俺のねーちゃんは人見知りがはげしい

ねがえり太郎

文字の大きさ
96 / 211
・後日談・ 俺とねーちゃんのその後の話

15.子供の嫉妬 <清美>

しおりを挟む

「鴻池……?」
「……森」

隣の席を取っていたのは、鴻池だった。
久し振りの距離感に、固まってしまう。
ちょうど俺を挟んで鴻池の逆隣に座っていた地崎が、ヒョイッと首を伸ばして鴻池を確認した。

「鴻池も観戦?1人?」

地崎がニッコリ笑って声を掛ける。俺と鴻池の間のぎこちない空気をほぐすような朗らかさだった。

「……うん」

鴻池が控えめに頷く。

そういえば、鴻池の趣味が試合観戦だと以前聞いた事がある。ここに1人で来るというのも、何だか彼女らしい。友達がいない訳では無いと思うが、つるまず単独行動するのも不自然じゃない雰囲気がある。
以前彼女が倉庫で黙々とボール磨きをしていた事を思い出す。好きでやっているのだと言ってその時も誰にも言わず、1人で作業をしていた。

「健君?……誰?」

地崎の向こうから、服を引っ張り確認する小さな声がした。

「……バスケ部のマネージャーの鴻池。理留、挨拶して」

理留ちゃんはジィッと地崎の向こう側から鴻池を見た。鴻池が「こんにちは」と声を掛けると、硬い表情で沈黙した。

「理留」

地崎が咎めるように言って、鴻池に「幼馴染の立花理留っていうんだ。ゴメンね、コイツまだ子供で」とフォローすると、理留ちゃんは「子供じゃないっ」と低い声で抗議してそっぽを向いた。

「鴻池……すまん」

地崎が代わりに謝ると、鴻池は「大丈夫」と首を振った。

「もしかして、モデルさんやっている?『ポロッコ』で見た事ある気がする」

『ポロッコ』とは、札幌で売れているタウン誌だ。ファッションやカフェ、雑貨などの情報が掲載されていて、地元で作っている雑誌にしては結構良く売れている。どうやら彼女のモデルのバイトというのはかなり本格的らしい。

「うん、そうだよ―――こら、理留。俺の部活仲間に失礼な態度、取るな」
「……」

そっぽを向き続ける、理留ちゃん。

彼女はヤキモチを焼いているのかもしれない。

地崎は誰にでも、それこそ男女の別無く気さくに接する。理留ちゃんのように完璧に装った美少女とはテイストは違うが、サラリとしたポニーテールを揺らす鴻池の清々しい容貌は、そのさっぱりとした気性に似合って男どもの目を惹きつける魅力を十分に持っている。

きっと理留ちゃんの内心は、警戒心で一杯なのだろう。
なんだかその必死さがつい先日高坂先輩に敵意を向けた自分に重なって―――背筋がムズムズした。

地崎の理留ちゃんに対する、ゾンザイというか遠慮のない態度も少し問題かもしれない。
やっと中学生になったばかりの理留ちゃんにとっては、自分に対する対応に比べ、他の女子に対する普通の対応が、随分優しいものに映るのだろう。

―――正直俺の目には、いちゃついてるようにしか見えないけどね。
地崎の理留ちゃんを構う様子がツンデレというか……甘くて胸やけしそうだ。
誰にでもキチンと対応する地崎だからこそ余計、好きな相手にちょっと意地悪に、遠慮なく振舞っているのが、新鮮で―――特別なものに見える。

しかし去年まで小学生だった理留ちゃんには、その辺りの微妙な男心を察する芸当は難しいのだろう……精巧に作り込んだ見た目の所為で大人びて見えるけれども。

そう考えるとこの見た目も……地崎に追いつこうと必死になった結果に思えてくるな。
少し痛々しいというか、面映おもはゆいような気がする。

それは必死な様子の彼女が自分に重なって見える―――からかもしれない。



ねーちゃんは俺の事、どんな目で見ているのかな?



好きでいてくれるのは、判っている。
でも俺を包み込むように見守っているその目線は、どちらかというと年上の『姉』目線のままなのじゃないだろうか……?

だからいつも気持ちを爆発させたり拗らせたりしている俺の気持ちが落ち着くのを―――慌てず待っていられるのか?

そうして毎回何だかんだ言って受け入れてくれていた―――これまでは。

……それって結局、やっぱりねーちゃんにとって俺は単なる『弟』でしか無いって事じゃないか?
俺は未だに子供のように大事にされているだけなのか……?

……こんな状態だから、頼りにならない年下の『家族』のままだから―――ねーちゃんは俺と離れると判っていても、あれほど落ち着き払っているのかもしれない。



際限無く暗い思考に捕らわれて、身動きが出来なくなりそうだった。



ピィーッ



考えに沈み込む俺の耳に、ゲーム開始の笛が響いた。

センターサークルでジャンプした選手が、互いに精一杯伸ばした腕でバスケットボールを追う。
競り負けた選手の空を切る腕が、スローモーションのように見えた。



まるで俺みたいだ。足掻いても足掻いても、欲しい物に手が届かない。



俺は瞼を伏せて、詰めていた息をそっと吐き出した……。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編9が完結しました!(2026.3.6)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

さよなら、私の初恋の人

キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。 破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。 出会いは10歳。 世話係に任命されたのも10歳。 それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。 そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。 だけどいつまでも子供のままではいられない。 ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。 いつもながらの完全ご都合主義。 作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。 直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。 ※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』 誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。 小説家になろうさんでも時差投稿します。

処理中です...