俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の回想】

11.ねーちゃんと、合格発表

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奇跡的に、俺はねーちゃんの通う高校に合格した。
夏休み前までの俺の成績を考えたら、あり得ない快挙だ。

「恐ろしい執念だな」

鷹村が呆れていた。



滑り止めで受けたのは、中学入学前にスカウトを受けていた私立校。こちらは中学校から大学まで一貫してバスケに力を注ぐことができる、名門校。今回もスカウトを受けていたので、実は推薦入学も可能だった。
ただ俺はどうしてもねーちゃんと同じ高校に行きたかったので、進学義務の生じる推薦試験を受ける訳にはいかなかった。勿体無い事ではあるが滑り止めとして一般受験を選択し私立校からは1月下旬に合格通知が届いていた。

部活に傾けていた情熱を勉強に集中させた結果、俺はメキメキと実力を付け模試の判定は受ける度に面白いぐらい上がって行った。

ねーちゃんは俺を全面的にサポートしてくれた。

家庭教師をしてくれて、夜食も作ってくれて、ストレスが溜まって弱音を吐いたときには愚痴も聞いてくれた。
それにこれが一番効果的なサポートだと思うが―――俺が馬だとしたら、彼女は人参だ。
俺は彼女と一緒の学校に通いたくて勉強している。その目標が近くにいて俺を鼓舞してくれるのだから、これ以上やる気の出る状況は無いだろう。

WEB上でも合格を確認できるのだけど、俺は敢えて学校の掲示板まで出向いた。
勿論ねーちゃんにお願いして付いて来て貰う。

「285……285……あった!」
「やった!清美、やったね!おめでとう!!」
「うん!」

俺はがばっと、ねーちゃんに抱き着いた。

実はこれがやりたくて、ねーちゃんを合否結果の掲示板に誘ったのだ。

不自然じゃ無く抱き着けるチャンスはひとつたりとも逃したくない。ねーちゃんは一瞬ビクッと体を震わせたけれども、気を取り直したのかしがみ付く俺の背中を優しく撫でてくれた。
優しさに付け込んでしまう自分の浅ましさに、微かな罪悪感が胸を掠める。
しかしすぐに合格した喜びとこれまでの苦労が一気に胸に押し寄せてきて―――更に俺の背を撫でる小さな手に煽られて―――愛しさが胸一杯に迫って来る。罪悪感は綺麗に洗い流されてしまい、たちまち俺の体は……大きな感情の波で一杯になってしまう。

「うわっ!ちょ、ちょっと……っ!」

ねーちゃんが抗議の声を上げるが、構ってられない。
俺はねーちゃんの小柄な体を持ち上げてクルクルと振り回し、それからもう一度ギュッと抱きしめた。周りの人が珍しいモノを見る目で、俺達を見ていた。
しかし構うものか。こんなチャンス、滅多に無いのだから。

「お、おろしてよ~」

高い高いの姿勢で固定された彼女は、泣きそうな震える声で言った。

「やだ」
「恥ずかしいからっ!下ろして!」
「……」

下ろしたくはない。
離したくも無い。

……ただこれ以上しつこくして、嫌われてしまっては元も子もない。
名残惜しくて堪らない俺は、往生際悪くギュウっともう一度腕に力を込めてから―――彼女の体をストンと着地させた。

「はい、下ろしたよ」
「……」

小柄な体を地面に下ろした後、両手を広げて解放の意思を示したが―――遅かったようだ。
涙目で、キッと睨まれる。

あちゃー。

完全に怒ってる。でもその潤んだ上目使いが、凶悪なほど俺のツボなんですけど。

「子供扱いして、私で遊ぶのは止めて……」
「子供扱いなんかしてないよ」
「じゃあ、何でそんな楽しそうにニヤニヤしているのっ」

え?

俺、ニヤついてた?

自覚して無かったけど、どうやら俺は嬉しさの余り盛大に笑顔になっていたらしい。
しかしそれは、しょうがない。
だってどう考えても無理って言われていた高校に合格して、その上どさくさに紛れて好きな女の子をギュッと抱きしめる事が出来たのだから。

「もう……!私帰るっ、清美のバーカ!デリカシー無し!」

『バーカ』って……ねーちゃんに、初めて言われた。

俺はポカンとして口を開けたまま、立ち尽くした。
そしてコロコロ走り去る背中を見て、笑ってしまう。

彼女の顔は羞恥に真っ赤に染まっていた。いつも無表情でマイペースな彼女があそこまで動揺するのを見たのは、初めてだった。
置いて行かれたけど……独りで帰すのは心配だけど(家まで徒歩10分の距離だけどね)……あまりの可愛さに、俺は暫くその場を動く事が出来なかった。



ほんの少しでも。
さっきの行動が―――俺の事を意識してくれるキッカケにならないかな?
来春から2人とも高校生だ。
高校生と中学生って……大人と子供みたいだけど。
高校生同士だったら―――恋人になったとしても、違和感ないんじゃないかな……?

なーんて自分に都合の良い妄想に浸って、ソワソワと1人落ち着かない気分のまま学校を後にしようとしたとき、後ろから声が掛かった。



「森」



聞き覚えのあるその声に振り向く。
やっぱり、見覚えがある。同じ中学に通っている女子バス部員だ。しかしあまり話をした事は無い。だから名前が出てこない。

「えーと、女子バスの……」

その子は眉を吊り上げて、俺を睨んだ。
もしかして名前を憶えられていないのが不愉快だった?

鴻池こうのいけよ。鴻池雛子。同じ部活で学年も一緒なのに、名前も憶えてなかったの?ヒドイよね」
「ごめん」

バスケ部員らしくすんなり伸びた手足に、肩より少し下の所でカットされたやや栗色の髪をさらりと振って、彼女は笑った。

「いーよ。話した事無かったもんね。ところで森、合格した?私もここ受験したの。今番号確認して、帰るとこ」

お?怒ってない……な。意外とさっぱりした奴なのか?

それが、第二印象。
第一印象は「コワイ」。だってなんか強そうで迫力がある。
見た目自体は、スラリとした細い手足がポキリと折れそうに儚げだけど。幼稚園の女の子達が遊びに使っていたお人形みたいにクリクリした大きい目は、強い意思を秘めているように見える。

「うん、受かった」
「おめでと」
「ありがとう。こうのいけ……も、おめでとう」

そういうと、彼女はニコリと笑った。
結構、可愛いかな?まあ、ねーちゃんには負けるけど。

俺がそんな失礼な事を考えていると、鴻池は察してはいないようだった。
それよりも合格した事でかなりテンションが上がっているようで―――おそらく同じ高校に合格した同志として親近感を持ってくれたらしく、俺に笑顔でいろいろ話し掛けてくる。

それなのに俺はと言えば。
早く家に帰りたくて堪らなかったので、少しじりじりとしながら受け気味に応じていた。

「森ってH学園からスカウトあったでしょう?でも推薦受けずに一般受けたよね。……結局、どっちに行くの?」

良く知ってるなあ。
まあ……でもスカウトの話は何処からか漏れて部内で噂になっていたから、女子部員の間でも広まっていたのだろう。こういった話題を他人が把握しているのは初めての事では無いので、特に驚かない。

「せっかく受かったし、こっちに通うつもりだよ」
「勿論バスケ部に入るでしょ?」
「うん」
「私もこっち通う予定なんだ。一緒だね」
「そうだね」
「もー!もうちょっと、嬉しそうにしてよ!」

バシン!と背中を叩かれる。

「っ……いってぇ」

地味にマジで痛い。
しかし鴻池は大袈裟に言っていると思っているのか、笑ってスル―する。

乱暴だなあ。
いきなり叩いてくるって、やっぱりコワイ。
『気さく』を通り過ぎてない?ほとんど初対面なのに。

女子が振るう暴力って、責められないからいいよね。
男が同じ事女子にやったら、ボロクソに責められるのに。

なんだか小学校の女ボスを思い出した。
それですっかり気持ちが引いてしまった俺は、一刻も早く帰りたい気持ちが強くなって来る。
こんな刺々しい気持ちになるより、優しいねーちゃんの傍にいたい。
だから少し後退りしつつ、話を切る事にした。

「じゃー、またね」

ヘラリと愛想笑いをしながら、距離をとり始めると、

「ねえ」

一歩引いた所に、鴻池の声が掛かった。

「さっきの子、後輩?森のファンか何か?」
「え?『さっきの』って?」
「さっき森に抱き着いていた、ちっちゃい子だよ。―――大変だね、モテるのも」

同情するような鴻池の声に、しばし頭を巡らせる。
『さっきのちっちゃい子?』『抱き着いていた』って……

あ、ねーちゃんの事?
そう、見えた?

実際は『俺が無理矢理抱き上げた』というのが事実なんだけど。結局逃げられたし。
外から見ると、そう見えたのかな?

そういえばねーちゃん、まだ怒っているかな?

……帰り道の途中にある大福屋さんで、期間限定の苺大福と桜餅でも買って行こうかな?
甘い物好きな彼女はきっと、それで機嫌を直してくれるだろうから。

「何?……何、ニヤニヤしているの?」

鴻池が怪訝そうに俺を覗き込んだ。
はっ、イケナイ。
ねーちゃんの事を思い出して、自然に頬が緩んでしまったようだ。

「……いや、ファンじゃないよ。後輩でもないし」
「親戚とか?ひょっとして従妹?」
「いや、姉……」
「……『あね』?……って、え?あの子……森の『お姉さん』!?」

咄嗟に腕を取られて、驚く。
……なんでこんなに食い付いて来るのだろう?女子バスの子達だって皆ねーちゃんの事、知っている筈だ。

―――そういえば『鴻池』って……1年の時部活にいなかった気がする。中途入部なのか?だから俺のねーちゃんの事、知らなかったのだろうか。
俺が『思春期』に突入した中1の夏休み以降―――ねーちゃんが試合を観戦に来る事も部活に顔を出す事も無くなったから。

しかし何だか話が長くなりそうな雰囲気で―――面倒臭くなってきた。
だから、俺は適当に話をぶっち切る事に決めた。

「俺―――もう帰らないと。姉にオヤツ買ってかなきゃならないし」
「はあ?そんなこと、させられてるの?」

正義感が強いのか?
少し怒った口調で言う、鴻池。
俺が強制されて買い物をさせられていると勘違いしているのかもしれない。

「いや、そういう訳じゃ……」
「お姉さんの我儘なんて、きかなくてもいいのに」

やはり鴻池は誤解している。
しかし大して親しく無い女子に、あれこれ説明するのは嫌だ。

「うん、そっか。そうだね。……じゃ俺、急ぐから!」

俺はベリッと、鴻池の手を引き剥がした。

「え?森?ちょっと……!」
「またね!」

パッと後ずさり距離を取ってクルリと彼女に背を向けた。
背後で何か言っているけど、聞こえない振りをして走り去った。



あー、もう!
早く家に帰ってねーちゃんに苺大福を食べさせたい……!

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