俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
84 / 211
・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話

3.君と友達になりたい <高坂>

しおりを挟む
『ねーちゃん、試験終わった?今ドコ?』
「清美?うん、終わったよ。今S台の近くのスタバにいるの」
『ひとり?』
「ううん、高坂君と一緒」
『高坂先輩?』
「もう、帰るよ」
『……うん。駅まで迎えに行くよ』
「駅まで?わかった。ありがと」

ちなみに『 』は俺の想像。おそらく、そう間違ってはいないだろう。単純な清美が言いそうな事は、何となくわかる。

ピッ。

スマホの電源を落とした細い手首をそんな事を考えがら、呑気に見ていた。

―――筈なのに。
何故か思わずそれを掴んでいた。

俺はそんな自分に吃驚して。小さな白い手を掴んだ自分の手を見て―――それから晶ちゃんの顔に目線を移した。
晶ちゃんも同時に、自分の手を掴む俺の手を見て、それから問いかけるように顔を上げた。

またやってしまった。全くの無意識だった。

「え……と」

俺は無理矢理、言葉を探った。
ああ、そうだ。聞きたい事があったんだ。

「晶ちゃん、帰る前に連絡先交換しない?」
「えーと……何で?」
「あの……俺、晶ちゃんとずっと話したかったんだ。で、友達になって欲しい……」

『友達になって欲しい』なんて。

こんな台詞人生で初めて口にしたかも。ほとんど無意識に出てきた言葉に、自分で言っておいて軽く動揺してしまう。
真っ正直な自分が恥ずかし過ぎる。カッと全身が熱くなった。耳まで真っ赤になっているのを意識する。本当にどうしちゃったっていうんだ、俺は。

「あ、うん。わかった」

あっさり。
晶ちゃんは頷いた。

あれ?
断る口実じゃ無くて、本当に理由を聞きたかっただけ?

言外に滲み出る雰囲気で女子と会話をしてきた俺としては、晶ちゃんの行動の意味を推し量る事が出来なくて、主導権が握れない。
どうも、調子が狂うなぁ。

「でも、連絡先交換ってどうやるの?」
「アンドライド?アイファン?」
「アイファンじゃ、無い」
「じゃあ、アプリ起動して……貸してくれる?」
「へー、そうやってやるんだ」

興味深そうに覗き込む晶ちゃんに、俺は言った。

「理系のくせに」
「……人と連絡先交換する機会、ほとんどないから……」

既に入っている連絡先は親族関係以外数件で、全て相手が登録してくれたと言う。
表情は変わらないまでも、ほんのり恥ずかしそうな様子にホッとする。俺ばかり動揺させられている状態は、どうも落ち着かなかったから。

「はい、どうぞ」
「ありがと……あんまり高坂君が面白がるような話、できないと思うけどいいのかな?」
「晶ちゃん面白いよ。俺、今日何度笑いを噛み殺したか分からない」
「え?そんな事いつあったの?」

晶ちゃんはチョコンと首を傾げた。
俺はその様子に何故か喉を詰まらせる。しかし気を取り直して何でもないように続けた。

「あと…話し易い。それに晶ちゃんは―――信用できる人間だと思うんだ」
「あ、ありがと……」

俺が手放しで褒めると、晶ちゃんは居心地悪そうにほんのり頬を染めた。
また喉が詰まった感じがして、俺は喉元に手を当てる。
そこで妙な視線を感じた。通りに面したガラスを振り返ると不機嫌そうな顔をした整った顔の男が、探るように俺の顔を睨みつけていた。

「あ、清美」

どうやら待ちきれなくてここまで来てしまったらしい。
清美の余裕の無い態度を目にしたお蔭で、かえって俺は落ち着きを取り戻す事ができた。出入口から回り込んできた背の高いハーフモデルのような男を、椅子から降りて悠然と、微笑みを湛えて眺める事さえできた。

「ねーちゃん、遅いよ。高坂先輩……どういう事ですか?」
「別に?お話していただけだけど。ね?晶ちゃん」

親し気に彼女に微笑みかけると、余裕の無い男は微かに眉を顰めた。



あれだけ晶ちゃんに大事にされていて、贅沢な奴。



『可愛い』後輩がジリジリしているのを目にするとどうしようもなく楽しくなってしまう性質なので、この態度は明らかに逆効果だというのに。
その俺の性質を十分知っている筈の清美は、数秒俺の目をじっと見ていたが、やがて心を落ち着けるように溜息を吐いた。

「何を話していたんですか……?」

大股で歩き寄り俺の目の前に立ち塞がる清美は、いつも部活で先輩に対して見せる従順さの欠片も感じさせ無い。こいつが俺に対してこんな態度を取るのは初めてかもしれない。

しかし何を話していたかについては、絶対に言いたくない。
特に清美には。

「さあ、何だっけ?」

だからとぼけてニヤニヤ笑ってやった。
苦々しい顔で俺を見る可愛い後輩の余裕の無さに―――改めて自分のペースを取り戻す。
自分以外の人間が焦っているのを見ると、何故か逆に冷静になれるから不思議なものだ。

すると遙か頭の上で展開されていた空中戦を見守っていた晶ちゃんが、落ち着いた声音で仲裁に入った。

「……清美、帰ろ?ごめんね、ちょっと時間かかっちゃって。心配した?」
「……うん。」
「ちゃんと連絡すれば良かったね。スーパー寄って帰ろうか」

少し低い耳に優しい声で囁かれて、警戒心でピンと立っていた大型犬の耳が垂れるのが見えるようだった。
ちょっと不安そうに見下ろしながらも、清美は僅かに機嫌を上向かせたように見える。まるで周囲を警戒して唸っていたシェパードを、簡単に手なずける調教師のようだと思った。

「じゃ、高坂君またね。お互い試験まで頑張ろうね」
「ああ、また」

晶ちゃんが清美を促して大きな背を押しながら、俺に手を振る。清美は不承不承ぺこりと頭を下げた。



そんな2人に俺はニッコリと、持ちうる限り極上の笑顔で手を振ったのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...