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新妻・卯月の仙台暮らし
4.うさぎ専門店に行きます。
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さてさて、スマホのマップを頼りにやって参りました!
ふむ、この小さい路地を入るんだよね。この辺りは一本入ると何の変哲もない住宅街なんだよなぁ。本当にこんな所にうさぎのお店が……?
あ。
「あったぁ……!」
それはマンションの一階にある、小さなお店だった。一部ガラス張りになっている所から、日除けのカーテンと陽の光の反射に阻まれて少し見えづらくはなっているけれども、確かにうさぎのケージらしきものが並んでいるのが窺える。うん、間違いなくここにはうさぎがいる……!私はコクリと一人頷いて、入口の取っ手を掴んだ。意を決してゆっくり扉を開けて、一歩中に入る。
外観から予想した通り、やはり店舗内はこじんまりとしている。ワイヤーシェルフの棚に並んでいる六つのケージにうさぎが一匹ずつ入っていて、他の棚は全て商品が並んでいた。真ん中には独立したテーブルがあって、見覚えのあるパパイヤ酵素やちょっと変わった形の爪切りなど、便利そうなうさぎグッズが陳列されている。
だけど―――これって営業中……なんだよね?だって扉、開いていたし。でも人がいない。隅にレジがあるからたぶん、ちゃんとお店なんだろうけど……あれ?これってひょっとしてまだ準備中だったりするのかな?
急にソワソワと不安が込み上げて来て、思わずガラス扉を押して外に出る。少し離れて外から扉をもう一度眺めてみる―――うん『ОPEN』って木の札が掛かっている。やっぱり営業中だ。だけど店員さん……何処に居るんだろう。お店の中には隠れる場所など見当たらなかったハズ。うーむむむむ。
商品が無防備な状態のお店に断りを入れずに入るのは何となく憚られる。腕組みをしてそのまま外からお店を眺めて、時がとまってしまう。そこで良く響く大きな声が耳に飛び込んで来た。
「あ!!お客さんかな?」
振り向くとお店の隣の扉から、体の大きな男の人が飛び出して来た。それから大股でドスドスとこちらに近づいて来る。顎にうっすら髭を生やし、チェックのネルシャツを着た山男風の出で立ちの人だ。エプロンに『うさぎひろば』って書いてあるから、やっぱりお店の人なんだろう。
「あ、はい」
私が頷くと、山男さんは謝りつつも豪快に笑った。
「すみませんね!ハハハ!今ちょっとこっちで作業していて!」
テノール歌手みたいによく拡がる、お腹に響くような笑い声だ。
「こちらは初めてですか?」
「あ、はい。その、牧草とか餌を見に……」
「そうですか!いや、そーか!あの実は私、ちょっとこれから配達がありましてね」
そうか、その準備で少しお店を離れていたのか。じゃあ、今日はもう閉めちゃうところだったのか。ここまで来て残念だけど―――
「じゃあ、また来ますね」
「あ!いや、待った!!」
その大声にビックリしてしまう。路地を戻ろうとした私を歌舞伎みたいな大仰なアクションで制した山男さんは、咄嗟に出た大声を恥じるように声のトーンを落として言い直した。
「いえ、待ってください。もう一人店員はおりますので!今呼んで来ますのでお店に入っていて下さい」
山男さんは大きな手で扉を開けた。「どーぞどーぞ!」と満面の笑みで促してくれたので、遠慮なく再びお店に上がらせて貰う事にする。そんな私を満足気に見て、ニコニコと営業スマイルを保ったまま彼はチェシャ猫のように笑顔の余韻だけを残し後退りで退場した。それからガラスの向こうをさっき出て来た隣の扉の方へ、大股で歩いて行く。直ぐに微かに誰かに指示をするようなくぐもった声が響いて来た。すごいな~……あの声量。もしかして学生の時、合唱部とか演劇部だったんじゃないだろうか、なんて想像を逞しくしてしまう。
しかしすぐさま私はそんな想像を頭の隅に追いやって、一目散にケージの元に飛び付いたのだった……!これもあくまで頭の中のイメージね!うさぎさん達を驚かせたら悪いので、実際はゆっくり近づいたのだけれど、気持ちの上ではまさに『一目散!』ってイメージだ。
「うわぁぁぁ……」
思わず恍惚とした溜息が漏れる。
「ああ、これ!これよぉお……私が求めていたのは……!」
涎を垂らさんばかりに、うさぎ達のケージを次々と鼻息荒く覗き込む怪し過ぎる人間……それは私です。
「うわぁ、君!いい毛皮してるねぇ……」
一番上の棚、目線近くのケージにはうす茶色のネザーランドドワーフ。まだ子うさぎなのかな?如何にも柔らかそ~なポワポワした毛並みだ。それともネザーは成兎でもこの大きさなのかな?ミニレッキス(仮)のうータンは、ミニとは言ってもうさぎの中では小振りなネザーランドドワーフよりは大きい筈だ。普段うータン一筋の私はあまりペットショップで浮気心を出さずに過ごしていたので、いまいちネザーランドドワーフの普通の大きさを正確に把握できていない。それこそ最近はネットで色んなタイプのうさぎを舐めるように見ているのだけれど、小さな画面だと現実の大きさがつかめないんだよね。
「それに君の耳はなんて小さいんだろう?こんなに小さくて、音が拾えてるの?あんまり拾えなかったら、もし野原で暮らしていたら鷹とか鷲にすぐ捕まっちゃうよ?危ないよ?」
なーんて私が話しかけると、彼(ケージに『ネザーランド・オス』の札が付いていた)は『Y』の字に見える鼻をヒクヒクとと動かして、こちらに関心を向けて来た……!うんうん、健やかに育っているねぇ……好奇心があるって言うのは心と体が健康だからだよ?
「はぁ、かわい……」
思わず溜息と共に、言葉が漏れる。
その時カサリ、と微かな音がして。私はギクッと肩を震わせた。
あれ?あれあれ?この音……も、もしかして。
口を噤み、おそるおそるちょっとだけ振り返る。すると割とすぐ近い距離に、商品を陳列したテーブルの横にボーッと立っている人影が。ドキン!と心臓が縮まった。
「ひゃっ……」
思わず叫び声を上げそうになって、自分の口を両手で塞ぐ。
咄嗟に思ったのだ。うさぎさん達を驚かせてはいけない……!と。
「あ!あああああの、あのあの!」
慌てて、顔の前で両手をブンブンと振る、小さな女の子。いや―――『女の人』か??
大きな黒縁眼鏡に、真っ黒で真っすぐな長い髪。前髪が眼鏡に掛かるくらい長くって眼鏡の奥の瞳はよく捕えきれない。その声は先ほどの大きな声の山男さんに比べて、随分小さくて擦れている。まるであまり声を出し慣れていない人のように見える。
目の前の相手が動揺すればするほど、落ち着きを取り戻すのも早い。よくよく見ると、サイズ感は大分違うけれども、さっきの人と同じ『うさぎひろば』と書かれたエプロンを付けている。そうか―――この人が『もう一人の店員さん』ってことなのね?
「あの、あの……」
「……」
何故かこちらを向いている店員さんの視線が定まらない。だから戸惑ってしまうけれども、取りあえずジッと我慢して相手の言葉を待ってみることにした。そして、彼女の消え入るような小さな声に、耳を澄ませる。
「あ、の―――い、いらっしゃいませ……」
その途端、ハーっと私の肩の力が抜けた。どうやら彼女の緊張が私にうつってしまっていたらしい。彼女が絞り出すように言った『いらっしゃいませ』を漸く聞き取る事が出来た私はつい、気が抜けたようにこう言ってしまった。
「はい、いらっしゃいました」
その後、何だかおかしくなってプッと思わず噴き出してしまう。すると目の前の彼女は―――ホっと息を吐いて……反射的にニッコリと笑顔を見せてくれたのだった。
ふむ、この小さい路地を入るんだよね。この辺りは一本入ると何の変哲もない住宅街なんだよなぁ。本当にこんな所にうさぎのお店が……?
あ。
「あったぁ……!」
それはマンションの一階にある、小さなお店だった。一部ガラス張りになっている所から、日除けのカーテンと陽の光の反射に阻まれて少し見えづらくはなっているけれども、確かにうさぎのケージらしきものが並んでいるのが窺える。うん、間違いなくここにはうさぎがいる……!私はコクリと一人頷いて、入口の取っ手を掴んだ。意を決してゆっくり扉を開けて、一歩中に入る。
外観から予想した通り、やはり店舗内はこじんまりとしている。ワイヤーシェルフの棚に並んでいる六つのケージにうさぎが一匹ずつ入っていて、他の棚は全て商品が並んでいた。真ん中には独立したテーブルがあって、見覚えのあるパパイヤ酵素やちょっと変わった形の爪切りなど、便利そうなうさぎグッズが陳列されている。
だけど―――これって営業中……なんだよね?だって扉、開いていたし。でも人がいない。隅にレジがあるからたぶん、ちゃんとお店なんだろうけど……あれ?これってひょっとしてまだ準備中だったりするのかな?
急にソワソワと不安が込み上げて来て、思わずガラス扉を押して外に出る。少し離れて外から扉をもう一度眺めてみる―――うん『ОPEN』って木の札が掛かっている。やっぱり営業中だ。だけど店員さん……何処に居るんだろう。お店の中には隠れる場所など見当たらなかったハズ。うーむむむむ。
商品が無防備な状態のお店に断りを入れずに入るのは何となく憚られる。腕組みをしてそのまま外からお店を眺めて、時がとまってしまう。そこで良く響く大きな声が耳に飛び込んで来た。
「あ!!お客さんかな?」
振り向くとお店の隣の扉から、体の大きな男の人が飛び出して来た。それから大股でドスドスとこちらに近づいて来る。顎にうっすら髭を生やし、チェックのネルシャツを着た山男風の出で立ちの人だ。エプロンに『うさぎひろば』って書いてあるから、やっぱりお店の人なんだろう。
「あ、はい」
私が頷くと、山男さんは謝りつつも豪快に笑った。
「すみませんね!ハハハ!今ちょっとこっちで作業していて!」
テノール歌手みたいによく拡がる、お腹に響くような笑い声だ。
「こちらは初めてですか?」
「あ、はい。その、牧草とか餌を見に……」
「そうですか!いや、そーか!あの実は私、ちょっとこれから配達がありましてね」
そうか、その準備で少しお店を離れていたのか。じゃあ、今日はもう閉めちゃうところだったのか。ここまで来て残念だけど―――
「じゃあ、また来ますね」
「あ!いや、待った!!」
その大声にビックリしてしまう。路地を戻ろうとした私を歌舞伎みたいな大仰なアクションで制した山男さんは、咄嗟に出た大声を恥じるように声のトーンを落として言い直した。
「いえ、待ってください。もう一人店員はおりますので!今呼んで来ますのでお店に入っていて下さい」
山男さんは大きな手で扉を開けた。「どーぞどーぞ!」と満面の笑みで促してくれたので、遠慮なく再びお店に上がらせて貰う事にする。そんな私を満足気に見て、ニコニコと営業スマイルを保ったまま彼はチェシャ猫のように笑顔の余韻だけを残し後退りで退場した。それからガラスの向こうをさっき出て来た隣の扉の方へ、大股で歩いて行く。直ぐに微かに誰かに指示をするようなくぐもった声が響いて来た。すごいな~……あの声量。もしかして学生の時、合唱部とか演劇部だったんじゃないだろうか、なんて想像を逞しくしてしまう。
しかしすぐさま私はそんな想像を頭の隅に追いやって、一目散にケージの元に飛び付いたのだった……!これもあくまで頭の中のイメージね!うさぎさん達を驚かせたら悪いので、実際はゆっくり近づいたのだけれど、気持ちの上ではまさに『一目散!』ってイメージだ。
「うわぁぁぁ……」
思わず恍惚とした溜息が漏れる。
「ああ、これ!これよぉお……私が求めていたのは……!」
涎を垂らさんばかりに、うさぎ達のケージを次々と鼻息荒く覗き込む怪し過ぎる人間……それは私です。
「うわぁ、君!いい毛皮してるねぇ……」
一番上の棚、目線近くのケージにはうす茶色のネザーランドドワーフ。まだ子うさぎなのかな?如何にも柔らかそ~なポワポワした毛並みだ。それともネザーは成兎でもこの大きさなのかな?ミニレッキス(仮)のうータンは、ミニとは言ってもうさぎの中では小振りなネザーランドドワーフよりは大きい筈だ。普段うータン一筋の私はあまりペットショップで浮気心を出さずに過ごしていたので、いまいちネザーランドドワーフの普通の大きさを正確に把握できていない。それこそ最近はネットで色んなタイプのうさぎを舐めるように見ているのだけれど、小さな画面だと現実の大きさがつかめないんだよね。
「それに君の耳はなんて小さいんだろう?こんなに小さくて、音が拾えてるの?あんまり拾えなかったら、もし野原で暮らしていたら鷹とか鷲にすぐ捕まっちゃうよ?危ないよ?」
なーんて私が話しかけると、彼(ケージに『ネザーランド・オス』の札が付いていた)は『Y』の字に見える鼻をヒクヒクとと動かして、こちらに関心を向けて来た……!うんうん、健やかに育っているねぇ……好奇心があるって言うのは心と体が健康だからだよ?
「はぁ、かわい……」
思わず溜息と共に、言葉が漏れる。
その時カサリ、と微かな音がして。私はギクッと肩を震わせた。
あれ?あれあれ?この音……も、もしかして。
口を噤み、おそるおそるちょっとだけ振り返る。すると割とすぐ近い距離に、商品を陳列したテーブルの横にボーッと立っている人影が。ドキン!と心臓が縮まった。
「ひゃっ……」
思わず叫び声を上げそうになって、自分の口を両手で塞ぐ。
咄嗟に思ったのだ。うさぎさん達を驚かせてはいけない……!と。
「あ!あああああの、あのあの!」
慌てて、顔の前で両手をブンブンと振る、小さな女の子。いや―――『女の人』か??
大きな黒縁眼鏡に、真っ黒で真っすぐな長い髪。前髪が眼鏡に掛かるくらい長くって眼鏡の奥の瞳はよく捕えきれない。その声は先ほどの大きな声の山男さんに比べて、随分小さくて擦れている。まるであまり声を出し慣れていない人のように見える。
目の前の相手が動揺すればするほど、落ち着きを取り戻すのも早い。よくよく見ると、サイズ感は大分違うけれども、さっきの人と同じ『うさぎひろば』と書かれたエプロンを付けている。そうか―――この人が『もう一人の店員さん』ってことなのね?
「あの、あの……」
「……」
何故かこちらを向いている店員さんの視線が定まらない。だから戸惑ってしまうけれども、取りあえずジッと我慢して相手の言葉を待ってみることにした。そして、彼女の消え入るような小さな声に、耳を澄ませる。
「あ、の―――い、いらっしゃいませ……」
その途端、ハーっと私の肩の力が抜けた。どうやら彼女の緊張が私にうつってしまっていたらしい。彼女が絞り出すように言った『いらっしゃいませ』を漸く聞き取る事が出来た私はつい、気が抜けたようにこう言ってしまった。
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その後、何だかおかしくなってプッと思わず噴き出してしまう。すると目の前の彼女は―――ホっと息を吐いて……反射的にニッコリと笑顔を見せてくれたのだった。
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