68 / 375
捕獲されまして。<大谷視点>
44.帰ります。
しおりを挟む
結局最後まで大喜利を楽しんで笑い、おじいちゃんが作った野菜を沢山お土産に受け取って、レンタカーに乗り込んだ。
車を走らせる亀田課長の隣で、ふと疑問に思ったので尋ねてみる。
「そう言えば亀田課長のおばあさまって、今お独りで暮らしているんですか?」
「いや、もう亡くなった」
「えっ……あ、すいません」
慌てて私は謝った。辛いことを思い出させてしまったかもしれない。
すると亀田課長は前を見たまま静かに笑った。
「別に謝る事は無い。もう随分昔の事だ、就職してすぐ後の話だし」
私が何と返事をして良いか逡巡していると、亀田課長は少し笑いを含んだ口調で続けた。
「子供の頃に両親も事故で亡くしてな、祖母が親代わりで俺を育ててくれたんだ。―――だから今日は楽しかったよ、大谷のおじいさんと一緒にご飯を食べたりテレビを見たりして、祖母と暮らしていた時の事を思い出した」
「……」
「大谷?」
思わず喉元まで何かが込み上げて来た。
でもそれは駄目だ……!と、ぐっと堪える。
私が泣いてなんになる。返って気を使わせてしまうだけなのに!
根性で昏い気分を振り払って、私はシッカリと声を張って口を開いた。
「……でも、今日は吃驚しましたよー。まさか課長が『笑天』好きだなんて!テレビを全く見ないって聞いても驚きませんけど、お笑い系見て笑うなんて想像していませんでしたから」
「お前、本当に俺に対して遠慮しなくなったな」
言い方はぶっきらぼうだが、声の調子から亀田課長が別に気を悪くしていないって言うのは伝わって来る。だから私は少々図に乗ってしまった。
「だって、散々課長とうータンの絡み見させられてますからねー。でも今でも職場の課長見てたらあれは夢だったんじゃないかって、本気で思う事ありますよ。『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』がピッタリですもん」
「……」
あ、黙ってしまった!
私は慌てて、フォローの言葉を重ねる。
「で、でもですねー。職場でももうちょっと地と言うか……プライベートの課長を見せても良いんじゃないですか?私も課長の普段を知ってから、苦手意識が薄まりましたし」
「……切り替えが苦手なんだよ。仕事の時に集中が切れると、なかなか元に戻れない」
不器用か……!そう言う事ね。うん、何となくそんな予感はしていたけど。
「まあでも課長、飲み会では雰囲気変わりますよね。職場では全く笑わないけど、仕事場以外では結構笑顔を見せてくれるんだなって、ホッとしますよ」
「え?職場と飲み会でそんなに違うか?」
「違いますよー、飲み会の時はちょっと近寄り難さが薄れますもん」
「近寄り難い……か」
あ!また何か言葉選び間違ったかな?そう言えば、意外と気にしがちな性格なんだったっけ、亀田課長って。
「あ!でもですねー、仕事では信頼できますし……そのー、阿部さんとか目黒さんとか皆、課長の事尊敬してるって感じで纏まってますし。三好さんも言ってましたよ、前の課長はセクハラで性格も悪くて大変だったけど、亀田課長は尊敬できるって……」
其処まで言ってから、ハッと息を飲む。あああっ、よりによって、三好さんを出してしまったっ!うわ~~、どうしよう、これ以上フォローが浮かばない……。
「三好か……」
フッと自嘲的に亀田課長が嗤った。
「もう三好の中で俺は『セクハラ課長』確定だけどな」
「え、えーと……それは誤解ですし……」
やっぱ結構気にしてたのね。職場では普通に見えたけど。せっかく今日は『うさぎ尽くし』で課長の気分を上向かせる事に成功したと思ったら。……うっかりまた嫌な事を思い出させてしまった。
うーん、うーん、うーん。
私は考えた。考えて考えて……ピーン!とある考えが脳裏に閃いた。
しかしそれを口に出して良い物か……私は迷ってしまう。しかし―――とうとう私はゴクリとおじいちゃんにお土産に貰ったペットボトルのお茶の蓋を開けて一口飲み、喉を湿らせた。
「『合意』にしちゃえばいいんじゃないですか」
「え?」
「一方的と言うのは最初だけですし、結局ウチに亀田課長を上げたのは私も合意した事ですし、ちゃんとプライベートで……な、仲が良いんだって……三好さんに言ったらいいと思います」
『仲が良い』なんて口にするのが恥ずかしくてつい、どもってしまう。しかし天然課長は勿論そんな私のドギマギには気付かずスルー。疑わし気にこう呟いただけだった。
「聞く耳持つかな」
うん、確かにそれはちょっと心配だけど。
「私がちゃんと言います。元はと言えば私が下手な言い訳したのが原因ですし―――三好さん、真剣に話せばわかってくれる人だと思いますから」
「しかし……なら、やっぱり俺から言った方が」
「うーん、課長はちゃんとこの間本音を伝えたと思うんですよね、今改めて考えると。―――私は……実は本音を言って無かったなって、気が付いたんです」
「お前の本音?」
「はい」
そう、私は伝えていなかった。
自分の本音を押し隠して―――だから三好さんは不信感を抱いたんだ。
そして、今日。私は自分の本音に、気が付いてしまったのだ。
車を走らせる亀田課長の隣で、ふと疑問に思ったので尋ねてみる。
「そう言えば亀田課長のおばあさまって、今お独りで暮らしているんですか?」
「いや、もう亡くなった」
「えっ……あ、すいません」
慌てて私は謝った。辛いことを思い出させてしまったかもしれない。
すると亀田課長は前を見たまま静かに笑った。
「別に謝る事は無い。もう随分昔の事だ、就職してすぐ後の話だし」
私が何と返事をして良いか逡巡していると、亀田課長は少し笑いを含んだ口調で続けた。
「子供の頃に両親も事故で亡くしてな、祖母が親代わりで俺を育ててくれたんだ。―――だから今日は楽しかったよ、大谷のおじいさんと一緒にご飯を食べたりテレビを見たりして、祖母と暮らしていた時の事を思い出した」
「……」
「大谷?」
思わず喉元まで何かが込み上げて来た。
でもそれは駄目だ……!と、ぐっと堪える。
私が泣いてなんになる。返って気を使わせてしまうだけなのに!
根性で昏い気分を振り払って、私はシッカリと声を張って口を開いた。
「……でも、今日は吃驚しましたよー。まさか課長が『笑天』好きだなんて!テレビを全く見ないって聞いても驚きませんけど、お笑い系見て笑うなんて想像していませんでしたから」
「お前、本当に俺に対して遠慮しなくなったな」
言い方はぶっきらぼうだが、声の調子から亀田課長が別に気を悪くしていないって言うのは伝わって来る。だから私は少々図に乗ってしまった。
「だって、散々課長とうータンの絡み見させられてますからねー。でも今でも職場の課長見てたらあれは夢だったんじゃないかって、本気で思う事ありますよ。『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』がピッタリですもん」
「……」
あ、黙ってしまった!
私は慌てて、フォローの言葉を重ねる。
「で、でもですねー。職場でももうちょっと地と言うか……プライベートの課長を見せても良いんじゃないですか?私も課長の普段を知ってから、苦手意識が薄まりましたし」
「……切り替えが苦手なんだよ。仕事の時に集中が切れると、なかなか元に戻れない」
不器用か……!そう言う事ね。うん、何となくそんな予感はしていたけど。
「まあでも課長、飲み会では雰囲気変わりますよね。職場では全く笑わないけど、仕事場以外では結構笑顔を見せてくれるんだなって、ホッとしますよ」
「え?職場と飲み会でそんなに違うか?」
「違いますよー、飲み会の時はちょっと近寄り難さが薄れますもん」
「近寄り難い……か」
あ!また何か言葉選び間違ったかな?そう言えば、意外と気にしがちな性格なんだったっけ、亀田課長って。
「あ!でもですねー、仕事では信頼できますし……そのー、阿部さんとか目黒さんとか皆、課長の事尊敬してるって感じで纏まってますし。三好さんも言ってましたよ、前の課長はセクハラで性格も悪くて大変だったけど、亀田課長は尊敬できるって……」
其処まで言ってから、ハッと息を飲む。あああっ、よりによって、三好さんを出してしまったっ!うわ~~、どうしよう、これ以上フォローが浮かばない……。
「三好か……」
フッと自嘲的に亀田課長が嗤った。
「もう三好の中で俺は『セクハラ課長』確定だけどな」
「え、えーと……それは誤解ですし……」
やっぱ結構気にしてたのね。職場では普通に見えたけど。せっかく今日は『うさぎ尽くし』で課長の気分を上向かせる事に成功したと思ったら。……うっかりまた嫌な事を思い出させてしまった。
うーん、うーん、うーん。
私は考えた。考えて考えて……ピーン!とある考えが脳裏に閃いた。
しかしそれを口に出して良い物か……私は迷ってしまう。しかし―――とうとう私はゴクリとおじいちゃんにお土産に貰ったペットボトルのお茶の蓋を開けて一口飲み、喉を湿らせた。
「『合意』にしちゃえばいいんじゃないですか」
「え?」
「一方的と言うのは最初だけですし、結局ウチに亀田課長を上げたのは私も合意した事ですし、ちゃんとプライベートで……な、仲が良いんだって……三好さんに言ったらいいと思います」
『仲が良い』なんて口にするのが恥ずかしくてつい、どもってしまう。しかし天然課長は勿論そんな私のドギマギには気付かずスルー。疑わし気にこう呟いただけだった。
「聞く耳持つかな」
うん、確かにそれはちょっと心配だけど。
「私がちゃんと言います。元はと言えば私が下手な言い訳したのが原因ですし―――三好さん、真剣に話せばわかってくれる人だと思いますから」
「しかし……なら、やっぱり俺から言った方が」
「うーん、課長はちゃんとこの間本音を伝えたと思うんですよね、今改めて考えると。―――私は……実は本音を言って無かったなって、気が付いたんです」
「お前の本音?」
「はい」
そう、私は伝えていなかった。
自分の本音を押し隠して―――だから三好さんは不信感を抱いたんだ。
そして、今日。私は自分の本音に、気が付いてしまったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる