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番外編・うさぎのきもち
62.着替えます
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「じゃあ、あの……着替えて来ます」
大きな染みの着いた、情けないジーパン姿の俺は立ち上がった。
しかし寝室も素通しだからなぁ……仕方がない、着替えを取って来て洗面所で着替えて来るか。ついでにシャワーでちゃっちゃとズボンと足も洗って……。
「あ! 私ならすぐに帰りますので!」
案の定、伊都さんが余計な気を回し始めた。
「いや、そんな。洗面所で着替えるので、そこに居て貰っても大丈夫ですよ」
気を遣った上での発言だとでも思っているのだろうか。俺は本気でそう言っているのに、伊都さんにはまるで伝わっていないらしい。
「ヨツバともちゃんと触れ合いましたし! その、健康チェックもちゃんと終わりましたし!」
「……」
うん、言うと思った。……言った言葉、そのものをそのまま受け取って欲しいのになぁ。俺は少々残念に思いつつ頭を掻き、伊都さんに何とか伝わるような上手い言い回しを探して頭を捻った。
「分かりました」
そしてゆっくりと頷き、こう応えた。
「じゃあ、着替えるまで待っていてください。送りますから」
「え?」
「今日は卯月さんと一緒に地下鉄で来てくれたんですよね。せめて駅まで送らせてください」
噛んで含めるように言ってみる。多少圧力も込めて。
だが伊都さんは俺の『意図』などお構いなしにひたすら申し訳ない、とばかりに首を振る。
「いいえ! 大丈夫ですよ。駅までの道なら分かりますから! さっき来た道を戻れば良いの……ですし……」
しかし語尾が小さくなってしまった。
その俯きがちな様子を見て、ピンと来る。ここだ、と思う。伊都さんの説得ポイント!
「もしかして……地図とか読むの苦手ですか?」
「え? そんな……ことは……その、」
キョロキョロと、それこそ迷子になったかのように視線を彷徨わせる。―――俺はそれを肯定と受け取った。
「車ではここまで来れましたよね?」
「あ、はい。お店用の車なのでGPSの性能はバツグンなんです! 経路が詳細ですし、早め早めに音声案内があって……」
何故か自慢げにGPSを賞賛する伊都さん。ほめ過ぎな理由には想像がつく。そう、それは自分の苦手分野を十分に補ってくれる存在だからだ。
「……方向音痴……」
「ギクッ」
擬音を口にした伊都さんが、冗談みたいに肩を揺らした。
「……漫画の効果音かっ!」
伊都さんの怪しい反応に思わず突っ込んでしまった。すると彼女は吃驚したようにまん丸に目を見開いて俺を見上げ―――思わず、と言うようにプッと噴き出してしまう。
「アハハ」
「図星ですよね? あと笑いましたね。笑ったなら『同意した』とみなします」
俺はビシッと指差し、伊都さんの逃げ場を塞ぐように断言した。するとしまった!と言うかのように彼女は口元を覆う。
「ちゃんと待っててくださいね、今着替えて来ますから。あと……」
大きな態度で彼女にそう指示をした俺だが、お漏らしの染みを付けたままの情けない姿である事には変わりはない。
「すみません、ちょっとシャワーを使いますが―――流してすぐ出てきますので」
僅かに気まずい気持ちでジーパンを見つつそう言うと、とうとう観念した伊都さんは口元を抑えていた手を下ろしてヨツバをしっかりと抱えなおし、神妙な面持ちで頷いてくれた。
「はい、分かりました。じゃあその間にヨツバを戻して、柵も片付けておきますね」
「お願いします」
そのしっかりとした受け答えに俺はホッとして頷き、着替えを取りに寝室のクローゼットへと向かったのだった。
大きな染みの着いた、情けないジーパン姿の俺は立ち上がった。
しかし寝室も素通しだからなぁ……仕方がない、着替えを取って来て洗面所で着替えて来るか。ついでにシャワーでちゃっちゃとズボンと足も洗って……。
「あ! 私ならすぐに帰りますので!」
案の定、伊都さんが余計な気を回し始めた。
「いや、そんな。洗面所で着替えるので、そこに居て貰っても大丈夫ですよ」
気を遣った上での発言だとでも思っているのだろうか。俺は本気でそう言っているのに、伊都さんにはまるで伝わっていないらしい。
「ヨツバともちゃんと触れ合いましたし! その、健康チェックもちゃんと終わりましたし!」
「……」
うん、言うと思った。……言った言葉、そのものをそのまま受け取って欲しいのになぁ。俺は少々残念に思いつつ頭を掻き、伊都さんに何とか伝わるような上手い言い回しを探して頭を捻った。
「分かりました」
そしてゆっくりと頷き、こう応えた。
「じゃあ、着替えるまで待っていてください。送りますから」
「え?」
「今日は卯月さんと一緒に地下鉄で来てくれたんですよね。せめて駅まで送らせてください」
噛んで含めるように言ってみる。多少圧力も込めて。
だが伊都さんは俺の『意図』などお構いなしにひたすら申し訳ない、とばかりに首を振る。
「いいえ! 大丈夫ですよ。駅までの道なら分かりますから! さっき来た道を戻れば良いの……ですし……」
しかし語尾が小さくなってしまった。
その俯きがちな様子を見て、ピンと来る。ここだ、と思う。伊都さんの説得ポイント!
「もしかして……地図とか読むの苦手ですか?」
「え? そんな……ことは……その、」
キョロキョロと、それこそ迷子になったかのように視線を彷徨わせる。―――俺はそれを肯定と受け取った。
「車ではここまで来れましたよね?」
「あ、はい。お店用の車なのでGPSの性能はバツグンなんです! 経路が詳細ですし、早め早めに音声案内があって……」
何故か自慢げにGPSを賞賛する伊都さん。ほめ過ぎな理由には想像がつく。そう、それは自分の苦手分野を十分に補ってくれる存在だからだ。
「……方向音痴……」
「ギクッ」
擬音を口にした伊都さんが、冗談みたいに肩を揺らした。
「……漫画の効果音かっ!」
伊都さんの怪しい反応に思わず突っ込んでしまった。すると彼女は吃驚したようにまん丸に目を見開いて俺を見上げ―――思わず、と言うようにプッと噴き出してしまう。
「アハハ」
「図星ですよね? あと笑いましたね。笑ったなら『同意した』とみなします」
俺はビシッと指差し、伊都さんの逃げ場を塞ぐように断言した。するとしまった!と言うかのように彼女は口元を覆う。
「ちゃんと待っててくださいね、今着替えて来ますから。あと……」
大きな態度で彼女にそう指示をした俺だが、お漏らしの染みを付けたままの情けない姿である事には変わりはない。
「すみません、ちょっとシャワーを使いますが―――流してすぐ出てきますので」
僅かに気まずい気持ちでジーパンを見つつそう言うと、とうとう観念した伊都さんは口元を抑えていた手を下ろしてヨツバをしっかりと抱えなおし、神妙な面持ちで頷いてくれた。
「はい、分かりました。じゃあその間にヨツバを戻して、柵も片付けておきますね」
「お願いします」
そのしっかりとした受け答えに俺はホッとして頷き、着替えを取りに寝室のクローゼットへと向かったのだった。
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