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15.誕生日パーティー【3】
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「ウィリアム。話している最中に呼び立ててすまなかったな」
エドワードはこの屋敷の中でおそらく最も立派な椅子に腰掛け、ひらりと優雅に片手を振った。
それと同時に、彼の後ろに控えていた護衛騎士が魔法で防音シールドを張ってくれる。これで俺たちの会話がシールド外の人たちに聞こえることはない。
「いや、全然。むしろ俺もあなたと一緒に過ごしたいと思っていたから、傍に呼んでくれて嬉しいよ。ありがとう、エドワード」
本当に嬉しかったから、ふわふわと花を飛ばしながら微笑みかける。エドワードは人差し指を唇に当てて小さく笑うと、そっと切れ長の瞳を細めて俺を見つめた。
「ふふ、それはよかった。そのわりには、令嬢たちとも話が弾んでいたように見えたけど……気の合いそうな子はいたか?」
指先で少し隠された赤く薄い唇には、悪戯めいた微笑みが浮かんでいる。からかわれているのだと悟り、俺は苦く笑いながら彼の耳元にそっと唇を寄せた。
「そんな子、いないよ。わざと意地悪言って俺をからかうのはよして」
彼が座っている椅子の背もたれに手を添えて、もう片方の手で肘掛けに置かれた腕を宥めるように撫でる。
「エドワード。俺は彼女たちと話している間も、あなたと一緒にいたいのになぁって思ってたんだよ」
ふわふわ柔らかく微笑み、腕に触れていた右手をするすると下ろしていく。
「でもこんなこと言ったら叱られてしまうだろうから、どうか俺たちだけの秘密にしてね」
そうしてたどりついた彼の手を上から包み込むように優しく握れば、ぴくんっ、と小さく肩が跳ねた。
「……君はずるい男だ、ウィリアム」
耳たぶをほんのりと桜色に染めながら、彼は恨みがましい目をして俺をなじった。うーん、こんな可愛い顔されると困っちゃうな。
そこに俺に対する恋愛感情がないとしても、もしかしたら独占欲みたいなものはあって、ヤキモチ焼いてくれたのかなって期待してしまう。
「そう?自分だとわからないな。俺はいつだってあなたに誠実だから」
俺より一回り小さな手を握ったまま、柔く絡めた指先を彼の目線の高さまで持ち上げる。その桜貝みたいな爪に恭しく口付けるふりをしたら、エドワードは思わずといったように笑った。
「あはは……随分とキザな真似をするんだな」
「あなたに笑顔になってもらおうと必死なんだ。やっぱり俺は、笑っているあなたがいちばん好きだよ。エドワード」
ゆっくりと繋いでいた手を離して微笑むと、彼は涼やかな目元を和らげて頷いた。どうやら機嫌を直してもらえたらしい。
まぁ、そもそも全然本気で怒ってなかったみたいだし、ヤキモチ焼いてくれたんだって思うことにしよう。
「ウィリアム。私が王宮に戻るまで、君をここでひとり占めしても?」
「もちろん構わない。あなたにひとり占めされるなら本望だよ」
ここには王太子より格上の貴賓などいないので、パーティーの主役である俺が付きっきりになっていても問題はない。
むしろ、この機会に王太子とお近付きになりたい人間が山ほどいるなかで、向こうから話し相手になるのを望まれるなんて名誉なことだ。
たまに給仕に指示を出して飲み物や軽食を持ってこさせながら、他愛のない会話を楽しむ。
俺たちがふたりで話していれば、エバンス公爵家の人間以外はたいした理由もないのに割り込んでくることはできない。
エドワードは媚びを売って気に入られようとしてくる貴族の相手をしなくてよくなるし、俺も令嬢たちの相手をしなくてよくなる。良いことづくしなんだよね。
結局、エドワードは王宮に戻る時間になるまで、俺を傍から離さなかった。
「エドワード殿下、お時間でございます」
従者に耳打ちされ、エドワードが小さく首を縦に振った。彼は椅子に腰掛けたまま上目遣いで俺を見つめ、少し眉を下げて微笑む。
「時間が来てしまったみたいだ」
「もうそんな時間?楽しい時間は過ぎるのが早いというけど、本当だね」
俺は宥めるように微笑みを返すと、近くに控えていたエバンス家の従者に指示して見送りの準備を整えさせる。
「お手をどうぞ、エドワード殿下。お見送りを致します」
エドワードの手を取って恭しくエスコートしながら、ホールを出て正面玄関まで続く廊下を歩く。俺は外に出る直前で手を離して、見送りのために会場から抜けてきた父の後ろに下がった。
「エバンス公。本日は短い時間ではあったが、楽しいひと時を過ごすことができた。貴家のもてなしに感謝する」
柔らかくも凛としたテノールが耳に心地よい。
エドワードが王子様然とした微笑みを唇に乗せて礼を述べると、父は胸に手を当てて頭を下げた。もちろん俺も父の後ろで頭を下げている。
「……ウィリアムも、今日はありがとう。また学園で」
俯けていた視線をこっそり上げると、ふんわりと花がほころぶような笑顔を浮かべたエドワードと目が合った。あぁ、本当に可愛い。
「はい。エドワード殿下」
俺は勝手に持ち上がりそうになる口角をなんとか抑え込み、さらに深く頭を下げる。
声が思ってたより甘々な感じになっちゃったな。隠してるつもりの恋心がダダ漏れになってる気がして、ちょっと恥ずかしい。
エドワードは来たときと同じように、カツン…と軽やかな靴の音を響かせて馬車に乗り込んだ。ふわりと長いコートの裾が広がる様子まで優美で、思わず感嘆のため息が出そうになる。
俺は父に倣い、エドワードを乗せたひときわ豪奢な王宮の馬車が遠ざかっていくのを、頭を下げたまま見送った。
エドワードはこの屋敷の中でおそらく最も立派な椅子に腰掛け、ひらりと優雅に片手を振った。
それと同時に、彼の後ろに控えていた護衛騎士が魔法で防音シールドを張ってくれる。これで俺たちの会話がシールド外の人たちに聞こえることはない。
「いや、全然。むしろ俺もあなたと一緒に過ごしたいと思っていたから、傍に呼んでくれて嬉しいよ。ありがとう、エドワード」
本当に嬉しかったから、ふわふわと花を飛ばしながら微笑みかける。エドワードは人差し指を唇に当てて小さく笑うと、そっと切れ長の瞳を細めて俺を見つめた。
「ふふ、それはよかった。そのわりには、令嬢たちとも話が弾んでいたように見えたけど……気の合いそうな子はいたか?」
指先で少し隠された赤く薄い唇には、悪戯めいた微笑みが浮かんでいる。からかわれているのだと悟り、俺は苦く笑いながら彼の耳元にそっと唇を寄せた。
「そんな子、いないよ。わざと意地悪言って俺をからかうのはよして」
彼が座っている椅子の背もたれに手を添えて、もう片方の手で肘掛けに置かれた腕を宥めるように撫でる。
「エドワード。俺は彼女たちと話している間も、あなたと一緒にいたいのになぁって思ってたんだよ」
ふわふわ柔らかく微笑み、腕に触れていた右手をするすると下ろしていく。
「でもこんなこと言ったら叱られてしまうだろうから、どうか俺たちだけの秘密にしてね」
そうしてたどりついた彼の手を上から包み込むように優しく握れば、ぴくんっ、と小さく肩が跳ねた。
「……君はずるい男だ、ウィリアム」
耳たぶをほんのりと桜色に染めながら、彼は恨みがましい目をして俺をなじった。うーん、こんな可愛い顔されると困っちゃうな。
そこに俺に対する恋愛感情がないとしても、もしかしたら独占欲みたいなものはあって、ヤキモチ焼いてくれたのかなって期待してしまう。
「そう?自分だとわからないな。俺はいつだってあなたに誠実だから」
俺より一回り小さな手を握ったまま、柔く絡めた指先を彼の目線の高さまで持ち上げる。その桜貝みたいな爪に恭しく口付けるふりをしたら、エドワードは思わずといったように笑った。
「あはは……随分とキザな真似をするんだな」
「あなたに笑顔になってもらおうと必死なんだ。やっぱり俺は、笑っているあなたがいちばん好きだよ。エドワード」
ゆっくりと繋いでいた手を離して微笑むと、彼は涼やかな目元を和らげて頷いた。どうやら機嫌を直してもらえたらしい。
まぁ、そもそも全然本気で怒ってなかったみたいだし、ヤキモチ焼いてくれたんだって思うことにしよう。
「ウィリアム。私が王宮に戻るまで、君をここでひとり占めしても?」
「もちろん構わない。あなたにひとり占めされるなら本望だよ」
ここには王太子より格上の貴賓などいないので、パーティーの主役である俺が付きっきりになっていても問題はない。
むしろ、この機会に王太子とお近付きになりたい人間が山ほどいるなかで、向こうから話し相手になるのを望まれるなんて名誉なことだ。
たまに給仕に指示を出して飲み物や軽食を持ってこさせながら、他愛のない会話を楽しむ。
俺たちがふたりで話していれば、エバンス公爵家の人間以外はたいした理由もないのに割り込んでくることはできない。
エドワードは媚びを売って気に入られようとしてくる貴族の相手をしなくてよくなるし、俺も令嬢たちの相手をしなくてよくなる。良いことづくしなんだよね。
結局、エドワードは王宮に戻る時間になるまで、俺を傍から離さなかった。
「エドワード殿下、お時間でございます」
従者に耳打ちされ、エドワードが小さく首を縦に振った。彼は椅子に腰掛けたまま上目遣いで俺を見つめ、少し眉を下げて微笑む。
「時間が来てしまったみたいだ」
「もうそんな時間?楽しい時間は過ぎるのが早いというけど、本当だね」
俺は宥めるように微笑みを返すと、近くに控えていたエバンス家の従者に指示して見送りの準備を整えさせる。
「お手をどうぞ、エドワード殿下。お見送りを致します」
エドワードの手を取って恭しくエスコートしながら、ホールを出て正面玄関まで続く廊下を歩く。俺は外に出る直前で手を離して、見送りのために会場から抜けてきた父の後ろに下がった。
「エバンス公。本日は短い時間ではあったが、楽しいひと時を過ごすことができた。貴家のもてなしに感謝する」
柔らかくも凛としたテノールが耳に心地よい。
エドワードが王子様然とした微笑みを唇に乗せて礼を述べると、父は胸に手を当てて頭を下げた。もちろん俺も父の後ろで頭を下げている。
「……ウィリアムも、今日はありがとう。また学園で」
俯けていた視線をこっそり上げると、ふんわりと花がほころぶような笑顔を浮かべたエドワードと目が合った。あぁ、本当に可愛い。
「はい。エドワード殿下」
俺は勝手に持ち上がりそうになる口角をなんとか抑え込み、さらに深く頭を下げる。
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エドワードは来たときと同じように、カツン…と軽やかな靴の音を響かせて馬車に乗り込んだ。ふわりと長いコートの裾が広がる様子まで優美で、思わず感嘆のため息が出そうになる。
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