捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
227 / 375
番外編・うさぎのきもち

30.『初めてのうさぎのお世話②』

しおりを挟む
 伊都さんの挙動不審な態度にどうやら免疫が付いてしまったらしい。脱兎のごとく走り去った車を見送った俺は何だかおかしくなって、またしても笑ってしまった。
 そのお陰でさっきまで感じていたうすら寒いような寂しさも吹き飛んで、足取り軽く自分のアパートに戻ると、ケージの中に納まったままのヨツバがペロペロと体を舐めて毛繕いをしていた。

「なんだ、結構落ち着いているな」

 ベッド下に戻りたくて暴れているかもしれない、なんて心配も残っていたからホッとした。その様子をこれまでより余裕を持って眺めながらソファに腰掛け、改めて伊都さんから受け取ったリーフレットを広げてみる。



『< 初めてのうさぎのお世話② >

 うさぎとの付き合い方

〇まず、うさぎの気持ちを想像してみてください。

〇ペットうさぎの祖先はアナウサギです。地中に穴を掘って様々な肉食動物の脅威から身を守って来た草食動物。警戒心の強い生き物ですので、大きな音を立てたり急に手を出すのは厳禁!本能的に恐怖を感じて噛みついたり、パニックになる子も多いです。

〇お迎えしたら初日はケージに布などを掛けてそっとしておきます。新しい環境に慣れるまで、触ったりするのは我慢。2~3日経ったら話しかけたり、手渡しで牧草を上げてみて。4~5日経ってケージで落ち着いているようなら、部屋に出してみます。

〇…… 』



 そこまで読んで俺は顔を上げた。

「マジか」

 俺は自分の行動を振り返り、再び頭を抱えたくなった。みのりの手紙によってヨツバの存在を初めてハッキリと認識した日、無遠慮に近づき指を伸ばして噛まれたこと。それからヨツバを捕まえようとしてソファ下に手を伸ばして、ガリっと……おそらく爪か何かで引っ掻かれたことを。かなり痛かったから、あれは後足で蹴られたのかもしれない。後で見たら、みみずばれになっていたっけ。

 大人しい見た目の割に乱暴なヤツだと、その時は苛立っていた。
 だけどそれまでほとんど接触の無い、見慣れない生き物がいきなり近づいて来たり手を伸ばして来たら―――恐怖心を抱くのは、当り前の事なのかもしれない。



『まず、うさぎの気持ちを想像してみてください』



 最初に刻まれた注意事項の一文が、胸に刺さった。
 このリーフレットを作った人間に、いろいろ見透かされているような気がする。

 俺は一旦、テーブルの上にリーフレットを置こうとして……そこに放置されたままの、みのりの手紙を見つめた。流石に文面を開いたままにはしていない。亀田夫妻が部屋に入る前に折りたたみ、封筒の中に戻したのだ。

「『まず、彼女・・の気持ちを想像してみてください』……なんてな」

 俺はリーフレットをテーブルに置き自嘲気味に呟いて立ち上がると、熱心に顔を洗うヨツバのケージに近付いた。今度は驚かせないよう、ゆっくりと。
 そしてしゃがみ込み……少し距離のあるところからヨツバの毛繕いを眺めた。

 ゴシゴシゴシ……ペロペロペロ……ゴシゴシゴシ……

 暫くその様子をボンヤリと眺めていると、顔の手入れに満足したのか今度はペロンと垂れた耳に両足を伸ばし始めた。

 キュッキュッ……キュッキュッ……

 後足で立ち上がり、両前足を器用に使って耳を手入れする仕草はまるで人間が着ぐるみを着ているアトラクションのようにも見える。そのアトラクションを眺めている内、ふと言葉が通じるような気がした。



「ヨツバ、みのりは何で出て行ったんだろうな?」



 ピタッ。すると突然ヨツバは作業を止めて前足を下ろした。それからジッと俺の方にそのつぶらな丸い瞳をピタリと当てた。まるで言葉が分かるみたいに。
 そんな風にしか思えなくて、思わず俺の声は震えた。



「お前には、みのりの気持ちが分かるのか?」
「……」



 ジッと俺を見上げる真っ黒で艶やかな瞳。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
 すると、唐突にヨツバが口を開けた。

「!」

 ドキリとした。ヨツバが話し出す……ような気がしたのだ。

 が、そんなファンタジーな展開、あるわきゃあない。

 ヨツバは、くわわわ……と前歯をむき出しにして大口を開けた。同時に前足を揃えたまま前に押し出し、猫のように体を伸ばして―――あくびをした。
 それからピタピタと後ずさりするように前足を体の下に収め腰を揺するように下ろすと、まるまると置物よろしく体を丸め……瞼をゆっくりと細めた。

「吃驚した……」

 まだ心臓がドキドキする。胸を抑えて俺は溜息を吐いた。

 うさぎって『警戒心の強い動物』なんじゃなかったっけ?!

 と、先ほど目を通したばかりのリーフレットの文言を思い出し非難しそうになった。
……が、せっかく寝た子を起こすのは得策ではない。俺はカラーボックスから布を取り出して、ヨツバを驚かせないようにそっとそのケージを包み込んだのだった。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...