捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
54 / 375
捕獲されまして。<大谷視点>

30.既視感です。

しおりを挟む
そんなこんなで戦々恐々とした心持ちのまま、一日が過ぎた。本日の亀田課長は午後からの部長説明に向けて阿部さんや樋口さんと小会議室に籠って打合せに勤しんでいる。かと思うと昼休み休憩が半分過ぎたと思ったらコンビニで事前に購入していたらしいサンドイッチを齧りつつ書類に目を通し、休憩明け阿部さんを伴って課を飛び出して行った。

今朝私と亀田課長の遣り取りを見つめていた三好さんを見て以来、いつ昨日の発言を問い質されるかと戦々恐々としていたが、結局就業時間まで彼女から声を掛けられる事も無く一日を終える事となった。

やっぱり亀田課長が言っている事が正しかったのかなぁ。彼の方が断然三好さんと長く接して来たのだから、彼女の事を理解しているのは当然なのかもしれない。
きっと仕事も忙しいだろうし……プライベートの細かい事など、亀田課長の言う通りあまり長い間気にしていられないと言うのが現実なのかも。それに元々三好さんが亀田課長を男性として好きかもしれない、というのも私の勝手な憶測だ。後ろ暗い気持ちがあるから余計にビクビクしてしまって、そんな風にしか受け取れなかったんだ、きっと。それに私は亀田課長と付き合っているわけじゃない、私達の関係に名前を付けるとすれば―――そう、ただの『ウサトモ』だ。共通の趣味があるから話ができるだけ。三好さんは亀田課長を尊敬しているから、つい気になって私を問い詰めたけど―――亀田課長と私の間に甘やかな雰囲気が無いのは、誰の目にだって明らかだ。昨日の私の不自然さを彼女が改めて問い質すのでは、という私の怖れはただの杞憂だったに違いない。

ロッカーから鞄と上着を取り出し、課内に残っている人達にお辞儀をしてエレベーターに乗り込んだ。亀田課長と阿部さんは部長説明が長引いているのか、それとも他の用事の所為かまだ席に戻ってもいなかった。

そんなワケで私はすっかり肩の力を抜いて一階に到達したエレベーターから上機嫌で踏み出したのだが―――エントランスの半ばの所で、立ち竦んでこちらを見ている三好さんに、あっさり捕まってしまったのだった。ひー!







「み、三好さん……あれ?課を出た時はまだ座ってましたよね」
「え?ああ、あの後直ぐに出たの。私の乗ったエレベーターは他の階に停まらなかったから、先に着いちゃったのかな」

そう言えば私の乗っていたエレベーターは、やたらと各階に停まっていた。エレベーター四つあるもんね。そう言う事もあるよね……。

結局私は直ぐに捕まって、コーヒーショップに連行されてしまった。必死で断ろうと思ったのに私があうあう言っている間に、巧みな言葉で三好さんは私を連れ込む事に成功した。流石できる営業は違うと……冷や汗を掻きつつも感心せずにはいられなかった。

「ねえ、何故昨日嘘を吐いたの?」
「え……っ、う、嘘?」

やっぱバレてた?!そりゃそうだよねー、違和感ありまくりだもの。
私は挙動不審に視線を彷徨わせた。一方で三好さんはむしろ穏やかな声音で私を追い詰めて行く。

「昨日ね、私あれから駅で二人を見掛けたの」
「えっ……」
「肩なんか抱いて、一緒に帰って行ったでしょう?亀田課長の家はあの改札を使わない筈。だから昨日……二人で何処かに出掛けたの?それとも……」

言葉を切った後暫し沈黙する三好さん。
その所為で私の心臓がドクドクと音を立てているのが、妙に五月蠅く響いて来る。
『肩なんか抱いて』って……そんな筈……あっあれか、亀田課長に猫背を直されたやつ?その後うータンの事を心配した彼に激しく揺さぶられたっけ。あれがそんな風に三好さんの目に映ったのだろうか。
すると三好さんが目を細めて呟いた。

「……大谷さんの家にでも行ったのかしら」
「そっそれは……」
「嘘だったんでしょう?私が考えた通り、二人は付き合っているの?亀田課長が貴女の友達と親しいなんて嘘を何故吐いたの?親しいのは―――大谷さんと課長なんでしょう?」
「えっと、ええと……」

明らかに動揺してますって態度の私を、身を乗り出してジイっと見つめる三好さん。私の頭の中はどうすべきかって事より、とにかくここから逃げ出したいって事で一杯だった。だって、怖いんだもん……!

「それくらいにしてくれ、三好」

低い声が響いて、私達は弾かれたように顔を上げた。
集中し過ぎて二人とも周りが見えていなかった。鞄を片手に抱え、片っぽの手をポケットに入れた銀縁眼鏡の背の高い男が、静かな表情で私達を見下ろしていた。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...