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・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話
10.一緒に帰ろう <高坂>
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「この参考書、良かったから読んでみて?」
「ありがとう。これ『シュンク堂』で見て、ちょっと気になっていたんだ。でもいいの?」
「うん。もうだいたい頭に入ったから。もし良かったら、代わりに晶ちゃんがチェックした参考書、教えてくれると助かるな」
「あ…うん。じゃあ、もう目を通し終わった本持って来るね」
宣言通りに、情報交換に勤しむ俺。
どんな話題でも何故だか嬉しい。今彼女と一緒に居て言葉を交わすという事が―――俺の胸を微かに温めている。
一方晶ちゃんは。
相変わらず無表情を貫いていて、何を考えているか分からない。けれどもその口調は穏やかだ。彼女の唇から紡ぎだされる比較的低い声音は、まるで音階を奏でているように耳に心地好い。
スタバで見せてくれたような珍しい表情を再び目にできないだろうか?
と、無粋に彼女の表情を観察しているのだけど、ナカナカそれは崩れない。
あれが出るのは……もしかして甘い物を食べている時限定なのだろうか?
「晶ちゃんって、模試はほとんど網羅しているんだね」
実際情報交換を進めて行くと、彼女がほとんどの予備校の模試を網羅している事が判った。模試には予備校が厳選した問題が凝縮しているので、一番参考になると考えているらしい。
「うん、予備校も塾も行ってないから模試は受けられるだけ受けとこうと思っていて。情報収集も兼ねているつもり」
「俺も来年そうしよ」
「来年?」
「うん。ちょっと遊び過ぎた時期が長くて、現役合格は無理。だから一浪しようと思って」
「そうなの……?」
「再来年、晶ちゃんの後輩になる予定。……入学したら、晶ちゃんのこと『先輩』って呼ぼうかな?」
「高坂君みたいな大きくて立派な人に『先輩』なんて言われたら、きっと落ち着かないなあ……」
未来を想像して居心地悪そうにしている晶ちゃんを見ていて、ふと素朴な疑問が浮かんだ。
「清美は嫌がりそうだね。東京に行きたいなんて言ったら……反対されなかった?」
何となく、思い付いて口に出しただけだった。
だけど晶ちゃんから返ってくるべき返事が聞こえず、数秒沈黙が続いた。
「……」
ピタリと脚を止める気配がして、俺も歩みを留めた。
俺は晶ちゃんが俯いているのに気が付いて、膝を折って彼女の顔を覗き込む。
「晶ちゃん?」
何かを堪えているかのように、眉間に皺を寄せた晶ちゃんの顔。
そんな表情も、初めて見るものだった。
彼女の場合表情があること自体、稀少なのかもしれないけど……。
晶ちゃんは俺の声に我に還ったようだ。
息をのみ「何でも無い」と、どう見ても何か在りそうな素振りで首を振った。
何かあったな。
そう推測した俺は、切り出した。
「もう何冊か見せたい本があるんだけど、うち寄ってかない?」
俯いていた顔をキョトンと持ち上げ、晶ちゃんはやっと俺の目を見た。
「え?今日?」
「今日。……あ!もちろん、家には母親いるから2人きりって訳じゃないよ!」
「……」
「駅のすぐ傍のビルだから晶ちゃんちに近いし……」
晶ちゃんは考え込むように、ちょっと押し黙った。
そして何かを振り払うように改めて俺を仰ぎ見て頷いたのだった。
俺はスマホで蓉子さんに連絡を入れた。
これまで俺は、ほとんど男友達も女友達も家に連れて帰った事が無い。
蓉子さんの前に微妙な関係の女子を連れて行きたく無かった。万が一、蓉子さんにその女子との交際を応援されたら軽く死ねるし、俺以外の男の不躾な視線に蓉子さんを晒すなんて以ての外だった。
だから急に友達を連れて行くと彼女が驚くような気がして、事前に連絡を入れる事にした。
それに見た目にはまだ全く妊娠中には見えないが、現在身重である蓉子さんの負担になるのは避けたい。都合が悪いようなら次の機会に晶ちゃんを誘うか、必要なものを学校に持って来るよう方針変更するつもりだった。
『OK(´∀`*)もちろん大歓迎!ついでにお友達を夕飯にお誘いしたいな』
すぐにノリノリのメールが返って来た。
「……晶ちゃん、夕飯食べてかない?」
「え?そんな……突然悪いよ」
「うちの母親からのお誘いだから、大丈夫。滅多に友達連れてかないから張り切っているみたい」
「そっか……でも、清美が夕飯1人になっちゃうから」
うわ、過保護。
あらためて奴は大事にされてるなあ、と呆れる。……そして若干羨ましい。
「俺が清美に連絡しとくよ。高1の男だよ?1人でご飯くらい食べられるでしょ?」
「でも……」
「じゃあさ、清美が帰って来る前までに自宅に着くように送るよ。それなら、良い?」
「うん。それなら、大丈夫……あ、送らなくても大丈夫だよ、独りで帰れるし」
思案の結果を噛みしめるように、晶ちゃんは頷いた。
練習は毎日午後7時まで行われる。7時半までに彼女を家に送り届ければ、清美の帰宅までに十分間に合う筈だ。勿論暗くなってから女の子を独りで帰らせる気は無い。
俺はさっそく蓉子さんに連絡を入れた。打てば響くように返信が返って来て、招待客の食事の希望を尋ねられる。
晶ちゃんに確認すると特に食べたいものは無いが、好き嫌いが全く無いとの事。なので、夕飯のメニューは蓉子さんの判断に一任した。序でに彼女が甘い物好きだと、補足も忘れない。
晶ちゃんの無表情からは、憂いの感情は汲み取れない。
だけど清美の話題が出た時の微かな間から、以前の屈託の無い愛情表現と違う何かを、俺は感じとっていた。
一体何があったんだろう?
しかし俺には何となく予想が付いていた。
どーせ、あの我儘な弟が何か彼女を困らせるような事を……仕出かしたのだろうと。
「ありがとう。これ『シュンク堂』で見て、ちょっと気になっていたんだ。でもいいの?」
「うん。もうだいたい頭に入ったから。もし良かったら、代わりに晶ちゃんがチェックした参考書、教えてくれると助かるな」
「あ…うん。じゃあ、もう目を通し終わった本持って来るね」
宣言通りに、情報交換に勤しむ俺。
どんな話題でも何故だか嬉しい。今彼女と一緒に居て言葉を交わすという事が―――俺の胸を微かに温めている。
一方晶ちゃんは。
相変わらず無表情を貫いていて、何を考えているか分からない。けれどもその口調は穏やかだ。彼女の唇から紡ぎだされる比較的低い声音は、まるで音階を奏でているように耳に心地好い。
スタバで見せてくれたような珍しい表情を再び目にできないだろうか?
と、無粋に彼女の表情を観察しているのだけど、ナカナカそれは崩れない。
あれが出るのは……もしかして甘い物を食べている時限定なのだろうか?
「晶ちゃんって、模試はほとんど網羅しているんだね」
実際情報交換を進めて行くと、彼女がほとんどの予備校の模試を網羅している事が判った。模試には予備校が厳選した問題が凝縮しているので、一番参考になると考えているらしい。
「うん、予備校も塾も行ってないから模試は受けられるだけ受けとこうと思っていて。情報収集も兼ねているつもり」
「俺も来年そうしよ」
「来年?」
「うん。ちょっと遊び過ぎた時期が長くて、現役合格は無理。だから一浪しようと思って」
「そうなの……?」
「再来年、晶ちゃんの後輩になる予定。……入学したら、晶ちゃんのこと『先輩』って呼ぼうかな?」
「高坂君みたいな大きくて立派な人に『先輩』なんて言われたら、きっと落ち着かないなあ……」
未来を想像して居心地悪そうにしている晶ちゃんを見ていて、ふと素朴な疑問が浮かんだ。
「清美は嫌がりそうだね。東京に行きたいなんて言ったら……反対されなかった?」
何となく、思い付いて口に出しただけだった。
だけど晶ちゃんから返ってくるべき返事が聞こえず、数秒沈黙が続いた。
「……」
ピタリと脚を止める気配がして、俺も歩みを留めた。
俺は晶ちゃんが俯いているのに気が付いて、膝を折って彼女の顔を覗き込む。
「晶ちゃん?」
何かを堪えているかのように、眉間に皺を寄せた晶ちゃんの顔。
そんな表情も、初めて見るものだった。
彼女の場合表情があること自体、稀少なのかもしれないけど……。
晶ちゃんは俺の声に我に還ったようだ。
息をのみ「何でも無い」と、どう見ても何か在りそうな素振りで首を振った。
何かあったな。
そう推測した俺は、切り出した。
「もう何冊か見せたい本があるんだけど、うち寄ってかない?」
俯いていた顔をキョトンと持ち上げ、晶ちゃんはやっと俺の目を見た。
「え?今日?」
「今日。……あ!もちろん、家には母親いるから2人きりって訳じゃないよ!」
「……」
「駅のすぐ傍のビルだから晶ちゃんちに近いし……」
晶ちゃんは考え込むように、ちょっと押し黙った。
そして何かを振り払うように改めて俺を仰ぎ見て頷いたのだった。
俺はスマホで蓉子さんに連絡を入れた。
これまで俺は、ほとんど男友達も女友達も家に連れて帰った事が無い。
蓉子さんの前に微妙な関係の女子を連れて行きたく無かった。万が一、蓉子さんにその女子との交際を応援されたら軽く死ねるし、俺以外の男の不躾な視線に蓉子さんを晒すなんて以ての外だった。
だから急に友達を連れて行くと彼女が驚くような気がして、事前に連絡を入れる事にした。
それに見た目にはまだ全く妊娠中には見えないが、現在身重である蓉子さんの負担になるのは避けたい。都合が悪いようなら次の機会に晶ちゃんを誘うか、必要なものを学校に持って来るよう方針変更するつもりだった。
『OK(´∀`*)もちろん大歓迎!ついでにお友達を夕飯にお誘いしたいな』
すぐにノリノリのメールが返って来た。
「……晶ちゃん、夕飯食べてかない?」
「え?そんな……突然悪いよ」
「うちの母親からのお誘いだから、大丈夫。滅多に友達連れてかないから張り切っているみたい」
「そっか……でも、清美が夕飯1人になっちゃうから」
うわ、過保護。
あらためて奴は大事にされてるなあ、と呆れる。……そして若干羨ましい。
「俺が清美に連絡しとくよ。高1の男だよ?1人でご飯くらい食べられるでしょ?」
「でも……」
「じゃあさ、清美が帰って来る前までに自宅に着くように送るよ。それなら、良い?」
「うん。それなら、大丈夫……あ、送らなくても大丈夫だよ、独りで帰れるし」
思案の結果を噛みしめるように、晶ちゃんは頷いた。
練習は毎日午後7時まで行われる。7時半までに彼女を家に送り届ければ、清美の帰宅までに十分間に合う筈だ。勿論暗くなってから女の子を独りで帰らせる気は無い。
俺はさっそく蓉子さんに連絡を入れた。打てば響くように返信が返って来て、招待客の食事の希望を尋ねられる。
晶ちゃんに確認すると特に食べたいものは無いが、好き嫌いが全く無いとの事。なので、夕飯のメニューは蓉子さんの判断に一任した。序でに彼女が甘い物好きだと、補足も忘れない。
晶ちゃんの無表情からは、憂いの感情は汲み取れない。
だけど清美の話題が出た時の微かな間から、以前の屈託の無い愛情表現と違う何かを、俺は感じとっていた。
一体何があったんだろう?
しかし俺には何となく予想が付いていた。
どーせ、あの我儘な弟が何か彼女を困らせるような事を……仕出かしたのだろうと。
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