【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

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第一話

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 ある日、高い木が生い茂る森の中でのこと。

 もう陽が沈みそうだ、そろそろ帰らなくては……。

 猟師のローランドは夕方になるまで獲物を追い、この日はいつもより遅くまで猟をしていた――。
 
 彼が幼い頃、猟師だった父は酒に溺れて母に暴力を振るうことが当たり前な、荒んだ日常だった。

「母ちゃん、いかないで」

「ごめんね……ごめんね、ローランド――」

 父に愛想を尽かした母は別の男を作り、泣きじゃくるローランドを無理矢理振り解いて家を出た後――その行方を遠くへと眩ませてしまった。

 それから年月が経ち、当時十歳だったローランドは酒に毒されて短命に終わった父の遺体を、森の地面を枝で掘って埋葬した。

 父の手元にいたことで猟の仕方を覚えていたローランドは、何とか自力で難を凌ぐ生活を維持していた。

 その後は、人よりも獣と向き合う時間の方が遥かに長い、孤独な人生を送り続けている――。

 今日もローランドは、何とかして追っていた獲物を確保することが出来た。

「ふぅ……」

 と、張り詰めていた気を緩めるような息を漏らす。

 疲れた体で捕らえた獲物を縛りながら森の奥を何げなく見遣ったローランドは、何かがボンヤリと光っているように見えた。

 ……なんだ?

 普段はあまり森の奥地までは立ち入らないようにしていたが、不審に思って光りの原因を探ろうと忍足で進んでみた。

「こんなところに泉が……」

 何とそこには、キラキラと輝くとても綺麗な“泉”があったのだ。
 感動するように立ちすくんで泉を眺めていたら、その端でパシャリと音がしたので、その方を見てみると。

 視線の先には――これまた目が飛び出るほど“絶世の美女”が、乳房すら丸出しの全裸で水浴びをしているではないか。

 藍色で腰まで伸びた長い絹髪に、真っ白な素肌をした若い女性。しかし、彼女は全くこちらに気付いていない様子で気持ち良さそうに髪を撫でている。

 なんという美しさなんだろう……。

 ローランドはその純白な美貌に思わず絶句し、一瞬で心を奪われてしまったそうな。

 さぞかし名の知れた名家出身の娘に違いないだろうと思いつつも、木の影に身を潜めた。ところが、よく見ると彼女は指輪などを何も付けていなかった。
 この世界では婚約者がいれば婚約指輪、既婚者ならば結婚指輪をはめるため、何もなければそれは“独り身”を意味する。

 何故彼女が独り身なのか至極疑問ではあるが、その時ローランドは強く思った――あの人をどうしても“お嫁さんにしたい”と。

 しかし、今あんな容姿端麗な娘を逃せば、たちまち他の男に取られてしまうのは火を見るより明らか。

「うーん……」

 何とかして彼女の“気を引く方法”はないものかと考えてみたところで、いかんせん自分などしがない貧乏な猟師。これといって他に自慢出来るものも無い。

 さてどうしたものかと思案していたら、水浴びをする女の少し離れたところに、本人の物と思われるそれまた見事な衣装が丁寧に畳まれて置いてあるのを見つけた。

 そうか……あの服を奪ってしまえば、女は帰れなくなるはずだ。

 そんな悪巧みを思い付いたローランドは、夢中で水浴びをしている女から気付かれぬよう――衣装を自分の荷物入れに忍ばせてしまった――。

 しばらく様子を木陰から覗いていると、水浴びを終えて泉から上がろうとした女が異変に気付いたのか、困った顔をしながらキョロキョロと辺りを見回しながら慌て始めた様子。

 よし……今だ。

 そこへローランドがゆっくりと登場して「どうかしたのか?」と何食わぬ顔で尋ねる。
 すると女は「きゃ!!」っとビックリして、大きく実った桃のような胸を恥ずかしげに腕で覆い隠した。

「あ、あの……ここに置いてあったはずの服が無くなっていて、困ってるんです」

 まろやかに響く声を持つ女は名を『カミーユ』と呼ぶらしく、裸を目撃されたことに余程照れているのか、泉に肩まで浸かりながらも頬をほんのりと赤く染めている。

「それは困ったな……この辺は出癖の悪い“盗賊”も出没すると聞く。もしかしたら其奴らの仕業かも知れない」

「まぁ……そうなんですか……」

 適当にそれっぽい“嘘”を吐くことでカミーユを納得させたローランドが、今度は「どこから来たんだ?」と尋ねてみると――彼女は首を傾げて不思議そうな顔を浮かべ始めた。

「それが……記憶を失ってしまったのか、どうして私がこの泉にいるのか覚えていないのです」

 と、突飛なことに彼女が何とも間抜けなことを言い出したので、ローランドは少し考え込むように顎へ手を添えた。

 どういうことだ? そんなことあり得るのか。

 とはいえ、帰る故郷も分からないカミーユを放っとく訳にもいかない。そもそもが彼女を嫁にしたいという思惑もあり、とりあえず麻で拵えた着替えの服を彼女に差し出した。

「そんな綺麗な服でもないが、これを着るといい」

「え!? ありがとうございます!」

「……い、いや――」

 無邪気に喜ぶカミーユの澄んだ笑顔に言葉を詰まらせながらも、これはまたとない好機だと感じたローランドは「故郷を思い出せるまでウチで過ごせばいい」と、彼女を自宅へ招くことに成功したのだった――。
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