捕獲されました。

ねがえり太郎

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捕獲されまして。<大谷視点>

44.帰ります。

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結局最後まで大喜利を楽しんで笑い、おじいちゃんが作った野菜を沢山お土産に受け取って、レンタカーに乗り込んだ。
車を走らせる亀田課長の隣で、ふと疑問に思ったので尋ねてみる。

「そう言えば亀田課長のおばあさまって、今お独りで暮らしているんですか?」
「いや、もう亡くなった」
「えっ……あ、すいません」

慌てて私は謝った。辛いことを思い出させてしまったかもしれない。
すると亀田課長は前を見たまま静かに笑った。

「別に謝る事は無い。もう随分昔の事だ、就職してすぐ後の話だし」

私が何と返事をして良いか逡巡していると、亀田課長は少し笑いを含んだ口調で続けた。

「子供の頃に両親も事故で亡くしてな、祖母が親代わりで俺を育ててくれたんだ。―――だから今日は楽しかったよ、大谷のおじいさんと一緒にご飯を食べたりテレビを見たりして、祖母と暮らしていた時の事を思い出した」
「……」
「大谷?」

思わず喉元まで何かが込み上げて来た。
でもそれは駄目だ……!と、ぐっとこらえる。
私が泣いてなんになる。返って気を使わせてしまうだけなのに!
根性で昏い気分を振り払って、私はシッカリと声を張って口を開いた。

「……でも、今日は吃驚しましたよー。まさか課長が『笑天』好きだなんて!テレビを全く見ないって聞いても驚きませんけど、お笑い系見て笑うなんて想像していませんでしたから」
「お前、本当に俺に対して遠慮しなくなったな」

言い方はぶっきらぼうだが、声の調子から亀田課長が別に気を悪くしていないって言うのは伝わって来る。だから私は少々図に乗ってしまった。

「だって、散々課長とうータンの絡み見させられてますからねー。でも今でも職場の課長見てたらあれは夢だったんじゃないかって、本気で思う事ありますよ。『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』がピッタリですもん」
「……」

あ、黙ってしまった!
私は慌てて、フォローの言葉を重ねる。

「で、でもですねー。職場でももうちょっと地と言うか……プライベートの課長を見せても良いんじゃないですか?私も課長の普段を知ってから、苦手意識が薄まりましたし」
「……切り替えが苦手なんだよ。仕事の時に集中が切れると、なかなか元に戻れない」

不器用か……!そう言う事ね。うん、何となくそんな予感はしていたけど。

「まあでも課長、飲み会では雰囲気変わりますよね。職場では全く笑わないけど、仕事場以外では結構笑顔を見せてくれるんだなって、ホッとしますよ」
「え?職場と飲み会でそんなに違うか?」
「違いますよー、飲み会の時はちょっと近寄りがたさが薄れますもん」
「近寄り難い……か」

あ!また何か言葉選び間違ったかな?そう言えば、意外と気にしがちな性格なんだったっけ、亀田課長って。

「あ!でもですねー、仕事では信頼できますし……そのー、阿部さんとか目黒さんとか皆、課長の事尊敬してるって感じで纏まってますし。三好さんも言ってましたよ、前の課長はセクハラで性格も悪くて大変だったけど、亀田課長は尊敬できるって……」

其処まで言ってから、ハッと息を飲む。あああっ、よりによって、三好さんを出してしまったっ!うわ~~、どうしよう、これ以上フォローが浮かばない……。

「三好か……」

フッと自嘲的に亀田課長が嗤った。

「もう三好の中で俺は『セクハラ課長』確定だけどな」
「え、えーと……それは誤解ですし……」

やっぱ結構気にしてたのね。職場では普通に見えたけど。せっかく今日は『うさぎ尽くし』で課長の気分を上向かせる事に成功したと思ったら。……うっかりまた嫌な事を思い出させてしまった。

うーん、うーん、うーん。

私は考えた。考えて考えて……ピーン!とある考えが脳裏に閃いた。
しかしそれを口に出して良い物か……私は迷ってしまう。しかし―――とうとう私はゴクリとおじいちゃんにお土産に貰ったペットボトルのお茶の蓋を開けて一口飲み、喉を湿らせた。

「『合意』にしちゃえばいいんじゃないですか」
「え?」
「一方的と言うのは最初だけですし、結局ウチに亀田課長を上げたのは私も合意した事ですし、ちゃんとプライベートで……な、仲が良いんだって……三好さんに言ったらいいと思います」

『仲が良い』なんて口にするのが恥ずかしくてつい、どもってしまう。しかし天然課長は勿論そんな私のドギマギには気付かずスルー。疑わし気にこう呟いただけだった。

「聞く耳持つかな」

うん、確かにそれはちょっと心配だけど。

「私がちゃんと言います。元はと言えば私が下手な言い訳したのが原因ですし―――三好さん、真剣に話せばわかってくれる人だと思いますから」
「しかし……なら、やっぱり俺から言った方が」
「うーん、課長はちゃんとこの間本音を伝えたと思うんですよね、今改めて考えると。―――私は……実は本音を言って無かったなって、気が付いたんです」
「お前の本音?」
「はい」

そう、私は伝えていなかった。
自分の本音を押し隠して―――だから三好さんは不信感を抱いたんだ。

そして、今日。私は自分の本音に、気が付いてしまったのだ。

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