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番外編・うさぎのきもち
60.ヨツバのふさふさ
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「前足はっと……うん、大丈夫ですね」
撫でられまくって気持ち良くなったのかウトウトしているヨツバの前足を手に取り、伊都さんは頷いた。
「足裏も見るんですね」
「はい」
「どういう所をチェックするんですか?」
「ソアホックになりかけてないかとか……」
「『ソアホック』?」
聞き覚えの無い単語に思わず首を傾げる。
「以前も言いましたが、うさぎの足の裏には犬や猫のような肉球が無いんです」
伊都さんはヨツバの体を撫でながらそっとその後ろ脚に触れ、俺に足裏を見えるように持ち上げた。そうして親指でそのふさふさの足裏をスルスルと擦って見せる。そう言えばそんな事を以前伊都さんから聞いた覚えがある。フローリングは滑りやすいから運動場に柔らかい敷物を敷いた方が良いと、使い古しのカーペットを譲ってくれたのだ。
「後ろ足もふさふさなんですね」
前足は毛繕いの時に眺めていたから分かっていたけど、後ろ足も話に聞いていた印象以上にふさふさしていた。確かにこれじゃあ、ヨツバにとってはフローリングはツルツルし過ぎて居心地が悪いだろう、と改めて納得してしまう。
「そうなんです、足裏を守るクッションは肉球じゃなくてこの『ふさふさ』なんですよ。もともと飼いうさぎの祖先であるアナウサギは草原で暮らしていたので、ケージの中の硬い床だと擦り切れてしまう場合があるんです。足の裏の皮膚が露出してしまったり……」
「つまり足の裏が禿げるってことですか?」
「そうです。禿げちゃうと……無防備になった皮膚が直接床に接して傷ついたり、血行の循環が悪くなって壊死してしまう事があります。これが足底皮膚炎―――『ソアホック』です」
ケージで飼う、なんて一般的なごく普通の飼育環境だ。普通に飼っているだけでも、うさぎにとってはピッタリの環境とは言えないなんて、考えても見なかった。
「このふさふさが擦り切れると言うのは、例えばそうですね……人間だったら毎日使っていた靴を奪われて外に放りだされると言う状況を想像していただけると、イメージしやすいと思います」
「うわぁ」
一気に現実的になって、再び背中がゾワリと震えた。
「痛そうですね……」
「ええ、だからそんな痛い目にうさぎさんを会わせないためにも、悪くなる前に未然にその目を摘んで行きたいんです」
「なるほど、その為の『健康チェック』ですか」
痛そうな話ばかりで居心地が悪い……なんて思ってしまって申し訳ない。その痛そうな状況に陥らないように、伊都さんのこういった話をワザとしたのかもしれない。言わば自動車運転の教習場で見せられる事故映像みたいな物で、危機感を煽る為と言うか。
いつまでヨツバと一緒にいられるか分からないが、俺が世話をしている間はせめてヨツバの些細な変化を見逃さないように、健康でヨツバが過ごせるように努力してみよう。伊都さんに向かってその決意を込めて俺はしっかりと頷いた。すると伊都さんはニッコリと満面の笑顔で頷いた。
「そうなんです!」
あ、良い顔で笑うな。……なんて少し場が和んだのも束の間。
「……と言う訳で次行きますね!一番うさぎの病気の原因になりやすい歯の噛み合わせについてなんですが……」
と続けた話が、先ほどの痛い話などまだ些細なものに感じるほど最高に生々しくて痛そうで―――思わず血の気が引きかけたのだが。
男の沽券に掛けて意地でも倒れるものかと何とか踏みとどまったのだった。
撫でられまくって気持ち良くなったのかウトウトしているヨツバの前足を手に取り、伊都さんは頷いた。
「足裏も見るんですね」
「はい」
「どういう所をチェックするんですか?」
「ソアホックになりかけてないかとか……」
「『ソアホック』?」
聞き覚えの無い単語に思わず首を傾げる。
「以前も言いましたが、うさぎの足の裏には犬や猫のような肉球が無いんです」
伊都さんはヨツバの体を撫でながらそっとその後ろ脚に触れ、俺に足裏を見えるように持ち上げた。そうして親指でそのふさふさの足裏をスルスルと擦って見せる。そう言えばそんな事を以前伊都さんから聞いた覚えがある。フローリングは滑りやすいから運動場に柔らかい敷物を敷いた方が良いと、使い古しのカーペットを譲ってくれたのだ。
「後ろ足もふさふさなんですね」
前足は毛繕いの時に眺めていたから分かっていたけど、後ろ足も話に聞いていた印象以上にふさふさしていた。確かにこれじゃあ、ヨツバにとってはフローリングはツルツルし過ぎて居心地が悪いだろう、と改めて納得してしまう。
「そうなんです、足裏を守るクッションは肉球じゃなくてこの『ふさふさ』なんですよ。もともと飼いうさぎの祖先であるアナウサギは草原で暮らしていたので、ケージの中の硬い床だと擦り切れてしまう場合があるんです。足の裏の皮膚が露出してしまったり……」
「つまり足の裏が禿げるってことですか?」
「そうです。禿げちゃうと……無防備になった皮膚が直接床に接して傷ついたり、血行の循環が悪くなって壊死してしまう事があります。これが足底皮膚炎―――『ソアホック』です」
ケージで飼う、なんて一般的なごく普通の飼育環境だ。普通に飼っているだけでも、うさぎにとってはピッタリの環境とは言えないなんて、考えても見なかった。
「このふさふさが擦り切れると言うのは、例えばそうですね……人間だったら毎日使っていた靴を奪われて外に放りだされると言う状況を想像していただけると、イメージしやすいと思います」
「うわぁ」
一気に現実的になって、再び背中がゾワリと震えた。
「痛そうですね……」
「ええ、だからそんな痛い目にうさぎさんを会わせないためにも、悪くなる前に未然にその目を摘んで行きたいんです」
「なるほど、その為の『健康チェック』ですか」
痛そうな話ばかりで居心地が悪い……なんて思ってしまって申し訳ない。その痛そうな状況に陥らないように、伊都さんのこういった話をワザとしたのかもしれない。言わば自動車運転の教習場で見せられる事故映像みたいな物で、危機感を煽る為と言うか。
いつまでヨツバと一緒にいられるか分からないが、俺が世話をしている間はせめてヨツバの些細な変化を見逃さないように、健康でヨツバが過ごせるように努力してみよう。伊都さんに向かってその決意を込めて俺はしっかりと頷いた。すると伊都さんはニッコリと満面の笑顔で頷いた。
「そうなんです!」
あ、良い顔で笑うな。……なんて少し場が和んだのも束の間。
「……と言う訳で次行きますね!一番うさぎの病気の原因になりやすい歯の噛み合わせについてなんですが……」
と続けた話が、先ほどの痛い話などまだ些細なものに感じるほど最高に生々しくて痛そうで―――思わず血の気が引きかけたのだが。
男の沽券に掛けて意地でも倒れるものかと何とか踏みとどまったのだった。
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