俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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・番外編・お兄ちゃんは過保護【その後のお話 別視点2】

55.蓮(1)

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お兄ちゃん、蓮視点です。
少し長めなので、連載形式でお届けします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


親父に呼び出されて仕事帰りにヤツの会社の本社ビル、社長室に顔を出した。
本社ビルと言っても住宅街にある2階建ての建物なんだけど。

「うどん食べに行くぞ」
「え?」

唐突に言われて思わず聞き返した。

「夕飯の事?」
「ああ」

俺に選択権は無いわけね。昼うどん食べてたら、どーすんだ。
つっても『俺が食べたいから、うどんにする』って言いそうだな。

「……」

ついてけねー。

いつもながらにそう思う。俺の意見なんかコイツには二の次だって分かってはいたが、毎回こういう場面で、ドッと疲れが押し寄せる。
全く……蓉子さんもこんな強引男の何処がいいんだか。やっぱ、顔か?……顔なら俺の方が良いと思うんだがなぁ。好みの問題もあるんだろうけど。それとも経営手腕?……リーダーシップ、経験と大人の余裕、金……やべえ、若さと体力くらいしか未だにコイツに勝る物がない。俺だって社会人になってもう十年になるんだがな。既に三十代に突入……それなのにいつまで経っても親父に追いつけないのが俺の現状だ。だからこそ、余計に腹が立つ。

全く関係ない職種に就いたと言うのに、飛ぶ鳥を落とす勢いの親父の噂を聞くたびに憂鬱になる。職場が意外と近いと言うのも拙かった。畑違いだと言うのに俺の会社の会長が親父と顔を合わせたと言って話題に振ってくる事がある。すると何とも言えない感情が湧き上がってくるのだ。俺とコイツの実力差ってヤツを……まざまざと感じてしまうから。






「うどんはとり天で。あと牛すじ・卵・豆腐。お前は?」
「ぶっかけ天婦羅」

子供の頃から通っているからメニューを見なくても分かる。フランスのタイヤ会社のガイドブックにも掲載された事もあったとかで、結構な人気店だ。予約を入れていたらしく、小上がりにすんなり座る事ができた。

「ここにお前と来るの……ひょっとしてかなり久しぶりか?」
「そうだね」
「昔はよく来たような気がするな」
「それ、四半世紀以上前の話だから」

俺がぶっきらぼうに答えると、親父は目を少し見開いた。

「……そんな前か」

そうしてちょっと目を細めて、店内をぐるりと眺め直した。

蓉子さんがまだ、俺の母親では無かった頃。親父と蓉子さんと会社の近くのこのうどん屋で何度かご飯を食べた事があった。父親は勿論多忙で、母親も仕事で遠出している事が多く、俺はミニバスの合間休日は自宅で本を読んでいる事が多かった。
するといつの日からか、親父の秘書である蓉子さんが俺とたびたび一緒に過ごしてくれるようになった。親父に仕事として命令されていたのかと当時は思っていたけど、中1の時彼女が嫁いで来る事になってからは、親父と付き合っていたからプライベートで対応してくれたのかと考え直した。あの頃好きな女性が母親になった事実を受け入れられずに、蓉子さんを避けてしまっていたから、結局当時の事情はきけずじまいなのだ。
蓉子さんが動物園に連れて行ってくれて、昼ご飯だけうどん屋で落ち合って親父と三人でうどんを食べたりしたっけ。初めて蓉子さんに連れて行って貰った時は『動物園なんて、低学年のお子様じゃあるまいし』……なんて、生意気にも内心愚痴りながら表面上にこやかに対応してた俺だったけど、大人なのに本気で楽しんでいる蓉子さんの横にいると、自然と俺も夢中になってしまった。
昼ご飯の時間帯、親父の都合がつかない時に地元で一番ポピュラーなハンバーグレストランに連れて行って貰ったりもしたな。ファミレス未経験だった俺にはスッゴく新鮮だった。クラスの子が家族でよく行くと言っていて、興味はあったのだが……てんでバラバラな家族しかいない俺は、これまで行く機会に恵まれ無かったのだ。何よりファミレスなんて、アパレル関係の母親が一番嫌がりそうな場所だと思っていたし。

懐かしくて甘酸っぱい記憶に身をゆだねていると、不意に親父が大きめの封筒をテーブルの上に出し、ズイっと差し出して来た。

「……何、これ」

嫌な予感がした。
親父は眉一つ動かさず、俺を睨みつけるように見ている。



「見合い写真だ」



あー、本当にコイツと会うと碌なことが無い……!

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