107 / 375
捕まった後のお話
17.どうかしています。 <亀田>
しおりを挟む
「大丈夫ですよ、辻さん良い人ですから。あまりお喋りをしないから何を考えているか分からない所はありますけど」
そういう意味で心配しているのではないのだが。
辻が悪い奴ではないと言う意見には同意しかないのだが……大谷が他の男を褒めていると思うと何だか少し面白く無い。って、最近の俺は全くどうかしているな。
心ここに在らず、と言った風情の大谷が何を考えているのか気に掛かった。アイスが溶けて零れそうになるまで口に入れない大谷なんて、違和感しか抱けない。今日の午前中仕事の遣り取りをした時は普通だったと思う。直接顔を合わせて話すのは、それ以来で―――大谷に何かあったとしたら、小会議室で辻と仕事をしていたあの出来事くらいしか思い浮かばない。うータンに何か……と言うのも少し考えてみたが、例えばもし帰宅した後うータンに何かあったのなら、大谷はそもそもこの部屋に遊びに来ていないだろうとその可能性は頭から追い出した。
「そうか……何か気に掛かっている事があるように見えるのだが」
大谷がグッと詰まってスプーンをアイスのカップの上に置いた。
「いえいえいえ!め、滅相もないっ……!」
そして一拍置いて拝むように顔の前に手刀を上げ、ブンブンブンと勢いよく左右に振りつつ割と強く否定を表した。そうなのだろうか、何かあると感じたのは女心の読めない俺の考え過ぎだったのか?
「あの……話は変わりますけど……」
すると気まずげに大谷は話題の転換を図り出した。
「何だ?」
「……昨日私『こじま屋』で定食を食べたんですよ」
「一人で?」
「ええ、ちょうど帰り道だったので」
随分話が飛ぶな。しかしそれなら俺も一緒に顔を出したかったな。……と言っても昨日は三好に話があると言われて別の店へ連れて行ったんだった。そう言えばこじま屋は焼き鳥屋の二軒隣だ、じゃあもしかして俺が焼き鳥屋に居た時、大谷はその辺りにいたと言う事だろうか。
「それで、課長が三好さんと一緒に焼き鳥屋さんに入る所を目にしまして」
「なんだ、こっちは気付かなかったぞ。声を掛けてくれれば良かったのに」
「う……あの……お邪魔かと思いまして」
派遣社員だから正社員同士の食事に混ざるのを遠慮した、と言う事だろうか。
「別に気を使わなくても……」
と其処まで言い掛けて、ハタと三好との会話の内容を思い出した。いや、大谷がいない方が良かったかもしれない。三好は俺に謝罪するのも精一杯、と言う様子だった。きっと俺達二人に一遍に対面するのは気まずかったのだろう。俺なら面倒な事は纏めて済ませたいと思ってしまうが……女にはきっと色々考える所があるのだろうな。俺も今回大谷と付き合うまでの道のりで少しは学んだのだ―――女性は男性と違う次元で物を捕らえ、考えている事もあるのだと。そして例え男勝りに見えても三好も一応、女性だ。女性の情緒は男とは似て非なるものらしいしな。あの時、気持ちの整理を付けて改めて自分から大谷に謝罪する、と三好は言った。……なら、急かさずにそれを待つしかないのだろう。
「結構遅くまで……飲んだんですか?」
「え?」
「あのっ……その……お疲れかなぁって。今日も残業なのに無理矢理お邪魔しちゃって。ご迷惑じゃなかったかな、なんて」
なるほど。大谷は俺に迷惑を掛けていないかを気に掛けていたのか。
そう言えば、と思い起こす。俺はメールで、ごく事務的な返答文しか送っていなかった。改めて考えると、俺が無理に大谷の要望に合わせたのだと誤解しても仕方が無い文面だったかもしれない。
大谷はこれでいて結構気を遣う性質だからな。うん、今後はもう少し『来てほしい』とか『来てもらえると嬉しい』などと言う俺の気持ちを加味した文言を追加した方が良いかもしれない。大谷にいらぬ心配を掛けぬ為にも。―――しかし、俺にそんな軟派なメール……打てるのだろうか?努力しなければならないのかもしれないが……少し自信がない。どうにも照れくさくなってしまう気がする。
と言うように内心忙しく大谷に対する対応をあれこれ考えつつ、素直にそれを表せない俺は、結局通り一辺倒の返事を返す事しか出来なかった。
「いや?ちょっとだけ飲んで帰った。ああでも……」
「な、なんですか?」
「外回りから帰った目黒が、後から参加したからな。俺は早めに抜けたが、目黒と三好はまだ飲んで行くと言って残ったから―――あいつらがいつまで居たかはわからんな」
「え……」
大谷が目を丸くして、口を噤んだ。
「どうした?」
「い、いいええ!なにも……ああっ!アイスがっ……溶けちゃう!」
カップの中でアイスが溶けかけている。大谷は慌てて勢い良くアイスを食べだした。
大谷が挙動不審だ。
いや、大谷が挙動不審なのは初期設定か……。
しかしとにかく。辻と大谷の間に何もなくて良かった。まあ、そうだろうなとは思ってはいたが……。
俺はホッと胸を撫でおろし、ごま胡桃味のアイスの残りをペロリと平らげたのだった。
そういう意味で心配しているのではないのだが。
辻が悪い奴ではないと言う意見には同意しかないのだが……大谷が他の男を褒めていると思うと何だか少し面白く無い。って、最近の俺は全くどうかしているな。
心ここに在らず、と言った風情の大谷が何を考えているのか気に掛かった。アイスが溶けて零れそうになるまで口に入れない大谷なんて、違和感しか抱けない。今日の午前中仕事の遣り取りをした時は普通だったと思う。直接顔を合わせて話すのは、それ以来で―――大谷に何かあったとしたら、小会議室で辻と仕事をしていたあの出来事くらいしか思い浮かばない。うータンに何か……と言うのも少し考えてみたが、例えばもし帰宅した後うータンに何かあったのなら、大谷はそもそもこの部屋に遊びに来ていないだろうとその可能性は頭から追い出した。
「そうか……何か気に掛かっている事があるように見えるのだが」
大谷がグッと詰まってスプーンをアイスのカップの上に置いた。
「いえいえいえ!め、滅相もないっ……!」
そして一拍置いて拝むように顔の前に手刀を上げ、ブンブンブンと勢いよく左右に振りつつ割と強く否定を表した。そうなのだろうか、何かあると感じたのは女心の読めない俺の考え過ぎだったのか?
「あの……話は変わりますけど……」
すると気まずげに大谷は話題の転換を図り出した。
「何だ?」
「……昨日私『こじま屋』で定食を食べたんですよ」
「一人で?」
「ええ、ちょうど帰り道だったので」
随分話が飛ぶな。しかしそれなら俺も一緒に顔を出したかったな。……と言っても昨日は三好に話があると言われて別の店へ連れて行ったんだった。そう言えばこじま屋は焼き鳥屋の二軒隣だ、じゃあもしかして俺が焼き鳥屋に居た時、大谷はその辺りにいたと言う事だろうか。
「それで、課長が三好さんと一緒に焼き鳥屋さんに入る所を目にしまして」
「なんだ、こっちは気付かなかったぞ。声を掛けてくれれば良かったのに」
「う……あの……お邪魔かと思いまして」
派遣社員だから正社員同士の食事に混ざるのを遠慮した、と言う事だろうか。
「別に気を使わなくても……」
と其処まで言い掛けて、ハタと三好との会話の内容を思い出した。いや、大谷がいない方が良かったかもしれない。三好は俺に謝罪するのも精一杯、と言う様子だった。きっと俺達二人に一遍に対面するのは気まずかったのだろう。俺なら面倒な事は纏めて済ませたいと思ってしまうが……女にはきっと色々考える所があるのだろうな。俺も今回大谷と付き合うまでの道のりで少しは学んだのだ―――女性は男性と違う次元で物を捕らえ、考えている事もあるのだと。そして例え男勝りに見えても三好も一応、女性だ。女性の情緒は男とは似て非なるものらしいしな。あの時、気持ちの整理を付けて改めて自分から大谷に謝罪する、と三好は言った。……なら、急かさずにそれを待つしかないのだろう。
「結構遅くまで……飲んだんですか?」
「え?」
「あのっ……その……お疲れかなぁって。今日も残業なのに無理矢理お邪魔しちゃって。ご迷惑じゃなかったかな、なんて」
なるほど。大谷は俺に迷惑を掛けていないかを気に掛けていたのか。
そう言えば、と思い起こす。俺はメールで、ごく事務的な返答文しか送っていなかった。改めて考えると、俺が無理に大谷の要望に合わせたのだと誤解しても仕方が無い文面だったかもしれない。
大谷はこれでいて結構気を遣う性質だからな。うん、今後はもう少し『来てほしい』とか『来てもらえると嬉しい』などと言う俺の気持ちを加味した文言を追加した方が良いかもしれない。大谷にいらぬ心配を掛けぬ為にも。―――しかし、俺にそんな軟派なメール……打てるのだろうか?努力しなければならないのかもしれないが……少し自信がない。どうにも照れくさくなってしまう気がする。
と言うように内心忙しく大谷に対する対応をあれこれ考えつつ、素直にそれを表せない俺は、結局通り一辺倒の返事を返す事しか出来なかった。
「いや?ちょっとだけ飲んで帰った。ああでも……」
「な、なんですか?」
「外回りから帰った目黒が、後から参加したからな。俺は早めに抜けたが、目黒と三好はまだ飲んで行くと言って残ったから―――あいつらがいつまで居たかはわからんな」
「え……」
大谷が目を丸くして、口を噤んだ。
「どうした?」
「い、いいええ!なにも……ああっ!アイスがっ……溶けちゃう!」
カップの中でアイスが溶けかけている。大谷は慌てて勢い良くアイスを食べだした。
大谷が挙動不審だ。
いや、大谷が挙動不審なのは初期設定か……。
しかしとにかく。辻と大谷の間に何もなくて良かった。まあ、そうだろうなとは思ってはいたが……。
俺はホッと胸を撫でおろし、ごま胡桃味のアイスの残りをペロリと平らげたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。
後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。
香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。
一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。
しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王弟が愛した娘 —音に響く運命—
Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、
ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。
互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。
だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、
知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。
人の生まれは変えられない。
それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。
セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも――
キャラ設定・世界観などはこちら
↓
https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる