捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
13 / 375
捕獲しました。<亀田視点>

12.笑われました。

しおりを挟む
 三好は酔いが顔に出ないタイプの人間らしい。

 目黒と喧嘩口調で話をしている時、顔色もそれほど悪く無く、滑舌もまあまあ良かった。だからそれほど酔っていないと思っていたのだが―――どうやらあの時既に、かなりたっぷりアルコールを摂取していたようだ。

「そうだよな。普段結構ちゃんとしてたもんな……お前」

 一次会の後三好に声を掛け、すぐ傍にあった焼き鳥屋が空いていたので俯く三好を連れて暖簾を潜った。カウンターの端っこが空いていたので、串の盛り合わせと紫蘇焼酎のお湯割りを頼んで乾杯する。座った当初は俺に怒鳴れた恐怖からか、小さくなってチビリチビリと焼酎に口を付けていた三好だが、やがて緊張が解れて徐々にポツリポツリと目黒との関係や企画課について話し始めるようになった。
 しかし一端口を開き始めると、心にため込んだ色んな物がまたしても爆発してしまったらしい。突然怒涛のように話しだしたのだ。

 そして初めて俺は気が付いた。あ、コイツもうかなり酔っぱらってたんだな……と。



「え?何ですか?何でもない?そうですか……じゃあ話を戻しますけど……私だって嫌でしたよ。だけど仕事の決済握っているの比留間ひるま課長なんですもん。愛想悪くして企画握りつぶされたくないじゃないですか。だから笑顔くらい作りますよ、仕事ですもん。それに課長相手じゃ無くたって誰にだってニコニコしてましたよ、仕事ですもん。目黒にだってねぇー……昔はアイツとだって仲良かったんですよ、最初は。アイツだって愛想良かったんですよ、なのに比留間課長に私が構われるようになってから、目黒ったら掌返したように冷たくなって―――聞いてますかあ?亀田課長」
「うん、聞いてる」

―――フリをしている。

 もう同じ話題が三巡目に突入したからだ。余程企画課では鬱憤を溜め込んでいたらしい。もしかしてあずま常務はこういうのも込みで、異動を決めたのかもしれない、ふとそう思った。

「私ずっと企画やりたかったんですよ。希望も毎年出してて。この会社入ったのって、お菓子が好きだからなんですよ?そういう人多いかと思いますが。女子が喜ぶような飛び切りワクワクして、買ったら嫌な事一瞬で忘れるような―――そんな時間を演出するお菓子を作りたかったんですよ……! だからせっかく希望した部署に異動出来たんだから、一個でも企画通したくて―――飲み会で際どい冗談、比留間に言われても笑って耐えましたよ、私の企画が人質になってるんだから。『僕の好みだなぁ』とかゾワッとするような事言われてどうしたらいいんですか、笑うしかないでしょ?嫌われたら企画もボツですよ?? そしたらアイツ―――目黒、私が耐えに耐えて苦しんでいた事を、あんな風に勘違いしてしかも傷口を抉るような事言うなんて!」
「……」
「愛想は振りまいてましたけど、肩とか触られたらやんわりと逃げたりしてましたよ。勿論手を握られそうになったらサッとよけたり、一度なんかうっかりを装って太腿に触ろうとしましたからね、あの親父!それぐらい何だって思うかもしれませんけど、嫌だったんですよ!もうアラサーですけど、本当にそう言うの嫌で!我慢ならないんです!」
「あー、それは嫌だろうな……」

 全く好みじゃない年上の女上司に、企画の決済を盾に迫られたらと思うと……虫唾が走る。

「分かってくれるんですか?! 亀田課長! 本当に?? うっ……亀田課長がそんな事言ってくれるなんてっ……」

 大袈裟に言葉を詰まらせて感動する、三好。
 顔を俯かせたまま無意識に焼酎に手を伸ばそうとするので、俺はサッと素早く焼酎を水と入れ替えた。これ以上飲んだらコイツ、倒れるかもしらん……と危機感を抱いたからだ。

「そりゃあ……俺を何だと思っているんだ?」

 しかしコイツ、存外失礼だな。なぜこんなに俺のリアクションに大袈裟に驚くのだろう?

「だってこんな下らないセクハラさえ躱せずに振り回されて傷ついているなんて……アラサーなのに……それこそお前こそ下らないって、一笑に付されるかと……亀田課長は何があっても気にし無さそうですし……」

 何だその印象は。俺は結構ナイーブだぞ?女に振られる度に毎回傷つくし、うっかり出世してから外野に嫌味を言われ、イライラして思わずボールペンをへし折ったりした事もある。会社の備品壊したって申告したくないから黙っているが。
 それに女が苦手と言っても別に俺は女を見下している訳でも、セクハラを容認している訳でもない。男でも女でも仕事にキチンと向き合っている奴は評価しているつもりなんだが……。もしかして。あれか?あのイメージが定着している所為なのか……?



「それは……そう三好が言うのは、俺が『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』だからなのか……?」
「……」



 三好は目をまん丸くして、俺の顔をしげしげと見上げた。
 突然時が止まってしまったような沈黙に耐えられず、俺が発した台詞を後悔し始めた時。



「ぶっ……! な、何ですか! その、ピッタリ過ぎるネーミング?! ひょっとして渾名? いや、通り名? 通り名ですねっ! か、カッコイイーー!! は、嵌り過ぎっうぷぷっ! アッハハハ……!」
「……」



 心底、後悔した。
 酔っ払いはこれだから嫌だ。

 だけど翌日、三好はその二次会の事を綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。月曜日の朝、顔を合わせた時―――彼女は妙にケロリとしていた。
 俺と飲んだ事自体は覚えていたらしく、「私……お金払いましたっけ」と恥ずかしそうに頭を掻きながら近づいて来た。

「いや、俺が誘ったんだから気にしなくて良い」

 と言うと。恐縮して頭を下げつつ、ちょっと顔を近づけて俺に小さな声で囁いた。

「あの……全然覚えてないんですけど……私何か失礼な事……しませんでしたか?」
「……」
「……課長?」

 された。思いッきし、爆笑された。

「いや」

 俺が首を振ると―――ホッとした表情で三好は笑い、もう一度頭を下げて礼を言い机に戻って行った。

 しかし俺は根に持っている。散々笑われ、あの仇名が似合う、ピッタリ……! と言われた事を。思い出されたく無いから口に出さなかっただけだ。

 あの後傷ついた心を癒す為にどれだけウサギを補充したと思っているんだ! あんまりしつこくして、ミミに飽きられそうになったんだぞっ!―――完全に逆恨みかもしれないが、その日一日、三好の報告書に付くハンコを逆さに付く事を自分に許したのだった。自分って大人げないな、と改めて思った。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...