捕獲されました。

ねがえり太郎

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捕獲されまして。<大谷視点>

46.お願いしました。

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「大谷、うータンのブラッシングをしても良いか?」
「お願いしてもいいですか?」
「勿論。うータン待ってろよ?今もっと綺麗にしてやるからな~」

ブラッシング用のタオルを渡すと、課長は本日ペットショップでお土産に購入したゴム製のスリッカーズを既に取り出していた。慣れた仕草でうータンを捕まえひっくり返す。裏返されてあられも無い格好で固まっているうータンを見た私は目を細めて、思わずニヤリとした。

「フフフ……うータン、抵抗しても無駄なのだよ」
「お前、思いっきり悪い顔しているな」
「なーんか、嗜虐心をそそるんですよね~、うータンのこの格好」

偶然なのだろうけど、前足が合わさってしまい、まるで両手を合わせて懇願しているように見えるのだ。

「まるで『お願いだから、ヤメテ~!』って言ってるみたいじゃないですか?」

ブッと亀田課長が噴き出した。彼にもやはりそんな風に見えるらしい。

「うータン、なあ……ヒドイ飼い主だな、お前の飼い主」
「なっ、課長!自分だって笑っておいて良い子ぶらないで下さい!」
「俺はお前のような趣味は持ち合わせていない」

そう言いながらも、ククク……と忍び笑いを隠さない。

「酷いですね、私だって嗜虐趣味なんかありませんよ」

ムッとして私が腕組みをすると、課長はますます可笑し気に声を上げて笑った。

「ハハハ……お前、若い娘が言う台詞じゃないだろ、それ」

何だとー!どうせ処女のくせに耳年増ですよっ!

「若いって言ってももう、アラサーですからね」
「『アラサー』って。お前、まだ確か二十六だろ」

私に言葉を返しながらも、課長は優しい眼差しを向け慣れた手際でうータンの毛を梳いて行く。うーん、結構器用ですな。これは女性の扱いも相当上手なのでは……ゲフンゲフン。まあ、私ったらお行儀の悪い。ついつい課長の骨ばった大きな手を食い入るように見つめてしまった。指の形が綺麗だなぁ……なんて、しょうもない事をボンヤリ考えてしまう。



「大谷?」



気が付くと、黙り込んだ私の顔を課長が覗き込んでいた。うータンは綺麗にグルーミングされて解放され、サッパリした様子で耳の後ろを後足あとあしでカリカリ搔いている。

「疲れたのか?ちょっと顔が赤いぞ?」
「え?あ、いいえ……!あ、課長、うータンが顔洗ってますよ!」

私は照れ隠しにうータンを指さした。

うータンは両前足をペロペロ舐めてから自らの顔をしごくように洗い出した。自分でも毛繕いをしないではいられないのだろう。念入りに顔を洗う仕草を繰り返し、それから長い耳を両前足で挟み込み、丹念に手入れし始めた。

これがまた、特別可愛いんだよなぁあ~~。私はウットリと目を細める。

ちなみにこの耳を洗う仕草はうさぎ飼いの間では『テ○モテする』と呼ばれている。昔大層流行ったシャンプーの名前から取った造語で、何でもモデルさんがそのシャンプーで髪を洗うCMが大流行したそうだ。うさぎが耳を毛づくろいする仕草が、そのモデルさんの髪を洗う仕草を彷彿とさせると言うのでそう言う呼び方になったそうな。

「課長、ティ○テのCM見た事ありますか」
「テレビでは見た記憶が無いが、ネットでうさぎの事を調べている時に見たな。お前俺を幾つだと思っているんだ?あれ、かなり古いだろう」
「え?被ってますよね。てっきりリアルタイムで見ているのかと……」
「……まあ、あまりテレビを見ない子供ではあったな」
「やっぱし」
「何だ?」
「いいえ、何も」

課長がギロリと私を睨んだ。ふふーん、もう怖くないもんね!睨まれたって。

「あーでも、やっぱうさぎの毛繕いは最高ですね~。ずうっと見ていたくなっちゃう!」
「それは同感だな」

そう言って二人で並んでうータンの毛繕いをしばし眺めた。暫くそのまま無言でその愛らしい光景を眺めていたのだが、課長が僅かに身じろぎをし腕時計をチラリと見て首を振った。

「……もう遅いな。名残惜しいがそろそろ出た方が良いな」

珍しく課長から『帰る』と言う言葉が出て来た。これまでずっと私が追い出すまで、居座っていたくせに。何だかいつもより早めな気がする。私は驚きでついパチクリと瞬きを繰り返してしまった。すると亀田課長は私に向き直り、真面目な顔で呟くようにこう言ったのだ。

「大谷、今日は有難うな。俺が気落ちしているから、元気づけようとしてくれたんだろ?」
「あ、えっと」

バレバレでしたか。そうだよね、あからさまな『うさぎツアー』だったもんね。色々想定外な事は多かったけど。

課長は目を細めて私の頭に大きな手を伸ばして来た。ポンポンと優しく撫でられる。その時の課長の柔らかい表情を見て―――私はある記憶を呼び覚ましていた。

あの時、自販機前の休憩スペースで失敗して落ち込んでいる私を慰めてくれた。立ち去る前、最後に亀田課長がポンと頭を優しく叩いてくれた時、俯いている私には彼がどんな表情かおをしているのかなんて、全く分からなかった……。



こんな優しい……表情かおをしていたんだ。

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