捕獲されました。

ねがえり太郎

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捕まった後のお話 

17.どうかしています。 <亀田>

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「大丈夫ですよ、辻さん良い人ですから。あまりお喋りをしないから何を考えているか分からない所はありますけど」

そういう意味で心配しているのではないのだが。
辻が悪い奴ではないと言う意見には同意しかないのだが……大谷が他の男を褒めていると思うと何だか少し面白く無い。って、最近の俺は全くどうかしているな。
心ここに在らず、と言った風情の大谷が何を考えているのか気に掛かった。アイスが溶けて零れそうになるまで口に入れない大谷なんて、違和感しか抱けない。今日の午前中仕事の遣り取りをした時は普通だったと思う。直接顔を合わせて話すのは、それ以来で―――大谷に何かあったとしたら、小会議室で辻と仕事をしていたあの出来事くらいしか思い浮かばない。うータンに何か……と言うのも少し考えてみたが、例えばもし帰宅した後うータンに何かあったのなら、大谷はそもそもこの部屋に遊びに来ていないだろうとその可能性は頭から追い出した。

「そうか……何か気に掛かっている事があるように見えるのだが」

大谷がグッと詰まってスプーンをアイスのカップの上に置いた。

「いえいえいえ!め、滅相もないっ……!」

そして一拍置いて拝むように顔の前に手刀を上げ、ブンブンブンと勢いよく左右に振りつつ割と強く否定を表した。そうなのだろうか、何かあると感じたのは女心の読めない俺の考え過ぎだったのか?

「あの……話は変わりますけど……」

すると気まずげに大谷は話題の転換を図り出した。

「何だ?」
「……昨日私『こじま屋』で定食を食べたんですよ」
「一人で?」
「ええ、ちょうど帰り道だったので」

随分話が飛ぶな。しかしそれなら俺も一緒に顔を出したかったな。……と言っても昨日は三好に話があると言われて別の店へ連れて行ったんだった。そう言えばこじま屋は焼き鳥屋の二軒隣だ、じゃあもしかして俺が焼き鳥屋に居た時、大谷はその辺りにいたと言う事だろうか。

「それで、課長が三好さんと一緒に焼き鳥屋さんに入る所を目にしまして」
「なんだ、こっちは気付かなかったぞ。声を掛けてくれれば良かったのに」
「う……あの……お邪魔かと思いまして」

派遣社員だから正社員同士の食事に混ざるのを遠慮した、と言う事だろうか。

「別に気を使わなくても……」

と其処まで言い掛けて、ハタと三好との会話の内容を思い出した。いや、大谷がいない方が良かったかもしれない。三好は俺に謝罪するのも精一杯、と言う様子だった。きっと俺達二人に一遍に対面するのは気まずかったのだろう。俺なら面倒な事は纏めて済ませたいと思ってしまうが……女にはきっと色々考える所があるのだろうな。俺も今回大谷と付き合うまでの道のりで少しは学んだのだ―――女性は男性と違う次元で物を捕らえ、考えている事もあるのだと。そして例え男勝りに見えても三好も一応、女性だ。女性の情緒は男とは似て非なるものらしいしな。あの時、気持ちの整理を付けて改めて自分から大谷に謝罪する、と三好は言った。……なら、急かさずにそれを待つしかないのだろう。

「結構遅くまで……飲んだんですか?」
「え?」
「あのっ……その……お疲れかなぁって。今日も残業なのに無理矢理お邪魔しちゃって。ご迷惑じゃなかったかな、なんて」

なるほど。大谷は俺に迷惑を掛けていないかを気に掛けていたのか。
そう言えば、と思い起こす。俺はメールで、ごく事務的な返答文しか送っていなかった。改めて考えると、俺が無理に大谷の要望に合わせたのだと誤解しても仕方が無い文面だったかもしれない。
大谷はこれでいて結構気を遣う性質だからな。うん、今後はもう少し『来てほしい』とか『来てもらえると嬉しい』などと言う俺の気持ちを加味した文言を追加した方が良いかもしれない。大谷にいらぬ心配を掛けぬ為にも。―――しかし、俺にそんな軟派なメール……打てるのだろうか?努力しなければならないのかもしれないが……少し自信がない。どうにも照れくさくなってしまう気がする。

と言うように内心忙しく大谷に対する対応をあれこれ考えつつ、素直にそれを表せない俺は、結局通り一辺倒の返事を返す事しか出来なかった。

「いや?ちょっとだけ飲んで帰った。ああでも……」
「な、なんですか?」
「外回りから帰った目黒が、後から参加したからな。俺は早めに抜けたが、目黒と三好はまだ飲んで行くと言って残ったから―――あいつらがいつまで居たかはわからんな」
「え……」

大谷が目を丸くして、口を噤んだ。

「どうした?」
「い、いいええ!なにも……ああっ!アイスがっ……溶けちゃう!」

カップの中でアイスが溶けかけている。大谷は慌てて勢い良くアイスを食べだした。

大谷が挙動不審だ。

いや、大谷が挙動不審なのは初期設定か……。
しかしとにかく。辻と大谷の間に何もなくて良かった。まあ、そうだろうなとは思ってはいたが……。

俺はホッと胸を撫でおろし、ごま胡桃味のアイスの残りをペロリと平らげたのだった。

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