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本編
捕獲されました。
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何故こんな事に。
忘年会の帰り道、私は捕獲されてしまった。
何となく視線を感じていた。しかしそのビームを発しているのが、まさか彼だとは思いも寄らなかったのだ。
最終電車に駆け込み、やっと家に帰れるのだとウキウキしながら降り立って、改札を通った後、強引に物陰に引き込まれた。
壁に押し付けられ、背の高い男の腕に囲まれて恐怖に悲鳴を上げようとして―――それが見知った相手だと知って、喉が張り付くくらい衝撃を受けてしまった。
私を壁ドンしているのは―――毎日顔を合わせている我が課の課長。銀縁眼鏡の奥の整った冷徹な瞳、ニコリともしないでバッサバッサ決済に駄目出しをする、最年少で課長に就任した出世頭と言われる男―――亀田課長だった。
三十八歳独身。仕事の駄目だしをする時は金剛力士像もかくや……というくらい恐ろしく見えるので課内の女性社員から言い寄られる事は無いが、その実像を知らない他課の女性社員からは大きな支持を受けている。彼が未だに独身なのは分かる気がする。とにかく厳しい―――他人にも、自分にも。甘いのは顧客と取引先、それから彼の仕事に直接関わらない課の社員にだけ。遊びという物が無いのだ。的確に痛い所を抉り出す様な指摘を聞いていると、それが極めて手短であるにも関わらず、時折起き上がれないくらい(イメージです)ダメージを受ける事がある。
それでも以前は、まだ良かった。
失敗に落ち込み過ぎれば励ましてもくれたし、厳しい中にもフォローを忘れない優しい部分もあって、思わずキュン……としてしまう事も一度ならずあった。
しかし最近、とにかく暗い。
厳しい指摘を陰鬱な様子で淡々と告げられると、皆一様に『殺られる……!』と言う本能的な恐怖を感じてしまうようだ。
もしかして巨大なノルマに課長自身潰れかけているのでは……そう思うと恐ろしいばかりで、親しく思う気持ちも萎んでしまった。課の雰囲気も心なしか欝々としているような気がする。かつて見せていた飲み会限定の課長の笑顔も封印されてしまっていた。
「か、かちょう……」
何故か私を見下ろす銀縁眼鏡は息を切らしている。
心底怖い。
ハァハァ息を切らして、人一人殺して来たような顔で私を見下ろしているコワモテの男。まるで変質者のようだ……否、変質者そのもの、だ!
「……えに……ってくれ」
「は?」
ハァハァ言いながら話すので聞き取りにくい。思わず恐怖も忘れて聞き返してしまった。
「大谷―――お前の家に連れて行ってくれ……!」
「は、はい~~?」
な、な、何を言っているのだ、この人はっ……!
二十代のうら若き(アラサーですが)女の一人暮らしのアパートに、最終電車が通り過ぎた後に付き纏い、家に連れてけ……だと?!
「な……な……」
セクハラだっ!
「どうしても、お前の家に行きたいんだっ……俺はもう、心底耐えられそうもないっ……」
真っ赤になる私の目の前には、瞳を潤ませて懇願する大きな男がいる。
私は彼の目に薄く膜が張るのを目にして、思わず茫然としてしまった。
もっもしかして、私が気が付いて無かっただけで……課長は私の事をずっと好きだったって事?! そんでそんで、私がいつまで経っても彼の気持ちに気が付かないから、辛抱溜まらんっ……って感じでストーカー行為に出るくらい壊れちゃったとかっ??
まるで恋愛小説みたいな展開に、思わず頭が沸騰してしまう。
私は確かに目立つ美人ではない、だけどそんなに見た目が悪いわけじゃないと思う。ただちょっとだけ、垢抜けない感じはするかもしれない。磨けば光る原石のような私の素質を彼は密かに見抜いてしまったのだ……とか? 若しくはあれか? 小さい仕事もコツコツと丁寧に行う君の姿にいつも勇気づけられていたんだ!……なんて告白されちゃうの?!
そんな風に見られていると思った途端、見上げる整った瞳も、いつも丹念に整えられている筈の短髪が少し乱れているのも、心なしか格好良くキラキラ見えて来るから不思議だ。潤んだ瞳でさえ、色っぽく見えてしまう。
「そ、そんなに……好きなんですか?」
「ああ、好きだっ大好きだっ……! もう、黙っているのは堪えられないっ……!」
情熱的な彼の台詞に、私はクラリと来てアッサリ流されてしまった。
そして何と言うことか―――従順に彼の要望通り、独り暮らしのアパートに彼を招き入れてしまったのだ。
馬鹿な女、軽い女となじられても構わない。
この情熱的な告白に、絆されない独身彼氏ナシ期間二年強のアラサー女子がいるだろうか……いや、いまい! と言うか自分はもう断りたくないっ! せっかくのチャンス、飛び込まなきゃ嘘でしょ?!
** ** **
「ああ~なんて手触りなんだ……これだ、俺はこれを求めていたんだ……っ」
「……」
「しかもこの真っ白なビロードのような肌っ、俺をこれ以上夢中にさせてどうする気だ……!」
「……」
R18的な展開に聞こえるでしょうが、二人とも一切服は脱いでおりません……。
なぬっ?「服を脱がなくてもヤルこたぁ、ヤレる」?!
ええ、そうですけどねっ……残念ですが……そんな色っぽい展開には全くなっておりません。
彼が褒めたたえているのはケージの中でキュルンと黒い瞳を潤めかせ、白い毛並みを撫でられ鼻をヒクヒクしている―――ウサギの『うータン』。
そうです、私の飼いウサギです。
彼のあり得ない変貌に私はドン引き。
居間に通され『うータン』を見つけた途端―――彼は高級そうなスーツの膝に皺が寄るのも構わずフニャフニャと膝を付いてにじり寄り、別人格に支配されてしまったのだった……!
其処には怖いけれども威厳があり、厳しいけれども尊敬に値する……最年少課長、エリート銀縁眼鏡の姿はもはや微塵も無かった。
「飼いウサギのミミが、二月前にお月様に帰ってしまったんだ……」
私が差し出したマグカップに入ったお茶を飲みながら、テーブルの下でウサギの頭を掌で包み込み、しきりに指の腹で鼻の頭を撫でる課長……いや、亀田。亀田で良い、呼び捨てでいーや。
しかし、真正のウサギ好きですな。ウサギ飼いの間では、家族であるウサギが息を引き取った時『お月様に帰る』と言うフレーズを好んで使うのだ。
「それで、ウサギに触りたかったんですね。だったら新しいウサギを迎えたら良いじゃないですか」
ブンブンっと首を振る、亀田。
何気に瞳を潤ませ、可愛い仕草をするのが癪に障る。
「そんな事……出来る筈無いだろ?ミミが居なくなった途端、新しい子を迎えるなんて」
なるほど、それは分からないでもない。
しかしウサギ好きの彼は、深刻なウサギ中毒に陥っていたらしい。いつも癒してくれたミミの不在がやがて彼の精神を蝕み始め―――職場でもひたすらどん底に落ちてしまうくらい欝々としてしまったらしい。
「どうして私がウサギを飼っているって、分かったんですか?」
「それは―――本屋の雑誌コーナーで大谷を見掛けて」
「本屋で?」
「雑誌を買っていただろう? あの隔月発売の―――」
「あ、ああー……あの雑誌ですか?」
「そう、あのウサギ飼いのバイブル『うさキモ』」
『うさキモ』―――『うさぎの気持ち』は隔月発売のウサギ専門誌だ。結構分厚いその冊子は、あまりに狭い分野、詳しく深い掘り下げた記事を掲載する。この為、単なるミーハーなウサギ好きが購入するような代物では無く、『あの雑誌を購読している』イコール『ウサギを飼っている』と―――同好の士なら一目で見て取れるモノなのだ。
「それを見た時―――俺はお前(のウサギ)に運命を感じたんだ……!」
「は、はぁ……」
「ウサギカフェでは虚し過ぎる。死んだ彼女を直ぐに裏切る事も無理だ……そこに降って湧いたような幸運! 毎日職場で会える大谷がウサギを飼っているなんて……! だけどなかなか言い出せず……いつも何と言おうか迷いに迷って―――俺は深刻なウサギ欠乏症に陥ってしまったんだ。だから今年最後の忘年会……この機会をどうしても逃したく無かったっ……!」
拳を握り、熱く語る亀田。銀縁がLEDの光を受けてギラリと光った。
「……な、なるほど」
「大谷を吃驚させてしまったが―――俺は精神的に追い詰められ過ぎて我を忘れてしまった……しかしもう大丈夫だ!ウサギ成分をこれだけ補充できたんだ。お陰でやっと平静を取り戻す事が出来たよ」
ニコニコと笑う銀縁眼鏡の亀田は、大層まろやかなに幸せそうな笑顔で笑っていた。
ここ最近の彼の荒れ具合を考慮すると―――ストレスが解消できて喜ぶべきかもしれない。これで我が課が少し平穏になれば、仕事もし易くなると言うものだ。
「良かったですね」
気の抜けた声で、そういうと。
「ああ、有難う」
ニコリと笑われて、そんな場合じゃないのにドキリとする。
やっぱ、ご機嫌だと結構格好良いなぁ……なんて、余計な事を考えてしまった。
** ** **
それから。
課長の亀田は体が空けば、イソイソと私のアパートに通うようになり。
暫くして偶に泊まっていくようになり。
そんな付き合いが暫く続いた後―――プロポーズされてしまった。
勿論新居はペット可マンション。
私と一緒にうータンも彼の家族になったのだが。
うータンと暮らす為に私と結婚したのでは―――と、未だに訝しい視線を向ける私に、彼は毎回必死になって弁解するのだが―――日の当たる居間でラグに寝そべりながら気持ちよさそうにしているうータンを、デレデレしながら撫でている様子を眺めていると……「当らずとも遠からずだな」と、あらためて思ってしまうのである。
結局しっかり捕獲されてしまった私とうータンだが、その後二人(?)とも結構幸せに暮らしているので、良しとしている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
プロット段階では『うさぎのきもち』と言うタイトルでした。
気に入っていたのですが、ネタバレし過ぎなので直前で変更しました。
お読みいただき、有難うございました。
忘年会の帰り道、私は捕獲されてしまった。
何となく視線を感じていた。しかしそのビームを発しているのが、まさか彼だとは思いも寄らなかったのだ。
最終電車に駆け込み、やっと家に帰れるのだとウキウキしながら降り立って、改札を通った後、強引に物陰に引き込まれた。
壁に押し付けられ、背の高い男の腕に囲まれて恐怖に悲鳴を上げようとして―――それが見知った相手だと知って、喉が張り付くくらい衝撃を受けてしまった。
私を壁ドンしているのは―――毎日顔を合わせている我が課の課長。銀縁眼鏡の奥の整った冷徹な瞳、ニコリともしないでバッサバッサ決済に駄目出しをする、最年少で課長に就任した出世頭と言われる男―――亀田課長だった。
三十八歳独身。仕事の駄目だしをする時は金剛力士像もかくや……というくらい恐ろしく見えるので課内の女性社員から言い寄られる事は無いが、その実像を知らない他課の女性社員からは大きな支持を受けている。彼が未だに独身なのは分かる気がする。とにかく厳しい―――他人にも、自分にも。甘いのは顧客と取引先、それから彼の仕事に直接関わらない課の社員にだけ。遊びという物が無いのだ。的確に痛い所を抉り出す様な指摘を聞いていると、それが極めて手短であるにも関わらず、時折起き上がれないくらい(イメージです)ダメージを受ける事がある。
それでも以前は、まだ良かった。
失敗に落ち込み過ぎれば励ましてもくれたし、厳しい中にもフォローを忘れない優しい部分もあって、思わずキュン……としてしまう事も一度ならずあった。
しかし最近、とにかく暗い。
厳しい指摘を陰鬱な様子で淡々と告げられると、皆一様に『殺られる……!』と言う本能的な恐怖を感じてしまうようだ。
もしかして巨大なノルマに課長自身潰れかけているのでは……そう思うと恐ろしいばかりで、親しく思う気持ちも萎んでしまった。課の雰囲気も心なしか欝々としているような気がする。かつて見せていた飲み会限定の課長の笑顔も封印されてしまっていた。
「か、かちょう……」
何故か私を見下ろす銀縁眼鏡は息を切らしている。
心底怖い。
ハァハァ息を切らして、人一人殺して来たような顔で私を見下ろしているコワモテの男。まるで変質者のようだ……否、変質者そのもの、だ!
「……えに……ってくれ」
「は?」
ハァハァ言いながら話すので聞き取りにくい。思わず恐怖も忘れて聞き返してしまった。
「大谷―――お前の家に連れて行ってくれ……!」
「は、はい~~?」
な、な、何を言っているのだ、この人はっ……!
二十代のうら若き(アラサーですが)女の一人暮らしのアパートに、最終電車が通り過ぎた後に付き纏い、家に連れてけ……だと?!
「な……な……」
セクハラだっ!
「どうしても、お前の家に行きたいんだっ……俺はもう、心底耐えられそうもないっ……」
真っ赤になる私の目の前には、瞳を潤ませて懇願する大きな男がいる。
私は彼の目に薄く膜が張るのを目にして、思わず茫然としてしまった。
もっもしかして、私が気が付いて無かっただけで……課長は私の事をずっと好きだったって事?! そんでそんで、私がいつまで経っても彼の気持ちに気が付かないから、辛抱溜まらんっ……って感じでストーカー行為に出るくらい壊れちゃったとかっ??
まるで恋愛小説みたいな展開に、思わず頭が沸騰してしまう。
私は確かに目立つ美人ではない、だけどそんなに見た目が悪いわけじゃないと思う。ただちょっとだけ、垢抜けない感じはするかもしれない。磨けば光る原石のような私の素質を彼は密かに見抜いてしまったのだ……とか? 若しくはあれか? 小さい仕事もコツコツと丁寧に行う君の姿にいつも勇気づけられていたんだ!……なんて告白されちゃうの?!
そんな風に見られていると思った途端、見上げる整った瞳も、いつも丹念に整えられている筈の短髪が少し乱れているのも、心なしか格好良くキラキラ見えて来るから不思議だ。潤んだ瞳でさえ、色っぽく見えてしまう。
「そ、そんなに……好きなんですか?」
「ああ、好きだっ大好きだっ……! もう、黙っているのは堪えられないっ……!」
情熱的な彼の台詞に、私はクラリと来てアッサリ流されてしまった。
そして何と言うことか―――従順に彼の要望通り、独り暮らしのアパートに彼を招き入れてしまったのだ。
馬鹿な女、軽い女となじられても構わない。
この情熱的な告白に、絆されない独身彼氏ナシ期間二年強のアラサー女子がいるだろうか……いや、いまい! と言うか自分はもう断りたくないっ! せっかくのチャンス、飛び込まなきゃ嘘でしょ?!
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「ああ~なんて手触りなんだ……これだ、俺はこれを求めていたんだ……っ」
「……」
「しかもこの真っ白なビロードのような肌っ、俺をこれ以上夢中にさせてどうする気だ……!」
「……」
R18的な展開に聞こえるでしょうが、二人とも一切服は脱いでおりません……。
なぬっ?「服を脱がなくてもヤルこたぁ、ヤレる」?!
ええ、そうですけどねっ……残念ですが……そんな色っぽい展開には全くなっておりません。
彼が褒めたたえているのはケージの中でキュルンと黒い瞳を潤めかせ、白い毛並みを撫でられ鼻をヒクヒクしている―――ウサギの『うータン』。
そうです、私の飼いウサギです。
彼のあり得ない変貌に私はドン引き。
居間に通され『うータン』を見つけた途端―――彼は高級そうなスーツの膝に皺が寄るのも構わずフニャフニャと膝を付いてにじり寄り、別人格に支配されてしまったのだった……!
其処には怖いけれども威厳があり、厳しいけれども尊敬に値する……最年少課長、エリート銀縁眼鏡の姿はもはや微塵も無かった。
「飼いウサギのミミが、二月前にお月様に帰ってしまったんだ……」
私が差し出したマグカップに入ったお茶を飲みながら、テーブルの下でウサギの頭を掌で包み込み、しきりに指の腹で鼻の頭を撫でる課長……いや、亀田。亀田で良い、呼び捨てでいーや。
しかし、真正のウサギ好きですな。ウサギ飼いの間では、家族であるウサギが息を引き取った時『お月様に帰る』と言うフレーズを好んで使うのだ。
「それで、ウサギに触りたかったんですね。だったら新しいウサギを迎えたら良いじゃないですか」
ブンブンっと首を振る、亀田。
何気に瞳を潤ませ、可愛い仕草をするのが癪に障る。
「そんな事……出来る筈無いだろ?ミミが居なくなった途端、新しい子を迎えるなんて」
なるほど、それは分からないでもない。
しかしウサギ好きの彼は、深刻なウサギ中毒に陥っていたらしい。いつも癒してくれたミミの不在がやがて彼の精神を蝕み始め―――職場でもひたすらどん底に落ちてしまうくらい欝々としてしまったらしい。
「どうして私がウサギを飼っているって、分かったんですか?」
「それは―――本屋の雑誌コーナーで大谷を見掛けて」
「本屋で?」
「雑誌を買っていただろう? あの隔月発売の―――」
「あ、ああー……あの雑誌ですか?」
「そう、あのウサギ飼いのバイブル『うさキモ』」
『うさキモ』―――『うさぎの気持ち』は隔月発売のウサギ専門誌だ。結構分厚いその冊子は、あまりに狭い分野、詳しく深い掘り下げた記事を掲載する。この為、単なるミーハーなウサギ好きが購入するような代物では無く、『あの雑誌を購読している』イコール『ウサギを飼っている』と―――同好の士なら一目で見て取れるモノなのだ。
「それを見た時―――俺はお前(のウサギ)に運命を感じたんだ……!」
「は、はぁ……」
「ウサギカフェでは虚し過ぎる。死んだ彼女を直ぐに裏切る事も無理だ……そこに降って湧いたような幸運! 毎日職場で会える大谷がウサギを飼っているなんて……! だけどなかなか言い出せず……いつも何と言おうか迷いに迷って―――俺は深刻なウサギ欠乏症に陥ってしまったんだ。だから今年最後の忘年会……この機会をどうしても逃したく無かったっ……!」
拳を握り、熱く語る亀田。銀縁がLEDの光を受けてギラリと光った。
「……な、なるほど」
「大谷を吃驚させてしまったが―――俺は精神的に追い詰められ過ぎて我を忘れてしまった……しかしもう大丈夫だ!ウサギ成分をこれだけ補充できたんだ。お陰でやっと平静を取り戻す事が出来たよ」
ニコニコと笑う銀縁眼鏡の亀田は、大層まろやかなに幸せそうな笑顔で笑っていた。
ここ最近の彼の荒れ具合を考慮すると―――ストレスが解消できて喜ぶべきかもしれない。これで我が課が少し平穏になれば、仕事もし易くなると言うものだ。
「良かったですね」
気の抜けた声で、そういうと。
「ああ、有難う」
ニコリと笑われて、そんな場合じゃないのにドキリとする。
やっぱ、ご機嫌だと結構格好良いなぁ……なんて、余計な事を考えてしまった。
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それから。
課長の亀田は体が空けば、イソイソと私のアパートに通うようになり。
暫くして偶に泊まっていくようになり。
そんな付き合いが暫く続いた後―――プロポーズされてしまった。
勿論新居はペット可マンション。
私と一緒にうータンも彼の家族になったのだが。
うータンと暮らす為に私と結婚したのでは―――と、未だに訝しい視線を向ける私に、彼は毎回必死になって弁解するのだが―――日の当たる居間でラグに寝そべりながら気持ちよさそうにしているうータンを、デレデレしながら撫でている様子を眺めていると……「当らずとも遠からずだな」と、あらためて思ってしまうのである。
結局しっかり捕獲されてしまった私とうータンだが、その後二人(?)とも結構幸せに暮らしているので、良しとしている。
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プロット段階では『うさぎのきもち』と言うタイトルでした。
気に入っていたのですが、ネタバレし過ぎなので直前で変更しました。
お読みいただき、有難うございました。
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