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捕獲しました。<亀田視点>
6.ご心配をおかけしました。
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ミミとの運命的な出会いから一ヵ月が経過した。
就任当初の苦悩の日々が嘘のように、晴れ晴れとした気持ちで職場の机に腰掛けている。
問題児だった阿部も、徐々に素直に俺の話に耳を傾けるようになった。
特に陰でどう言っているか耳にしなくても、阿部が真剣になった事は視線や態度を見れば分かる。俺の指摘に反発していた阿部は、以前何度も同じようなミスを繰り返していた。けれども最近は一度注意した事を、守ろうと努力するようになった。どこか投げやりだった態度も鳴りを潜め、一つ一つを慎重に考えて踏み出しているように見える。
俺から受けた注意を、阿部がノートにメモしているのを偶然目にした。そのノートにこまごまと何かをメモしている所を見ていたから、きっとその他仕事をしていく上で気付いた事なんかも記しているに違いない。これまでいい加減だった男がそういう地道な努力を重ね、それが心構えに現れて来る様を目にしていると、まるで向日葵の成長記録を付けていた小学生の頃のような気分に覆われる。
今まで自分が直接手を出せない事を、不甲斐なくも、もどかしくも感じていた。
俺だったらこうやるのに。大事なポイントを絶対疎かにしないのに―――そう思いながら部下の粗を見つける度に歯痒く感じていた。
こういう歯痒さは、実は未だに無くならない。
まだまだ阿部にも言いたいことは山ほど大量に、ある。
けれども彼の成長を実際目の当たりにすると―――くすぐったいような温かい気持ちが込み上げてくる。同じ方向を見て荷物を背負って歩いてくれている、そう実感できて胸の辺りがジーンと熱くなってくる。
管理職の醍醐味ってこういう事なのかな。
自分だけでは決して味わえない満足感を、俺は初めて味わったのだ。
相変わらず仕事場ではコワモテを通し、冷徹銀縁眼鏡と陰で揶揄されているのも知っている。これはもう―――俺の標準仕様なので取り外す事は出来ない。だけど飲み会では少し打ち解けて話せるようになった。きっと一次会でさっさと撤収するようになったのが、良い効果を生み出しているのだろう。
最後まで上司がいたせいでこれまで若手は発散する事もできなかったのだと、今更ながらに気が付いた。これまでギクシャクしていたのが嘘みたいに、一次会では部下達とスムーズに話が出来るようになった。
「最近、調子良さそうだな」
珈琲のボタンを押して、ガコンと落ちた缶に手を伸ばした時、背後から篠岡の声が聞こえて来た。
「おまえほどじゃないけどな」
篠岡はいつも調子が良さそうだ。
全く羨ましい限りだ。俺もコイツのような余裕が、喉から手が出るほど欲しいと思う時がある。こればっかりは性分だからしょうがないのかもしれないけれど。
「触れ合える良い子でも出来たか?もしかして」
そう言えばすっかり忘れていたが、『触れ合い』がストレス解消に良いと俺に提案したのはコイツだった。
「んー、そうだな。出来たと言えば出来たかも」
「おおっ! マジか。何処の子だ? 社内か?」
「違う」
「社外? 忙しそうなのにいつの間に―――一体何処で引っ掛けたんだ?」
俺は頭の中に、黒い毛皮の塊を思い浮かべた。
「……ペットショップ」
「ペットショップ~~?! ナンパか? 珍しいな……どうなんだ? なあ、その子可愛いか?」
頓狂な声を上げて、篠岡が前のめりにになった。
可愛い。
文句なしに可愛い。
ウチの仔が一番。
「ああ」
大きく頷くと、篠岡が目を丸くして絶句した。
「……おっまえ、変わったな~。よっぽどメロメロなんだな、その子に」
メロメロか。
確かに。
「そうかも」
俺が重ねて頷くと、信じられない物を見るような目で篠岡が頭を抱えた。
「っか~~! 心配して損した! 今度その子に会わせろ! なんかお前がそんなんなるって想像出来ねぇ、わっかい姉ちゃんに騙されてるんじゃないか?まさかじゃないけど―――お前貢いだりしていないだろうな……」
抱えていた頭をパッと話して、篠岡が探るように俺を見る。問いかけるような視線を受けた俺は―――首を傾げて、少しの間思案する。
ミミの為に買い求めた品々。
気に言って貰ったのもあれば、結局無駄な投資だったものもたくさんある。
「貢いでる。貢ぎまくってる」
「なっ……」
唐突にガっと両腕を掴まれて、ガクガクと揺すられた。
「おいっ目を覚ませっ! これだから真面目な奴は~! だから俺はお前が心配なんだっ!」
どうやら心配してくれていたらしい。全く―――有難い事だ。
俺は今、この上無く優しい気持ちになっている。篠岡が提案してくれなかったら―――俺の運命の彼女、ミミと出会う事も無かったのだから。
一度首を振り、俺は達観した表情で仏のように篠岡に笑い掛ける。
「心配掛けたな。お前には感謝している―――俺はもう大丈夫だ」
「いや、大丈夫には見えねえぞ、全然」
真顔の篠岡の目が、何か怖い。
そこに慌てた男の声が飛び込んできた。
「かちょ~! ちょっと急ぎで! 聞いて下さい!」
廊下の向こうから阿部が手を振っている。
「じゃ、仕事あるから」
「ちょっ亀田! お前! なあ、しっかりしろよ~!」
俺は手を上げてその場を去った。
この上なく今、俺はしっかりしているんだがなぁ……と思いつつ、慌てて騒ぐ阿部の元へ大股に歩み寄ったのだった。
就任当初の苦悩の日々が嘘のように、晴れ晴れとした気持ちで職場の机に腰掛けている。
問題児だった阿部も、徐々に素直に俺の話に耳を傾けるようになった。
特に陰でどう言っているか耳にしなくても、阿部が真剣になった事は視線や態度を見れば分かる。俺の指摘に反発していた阿部は、以前何度も同じようなミスを繰り返していた。けれども最近は一度注意した事を、守ろうと努力するようになった。どこか投げやりだった態度も鳴りを潜め、一つ一つを慎重に考えて踏み出しているように見える。
俺から受けた注意を、阿部がノートにメモしているのを偶然目にした。そのノートにこまごまと何かをメモしている所を見ていたから、きっとその他仕事をしていく上で気付いた事なんかも記しているに違いない。これまでいい加減だった男がそういう地道な努力を重ね、それが心構えに現れて来る様を目にしていると、まるで向日葵の成長記録を付けていた小学生の頃のような気分に覆われる。
今まで自分が直接手を出せない事を、不甲斐なくも、もどかしくも感じていた。
俺だったらこうやるのに。大事なポイントを絶対疎かにしないのに―――そう思いながら部下の粗を見つける度に歯痒く感じていた。
こういう歯痒さは、実は未だに無くならない。
まだまだ阿部にも言いたいことは山ほど大量に、ある。
けれども彼の成長を実際目の当たりにすると―――くすぐったいような温かい気持ちが込み上げてくる。同じ方向を見て荷物を背負って歩いてくれている、そう実感できて胸の辺りがジーンと熱くなってくる。
管理職の醍醐味ってこういう事なのかな。
自分だけでは決して味わえない満足感を、俺は初めて味わったのだ。
相変わらず仕事場ではコワモテを通し、冷徹銀縁眼鏡と陰で揶揄されているのも知っている。これはもう―――俺の標準仕様なので取り外す事は出来ない。だけど飲み会では少し打ち解けて話せるようになった。きっと一次会でさっさと撤収するようになったのが、良い効果を生み出しているのだろう。
最後まで上司がいたせいでこれまで若手は発散する事もできなかったのだと、今更ながらに気が付いた。これまでギクシャクしていたのが嘘みたいに、一次会では部下達とスムーズに話が出来るようになった。
「最近、調子良さそうだな」
珈琲のボタンを押して、ガコンと落ちた缶に手を伸ばした時、背後から篠岡の声が聞こえて来た。
「おまえほどじゃないけどな」
篠岡はいつも調子が良さそうだ。
全く羨ましい限りだ。俺もコイツのような余裕が、喉から手が出るほど欲しいと思う時がある。こればっかりは性分だからしょうがないのかもしれないけれど。
「触れ合える良い子でも出来たか?もしかして」
そう言えばすっかり忘れていたが、『触れ合い』がストレス解消に良いと俺に提案したのはコイツだった。
「んー、そうだな。出来たと言えば出来たかも」
「おおっ! マジか。何処の子だ? 社内か?」
「違う」
「社外? 忙しそうなのにいつの間に―――一体何処で引っ掛けたんだ?」
俺は頭の中に、黒い毛皮の塊を思い浮かべた。
「……ペットショップ」
「ペットショップ~~?! ナンパか? 珍しいな……どうなんだ? なあ、その子可愛いか?」
頓狂な声を上げて、篠岡が前のめりにになった。
可愛い。
文句なしに可愛い。
ウチの仔が一番。
「ああ」
大きく頷くと、篠岡が目を丸くして絶句した。
「……おっまえ、変わったな~。よっぽどメロメロなんだな、その子に」
メロメロか。
確かに。
「そうかも」
俺が重ねて頷くと、信じられない物を見るような目で篠岡が頭を抱えた。
「っか~~! 心配して損した! 今度その子に会わせろ! なんかお前がそんなんなるって想像出来ねぇ、わっかい姉ちゃんに騙されてるんじゃないか?まさかじゃないけど―――お前貢いだりしていないだろうな……」
抱えていた頭をパッと話して、篠岡が探るように俺を見る。問いかけるような視線を受けた俺は―――首を傾げて、少しの間思案する。
ミミの為に買い求めた品々。
気に言って貰ったのもあれば、結局無駄な投資だったものもたくさんある。
「貢いでる。貢ぎまくってる」
「なっ……」
唐突にガっと両腕を掴まれて、ガクガクと揺すられた。
「おいっ目を覚ませっ! これだから真面目な奴は~! だから俺はお前が心配なんだっ!」
どうやら心配してくれていたらしい。全く―――有難い事だ。
俺は今、この上無く優しい気持ちになっている。篠岡が提案してくれなかったら―――俺の運命の彼女、ミミと出会う事も無かったのだから。
一度首を振り、俺は達観した表情で仏のように篠岡に笑い掛ける。
「心配掛けたな。お前には感謝している―――俺はもう大丈夫だ」
「いや、大丈夫には見えねえぞ、全然」
真顔の篠岡の目が、何か怖い。
そこに慌てた男の声が飛び込んできた。
「かちょ~! ちょっと急ぎで! 聞いて下さい!」
廊下の向こうから阿部が手を振っている。
「じゃ、仕事あるから」
「ちょっ亀田! お前! なあ、しっかりしろよ~!」
俺は手を上げてその場を去った。
この上なく今、俺はしっかりしているんだがなぁ……と思いつつ、慌てて騒ぐ阿部の元へ大股に歩み寄ったのだった。
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