俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の回想】

3.夏休みにねーちゃんと(1)

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中学生の初めての夏休みは、ほとんどバスケの練習に費やす事になりそうだ。
お盆と日曜以外は学校で部活の通常練習に参加するし、毎月2回唐沢先輩に誘われて6月末から連盟の主催するバスケットボール教室にも参加していた。
夏休み前に行われた市大会で準優勝した為、8月初旬の全道大会を目指して猛練習する事になるだろう。2強に入る事ができれば8月末の全国大会に出場する事も出来るかもしれない。そうすれば夏休み中練習漬けになるのは必至だった。



市大会後の夏休みに入る直前、練習後シューズを脱ぐと、穴が開いているのに気が付いた。中学に入学する前に新調したばかりなのに。

「あー……もう穴が……」

鷹村が俺のバッシュを覗き込んで、苦笑した。

「そりゃ、買い換えだな。明日ちょうど休みで良かったな」

変な癖が付いたのかな?それとも足が大きくなったから?中学に入ってから夜中に膝が痛むようになった。ドンドン自分の身長が伸びている事を実感していた。
かーちゃんにメールで連絡を入れる。するとその夜早めに帰宅して(と言っても休日出勤だから本当は休みだった筈だが)封筒に入ったお金を渡してくれた。
しかし申告していた金額よりかなり多い。事前にネットで候補のシューズ調べて予定額を知らせていたのに。

「晶も連れてって服を買ってあげて。一応女の子だからさ、もうちょっと色々お洒落とかして欲しいんだよね。でも晶にお金預けると本だけ買って服買って来ないだろうから、清美に託す!」

ねーちゃんは真面目そうな見た目に反して、性格や動作がかなりおおざっぱだ。当然、服にもあまり関心が無い。あるものを何となく着用しているだけ。



おおざっぱな性格は日常の行動にも表れていて、この間は扉を足で開けたりして俺を驚かせた。それを俺が注意したら「私、O型だから」と悪びれずに言い訳された。
「だいたい血液型占いとか、科学的根拠無いんじゃない」と返すと「清美はA型だから、きちんとしてるんだよ」と断言された。冗談だか本気なんだかよく分からない。膨大な読書量に裏打ちされた知識を使った正論なのか、はたまた大雑把な性格による適当発言なのか判断が付きにくい。

いやいや。

俺は努力して考えてきちんとしているのであって、ねーちゃんの努力が足りないだけだと思う。血液型の所為にして反省しないねーちゃんは女性としてマズイだろうと眉を顰めると「清美は偉いね!ねーちゃんの自慢の弟だよ」と笑顔を返された。
何がそんなに嬉しいのか判らない。
だが、俺はいつも大して表情に変化の無いねーちゃんの笑顔に弱い。それにねーちゃんの女性としては比較的低めの声で褒められるのも好きだ。
結局小言をスル―されたというのに、ふんわりと微笑まれるとなんだかソワソワしてしまって、それ以上何も言えなくなってしまった。だからねーちゃんはズルいと思う。



そんな訳でかーちゃんはお金の管理を俺に任して、強制的に服をねーちゃんに与えようと決めたようだ。どんぶり勘定のねーちゃんに対して、小4からお小遣い帳を付け続けている俺に対するかーちゃんの信頼は厚い。
次の日、ねーちゃんを連れて俺は街中へ向かう事になった。

出掛けようとした時に、その艶々した長髪がうねっているのを発見した。俺はレンジで蒸しタオルを作って、無言で彼女の頭に当てた。

「え?何?」
「寝癖」
「別に誰も見てないのに。学校行くわけじゃないし」
「駄目。すぐ直るから」

20秒ほど当てただけで、すぐまっすぐになる。

よし、綺麗になった。

何故短い手間を惜しむのだろう、と思う。だけど「やっぱりねーちゃんは俺がいないと駄目だな」と思う時、こっそり幸せになってしまう自分がいる事も知っている。






地下鉄に乗って札幌駅で降りる。駅より南側のビルの地下にプロユースのスポーツ用品店がある。先ずはそこから攻めてみる事にした。しかし難なく目当てのバッシュが見つかったので、すぐ試着する。ネットで購入する方が便利かもしれないが、俺には店で試着して購入する方がしっくりくる。

うん、ぴったりだ。

中身はまるきり日本人なのに俺の体は規格だけ母譲りの北欧人寄りだ。足の幅が日本人の一般的なそれより細いので、NIKIのバッシュがしっくり来る。
履いたバッシュを確かめるために足踏みを繰り返していると、ねーちゃんが覗き込むようにして寄って来た。

「いいの、あった?」
「うん。これぴったり。レジ行ってくる。その辺で待ってて」
「りょーかい」

俺はレジで会計を済ませた後、ねーちゃんがうろついているであろう商品棚のところへ戻って来た。

あれ誰だ?

ねーちゃんはバスケットボールを持っていた。その隣に背の高い大学生(?)くらいの男が立っている。ねーちゃんは無表情ながら、彼の問い掛けに返事をしているようだ。
俺は何だかもやっとして、小走りでその場に駆け寄った。

「……ちょっとだけで、いいんだ。観戦者が少ないとさ……」
「えーと、私はあまり詳しく無いので遠慮します。連れが好きなのでもしかしたら―――」
「だから、その詳しいお友達とおいでよ!俺も教えるし、楽しいよ」
「どうしたの」

自分でも声が固いのが判った。警戒心を露わにした低い声でねーちゃんの隣に立った。

「清美」

ねーちゃんが明らかに安堵した様子で、力を抜いた。その様子を目にして何故か俺もホッとする。

「えっと、この人が試合を見に来て欲しいって……」

明らかに俺の視線は殺気を放っていたと思う。
決して穏やかとは言えない俺の視線に、男の萎縮した気配を感じた。

「あ『連れ』って、男だったんだ……」
「はい、おと…」
「俺達行くとこあるんで、もういいですか?」

『弟』と言い掛けたねーちゃんの台詞に被せるように前に出た。相手の男は苦笑して、手を振って去って行った。

危ない。

『弟』なんて正直に申告したら食い下がられるかもしれなかった。逃げていくその背中から目を離さずに、俺は言った。

「ねーちゃん」
「ん?」
「何、アイツ。まさか知り合いじゃないよね」
「いや、知らない人。バッシュ買うのに付き合ってる処って応えたら、バスケやってるから試合見に来ないかって言われて……」
「それ、ナンパじゃん」

俺はカチンと来て、声を低くした。

「知らない奴に、なんで誘われてるのさ」
「ナンパ?まさかぁ。最初店員さんかと思ったんだけど、違ったみたいだね。なんか試合の観戦者が少ないから協力して欲しいって……」
「ねーちゃん、警戒心無さ過ぎ」

俺の硬い態度に少しムッとして、ねーちゃんは口を尖らせた。

「『ナンパ』って言うのは、可愛いキラキラした女の子が誘われるモノでしょ。あからさまに地味な私にそういう目的で声を掛ける人っていないと思うけど」

とのんびり、反論する。



いや、実際今ナンパされてたでしょ、アナタ。



俺はジトッと平常運転を貫くねーちゃんを睨んだが、それ以上の反論を諦めた。

「とにかく、寄ってくる怪しい男には気を付けてよ」

伝わらない虚しさを感じ、俺は大袈裟にハーッと溜息を吐いてみせた。

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