俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の回想】

5.夏休みにねーちゃんと(3)

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「あー、美味しかった」

ミルクティをゆっくり口に含みタルトの余韻に浸っていたねーちゃんに、俺は漸く話を戻して貰う事が出来た。

「そうそう小6の時に清美がチョコレート一杯抱えて帰って来たでしょ。確かそのとき、チョコレートくれた子の1人だったと思うんだけど―――」






**  **  **






チョコレートは特に嫌いと言う訳ではないけど―――沢山は食べられない。
だから持ち帰ったチョコレートは、かーちゃんとねーちゃんに食べて貰っていた。小5の時にもミニバスに観戦に来ていた女の子に幾つか貰ったが、小6のバレンタインに受け取ったチョコレートはどう考えても1人で食べきれる量では無かった。そしてどの相手にも同じクッキーをホワイトデーにお返しした。かーちゃんによるとホワイトデーのお返しには意味があって―――

『キャンデー』=『好き』
『クッキー』 =『友達』
『マシュマロ』=『嫌い』―――なのだそう。

俺は特に誰かと付き合おうという考えが無かった(というか女子が苦手だった)ので、お返しはクッキーで統一して貰った。

本当はホワイトデーにお返しをするという発想自体、無かった。だけどかーちゃんは小学生の保護者として貰ったプレゼントにお礼を配る事に決めたらしい。ねーちゃんとクッキーを焼いて、ラッピングしたものを大量に俺に持たせた。しかもご丁寧にチョコをくれた人のリスト付き。正直誰から何を貰ったか覚えて無かったので、助かった。

その時かーちゃんの指示のもと、リスト作りの作業を行ったのがねーちゃんだ。
そのリストの中の1人にだけ……俺はクッキーを配らなかった。忘れたフリをして。
嫌いな奴を許したフリが出来るほど、俺は心が広く無かった。






**  **  **






「川喜多さんって子が、わざわざ私の処に来て噂の事を教えてくれたんだよね。『清美君がマネージャーと付き合ってるって聞いたんだけど、本当ですか』って聞かれたの。あ、それから他の同小出身の子にも聞かれたかな?『清美とそういう話しないからなー』て言ったら、ガッカリされちゃった」

俺は混乱した。岩崎と付き合っているって噂だけでも初耳なのに、あの『女ボス』川喜多がねーちゃんに関わって来たなんて聞いて平静を保つのが難しい。ねーちゃんは川喜多が俺を苛めていた首謀者だと言う事までは気付いていないらしい。警戒心の欠片も無い様子に背中に冷たい物が走った。

「『本人に直接聞いたほうがいいよ』って返事したけど……誰かに聞かれて無い?」

ねーちゃんの言っている事は正論だ。正論だけど―――。

すごく落ち着いているねーちゃんに対して―――俺はショックを受けた。
普段『ブラコン』を自称している癖に、俺に彼女が出来たと聞いても慌てる様子も無く、俺に直接確認もしないなんて。

「そんなコト聞かれた事ないよ!全然知らなかった。……それによりによって川喜多が、何でねーちゃんに……。何か嫌なコトされなかった?」
「嫌な事は別にされてないと思うけど?……でも私、女の子の気持ちに疎いところがあるみたいだから、微妙な嫌がらせがあってもすぐには気付けないかも」

確かに川喜多みたいに群れて嫌がらせをするような女子とねーちゃんでは、感覚自体違うかもしれない。
まあ小6のクラス替えからこっち、俺は川喜多と直接接触していないから今の彼女がどんな人間なのか全く知らないけど。知りたくも無いし。

「俺の所為でねーちゃんに迷惑が掛かったら嫌だよ。もしなんかあったら今度はすぐ俺に言ってよ」

実際ねーちゃんを困らせるような状況が起こったら……と考えると、ぞっとする。それだけは絶対に嫌だった。
やっと平穏になったねーちゃんの学校生活を―――これ以上掻き回したくは無い。

「うん、わかった」

若干軽い返事だが、とりあえず了承してくれる。

「大丈夫だって!清美は心配症だなぁ」

俺は余程不安げな顔をしていたのだろうか。
ねーちゃんが、安心させるようにニッコリと笑う。

俺は、ねーちゃんの『大丈夫』に何度助けられてきただろう。
本当は、ねーちゃんに俺を頼って欲しいのに。

しかし少し気を取り直した俺に、ねーちゃんはぽつりと呟くように言った。

「でもなあ……。マネージャーの……岩崎さん?だっけ?彼女から『いつも清美君と仲良くさせて貰っているんです』ってお礼も言われたんだよね。だからてっきり『お、清美の初カノだ!いい子で良かったなあ』と思っちゃったんだけど」

は?
俺、岩崎と特に仲良くしてたっけ?
個人的に話した覚えも無いんだけど……。

ボールの片付け手伝ったり、とかそういう事を言ってたのかな?でも、それは1年生は皆やってる事だ。俺だけいつも手伝ってるなんて事、無かった筈だけど。

「清美……もしかして、誤解させるようなこと言ったりした?」
「え!まさか!―――ねーちゃん、知ってるよね。俺、女子苦手だって」
「いや、知ってるけど……中学生になって心境が変化したのかなあ、と」
「いやいやいや……。そりゃ、前よりは苦手意識減って来たけど―――女の子と付き合うなんて無理だから」

俺はブンブン、と首を振った。

「最近清美と話す機会も減ってきたでしょ?周りも彼女もそう言ってるから『ああ、姉離れが始まったんだな、何でも相談して貰える時期は終わったのかも。家族に彼女の事、話すのは恥ずかしいのかな?』―――って思っていたんだけど……」
「いやいやいや!『彼女欲しい』とか、考えた事も無いし!俺、部活で手一杯だから。先輩達にしごかれて、ホントに大変なんだから」

俺はブンブン、と首を振った。今度は両手も付ける。
ねーちゃんは、しきりに首を傾げていた。

「そう?じゃあ、あれは……部活で仲良くしてるって意味だったのかな?彼女、可愛いらしいから、つい親切にしたくなるのも分かるけど」

いや、ねーちゃんの方が可愛いから。

黒曜石のようなつぶらな瞳をぱちぱちと瞬き小首を傾げる彼女を見ながら、俺は心の中で即、否定した。
自分の身贔屓を割り引いても、目の前の黒猫のようなねーちゃんはとても愛らしいと思う。
でも中学生になったばかりの俺は、羞恥心からそれを口に出す事は出来なかった。

「特別に、彼女に親切にした憶えは無いんだけどなあ」
「うーん……確かに噂ってアテにならない物だよね」
「ホント、俺も今日すごく驚いたよ」
「なんか色々考えたら、お腹すいちゃったな。もう1個なんか食べたいかも」



そう言って、ねーちゃんはメニューに手を伸ばした。

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