【爆撒英雄サトルのガイア建国記】

池上 雅

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*** 44 フェンリル族を勧誘した ***

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 俺はケツからジェット噴射を続けるフェンリルの集団を前に、システィに聞いてみた。

「な、なあ、システィ。こいつらって魔法使えるんだよな?」

「え、ええ、わたしの管理権限で少し使えるようにしてあげてるんだけど……
 その力で大平原の生き物たちを守るように言ってあったの……」

「な、なあフェンリー、それ体内マナが減ると治まるからさ。幸いこの辺りには生き物とかあんまりいないみたいだから、魔法とかぶっぱなしてると止まるぞ」

 その夜。無人の大平原にはフェンリル達の放った大火球や巨大岩石が飛び交っていたという……


 ようやく落ち着いたフェンリル達を前に、俺は言ったんだ。

「なあ、このマナの塊ならいくらでもあるから、大量に渡しておくよ」

「ほ、施しは受けん!
 それにもう我らは腹がいっぱいだ。これで3カ月は空腹にはならんだろう!」

「い、いや、マナ噴気孔を塞いじゃったの俺たちだからさ。
 そのお詫びというかなんというか。
 それに他にも群れのフェンリルはたくさんいるんだろ。
 みんな腹減らしてるんじゃないのか?」

「うっ……」

「それでも心苦しいって言うんなら、代わりに仕事をしてくれないかな」

「仕事だと?」

「そう仕事。お前たち足早そうだもんな。
 だからこれからこの大平原の周囲を見回って、比較的弱い種族をヒト族から守ってやって欲しいんだよ」

「もとよりそれは、この大平原の盟主たる誇り高きフェンリル一族の仕事だ!」

(こいつらやっぱ、けっこういいヤツだな……)

「俺、これからみんなをヒト族から守るための城壁を作るからさ。
 それでもし希望する種族がいたら、その壁の中の街に引っ越しするよう勧めてあげて欲しいんだ。俺が説得するよりお前たちが言う方が遥かに説得力があるだろうから」

「城壁なぞ作っても、壊されるか乗り越えられればそれまでだろうに。
 それにこの大平原の種族は種も数も膨大だ。そのような城壁の中に囲い込んだら喰い物も足りなくなってすぐに死んでしまうだろうが」

「い、いや。城壁は高さ50メートルぐらいにするつもりなんだ。
 それに長さは全部で2万キロにしてこの大平原をすっぽり囲むつもりだ」

「2万キロだと! 
 キサマ我らの足でも周回に40日はかかるであろう範囲を囲む城壁を作ると言うのか! それも50メートルの高さで!
 それでは我らですら飛び越えられんぞ!」

(お、翻訳システムがいい仕事してるな……
 それにしてもこいつら1日に500キロも移動出来るのか。トンデモだな……)

「い、いやたぶん1年もあれば出来るわ。
 それにもう似たような仕事はしてるし……」

「…………」

「ああ、それから街も造る。
 取りあえず40万人ぐらいが住める街を1個。
 最終的には街は10個ぐらいは造るが、その周囲には2万人ぐらいが住める村もたくさん作ろう。
 もちろん街や村の周りには畑も作って作物も作れるようにするからな」

「そんなことがもし可能だとすれば、それはもはや国造りだろう。
 ヒト族の国を作るつもりか?」

「いや。最初の国民は、すべて知性ある獣や亜人たちにするつもりだ。
 もしヒト族が入り込んで来ても、当初はそいつらは隔離することになるだろう」

「それでお前が『王』になるのか……」

「いいや。国の代表はシスティだ。俺はせいぜいその『代理』かな」

「貴族には誰がなるのだ」

「この国には貴族は絶対に作らないし作らせない。
 あの制度は王政と合わせて諸悪の根源だ」

「そのようなことを言っても、お前が死ねばお前の子が王になり、お前の一族や家来が貴族となって、今のヒト族のような国が出来上がるだけであろうに」

「いや、俺が寿命で死ねば、システィがまた誰かを『代理』に指名するだろう。
 国の代表はあくまでシスティだからな」

 ああ、システィがちょっと悲しそうな顔してるわ。
 でも俺にも寿命があるから仕方の無いことなんだよ。


「それで我がフェンリル一族に、その国の守護者になってさらに国民を集める手助けをせよと言うのか」

「ああ、その通りだ」

「だがキサマ、まだ何か隠しているだろう」


 ああそうか…… 
 このレベルの生き物になると、ある程度の『看過』が使えるのか……
 コイツに隠し事は出来ないっていうことだな……

「それじゃあ説明するぞ。よく聞いてくれ。
 まずこの世界は神々がシスティの試練の為に用意した世界なんだ」

「試練…… だと?」

「同時に、この世界に生まれた生き物たちの試練の為の世界でもある。
 だが、一部の神の怠慢と隠蔽によって、この世界へマナを供給するための噴気孔が壊れたまま放置されてしまっていたんだ。
 本来は高山の山頂付近にあるべき噴気孔があの大砂漠の中央に出来てしまっていたんだな。

 おかげで地表付近のマナ濃度が異常に濃くなってしまったんだよ。
 それで本来弱い生き物であったはずのヒト族が凶暴化してしまい、今みたいに闘争に明け暮れる最低の種族になってしまったんだ。

 マナ噴気孔は既に修理されて高山の山頂に移っている。
 これから徐々に地表付近のマナ濃度は下がって行くだろうが、それでもヒト族がまともになるには少なくとも10世代はかかるだろう。
 だがそれでは遅いんだ」

「なぜ遅いのだ? ヒト族の10世代などせいぜい200年だろうに」

「あと500年で試練の期間が終わってしまうんだ。
 そうして、この暴虐と殺戮に溢れたままの世界だと、間違いなく試練に落第してしまうんだよ」

「念のため聞いておこう。落第するとどうなるのだ」

「システィが創った存在は全て消去されてしまう。もちろん俺もお前たちもだ。
 死の痛みは感じないだろうが、それでも存在が無くなることに変わりは無い」


 ああ、ボスが子供たちを見やったよ。
 彼らにとっての500年はあっという間なんだろうな……

「随分と横暴な神々だな……」

「俺も最初はそう思ったがな。
 だがたぶん仕方の無いことなんだろう。
 この宇宙には、この世界だけでなく、無数の似たような世界が広がっているんだ。
 そうして将来、この星の凶悪な連中がそうした平和な世界に侵略して行くのを防ぐための『試練』なんだろう。
 たぶん、大勢の『善なる』生物を救うために、『凶悪なる』生物の芽を摘み取るっていうことだ」

「そうか…… 
 それでその『試練』とやらの達成条件は何なのだ……」

 俺はヤツに幸福ハピネスポイントと、罪業カルマポイントについて説明してやった。
 もちろん現状の実際のポイント数もだ。
 ヤツの顔がどんどん深刻になっていってたよ。


「最後に問う。お前が造ろうとしている国の規模と目的は?」

「まずはヒト族以外の知的生命を全て集めて400万人の平和な国を造ることだ。
 この国では誰も誰かを殺させないし、また盗みや虐待もさせない。
 そういう平和で豊かな国を造る。
 つまり、罪業カルマポイントが増えずに幸福ハピネスポイントだけが増える国だ。

 次の目標は、ヒト族2000万の国をすべて解体し、俺たちの国に併呑することだ。
 誰も殺さずにな。
 手の施しようの無い極悪人は完全に隔離して、もう誰も殺すことが出来ないようにする。また、更生の余地のある者は、再教育を施して国民にするつもりだ。
 そうやって、この大陸に平和でゆたかな単一国家を造り、試練に合格することが目的だ」

「随分と大きな目的だな。
 だがそれには莫大な労力と食糧が必要だろう。
 その目途はあるのか?」

「既に食糧の確保は始まっている。
 最低でも400万人が10年間喰っていけるだけのモノは用意するつもりだ。
 10年もあれば我々の農地も充分な食料を生み出せるようになるだろう」

「そうして、その労力の担い手として、我がフェンリル一族に手を貸せというのだな」

「そうだ。是非お願いしたい」

「わたしからもお願いしますフェンちゃん。どうか力を貸してください……」

「頭をお上げくださいシスティフィーナさま。
 他ならぬ我らが創造主の願い。そして我が一族の未来のため。
 一族全体でご助力するには長老会と女衆たちの合意も必要となりますが、仮に承認されずとも、わたしはボスの座を後継に譲り、少なくともわたしとわたしの子供たちは全員、全力で協力させて頂きましょう」

「水臭ぇですぜボス」

 2番目に大きなフェンリルが言った。

「そのときは俺もお供させて頂きやすぜ」

「「「「「「「「お、俺も俺も!」」」」」」」」
「「「「「ぼ、ボクもボクも」」」」」

 はは、こいつらほんといいやつらだな。


 フェンリルたちの一族は、全部で500頭少々いるそうだ。
 ここにいるのはパトロール集団で、全員オスばかりらしい。
 連中は一度群れの拠点に帰り、俺たちもシスティの領域に帰ることにした。
 2日後には俺とシスティが連中の拠点を訪れて、説得を試みる予定になっている。



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