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*** 70 ゴブリン村の村長さん ***
しおりを挟むちょうど3種類のモデル住宅が出来たころ、キャラバンを率いていたフェミーナから連絡が来た。
「えーっと、これどうやって喋ればいいのかしらアダムさん」
(そのまま普通に話して頂いてけっこうでございますよ)
「あのー、サトルさん、聞こえるかしら」
「おお、よく聞こえるぞ」
「わー、ほんとにサトルさんと話が出来るわ。これすごい魔道具ねえ」
「どうしたんだ? なにか問題でもあったのか」
「いいえ、問題はないんだけど、今日あるゴブリン集落の村長さんと会ったのよ。
それで、移住について説明したら、『岩山のキング』っていうゴブリン・キングさんのところに案内してくれるって言うの。
だから、サトルさんも来たらどうかって思ったのよ。
その『岩山のキング』さんって、このあたり一帯の300か所のゴブリン村の村長さんたちを束ねてるんですって」
「おお、それは素晴らしいな。
それじゃあ明日の朝、一緒にキミが今いる場所に飛ぼうか」
「それじゃあ明日の朝イチで、『フェンリル街』でお待ちしてるわ」
翌朝、俺たちはそのゴブリン集落に飛んだ。
悪魔っ子たちは『9時街』に待機させている。
「おお! びっくらこいたべ! 本当に突然現れなすっただ!」
「村長さん、おはようございます。こちらが昨日言ってたサトルさんよ。
サトルさん、こちらがこのゴブリン集落の村長さんで、ゴブラータさん」
「やあ、おはよう。俺がサトルだ。システィフィーナ創造天使の『使徒』をしている。
今日は時間を取ってくれてありがとう」
「なんのなんの、礼を言うのはオラたつのほうだべ。
ちょうど怪我人も出とったし、子供たつも何人か熱出しとったけんど、光の精霊さまがみぃ~んな治してくださっただ。ありがたいことだす」
ちょうどそのとき光の精霊がひとり飛んできたんだ。
「わーい! サトルさんだぁ! おはよー♪」
「ああ、おはよう。昨日はお仕事がんばってくれたみたいだな」
「うん♪ もうみんなケガも病気も治って元気になったよー。
あ、今土っちゃんと植っちゃんたちは、畑を元気にしてるよ。
あの水撒いたら、みるみる麦が大きくなってびっくりしちゃったぁ♪」
「さ、サトルさぁは、ずいぶん精霊さまたちと仲がよろしいのですな……」
「だってこのひと、システィフィーナさまの『使徒』さまだものー。
それに、いっつも美味しい食べ物ごちそうしてくれるしー♪
この前もみんなで集まって、サトルさんの使い魔のひとたちのお祝いのパーティーやったんだけど、光と火と風と水と土と植物の精霊が、1818人全員集まってすごかったんだよー♪」
「せ、せんはっぴゃく……」
「そうだよー、いっぱいいるんだよー。
こないだなんか、サトルさまの緊急指令で全員いっぺんに出動したんだけどさー。
もうすっごい大部隊で、カッコ良かったよー。
なんかボクもわくわくしちゃったぁー♪」
「はあ、ひと声で精霊さまたつ1818人を動員できるお方さまだすか……」
この村長…… ラノベのゴブリンのイメージとはだいぶ違うな。
まあ身長は160センチぐらいだし、体は黒っぽい緑色だけど。
それに鼻も高くって耳も少し尖ってるけどさ。
でも…… なんていうか、全体のイメージがヒトっぽいんだよ。
表情も柔らかいし。
これもう完全に「平和に暮らす知的生命体」じゃないか……
俺はこの朴訥な村長をこっそり『鑑定』してみた。
名前:コブラータ
種族:ゴブリン
階級:ゴブリン・ソルジャー
性別:男
年齢:32
総合レベル:25
幸福ポイント:895
罪業ポイント:38
E階梯:4.5
称号:第195ゴブリン村(通称ゴブラータ村)村長
スキル:『両手剣技Lv10』『体術Lv15』『威圧Lv18』『狩猟Lv12』『農耕Lv27』
(なあアダム。この罪業ポイントって、正当防衛と殺人に分けて見られないかな)
(それではスクリーン上のその部分を注視されて、『詳細鑑定』をお使いください)
(おお、なるほど。うん、この村長の罪業ポイント38はすべて正当防衛だったか。きっと村のみんなを守るために必死で戦ったんだろうな。
けっこうレベルが高いのもそのせいだろう……)
「それにゴブラータ村長さん。
このサトルさんは、ウチのボスと『同じ皿の飲み物を分け合って飲んだ仲』なのよ。
もうフェンリル一族の名誉会員みたいなものなの。
精霊さんたちだけじゃあなくって、サトルさんが一声かければわたしたちフェンリル族500頭も一斉に動くわ。
現にこうしてみなさんの村を回っているのもサトルさんの要請だからだもの」
「は、はぁ。そったらものすごいお方さまだったんですのう……」
「ああ、姿はヒト族かもしらんが、俺はこの世界とは異なる世界から来たヒト族なんだ。システィフィーナ天使に呼ばれてな。
だからヒト族の外見はあまり気にしないでくれるとありがたいんだが……」
「わかりますた。まんず匂いや雰囲気がぜんぜん違いますので、おなじヒト族でないのはすぐにわかりますわ。
それに黒目黒髪のヒト族はおらんそうですし」
(そうか、黒目黒髪はいないんだな……)
そのころになると、村の住民たちも俺たちをひと目見ようと大勢集まって来ていた。
「とうちゃん、ヒト族だよ。怖いよ」
「まんずはぁ、でえじょうぶだぁ。
あのお方は、昨日お前のハラ痛を治してくれた精霊さまのお知り合いみたいだぁ。
ほら見てみ、あの光の精霊さまがあの方の頭の上に乗ってらっしゃるだぞ」
「ほ、本当だ……」
「あのお方の指示で精霊さまも来てくださったそうだ」
「へえー……」
「それによく見ろ。平原の守り神、フェンリルさままで一緒にいるだろうが。
3頭もいらっしゃるだ。それもあんなに親しそうに」
「う、うん。フェンリルさまってすっごい強そうだねえ」
ああ、子供のゴブリンは肌がピンク色なんだな……
まだ耳も小さくて鼻も低くって、ヒトの子にそっくりだわ。
その父ちゃんは薄緑色か。たぶん普通のゴブリンなんだろう。
成長するとあんな肌の色になるんだな。
そうして経験を積んでゴブリン・ソルジャーになると、村長みたいに少し体も大きくなって黒っぽくなるのか……
おお、俺と同じ歳ぐらいの若い連中は、肌の色がピンクと緑の中間で、なんか肌色っぽく見えるわ。
あ、あそこの女の子なんか、ヒトっぽくて可愛いなあ。
ところでさ……
みんな植物の繊維で編んだ短パンみたいなの穿いてるんだけどさ。
なんで女性も上半身裸なの?
大きいのから小さいのまで、おっぱい丸出しなんですけど……
この種族も俺を困らせるっていうの?
俺は慌てて村長に向き直った。
「それでゴブリン・キングさんをご紹介くださる、っていうことなんだけど……」
「はあ、おらたつは、みぃんなキングさぁのお指図通りに暮らしているだ。
何年かにいちど村は引っ越しをするだが、そのときの移動先もキングさぁが決めてくださるだよ。おかげでゴブリン村同士の争いも無く、みんな平和に暮らしてるだ。
だからこちらのフェンリルのお嬢さんが勧めて下さった移住も、おらたつはキングのお考えの通りにするだぁよ」
「そうか、そのキングって立派な王様なんだな」
「はは、王様って言うとキングさぁは嫌がるだ。
ゴブリン・キングのキングっていうんは、単にゴブリンの強さの階級だかんの。
普通のゴブリンが強くなるとゴブリン・ソルジャーで、その上がゴブリン・ジェネラル、そうしてもっと強くなるとゴブリン・キングになるだよ」
「なるほど。いい統率者みたいだな……」
「まんずまんず、ここ300年で最高のキングって言われとるだよ。
おかげでおらたつゴブリンもずいぶん数が増えただ。
だけんど…… こうまで森のマナが薄れてくるとなあ……
みんなヒト族が攻めてくるんじゃあないかってびくびくしとるんだわ。
それでキングさぁは、本拠地の岩山をもっとくりぬいて、300のゴブリン村のゴブリンを全員集めようと計画なさっとるようだ。
そのために、おらが村も食糧を溜めとったんだが、土の精霊さぁや植物の精霊さぁたつのおかげで麦も野菜もたくさん採れそうだで、ありがたいこったす」
「そうか……」
「その間にキングさぁは部下たつにお命じなって、もっと東の地のオーク族やオーガ族の連中に頼み込んで東に移住させてもらうおつもりのようで、今度ご自身が東に出かけるって言ってただ」
「そうだったか、やはりマナが薄くなったせいで、ヒト族が侵攻してくる前に移住を考えていたんだな……」
「んだ。それじゃあそろそろキングさぁのいるところへご案内しようかの」
「なあ、その場所ってここからどっちの方向で、どれぐらい離れてるんだ?」
「こちらの方向で、まあ歩いて5日ぐらいだで、そんなに遠くはないだ」
「そ、それさ。俺たちがここに現れたのと同じ転移でもいいかな……」
「『転移』ですかの。おらも転移させてもらえるもんなんか?」
「もちろん。それじゃあいきなりキングさんのところに転移しても驚かせちゃうから、1キロほど離れたところに転移しようか。
アダム、場所はわかるか?」
(はい。ここから村長さんの指差す方向に120キロほど行くと岩山がありますが、その周辺に大勢のゴブリンらしき姿がありますので、ここだと思われます)
「それじゃあ出発しようか」
はは、精霊たちが、「ばいばーい、また会おうねー」とか言って手を振ってるよ。
村人たちはみんなお辞儀しとるわ。
こいつら本当にみんなに慕われてるんだなあ。
俺たちはみんなで『転移』した。
途端に周囲の風景が変わり、森の中に300メートルほど突き出した岩山が見えるようになった。
「はあ、まんずびっくらこいただあ。ここはまさしく『キングの村』の近くだす」
「それじゃあ村長さん。今からキングさんのところに行って、俺たちを連れて来たって伝えてくれるかな。
俺たちはここで迎えを待ってるから」
「それではちょっくら行ってくるだ……」
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