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捕獲しました。<亀田視点>
12.笑われました。
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三好は酔いが顔に出ないタイプの人間らしい。
目黒と喧嘩口調で話をしている時、顔色もそれほど悪く無く、滑舌もまあまあ良かった。だからそれほど酔っていないと思っていたのだが―――どうやらあの時既に、かなりたっぷりアルコールを摂取していたようだ。
「そうだよな。普段結構ちゃんとしてたもんな……お前」
一次会の後三好に声を掛け、すぐ傍にあった焼き鳥屋が空いていたので俯く三好を連れて暖簾を潜った。カウンターの端っこが空いていたので、串の盛り合わせと紫蘇焼酎のお湯割りを頼んで乾杯する。座った当初は俺に怒鳴れた恐怖からか、小さくなってチビリチビリと焼酎に口を付けていた三好だが、やがて緊張が解れて徐々にポツリポツリと目黒との関係や企画課について話し始めるようになった。
しかし一端口を開き始めると、心にため込んだ色んな物がまたしても爆発してしまったらしい。突然怒涛のように話しだしたのだ。
そして初めて俺は気が付いた。あ、コイツもうかなり酔っぱらってたんだな……と。
「え?何ですか?何でもない?そうですか……じゃあ話を戻しますけど……私だって嫌でしたよ。だけど仕事の決済握っているの比留間課長なんですもん。愛想悪くして企画握りつぶされたくないじゃないですか。だから笑顔くらい作りますよ、仕事ですもん。それに課長相手じゃ無くたって誰にだってニコニコしてましたよ、仕事ですもん。目黒にだってねぇー……昔はアイツとだって仲良かったんですよ、最初は。アイツだって愛想良かったんですよ、なのに比留間課長に私が構われるようになってから、目黒ったら掌返したように冷たくなって―――聞いてますかあ?亀田課長」
「うん、聞いてる」
―――フリをしている。
もう同じ話題が三巡目に突入したからだ。余程企画課では鬱憤を溜め込んでいたらしい。もしかして東常務はこういうのも込みで、異動を決めたのかもしれない、ふとそう思った。
「私ずっと企画やりたかったんですよ。希望も毎年出してて。この会社入ったのって、お菓子が好きだからなんですよ?そういう人多いかと思いますが。女子が喜ぶような飛び切りワクワクして、買ったら嫌な事一瞬で忘れるような―――そんな時間を演出するお菓子を作りたかったんですよ……! だからせっかく希望した部署に異動出来たんだから、一個でも企画通したくて―――飲み会で際どい冗談、比留間に言われても笑って耐えましたよ、私の企画が人質になってるんだから。『僕の好みだなぁ』とかゾワッとするような事言われてどうしたらいいんですか、笑うしかないでしょ?嫌われたら企画もボツですよ?? そしたらアイツ―――目黒、私が耐えに耐えて苦しんでいた事を、あんな風に勘違いしてしかも傷口を抉るような事言うなんて!」
「……」
「愛想は振りまいてましたけど、肩とか触られたらやんわりと逃げたりしてましたよ。勿論手を握られそうになったらサッとよけたり、一度なんかうっかりを装って太腿に触ろうとしましたからね、あの親父!それぐらい何だって思うかもしれませんけど、嫌だったんですよ!もうアラサーですけど、本当にそう言うの嫌で!我慢ならないんです!」
「あー、それは嫌だろうな……」
全く好みじゃない年上の女上司に、企画の決済を盾に迫られたらと思うと……虫唾が走る。
「分かってくれるんですか?! 亀田課長! 本当に?? うっ……亀田課長がそんな事言ってくれるなんてっ……」
大袈裟に言葉を詰まらせて感動する、三好。
顔を俯かせたまま無意識に焼酎に手を伸ばそうとするので、俺はサッと素早く焼酎を水と入れ替えた。これ以上飲んだらコイツ、倒れるかもしらん……と危機感を抱いたからだ。
「そりゃあ……俺を何だと思っているんだ?」
しかしコイツ、存外失礼だな。なぜこんなに俺のリアクションに大袈裟に驚くのだろう?
「だってこんな下らないセクハラさえ躱せずに振り回されて傷ついているなんて……アラサーなのに……それこそお前こそ下らないって、一笑に付されるかと……亀田課長は何があっても気にし無さそうですし……」
何だその印象は。俺は結構ナイーブだぞ?女に振られる度に毎回傷つくし、うっかり出世してから外野に嫌味を言われ、イライラして思わずボールペンをへし折ったりした事もある。会社の備品壊したって申告したくないから黙っているが。
それに女が苦手と言っても別に俺は女を見下している訳でも、セクハラを容認している訳でもない。男でも女でも仕事にキチンと向き合っている奴は評価しているつもりなんだが……。もしかして。あれか?あのイメージが定着している所為なのか……?
「それは……そう三好が言うのは、俺が『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』だからなのか……?」
「……」
三好は目をまん丸くして、俺の顔をしげしげと見上げた。
突然時が止まってしまったような沈黙に耐えられず、俺が発した台詞を後悔し始めた時。
「ぶっ……! な、何ですか! その、ピッタリ過ぎるネーミング?! ひょっとして渾名? いや、通り名? 通り名ですねっ! か、カッコイイーー!! は、嵌り過ぎっうぷぷっ! アッハハハ……!」
「……」
心底、後悔した。
酔っ払いはこれだから嫌だ。
だけど翌日、三好はその二次会の事を綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。月曜日の朝、顔を合わせた時―――彼女は妙にケロリとしていた。
俺と飲んだ事自体は覚えていたらしく、「私……お金払いましたっけ」と恥ずかしそうに頭を掻きながら近づいて来た。
「いや、俺が誘ったんだから気にしなくて良い」
と言うと。恐縮して頭を下げつつ、ちょっと顔を近づけて俺に小さな声で囁いた。
「あの……全然覚えてないんですけど……私何か失礼な事……しませんでしたか?」
「……」
「……課長?」
された。思いッきし、爆笑された。
「いや」
俺が首を振ると―――ホッとした表情で三好は笑い、もう一度頭を下げて礼を言い机に戻って行った。
しかし俺は根に持っている。散々笑われ、あの仇名が似合う、ピッタリ……! と言われた事を。思い出されたく無いから口に出さなかっただけだ。
あの後傷ついた心を癒す為にどれだけウサギを補充したと思っているんだ! あんまりしつこくして、ミミに飽きられそうになったんだぞっ!―――完全に逆恨みかもしれないが、その日一日、三好の報告書に付くハンコを逆さに付く事を自分に許したのだった。自分って大人げないな、と改めて思った。
目黒と喧嘩口調で話をしている時、顔色もそれほど悪く無く、滑舌もまあまあ良かった。だからそれほど酔っていないと思っていたのだが―――どうやらあの時既に、かなりたっぷりアルコールを摂取していたようだ。
「そうだよな。普段結構ちゃんとしてたもんな……お前」
一次会の後三好に声を掛け、すぐ傍にあった焼き鳥屋が空いていたので俯く三好を連れて暖簾を潜った。カウンターの端っこが空いていたので、串の盛り合わせと紫蘇焼酎のお湯割りを頼んで乾杯する。座った当初は俺に怒鳴れた恐怖からか、小さくなってチビリチビリと焼酎に口を付けていた三好だが、やがて緊張が解れて徐々にポツリポツリと目黒との関係や企画課について話し始めるようになった。
しかし一端口を開き始めると、心にため込んだ色んな物がまたしても爆発してしまったらしい。突然怒涛のように話しだしたのだ。
そして初めて俺は気が付いた。あ、コイツもうかなり酔っぱらってたんだな……と。
「え?何ですか?何でもない?そうですか……じゃあ話を戻しますけど……私だって嫌でしたよ。だけど仕事の決済握っているの比留間課長なんですもん。愛想悪くして企画握りつぶされたくないじゃないですか。だから笑顔くらい作りますよ、仕事ですもん。それに課長相手じゃ無くたって誰にだってニコニコしてましたよ、仕事ですもん。目黒にだってねぇー……昔はアイツとだって仲良かったんですよ、最初は。アイツだって愛想良かったんですよ、なのに比留間課長に私が構われるようになってから、目黒ったら掌返したように冷たくなって―――聞いてますかあ?亀田課長」
「うん、聞いてる」
―――フリをしている。
もう同じ話題が三巡目に突入したからだ。余程企画課では鬱憤を溜め込んでいたらしい。もしかして東常務はこういうのも込みで、異動を決めたのかもしれない、ふとそう思った。
「私ずっと企画やりたかったんですよ。希望も毎年出してて。この会社入ったのって、お菓子が好きだからなんですよ?そういう人多いかと思いますが。女子が喜ぶような飛び切りワクワクして、買ったら嫌な事一瞬で忘れるような―――そんな時間を演出するお菓子を作りたかったんですよ……! だからせっかく希望した部署に異動出来たんだから、一個でも企画通したくて―――飲み会で際どい冗談、比留間に言われても笑って耐えましたよ、私の企画が人質になってるんだから。『僕の好みだなぁ』とかゾワッとするような事言われてどうしたらいいんですか、笑うしかないでしょ?嫌われたら企画もボツですよ?? そしたらアイツ―――目黒、私が耐えに耐えて苦しんでいた事を、あんな風に勘違いしてしかも傷口を抉るような事言うなんて!」
「……」
「愛想は振りまいてましたけど、肩とか触られたらやんわりと逃げたりしてましたよ。勿論手を握られそうになったらサッとよけたり、一度なんかうっかりを装って太腿に触ろうとしましたからね、あの親父!それぐらい何だって思うかもしれませんけど、嫌だったんですよ!もうアラサーですけど、本当にそう言うの嫌で!我慢ならないんです!」
「あー、それは嫌だろうな……」
全く好みじゃない年上の女上司に、企画の決済を盾に迫られたらと思うと……虫唾が走る。
「分かってくれるんですか?! 亀田課長! 本当に?? うっ……亀田課長がそんな事言ってくれるなんてっ……」
大袈裟に言葉を詰まらせて感動する、三好。
顔を俯かせたまま無意識に焼酎に手を伸ばそうとするので、俺はサッと素早く焼酎を水と入れ替えた。これ以上飲んだらコイツ、倒れるかもしらん……と危機感を抱いたからだ。
「そりゃあ……俺を何だと思っているんだ?」
しかしコイツ、存外失礼だな。なぜこんなに俺のリアクションに大袈裟に驚くのだろう?
「だってこんな下らないセクハラさえ躱せずに振り回されて傷ついているなんて……アラサーなのに……それこそお前こそ下らないって、一笑に付されるかと……亀田課長は何があっても気にし無さそうですし……」
何だその印象は。俺は結構ナイーブだぞ?女に振られる度に毎回傷つくし、うっかり出世してから外野に嫌味を言われ、イライラして思わずボールペンをへし折ったりした事もある。会社の備品壊したって申告したくないから黙っているが。
それに女が苦手と言っても別に俺は女を見下している訳でも、セクハラを容認している訳でもない。男でも女でも仕事にキチンと向き合っている奴は評価しているつもりなんだが……。もしかして。あれか?あのイメージが定着している所為なのか……?
「それは……そう三好が言うのは、俺が『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』だからなのか……?」
「……」
三好は目をまん丸くして、俺の顔をしげしげと見上げた。
突然時が止まってしまったような沈黙に耐えられず、俺が発した台詞を後悔し始めた時。
「ぶっ……! な、何ですか! その、ピッタリ過ぎるネーミング?! ひょっとして渾名? いや、通り名? 通り名ですねっ! か、カッコイイーー!! は、嵌り過ぎっうぷぷっ! アッハハハ……!」
「……」
心底、後悔した。
酔っ払いはこれだから嫌だ。
だけど翌日、三好はその二次会の事を綺麗さっぱり忘れてしまったらしい。月曜日の朝、顔を合わせた時―――彼女は妙にケロリとしていた。
俺と飲んだ事自体は覚えていたらしく、「私……お金払いましたっけ」と恥ずかしそうに頭を掻きながら近づいて来た。
「いや、俺が誘ったんだから気にしなくて良い」
と言うと。恐縮して頭を下げつつ、ちょっと顔を近づけて俺に小さな声で囁いた。
「あの……全然覚えてないんですけど……私何か失礼な事……しませんでしたか?」
「……」
「……課長?」
された。思いッきし、爆笑された。
「いや」
俺が首を振ると―――ホッとした表情で三好は笑い、もう一度頭を下げて礼を言い机に戻って行った。
しかし俺は根に持っている。散々笑われ、あの仇名が似合う、ピッタリ……! と言われた事を。思い出されたく無いから口に出さなかっただけだ。
あの後傷ついた心を癒す為にどれだけウサギを補充したと思っているんだ! あんまりしつこくして、ミミに飽きられそうになったんだぞっ!―――完全に逆恨みかもしれないが、その日一日、三好の報告書に付くハンコを逆さに付く事を自分に許したのだった。自分って大人げないな、と改めて思った。
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