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結婚するまでのお話 <大谷視点>
11.呪いでしょうか?
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「呪い?!」
私はコクリと頷いた。
神妙に頷く私に目を丸くした後、吉竹さんはぐふっと堪えきれない、と言うように口を抑えた。これこれ、汚いですよ。シュッとした見た目に似合わないリアクションは慎んでください。
「そもそも川北さんに言われなければそんな疑いも持た無かった訳で。もう真実がどうかと言うより、穿った見方がまず頭に浮かぶようになっちゃったのが辛い……」
「んーそれは確かに『呪い』だわね」
つい最近までほやほや幸せ色だった世界に、重ーい色が混ざったみたいになってしまった。まるで澄み切った青空に、たちまち暗雲が立ち込めるみたいに胸が重い。
吉竹さんはビール会社の認定を受けたと言う『超達人』が作るプレミアム生ビールをぐびりとあおって同意した。
「まあ今までが順調過ぎるほど順調だったからねぇ……それに結婚まで早すぎよね。よっぽど余裕が無いのかもしれないけど」
「余裕?」
「……それはともかく、最近大人しかった川北さんが急に攻撃的になった理由、分かったわよ」
どういう意味か問い直そうとした私の言葉を無視して、吉竹さんは芝居っ気たっぷりに私をヒタリと見つめた。眼鏡がキラリと光ったのは多分気のせいだろうと思うが、確かに川北さんつい先日までとても上機嫌だった気がする。何でも合コンで出会った彼がイケメンの銀行員で、結婚の話も出ていて仕事を辞めるかもしれない―――とかなんとか。あ、これ本人から聞きました。この間、課の飲み会があって急に友好的な態度になって話しかけて来た彼女に、延々と惚気を聞かされたのだ。
それを聞いた私は、彼女が幸せそうで良かったと安心したものだ。あっ善意からじゃないよ。これでこっちに火の粉は降りかからなくなるなぁって胸を撫でおろしたのだ。スイマセン、自分本位な考え方しか出来ない俗物です。
それがいきなり食堂で攻撃を仕掛けて来たから、安穏と暮らしていた私には二重の意味で衝撃が大きかった。それにはどんな理由があるのだろうか。
息を詰める私の目の前に吉竹さんはズイっと体を乗り出して、声を顰めた。
「まあ、聞きなさいよ。如何にして総務課の女王、川北さんが魔女になったのか……」
「えっ?……って、私『魔女』とまでは言って無いんだけど」
吉竹さんはフフフと微笑み、こう続けた。
「どうやら合コンの彼とは最近別れたらしいのよね。しかも婚約するかもって皆に言いふらした直後に、別の女の人のお腹に赤ちゃんが出来たからって、振られたらしいの……」
「ひっ……!」
照明が暗めの店内で、カチッとスマホの灯りを顔の下に当てた吉竹さんの真顔が怖すぎるっ!そして、川北さんの置かれた状況が怖いっ……それ、恋愛小説によくあるヒロインの設定じゃん!お話読んでいる時は『ヒロイン可哀想……』って感情移入できるけど、現実に聞くと引く。引くくらい怖い状況だ。
「二股だったのか、ただ遊ばれてたのか分からないけど……そんな訳で、新しい彼との結婚に掛けていた川北さんは今、どん底なのよ」
ひぃ……何という不幸な状況ですかっ!ちょっと川北さんに同情しちゃうかも……。
「つまり川北さんには周りの幸せカップルが目障りでしょうがないの。自分のように不幸になれば良いのにって日々そう願っているんでしょうね」
「そ、そんなはた迷惑な……」
同情の気持ち、今掻き消えました。本当に怖いよ!よくないよ!『人を呪わば穴二つ』って言葉を今切実に彼女に捧げたくなりました。
「大谷さんなんか、ホント良い餌食よね。おとなしめの打たれ弱いウサギちゃん。年下の世間知らずな派遣女子が、偶々上司になったイケメンの出世頭と出来ちゃって、スピード婚!」
吉竹さんが興奮気味にテーブルを叩いた。
もう気分は講談師なのかもしれない。私もつい食い入るように聞いちゃってるけど。
「しかも川北さんの彼氏の本命ちゃん、ちょうど大谷さんと同い年らしいの」
「!」
「そりゃ、呪いたくもなるわね。実際彼女、亀田課長の事狙ってたしね。それがポッと出のボンヤリした派遣女子に奪われて……更に次に現れた王子様も同じような年齢の年下女子に掻っ攫われて……」
『世間知らずな派遣女子』とか『ポッと出のボンヤリとした派遣女子』とか、さり気なく私を貶めるのは止めていただきたい。しかしそんな事に構っていられない状況だ、吉竹さんったら自分の事棚に上げて、何楽しそうに語っているんだぁ!
「ちょっ……それを言ったら!吉竹さんだってほぼ同い年でしょ!それにもともと川北さん、中務さんの事も狙っていたんだし」
するとキョトンと目を見開いた吉竹さんが、一瞬言葉を切って人差し指を顎に当てた。
「あ、それもあったわね」
「『あったわね』って、忘れてたの?!」
本当に自分の恋愛話に頓着しない人だなぁ。私は呆れて溜息を吐いた。
あれ、だけどそれなら何故私だけ標的に……?
「でも吉竹さん標的にならないね……」
「ふふふ、私には何を言っても響かないからね。意地悪して溜飲下げたい人ってね?明らかに凹みそうな相手に狙いを付けるモノなのよ」
「え……?」
強い者じゃなく弱い者を叩くって発想、酷くないか?
「だって、反応が無いと面白くないじゃない?彼女は自分の意地悪に威力があるって感じて優越感を抱きたいんだから」
「わーん、酷い!酷過ぎるよ!」
って言うか、吉竹さんの容赦ない分析もヒド過ぎる……!
こんな風に吉竹さん相手に愚痴を言って憂さ晴らしをした。川北さんの事情も分かって、ちょこっとだけ同情心も湧かないでもない(本当にうっすらね!)し、呪いの言葉くらい受けて立たなきゃって思い直した。
そう、それに『何を言われても平気です!』って姿勢を見せないと、また意地悪言われちゃうし……よっし、もう川北さんの攻撃には負けないぞっ!
なんて決意を新たにした私だったが、その川北さんに更なる呪いを掛けられる事になるとは―――この時はまだ本気で考えていなかったのだ。
私はコクリと頷いた。
神妙に頷く私に目を丸くした後、吉竹さんはぐふっと堪えきれない、と言うように口を抑えた。これこれ、汚いですよ。シュッとした見た目に似合わないリアクションは慎んでください。
「そもそも川北さんに言われなければそんな疑いも持た無かった訳で。もう真実がどうかと言うより、穿った見方がまず頭に浮かぶようになっちゃったのが辛い……」
「んーそれは確かに『呪い』だわね」
つい最近までほやほや幸せ色だった世界に、重ーい色が混ざったみたいになってしまった。まるで澄み切った青空に、たちまち暗雲が立ち込めるみたいに胸が重い。
吉竹さんはビール会社の認定を受けたと言う『超達人』が作るプレミアム生ビールをぐびりとあおって同意した。
「まあ今までが順調過ぎるほど順調だったからねぇ……それに結婚まで早すぎよね。よっぽど余裕が無いのかもしれないけど」
「余裕?」
「……それはともかく、最近大人しかった川北さんが急に攻撃的になった理由、分かったわよ」
どういう意味か問い直そうとした私の言葉を無視して、吉竹さんは芝居っ気たっぷりに私をヒタリと見つめた。眼鏡がキラリと光ったのは多分気のせいだろうと思うが、確かに川北さんつい先日までとても上機嫌だった気がする。何でも合コンで出会った彼がイケメンの銀行員で、結婚の話も出ていて仕事を辞めるかもしれない―――とかなんとか。あ、これ本人から聞きました。この間、課の飲み会があって急に友好的な態度になって話しかけて来た彼女に、延々と惚気を聞かされたのだ。
それを聞いた私は、彼女が幸せそうで良かったと安心したものだ。あっ善意からじゃないよ。これでこっちに火の粉は降りかからなくなるなぁって胸を撫でおろしたのだ。スイマセン、自分本位な考え方しか出来ない俗物です。
それがいきなり食堂で攻撃を仕掛けて来たから、安穏と暮らしていた私には二重の意味で衝撃が大きかった。それにはどんな理由があるのだろうか。
息を詰める私の目の前に吉竹さんはズイっと体を乗り出して、声を顰めた。
「まあ、聞きなさいよ。如何にして総務課の女王、川北さんが魔女になったのか……」
「えっ?……って、私『魔女』とまでは言って無いんだけど」
吉竹さんはフフフと微笑み、こう続けた。
「どうやら合コンの彼とは最近別れたらしいのよね。しかも婚約するかもって皆に言いふらした直後に、別の女の人のお腹に赤ちゃんが出来たからって、振られたらしいの……」
「ひっ……!」
照明が暗めの店内で、カチッとスマホの灯りを顔の下に当てた吉竹さんの真顔が怖すぎるっ!そして、川北さんの置かれた状況が怖いっ……それ、恋愛小説によくあるヒロインの設定じゃん!お話読んでいる時は『ヒロイン可哀想……』って感情移入できるけど、現実に聞くと引く。引くくらい怖い状況だ。
「二股だったのか、ただ遊ばれてたのか分からないけど……そんな訳で、新しい彼との結婚に掛けていた川北さんは今、どん底なのよ」
ひぃ……何という不幸な状況ですかっ!ちょっと川北さんに同情しちゃうかも……。
「つまり川北さんには周りの幸せカップルが目障りでしょうがないの。自分のように不幸になれば良いのにって日々そう願っているんでしょうね」
「そ、そんなはた迷惑な……」
同情の気持ち、今掻き消えました。本当に怖いよ!よくないよ!『人を呪わば穴二つ』って言葉を今切実に彼女に捧げたくなりました。
「大谷さんなんか、ホント良い餌食よね。おとなしめの打たれ弱いウサギちゃん。年下の世間知らずな派遣女子が、偶々上司になったイケメンの出世頭と出来ちゃって、スピード婚!」
吉竹さんが興奮気味にテーブルを叩いた。
もう気分は講談師なのかもしれない。私もつい食い入るように聞いちゃってるけど。
「しかも川北さんの彼氏の本命ちゃん、ちょうど大谷さんと同い年らしいの」
「!」
「そりゃ、呪いたくもなるわね。実際彼女、亀田課長の事狙ってたしね。それがポッと出のボンヤリした派遣女子に奪われて……更に次に現れた王子様も同じような年齢の年下女子に掻っ攫われて……」
『世間知らずな派遣女子』とか『ポッと出のボンヤリとした派遣女子』とか、さり気なく私を貶めるのは止めていただきたい。しかしそんな事に構っていられない状況だ、吉竹さんったら自分の事棚に上げて、何楽しそうに語っているんだぁ!
「ちょっ……それを言ったら!吉竹さんだってほぼ同い年でしょ!それにもともと川北さん、中務さんの事も狙っていたんだし」
するとキョトンと目を見開いた吉竹さんが、一瞬言葉を切って人差し指を顎に当てた。
「あ、それもあったわね」
「『あったわね』って、忘れてたの?!」
本当に自分の恋愛話に頓着しない人だなぁ。私は呆れて溜息を吐いた。
あれ、だけどそれなら何故私だけ標的に……?
「でも吉竹さん標的にならないね……」
「ふふふ、私には何を言っても響かないからね。意地悪して溜飲下げたい人ってね?明らかに凹みそうな相手に狙いを付けるモノなのよ」
「え……?」
強い者じゃなく弱い者を叩くって発想、酷くないか?
「だって、反応が無いと面白くないじゃない?彼女は自分の意地悪に威力があるって感じて優越感を抱きたいんだから」
「わーん、酷い!酷過ぎるよ!」
って言うか、吉竹さんの容赦ない分析もヒド過ぎる……!
こんな風に吉竹さん相手に愚痴を言って憂さ晴らしをした。川北さんの事情も分かって、ちょこっとだけ同情心も湧かないでもない(本当にうっすらね!)し、呪いの言葉くらい受けて立たなきゃって思い直した。
そう、それに『何を言われても平気です!』って姿勢を見せないと、また意地悪言われちゃうし……よっし、もう川北さんの攻撃には負けないぞっ!
なんて決意を新たにした私だったが、その川北さんに更なる呪いを掛けられる事になるとは―――この時はまだ本気で考えていなかったのだ。
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