、それから結婚するまでかなり茨の道を歩いて来たのだけれど。まあ、何となく―――高坂先輩の初恋相手に想像が付くので、彼の苦悩は分からないでもないが。確かに俺はラッキーなのだろう、彼に比べれば。
「凛がさ、言うのよ。『お兄ちゃんは妹離れしなさい。これからの私の1番は彼氏になる予定だから、お兄ちゃんも他に1番大好きな人を探して』って」
「……は、はあ」
血の繋がった妹の台詞としては、ごく当たり前のものだと思うが。
「『お兄ちゃんはお母さんと私以外に好きな人を作りなさい。人妻も、義母も血縁関係も無しで、日本の法律の範囲で恋をしなさい』って―――無茶なことを言い出したんだよ」
「……」
無茶って言うか、ごくごく真面な言い分だと思うが……。
「『婚活してちゃんと好きな人が出来るまで抱っこ禁止』って言うんだぞ?『私にもお母さんにも抱き着いちゃ駄目なんだから』って、そんな事言われたら俺は愛情不足で干からびちまうよ」
いや、正論だと思う。
そもそも義母と妹に抱き着くのは、そろそろ……というかいい加減止めた方が良い。
「えーと、それで晶を?」
「……ダメか?」
ちょっと、何でそんな迷子のような目で俺を見るんすか?!
気弱な高坂先輩……初めて見たけど。ハッキリ言って、見たかねーよ!!
「駄目に決まってます」
俺は怒りを込めて、彼を睨みつけた。
冗談でも言って良い事と悪い事がある。
俺の妻の晶は、高坂先輩を友人として大事に思っているのだから―――余計性質が悪い。
「……だよなー……」
そう言って肩を竦めた高坂先輩は、それ以上執拗に追い縋っては来なかったが。
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