【爆撒英雄サトルのガイア建国記】

池上 雅

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*** 2 驚いた。この美少女はこの世界の知的生命体を創った創造天使だったようだ…… ***

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 美少女が優雅に手を振ると、床と一緒に豪華な応接セットが現れた。
 ついでにテーブルの上には湯気の立つティーセットも現れている。
 少女も俺の対面に座った。

「なあ、もしもよかったらだけど、コーヒーがあれば飲みたいんだ……」

 俺はコーヒーが好きだったが、もちろん病棟では飲ませて貰えなかった。
 体調がいいときに抜け出して病院内の喫茶店で飲んだだけである。

「ええ。いいわよ」

 途端にカップに入ったコーヒーが現れた。
 うん、いい香りだ。モカ・マタリかな。

「ところで、最初の喋り方と随分違うみたいだけど、こっちがいつものなんだよな?」

「う、うん。お姉さまの喋り方を真似してみたんだけど……
 やっぱり慣れないことはしないほうがいいわね」

「そうか、今の方がずっといいな……」

「そ、そう?」

 美少女が少し嬉しそうに微笑んだ。


「それじゃあコーヒーのお礼に話だけは聞くとするか。
 キミの世界に幸福をもたらす、ってどういうことなんだ?
 それになんで俺なんかを召喚したんだ?」

「あの…… わたしたちが初級天使になると、自然環境が用意された初期世界で知的生命の創造と管理を任されるの。
 そのために神さまから『創造用神力』を分けていただけるんだけど……
 それでわたし、原猿類を進化させてヒト族や亜人族を作ったの。
 あと動物たちも少し進化させて獣人族なんかも作ったわ。可愛いから」

 驚いた。
 この美少女はこの世界の知的生命体を創った創造天使ということか……

「でもね、どうもヒト族の闘争本能が強すぎたようなの。
 元々が原猿類だけあって自分の序列に拘るんだけど、その闘争心や上昇志向が何故か激しすぎて、いつもいつも争ってばかりいるの。
 同族内でも他種族相手にも。
 どうも、『強いものが全てを得る』っていう意識が強すぎるみたい……」

「なあ、俺はお前のお姉さまの管理する世界から召喚されたんだろ?
 俺のいた世界も昔は酷いもんだったぞ。今でも一部地域は酷いけど」

「うん。お姉さまも最初は苦労されたみたい。
 でも結果として、80億もの人口を持つ世界に育てたんで神さまにも褒められてたわ。
 だから今では中級天使になれて、このままいけば同期で最初に上級天使に昇格出来る、って言われてるのよ」

「そこまで素晴らしい世界だとは思えないがな」

「そうね。まだまだ進化が必要なのは確かだけど……
 でもちょうど今、ヒト族が画期的な進化を遂げようとしてるのよ。
 だからあと300年もすれば、もっともっと素晴らしい世界になるわ。
 それに比べて私の世界は……」

「そんなに酷いのか」

「うん…… 寿命を全う出来る知的生命体は全体の3割もいないの……
 ヒト族にいたっては1割もいないわ……」

「それは酷いな。死因は?」

「同族や他種族に殺されることや、栄養不良による衰弱死ね」

「確かにヒドいな。
 それにしても栄養不良か…… 実りの少ない世界なのか?」

「ううん。今の人口程度だったら養えるだけの実りは充分にあるわ。
 でも力のあるヒト族がそれを独占しようとして戦争ばっかりしているの。
 そうして戦に負けた側は奴隷にされて……
 そうしてろくに食べ物も与えられないまま過酷な労働で死んでいくの……」

「ヒデぇ世界だな」

「このままだと……
 このまま500年経っちゃうと、わたしの一次試練期間が終わっちゃうの……
 いまの世界が続く限り、間違いなくわたしは不合格だわ。
 また天使見習いに逆戻りね……」

「そうか……」
(こいつは見習い天使に戻りたくないから俺の助けが要るというのか?)

「で、でも、わたしのことなんかどうでもいいのよ。
 だってわたしの能力が足りなかったせいなんだもの。
 ただ、せっかく創造したあの子たちがみんな初期化されてしまうの」

「初期化って……」

「あの…… 『消去』されてしまうの……
 自然環境以外のわたしの作った生命は全て……
 そうして、この世界はまた元の自然環境に戻って、次の初級天使の為の試練場になるの……」

 美少女初級天使は顔を覆った。

「ううっ。た、確かにヒト族は酷いことになっちゃってるけど……
 で、でもねでもね! ヒト族以外はみんないい子たちなのよ!
 生きるため、同族を守るため以外には絶対に相手を殺さないし。
 それに親子や同族内の情愛も深くって……
 わたし、何度も地上界に降りて、いろんな亜人族や獣人族の子供たちと遊んだわ。
 みんな優しくってとってもいい子……
 あ、あの子たちがみんな『消去』されてしまうなんて……」

 目の前の少女がまた泣き始めた。
 本気で悲しそうに泣いている。


「なあ、なんでキミは直接ヒト族を指導しなかったんだ?
 もしくはやつらを間引きするとか……」

「で、出来ないの。
 わたしたちは、いったん自分で知的生命体を創った後は、直接の過剰な干渉は許されていないのよ……
 で、でもお姉さまが、『優秀な使徒を召喚して、その使徒に命じて世界を変えていけばいいのよ♪』って教えてくださったの。
 それで……」

「そうか……」

「お姉さまの世界にも、使徒や使い魔はたくさんいたんですって。
 ほとんど秘密にしてたみたいだけど……」

「なあ、キミが使徒を召喚したのは俺が初めてなのか?」

「ううん。あなたで3人目」

「そいつらは働かなかったのか?」

「あの……
 1人目には『管理用ポイント』を使って身体能力を授けて、すごく強くしてあげたんだけど……
 その力で小さな小さな地域の領主になれたんだけど、そのひとの死後、息子さんが跡を継いだ途端に、ハーレムを作ってそこに入り浸るようになっちゃったの。
 それで無理やり娘をハーレムに奪われた部下に恨まれて暗殺されちゃって、その国も普通の国になっちゃったのよ」


(まあ、なんとなく気持ちはわからんでもないが……)


「2人目はカリスマ性が欲しいっていうから授けてあげたの。
 そうしたらわたしを創造神として崇める宗教団体を作って、そこの法王に納まって、最終的には宗教国家まで作ったんだけど……
 でもそのひとが寿命で亡くなったあと、やっぱりその国はヒドい国になっちゃったの。
 跡を継いだ子孫たちが、『お布施』の名で民からお金も作物も奪いまくっているし、お布施を拒むと『神聖騎士団』とかいう名のならず者たちを送り込んで、村ごと略奪するし……」


(原始宗教ってぇのはどこでもヒデえな。
 まあ『神』の名を使った支配機構でしかないんだろう。
『王権神授説』とか……)


「そ、それで、知的生命創造用の力以外に神さまから頂いた、この世界の管理用のポイントを、もう600ポイント近くも使っちゃったの。
 ひとを召喚するのって、ものすごくポイント数が必要だから……
 だから管理用ポイントもあと400ポイントほどしか残ってなかったのよ。
 そのうち200ポイントを使って祈る思いであなたを召喚したんだけど……
 あなたに断られたら、あとひとりしか召喚できないわ。
 しかも、もうなんにも授けてあげられないから、そのひとも一般人でしかないわ。
 だからこの世界を救うのは無理なのよ。
 ああ…… あの可愛い子たちがみんな消去されちゃう……」

 目の前の美少女初級天使がまた泣いている。
 本当に悲しそうに涙をぽろぽろ零している。


(仕方無いか……)

「なあ、なんで俺を召喚したんだ?」

「お、お姉さまが、お姉さまの世界で最近若くして亡くなった、優れた能力を持つ優しいひとを何人か推薦してくださったんだけど……
 その中でも最近ではお姉さまのイチオシがあなただったから……」

「若い必要があるのか?」

「ええ、管理用ポイントで多少寿命は伸ばせても、なるべく長い方がこの世界により幸福をもたらせると思って……
 それに、お姉さまの世界では、若い人の方が純粋で優しいひとが多いのよ」

「ほう。寿命を延ばせるのか。それってどれぐらいだ?」

「10ポイントで100年間の不老長寿なんだけど……」

(病気でなかったらやってみたかったことがいっぱいあったしな……
 まあ出来るかどうかはわからんが、努力だけはしてみてやるか……)

「わかった……
 俺に出来るかどうかはわからんが、やれるだけやってみることだけは約束しよう」

「えっ……」

「だがそれにはいくつかの条件がある。これからその条件について相談しよう。
 まずはキミの名前は何というんだ?」

「あ、あの…… 初級天使システィフィーナです。
 お姉さまにはシスティって呼ばれてるわ」

「そうかシスティ、俺のことはサトルって呼んでくれ。
 それでシスティ。ここには喰い物は無いのか?
 生き返ったばかりで腹が減ったんだが……」

「う、うん。簡単なものならすぐに出せるけど……
 あなたの前世の世界の食べ物だけど、こんなものでもいいかしら?」

 システィがそう言った途端に、テーブルの上に大手チェーン店のハンバーガーセットが現れた。ナゲットもついている。
 俺はフリーズした。

「お姉さまの世界にあるものだったら、お姉さまが売って下さるの。
 0.001ポイントで1万円相当のモノを買わせてもらえるんだけど。
 もちろん武器なんかは買えないし、生き物も『検疫』や『外来種』っていう問題でダメなんだけど、無生物ならけっこう安くして下さってるそうなのよ。
『妹価格』っていうんですって」

「……お姉さまはこれ勝手に手に入れてるのか?」

「ううん。お姉さま、ご自分の世界で『会社』っていうものを作ったんですって。
 その会社で買うそうよ。
 なんでも去年年商が100億円を超えたって喜んでいらっしゃったわ」

「……元手はどうしたのかな」

「元手は『競馬』っていうもので当てたそうね。
 わたしたち、天使の力で動物とお話が出来るから、お馬さんに頼んで指定した順位通りに走ってもらったんですって。
『言う通りに走らなければ刺身にしてやるが……』って言って包丁とお醤油を見せたら、みんな涙目になって一生懸命言った通りに走ってくれたそうだわ」

(お姉さま…… 創造天使のくせにナニやってんだ?)

「そのカイシャに従業員はいるんか?」

「従業員はお姉さまの使い魔の方たちだから、とっても優秀で忠実なの」

(元の世界に戻ることが出来たらそのカイシャを覗いてみようか……
 受付嬢に実はしっぽがあったりするんかな?)

「あ、今お姉さまの使い魔のひとりが、お昼に食べようとしていたハンバーガーセットが消えちゃったんで涙目になってる……
 あら、お姉さまがおカネを渡して、もっとたくさん好きなだけ買って来なさいって言ってる。
 お姉さまお優しい……」


 俺は頭を振り振り滅多に喰えなかったハンバーガーを堪能した。
 体調が極めていいときに病室を抜け出して何度か喰っただけだったからな。
 でも…… この分だと牛丼とかステーキとかも喰えるのかもしれない……
 俺の夢が膨らんだ。


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