93 / 211
・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話
12.トンカツはふっくらとジューシー <高坂>
しおりを挟む
さくっ
揚げたてのトンカツに歯を立てると、小気味良い音が顎を伝って耳に響いた。
じゅわっ
続いて染みだした熱い肉汁が、口の中に拡がる。
「おいしいっ……!」
思わずと言ったように晶ちゃんの口をついて出た賞賛の言葉に、蓉子さんは頬を緩ませた。
「わぁー、周りはサクッとしているのにお肉がふっくらと柔らかくてジューシーで……すごーく美味しいです。わたしが作るのと全然違う……」
「ふふふ……ありがとう。冷たい油から揚げるのが、柔らかくするコツなの」
「え?トンカツを冷たい油で……?」
蓉子さんが楽しそうに種明かしをして見せると、晶ちゃんがその話題に食いついた。受験生のため最近は頻度を控えているが、晶ちゃんは毎日の食事や弁当を作っているそうで、料理の工夫については一家言あるらしい。
話が弾んで何よりだ。人見知りしそうな晶ちゃんが蓉子さんと打ち解けてくれているようで、嬉しい。
「晶ちゃんは、蓮君と同級生なの?」
「いえ、学年は一緒だけど、クラスは違います」
「蓮君とは何が切っ掛けで仲良くなったの?」
「えーと……」
「晶ちゃんの弟が俺のバスケ部の後輩なんだ。だから、試合観戦とかによく来ていたよね。あと、受験校が一緒だから模試で一緒になって……ね?」
応えあぐねる晶ちゃんの台詞を、引き継いで説明する。
実際は俺が『友達になって欲しい』と申し込んだのだのが理由だけれど、それを言ったら蓉子さんが際限なく盛り上がってしまうような気がした。
晶ちゃんは、コクリと俺の台詞に頷いて同意を示してくれた。
「じゃあ、晶ちゃんもT大目指しているの?」
「あ、はい」
「スゴイのねー」
「いえ、まだ受験してもいませんから」
「晶ちゃんは、受かるでしょ?うちの高校にいるの不思議なくらいだもんね」
「こんなに可愛らしいのに、頭も良いのねえ」
蓉子さんが感心したように晶ちゃんを眺める。晶ちゃんは首を振って否定の意を何とか示し、居心地悪そうに身を竦めた。ちょっと頬が上気している。
相手を手放しで褒めるのは、蓉子さんの長所ではあるが……褒められる本人は羞恥心で居場所が無いくらい照れてしまうこともある。彼女は幼い俺に対しても、裏心無い賞賛を与えてくれた。そのお蔭で俺は、何度も精神的な窮地を救われた経験がある。
けれども恥ずかしいものは、恥ずかしいだろう。晶ちゃんの心の内を思って俺はつい苦笑してしまった。
「晶ちゃん、蓮君って学校ではどんな感じかな?」
「えーと?」
余裕をかまして面白がっていたら、突然話題が変わって自分に火の粉が降り掛かって来た。
「蓉子さん」
「彼女とか、いないのかな?親バカかもしれないけれど、すごくモテると思うんだ。蓮君は恥ずかしがってそういうこと、全然教えてくれないから」
思わず咎めるような声を出したが、彼女は平気な顔で聞き流した。
「彼女……は分からないですけど、モテているとは……思います」
「やっぱり!そうだと思ったんだー。じゃあ、……」
「晶ちゃん、もうすぐ7時だよ。清美帰って来るから、そろそろ……」
俺が慌てて割り込むと、晶ちゃんもホッとして表情を緩めた。
料理の話は彼女の興味を引いたようだが、人間関係の話題や噂話は苦手らしい。
蓉子さんも食い下がる気は無いらしく、あっさりと引いてくれた。
「もうそんな時間?晶ちゃんトンカツ、持って行かない?弟さんの分も」
「そこまでお世話になる訳には……」
遠慮する晶ちゃんに、蓉子さんは微笑んだ。
「いっぱい揚げたから、ね?その日のうちに食べた方が美味しいし」
「蓉子さんが清美にも食べさせたいんでしょ。今日、すごく美味しく出来たもんね」
俺がフォローすると、晶ちゃんは遠慮がちに頷いた。
「じゃあ、いま包むからちょっと待っていて。あ、苺大福あるの!食べてかない?」
「あ、はい……いただきます」
今度は即答する晶ちゃん。蓉子さんは、おやっという表情をして後、破顔した。
晶ちゃんはやはり……甘い物に関しては素直になってしまう体質らしい。
「蓮君、お茶と冷蔵庫の苺大福だしてくれない?私、トンカツお土産に包むから」
「はいはい、りょーかいです」
「『はい』は、1回」
「……はーい」
蓉子さんの命を受けてお茶と苺大福を振舞うと、それまでほとんど表情の浮かばなかった晶ちゃんの顔が、ほんのりとした笑顔に描き換わっていた。
「どうぞ。食べたら送るよ」
「ありがとう」
ニッコリと微笑む彼女の顔を、やはりじろじろと眺めてしまう。しかしそんな不躾な視線も既に視界には入っていないようで、彼女は嬉しそうに苺大福に齧り付いたのだった。
揚げたてのトンカツに歯を立てると、小気味良い音が顎を伝って耳に響いた。
じゅわっ
続いて染みだした熱い肉汁が、口の中に拡がる。
「おいしいっ……!」
思わずと言ったように晶ちゃんの口をついて出た賞賛の言葉に、蓉子さんは頬を緩ませた。
「わぁー、周りはサクッとしているのにお肉がふっくらと柔らかくてジューシーで……すごーく美味しいです。わたしが作るのと全然違う……」
「ふふふ……ありがとう。冷たい油から揚げるのが、柔らかくするコツなの」
「え?トンカツを冷たい油で……?」
蓉子さんが楽しそうに種明かしをして見せると、晶ちゃんがその話題に食いついた。受験生のため最近は頻度を控えているが、晶ちゃんは毎日の食事や弁当を作っているそうで、料理の工夫については一家言あるらしい。
話が弾んで何よりだ。人見知りしそうな晶ちゃんが蓉子さんと打ち解けてくれているようで、嬉しい。
「晶ちゃんは、蓮君と同級生なの?」
「いえ、学年は一緒だけど、クラスは違います」
「蓮君とは何が切っ掛けで仲良くなったの?」
「えーと……」
「晶ちゃんの弟が俺のバスケ部の後輩なんだ。だから、試合観戦とかによく来ていたよね。あと、受験校が一緒だから模試で一緒になって……ね?」
応えあぐねる晶ちゃんの台詞を、引き継いで説明する。
実際は俺が『友達になって欲しい』と申し込んだのだのが理由だけれど、それを言ったら蓉子さんが際限なく盛り上がってしまうような気がした。
晶ちゃんは、コクリと俺の台詞に頷いて同意を示してくれた。
「じゃあ、晶ちゃんもT大目指しているの?」
「あ、はい」
「スゴイのねー」
「いえ、まだ受験してもいませんから」
「晶ちゃんは、受かるでしょ?うちの高校にいるの不思議なくらいだもんね」
「こんなに可愛らしいのに、頭も良いのねえ」
蓉子さんが感心したように晶ちゃんを眺める。晶ちゃんは首を振って否定の意を何とか示し、居心地悪そうに身を竦めた。ちょっと頬が上気している。
相手を手放しで褒めるのは、蓉子さんの長所ではあるが……褒められる本人は羞恥心で居場所が無いくらい照れてしまうこともある。彼女は幼い俺に対しても、裏心無い賞賛を与えてくれた。そのお蔭で俺は、何度も精神的な窮地を救われた経験がある。
けれども恥ずかしいものは、恥ずかしいだろう。晶ちゃんの心の内を思って俺はつい苦笑してしまった。
「晶ちゃん、蓮君って学校ではどんな感じかな?」
「えーと?」
余裕をかまして面白がっていたら、突然話題が変わって自分に火の粉が降り掛かって来た。
「蓉子さん」
「彼女とか、いないのかな?親バカかもしれないけれど、すごくモテると思うんだ。蓮君は恥ずかしがってそういうこと、全然教えてくれないから」
思わず咎めるような声を出したが、彼女は平気な顔で聞き流した。
「彼女……は分からないですけど、モテているとは……思います」
「やっぱり!そうだと思ったんだー。じゃあ、……」
「晶ちゃん、もうすぐ7時だよ。清美帰って来るから、そろそろ……」
俺が慌てて割り込むと、晶ちゃんもホッとして表情を緩めた。
料理の話は彼女の興味を引いたようだが、人間関係の話題や噂話は苦手らしい。
蓉子さんも食い下がる気は無いらしく、あっさりと引いてくれた。
「もうそんな時間?晶ちゃんトンカツ、持って行かない?弟さんの分も」
「そこまでお世話になる訳には……」
遠慮する晶ちゃんに、蓉子さんは微笑んだ。
「いっぱい揚げたから、ね?その日のうちに食べた方が美味しいし」
「蓉子さんが清美にも食べさせたいんでしょ。今日、すごく美味しく出来たもんね」
俺がフォローすると、晶ちゃんは遠慮がちに頷いた。
「じゃあ、いま包むからちょっと待っていて。あ、苺大福あるの!食べてかない?」
「あ、はい……いただきます」
今度は即答する晶ちゃん。蓉子さんは、おやっという表情をして後、破顔した。
晶ちゃんはやはり……甘い物に関しては素直になってしまう体質らしい。
「蓮君、お茶と冷蔵庫の苺大福だしてくれない?私、トンカツお土産に包むから」
「はいはい、りょーかいです」
「『はい』は、1回」
「……はーい」
蓉子さんの命を受けてお茶と苺大福を振舞うと、それまでほとんど表情の浮かばなかった晶ちゃんの顔が、ほんのりとした笑顔に描き換わっていた。
「どうぞ。食べたら送るよ」
「ありがとう」
ニッコリと微笑む彼女の顔を、やはりじろじろと眺めてしまう。しかしそんな不躾な視線も既に視界には入っていないようで、彼女は嬉しそうに苺大福に齧り付いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
英雄の番が名乗るまで
長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。
大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。
※小説家になろうにも投稿
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編9が完結しました!(2026.3.6)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる