俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

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俺のねーちゃんは人見知りがはげしい【俺の事情】

2.ねーちゃんと一緒に

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入学式に向かって制服の試着や必需品の購入など、こまごまとした用意をねーちゃんに手伝って貰っている間、俺は新しい高校生活について夢想していた。

これからは登校も下校も一緒。……それに授業は勿論別だけど、グラウンドで体育の授業を受けているねーちゃんを眺める事ができるかもしれない。偶然廊下でばったり会うなんてシチュエーションもあるかも。夕飯の時に、先生とか学校の話題で盛り上がっちゃったりして……!

お昼ご飯はいつもどうしているのかな?人見知りのねーちゃんの事だから、教室で1人でお弁当を広げているかもしれない。じゃあ、どこかで待ち合わせて一緒に食べたりもできるんじゃないか……?!

ぐふふふ……と、枕を抱えてベットでゴロゴロのたうち回っていたが、現実は厳しかった。



バスケの強豪校は伊達では無い。
朝練、昼練、放課後練。
日曜日は効率を重視し休みになっているけれども、土曜日も1日中練習。

そりゃー、そうダヨネー。
わかってるさ。
わかってはいたさ―――でも、少しくらい夢見たっていいじゃん……!!

俺、バスケくらいしか取り柄無いしなぁ。小学生の頃、よくミニバスの練習試合を応援しに来てくれたねーちゃんが目を輝かせて俺を褒めてくれた。

「清美、スゴイね。本当にスゴイ。感動したよ」

って、目をキラキラさせて言ってくれた賞賛の言葉に励まされて、今の俺がある。ボールがゴールに納まる度に喜んでくれた。それに後押しされてグングン俺の技術力は伸びて行ったのだ。

無駄に長い手足も日本人仕様の建物に合わない体躯も、バスケでなら活かせる。勉強は苦手だけど、バスケの戦略は覚えられる。動体視力もバネも人一倍あるのに、バスケ以外で役に立った事なんか無い。見た目外人っぽいのに英語もしゃべれないしな。

だから、中学もバスケ一筋。
高校も、やっぱりバスケ一筋。

それは勿論、わかってたよ……!

結局入学式以外、学校と自宅の行き帰りの道のりを一緒に歩く事無く―――実際、中学の時のバスケ部の先輩から春休練の強制参加を言い渡され、休みもほとんどバスケ漬けの生活で受験が終わったらねーちゃんと何処かにお出掛けしようなんて言う野望は簡単に潰えてしまった。

……どっちみち、受験勉強で体もなまってしまったし、鍛え直さなきゃなーと思ってはいたのだけれど。

ほわほわと夢見ていた、2人で学校帰り寄り道して―――っていう甘い高校生活は、やっぱり本当にただの夢物語だったなぁ、と諦念の境地に入っていたところ。

急遽、今日の放課後の練習を早上がりとする事に決まったのだった。
確保していた会場の設備に不具合があり、体育館で教員の行事が行われる事になったらしい。会場設営の為に体育館の使用が制限されるのだそうだ。

「やったっ」
「どっか、寄り道しねえ?」
「カラオケ?練習終わったら行くか?」
「女子マネ、声掛けよーぜ。ヒナちゃんの東野カナ、聞きたい」

男バス連中は、練習後ぽっかり空いた予定にすぐ遊びの予定を入れようとしていた。

俺は逸る心臓を落ち着かせながら、すぐさま頭の中で計画を練った。

ね、ねーちゃんと一緒に帰れるかもしれない……。
夢にまで見た、寄り道デートが可能になるかもしれないっっ!!
あわわ……ど、どうすれば……。

待て、慌てるな、清美。
そうだ。
まずは何が必要か考えるんだ。

まず、練習始まる前にねーちゃんの予定を確認するだろ。
そんで、一緒に帰ってもらうために待っててもらうだろ。
きっと「面倒臭い」って言うなー。早く帰りたいだろうから。
じゃあ、甘いモノ……スタバで甘いモノ奢るからって言って……。
できたら待ってて貰っている間に練習、見学しに来て貰って……俺の唯一の特技のバスケで、華麗な動きをしているところを見てもらおう…!少しはカッコイイって思ってくれないかな……どうかな……。



そんで、そんで、俺が以外と逞しいんだなって気付いたねーちゃんが、帰り道、

「清美ってバスケやってると、カッコいいんだね」

って、ちょっと俯き加減にぽつりと呟く。
その頬が少し朱に染まっていて……。

「ねーちゃん」

俺が立ち止まると、俯いて少し後ろを歩いていたねーちゃんがぶつかって、自然に俺の体に手を付くんだ。

「清美……いつの間に逞しくなっちゃったの?……置いて行かれそうで、焦っちゃった」

はにかむねーちゃんに俺はフッと笑って、

「俺がねーちゃんを置いて行くわけないだろ、だって……」

ねーちゃんの肩を抱き寄せる。

「あっ、清美……」



パコーン!

「いだっ」

丸めたスコアブックで頭を叩かれて、俺の妄想劇場は霧散した。
おそらく最速の処理速度で妄想していたから、現実にしては4~5秒の出来事だったと思う。

振り向くと、同中の鴻池こうのいけ雛子が仁王立ちしていた。中学では女子バスケの副キャプテンだったが、高校では男バスのマネージャーになった。女子バスに居た時は、そんなに話す機会が無かったけど、こいつがマネージャーになってからは、よく話す。

っていうか、こいつがちょっかいを掛けてくる。

当然バスケに詳しいし話も合うから、他の男子部員と同じくらいの気安さでつい応じてしまう。いつも乱暴に叩いてきたりするから、女子だって意識持たずに付き合えて、大変楽だ。

―――と思ってたんだけれど。






**  **  **






休憩中に同じバスケ部員の地崎が、ボソリと呟いた。

「鴻池と森って、付き合ってるのか?……噂になってるぞ」

俺は非常に驚いて、すぐさまブンブンと首を横に振った。

「まさか!」

冗談じゃない。俺は中1の頃からねーちゃん一筋だ。
顔を青くして、大仰に首を振る。

何故こんなに慌てるのかって?
ねーちゃんを意識し始めた中1の時、隣のクラスの女子に告白された。すぐに断ったのに何故か巡り巡って中3のねーちゃんの耳に噂が入り、優しい笑顔で祝福されてしまった過去があるのだ。

恐ろしい……っ。
思い出すだけで悪寒が走る。
ねーちゃんの優しい言葉に『絶望』ってこんなに優しい声してるんだ……って戦慄したよ。
普段人付き合い無いくせに、なんだって耳に入って欲しく無い情報だけキャッチしてるんだよ~~とその夜自分の部屋でギリギリと歯噛みをした。―――そんな痛い過去を振り返って、更にキッパリと否定した。

「絶対、無いから!」

地崎は肩を竦めた。

「森はそうかもしれないけどさ、鴻池は違うんじゃないか?明らかに森の事、かまい過ぎに見える。鴻池人気あるから清美、恨まれてるぞ」
「殴られてばっかりだよ。……男子だと思われてないんだよ」
「まさかぁ……森みたいなイケメンでカッコイイ奴、意識しない女子なんているのかね」

地崎は裏表の無いイイ奴だ。思ったことは率直に言うので1年の部員の中で一番、皆に信頼を置かれている。
地崎がそう言ってくれるのは、正直嬉しい。
しかし同性から見て『カッコイイ』奴って、女から見ても同じように『カッコイイ』って認識されるのだろうか??だって女子が言う『可愛い子』って男子の目で見て打率2割って言うよね??(ヒドイ)



地崎に指摘されてから、鴻池の行動や台詞に妙に警戒心を抱いてしまうのだった。
地崎には「まさかぁ」と否定したものの意識してみると、確かに、鴻池が殴っているのって実は俺だけだった。
殴るの、止めて欲しんだけど……嬉しくないんだけど……これが好意だったら、ホントにヒドイと思う。鴻池ってドSなの?

しかし話し方は他の部員と平等なのに、妙に俺への接触が多いのは事実だ。
男だと思われて無い―――という説も捨てきれないが、万が一、という事もある。
それに鴻池にその気が無くても、地崎や他の奴に「付き合ってる」って思われるくらい親し気に見えるのなら、中1の悪夢再び。ねーちゃんにまた優しい笑顔で祝福されてしまったらと思うと……っ!

そんな噂だけ、ピンポイントでねーちゃんの耳に入りそうな気がする……いや、確実に入るに違いない!……ブルブル……ああ、フラッシュバックに体が勝手に震える。






**  **  **






「なにボーッっとして。練習無くなってやる事無いんじゃない?今日の帰り、ちょっと買い物に付き合ってよ」
「えっ!皆とカラオケ行かないのか?」
「……森も行くの?」

丸めたスコアブックを片手に腕を組み仁王立ちする鴻池は、すらりと背が高い。ミニバス時代から鍛えてきたというしなやかな筋肉に包まれたバランスの良い肢体に、小さな卵型の頭が乗っており、ポニーテールがゆらゆらと揺れていた。小学生の女子が遊びで使う金髪の人形(名前わかんない)のように目がくりくりと大きかった。

確かに地崎の言うように、可愛いかもしれない。

俺は日本人形のほうが、好みだけど……日本人形っていうか、ねーちゃんみたいな人が好きなんだけど……っていうか、ねーちゃんが好き…なんだけど。
って今はその話は関係ないか。

「行かないけど」
「じゃあ、一緒に買いもの行こうよ。今日スポーツ館で買い物すると抽選でルバンガ北海道のペア観戦チケットS席が当たるんだって。1人より2人の方が、確率高いでしょ?」
「え、本当?!」

……と、いかん、いかん。
食い付いてる場合じゃない。ルバンガ北海道は札幌を拠点とするプロバスケチームだ。チケットS席は垂涎ものだが、うっかり2人で買い物に出掛けたらそれこそ本格的に噂に拍車を掛けてしまう。
別に高校生の男女2人で買い物行ったって、友達同士の場合も多いと思う―――それに、きっとねーちゃんは何も気にしないだろう……きっと「仲良しだね」ってニコッと喜んでくれる筈……くっ、そんなショックもう二度と味わいたくない。



鴻池とは趣味が合い過ぎる。ねーちゃんも、鴻池の半分……いや5分の1……いや10分の1でも、俺の趣味に目を向けてくれたらなぁ……。

「ごめん、ちょっと姉貴の用事に付き合う約束しててさ…アハハ、困っちゃうよね。弟離れできない姉で」

って何気にねーちゃんから誘われているかのような、言い方をしてしまう。
勿論、これは願望だ。
そして、男のプライド。
俺ばっかり追っかけてるって悲しい現実見たくない―――って言ってる自分が既に情けねー!

実際は、メールで
『ねーちゃん、今ドコ??』
って送ったのに返事も無い状態。

多分ねーちゃんの事だから、スマホを鞄に入れっぱなしでチェックなんてしていない。電源入れてないっていう可能性もあるし、最悪家に忘れて来てもおかしく無い。……ねーちゃん、人付き合い少ないもんね……!「スマホの必要性感じ無い」って言ってたし。

「ふーん、そんなのほっとけば良いでしょ。お姉さんって3年生でしょ。もう高校生なんだから、姉とか弟とか一緒に動く必要ないじゃん」

鴻池が正義感からか、自分の要求を断られたからか、ムッとして言い放った。
やばい、見栄みえ……というか願望で、ねーちゃんの所為にしてしまったツケが。易々と突っ込まれてしまった。

ホント―は、ねーちゃんと帰りたいのは俺なんだよ~~。
ねーちゃんが俺を用事に付き合せるなんてコト、滅多に無いんだよ!「部活頑張んな~」って励ましてくれるんだ……良いねーちゃんなんだ、本当だよ!俺が寂しいって勝手に思っているだけで。

自分で堀った穴に自分で嵌る。いわゆる、墓穴。
泣きたくなってきた。

「と、とにかく……もう約束しちゃったから、悪いけど他の奴と行ってくれない?」

もう、頭を下げるしかない。
ホントーに、ゴメン!!と机の上に、大仰に頭を下げると、鴻池もしぶしぶ引き下がってくれた………ふー、もう疲れた。






**  **  **






スマホをチェックすると、相変わらず返信が無い。
だから、一目散にねーちゃんの教室に走った。

今日は絶対一緒に帰って、ねーちゃんと寄り道するんだ……!
そのために、鴻池に頭まで下げたんだよ!

まあ、自業自得だけど……。
「俺がねーちゃんと一緒に、どーしても帰りたいんだあっっ」
ってあの場で叫んでいれば、鴻池はきっと冷たい目で俺を見てから黙って引き下がってくれただろう。

……まだ、そこまでの勇気は出ない。

ねーちゃんには既に『シスコン』って認定されているけど。
本当は『どシスコン』です、救いようがないほどの。

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