捕獲されました。

ねがえり太郎

文字の大きさ
151 / 375
プロポーズの後のお話 <大谷視点>

12.呼ばれました。

しおりを挟む
大谷さんの一人称に戻ります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「大谷さ~ん!」

弾んだ声を聴いてゾクっとした。いつもあちらから話しかけて来る事なんて無かった人からキャピキャピした仕草で話しかけられるって―――恐怖だ。
以前三好さんに追い詰められた時『ホラー』だって思ったけど……言葉を発する人の本性の違いでこれほどまでに恐怖心の差があるんだってヒリヒリするほど思い知らされる。

「おはようございます」

ロッカーをパタンと閉めてから、覚悟を決めてクルリと振り向いた。
満面の笑みの川北さんがグングン近づいて来るのが……心底恐ろしい。

「昨日はどーも!知らなかったなぁ~……亀田課長って結構気さくな人なのね。もう所属が変わったのに昔の部下にも気を配ってくれるなんて」
「は、はぁ」

何と言って良いか分からない。確かに『亀田課長』は見た目の硬質さや仕事に関する鬼対応と裏腹に、意外と部下に対してさり気なく気を配ってくれる。だから彼は結構、直属の部下からは慕われている。何しろデキる美女、三好さんがうっかり惚れちゃうくらいなんだから。
だけど私と一緒にいたのはそう言う理由じゃ無くて。
……ギリギリ昨日は誤魔化せたものの、その内バレるのは時間の問題で。丈さんはもう隠さなくても良いと言っていたし、今隠しても意味の無い事なんだけど―――だから打ち明けた方が良いんだって思う。だけどどのタイミングで伝えれば……。

「しかも直ぐに違う会社に勤めるかもしれない派遣の人まで気に掛けてくれるなんて。大谷さんも良かったわね、良い上司に巡り合えて」

うっ……何気に派遣と社員の間に線引きされてしまった。これは一種の牽制なのかな?川北さんは『亀田課長』側の人間だと主張しているのだろうか。何となく優越感を漂わせる川北さんに『亀田課長と付き合ってます』なんて暴露したら……うわぁ、想像しただけで心臓が苦しくなって来たよ……。

駄目だ、今は言えん……!
気弱な自分が嫌になるけど、今伝えるのは激しくタイミングが悪い様な気がする……!



「吉竹さんが無理に頼んだの?」
「は?」
「あの人ちょっとねぇ……気を付けた方が良いわよ」
「えっそれはどういう……」



てっきり私に突っかかって来ると思っていた彼女が、不意に吉竹さんを話題に上げたので思わず聞き返してしまった。すると川北さんはスッと目を細めて一歩私に近付き声を潜めた。

「あの人……人の尻馬に乗って何でも自分の物にしたがる所があるから、気を付けた方が良いわよ」
「あの、吉竹さんは良い人……ですよ?」

厳密には『良い人』って言うより『面白い人』『変わった人』って描写が適格だと思うけれども。あれほど見た目とギャップがある人もいないよなぁ……ちょっと見、色っぽいお姉さんってイメージなのに。

すると「フン」と鼻を鳴らして川北さんは憮然として腕を組んだ。

「『良い人』に見せかけて近づくのが彼女の手なのよ。昨日一緒にいた中務さんも……彼女に騙された一人よ。他の人との仲を取り持つ振りして、結局自分が仲良くなっちゃうんだから。きっと中務さんはあの人にある事無い事吹き込まれているのよ」

それは―――『他の人』って自分の事なのだろうか?
川北さんは『そう』受け取っているってコト?例えば吉竹さんが川北さんの悪口を吹き込んで中務さんとの仲を邪魔した……みたいな。付き合っているとまでは確信を持っていないのかもしれないけれど。

でも実際は……吉竹さんが中務さんをって言うんじゃなくて、中務さんの方が吉竹さんを好きなんだよね?

それは素の二人を見ていても明らかだ。だって吉竹さん……どう見ても自分をよく見せようなんてこれっぽちも思っていないし、中務さんの方が積極的に彼女の世話を焼こうとしているように見える。だって少しでも良く見せようと思ってたら……あんな風に人前で残念な妄想、爆発させていないよね?
ひょっとすると学生時代から中務さんの方が片想いしていたって可能性だってあると思う。突っ込んで聞いてないから分からないけれど。

「吉竹さん……そんな人じゃないと思いますけど」
「お人好しね~……貴女も利用されているかもしれないのに。きっと彼女、亀田課長に気があるんじゃないかしら。貴女や中務さんをダシにして近づこうとしているのよ。気を付けた方が良いわよ」
「はぁ」

確かに小説のネタにするとか、自分の趣味の為に私達の馴れ初めを聞き出そうとしている所は利用していると言えば言えるのかもしれないけど……川北さんの言っているのは多分そう言う事じゃないよね?つまり恋愛的なコトで利用しようとしている、と言いたいのじゃないだろうか。でも長く付き合っていたら―――吉竹さんが全然そう言う人じゃないって分かりそうなものだけれども。

「亀田課長にも気を付けるように言った方が良いわ。貴女はすっかり騙されちゃっているから―――私から課長に直接伝えたほうが良いかもね。ねえ、亀田課長と話が出来るように場を設けてくれないかしら」
「……」
「大谷さんは気が弱そうだし―――正社員の吉竹さんに逆らえない気持ちは分かるわ。でもそんなのってフェアじゃない。亀田課長の為にもちゃんと伝えなきゃいけないと思うの。あ、でも勿論私がちゃんとやるから。大谷さんは取り次いでくれるだけで良いんだし―――」
「あのっ……」

堪えきれなくなって私は声を発した。
顔を上げて真正面から川北さんをヒタと見つめる。
でも怖くて腰が引けちゃう。ふわふわして足元がおぼつかない……なんだって私はこんなに弱いんだろう?吉竹さんは川北さんの目の敵にされるのも厭わずに私の前に立ちはだかってくれたのに。その吉竹さんをここまで言われて何も言えないなんて―――嫌だった。

でも派遣社員の分際で正社員の彼女に、しかもこういう気の強い自分中心の人に逆らうなんて―――今までの人生で選択した事の無い行動だ。だって一定期間経過したら私はここを去るのが決まっていて―――次の派遣先に移る時の評価に関わるかもしれない。だけどそれよりもっと気になるのは……下手に揉め事を起こして周りの人に迷惑が掛かったら申し訳ないって気持ちが大きい。波風立てない事が、最低限私に出来る気遣いのような気がするのだ。

だけどママなら……どんな立場だってズバッと笑顔で切り捨てるんだろうな。パパなら勢いで思いをぶつけてワーッと言い負かしちゃうんだろう。私は―――どんな所でも平気で生きていけるような強くて個性的な二人の娘なのに……何でこんなに凡庸で臆病なのだろうか。

そんな事をグルグル考えていたら、ポロリと口をついて本音が出てしまった。



「吉竹さんは―――そんな人じゃ、ゼッタイ・・・・ありません」



あっ……!



言っちゃっ……た……。
思わず拳を握り、俯いてギュッと目を閉じた拍子に―――オブラートに包まずに。

「―――」

ひいぃっ!ま、真顔、こわっ……!

おそるおそる顔を上げると、温度の下がった川北さんの表情が目に入った。恐ろしさのあまり、私の心臓は瞬間冷凍されたかのように凍り付く。
ブルブル震えていると、怯えたような私の表情に少し気を取り直したのか、川北さんは溜息を吐いた。

「ま……大谷さんの立場じゃそう言うしか無いのかも、ね」
「いえ、あの―――」
「だから―――あなたじゃ駄目だから、私が亀田課長に言わなきゃならないんでしょう?」

多少イラつきつつも、諭すように言う川北さん。思い込みってコワい。この場合の川北さんの動機って自分の利益だよね。なのにまるでそれが全くの正義であるかのように話すから、本当に怖い。

これ、今更だけど―――私が亀田課長と付き合っているって言えば収まるのだろうか?

でも川北さんはあくまで吉竹さんの事を忠告したいって主張している訳で……亀田課長と付き合いたいとか言っている訳じゃない。なのに私がいきなりそんな告白したら―――下手すると逆上とかしちゃったりしないだろうか。



「……あの」
「川北さーん!電話!」



既に就業時間を過ぎていたようで、彼女に呼び出しが掛かった。

「ああ、もう!今行きます!」

振り向いてそう告げてから、川北さんはズイっと顔を寄せて私に「じゃあ、後でね」と続きがあると匂わせて去って行った。

『後で』ってナニ?

吉竹さんは別に何も企んで無いのに。
それに亀田課長は誰に何を言われたって自分を曲げる人じゃないんだから―――例え吉竹さんが川北さんの言っていた通りの悪人だとしても、彼女が世話を焼く必要なんて無いのに。



あー……彼女にそう、言いたかったんだ、私。
今更心の中で訴えても、全く意味ないんだけど。



でも『後で』―――言えるかなぁ。
う~ん……言えるような気が、まるでしないっ!!


しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

処理中です...