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*** 100 ギャランザ王国軍3万5000の洞窟ドワーフ領侵攻開始 ***
しおりを挟む翌朝、ギャランザ王国軍3万5000の洞窟ドワーフ領侵攻が始まった。
2日ほどの距離を開けて、ビクトワール後詰軍2万も進軍している。
「さすがに実戦部隊の動きは多少速いか」
(はい、この速度ですと、5日後には山中のギャランザ王国最西端の村に到着するものと思われます。
そこから第3砦前の平坦部までは5日、そこからは第3砦まで6時間ほどの行程でございますね)
「まともな軍隊なら山間の狭隘な場所で野営は避けたいだろうから、最後はその平坦部で1泊かな。だがまあこいつらあんまりまともじゃないみたいだからなあ。
5000の軍がいかにも野営しやすいように、少し平坦部を広げてくるか……
まあ万が一のこともあるから、引き続き監視を頼むぞ」
(はい)
「ああ、それからさ。
ボルグ男爵の街から最西端の村まではほぼ5日の行程だったよな。
その間に、2万の軍勢が野営出来るような広い草原はあるか?」
(それでしたら何カ所かに見晴らしのいい草原がございますが)
「それじゃあついでに一仕事するか。明日その草原に俺を転移させてくれ」
(はい、畏まりました)
翌日、ギャランザ王国軍は、先鋒の男爵軍も後続の侯爵軍も最初の野営地を後にして進発した。
すぐに俺はその街道沿いの草原に転移する。
うん、確かにここなら指揮官が野営場所に選びそうだな。
よし、それじゃ『野営用の陣地』でも造ってやるか……
俺は、既に侯爵軍が出立したその草原で、2万人用の野営地建設魔法マクロ、【ヒト○イホイ(2万)】を実行した。
ふふ、いかにも泊まりたくなるような陣地だなあ。
入口にはちゃんと【歓迎、ビクトワール大王国軍御一行様専用野営陣地】の看板もあるし。
よしよし、いい出来だ♪
翌日の夕刻。
(サトルさま、ビクトワール大王国軍の後詰軍2万が、サトルさまの作られた中型野営陣地に入りました)
「ほんとに俺の『ヒト○イホイ』に引っかかったか……」
(どうやら軍の将校は反対したのですが、司令官の伯爵が命令した模様です)
「そうか、司令官用の宿舎を豪華に作っておいてよかったな」
(いかがいたしましょうか)
「ああ、夜中になったら全員大型収容所に転移させよう。
仕分けはすべて終わってからにする。
あそこは俺が作って『システィの純天使域』になっているから、俺もお前も2万人転移させるぐらいなら簡単だろう」
(はい)
その後もギャランザ王国軍は順調に進軍しているようだったが、徐々に先鋒軍と後続の侯爵軍の差が開き始めていた。先鋒軍は相当に気合いが入っているんだろう。
そうしてとうとう先鋒軍が、第3砦まで半日の距離にある平坦で広い野営適地に到着したんだ。
ああ、さすがにここで野営してくれるようだな。この広場を整備しておいてよかったぜ。
翌朝、まだ日も昇らないうちから、ヒト族軍のドワーフ第3砦侵攻が始まった。
俺はドワールス率いるドワーフ隊に6時間待機を命じ、第3砦に転移したんだ。
そこには、城壁工事を命じていた洞窟ドワーフの旧支配層たちがいる。
「お、おお、使徒さま。
ヒト族軍は本当にやって来るのでしょうか……」
「ああ、あと6時間ほどで先鋒軍5000、後続3万の軍勢がやってくるぞ」
「そ、そんなに……」
「お前たち、ヒト族が来てもこの砦があれば防げると言ってたんじゃないのか?」
「そ、それは……」
「まあいい。
ヒト族軍の姿が見えたら砦の後ろの城門を開けてやるから逃げてもいいぞ。
だが第2砦まで必死で走らないと、ヒト族に追いつかれるかもしれないなあ」
「「「「「…………」」」」」
「それじゃあ砦を出て、後方の城門前で待機していろ。
ああ、戦いたい者はいるか?」
あー、全員下向いちゃったよ。ダメだこいつら。
「アダム。この砦からヒト族軍が見えるようになったら、城門を開けてやってくれ」
(畏まりました)
さてと、砦の中の魔道具をすべて起動させてと。
後はヒト族とドワーフ族に似せた人形を配置して……
しまったなあ、あと5時間以上もあるのか。ちょっと早く来すぎちゃったかな。
はは、俺も初戦に気が逸っていたようだ。
「アダム、ちょっと昼寝するからヒト族があと1時間以内に迫ったら起してくれるか」
(はい…… 畏まりました……)
(サトルさま、サトルさま……)
「ん? ああアダムか。よく寝たわ。
ヒト族は来たか?
(はい、後1時間ほどで視界に入る場所までやって来ております)
「そうか、それじゃあちょっと早いがドワールス隊を呼んでおこうか。
それから俺の脳内スクリーンにヒト族軍の様子を映してくれるか」
(はい。これでよろしいでしょうか)
「ほほー、工兵部隊が先頭か。
ずいぶん沢山の資材を持ってるじゃないか。梯子でも作るつもりかな。
はは、さすがに戦争にかけては丸っきりの莫迦でもないか……
お、なんか男爵と軍監が話を始めたぞ。話の内容を聞かせてくれ」
(はい)
「ふう、さすがに行軍が速いの。
後方のダゴラーザ侯爵軍をだいぶ引き離してしまったようだな」
「はっ! 侯爵閣下より先鋒軍に求められるのは何よりも侵攻速度だと下命されております!」
「ドワーフ共の砦まではあとどれほどかの?」
「あと1時間以内で砦が見えてくるはずでございます、閣下」
「それですぐに攻略にかかるのかな?」
「はい! 砦まで500メートル地点にて一旦停止し、城壁攻略用の梯子を組みたてつつ陣形を整え、そのまますぐに砦に攻め込みます」
「攻略後はどうする?」
「そのまま進撃し、軍路上を警戒しつつも第2砦までの中間地点に兵を進めます。
そこで野営して、明日の昼には第2砦攻撃の予定であります。
もしよろしければ、軍監閣下はこちらの砦でご休息されてはいかがでしょうか」
「ふむ。そうさせてもらおうか。
第2砦までの軍路の安全が確保出来次第、伝令をよこすように」
「ははっ!」
おーおー、戦う気満々だな。
だがまともに戦ってやる気はさらさらないけどなあ。
ドワールス隊の準備も終わったようだな。
それじゃあ砦の上にドワーフ人形兵を30体ほど立たせてと。
お、ヒト族軍の軍旗が見えた。
おお、張り切って行軍してるじゃないか。
(サトルさま、後方城門を開けてもよろしゅうございますか?)
「ああ、開けてやってくれ」
わははは、逃げてく逃げてく。
旧支配層のドワーフ共が必死で急坂を駆け上って行ってるわ。
それじゃあ一応後方の城門はマナ材を張り付けて封印しておこう。
万が一砦を抜けたヒト族がドワールス隊と鉢合わせしたらまずいからな。
お、ヒト族軍の先頭にいる兵士が何やら砦を指差して叫んでるぞ。
よしよし、ドワーフたちが逃げて行くのをちゃんと見てくれたようだな。
ああ、ひとり後方に走って行ってる。ボルグ男爵に報告しに行くんだろう。
「男爵閣下にご報告申し上げます!
ドワーフ第3砦からドワーフ共が逃げ出しております!」
「そうか! 何人ほどで、どちらの方向に行ったか」
「はっ! 500名ほどが第2砦に向けて走り去って行きました!」
「はは、なにやら戦わずして勝ってしまいそうだの」
「ですが、砦の上にはドワーフ兵の指揮官とみられる姿を30名ほど確認しております! 兵全員が逃亡を図っているのではない模様です!」
「ふふ、そうでなければつまらんな。
皆の者聞いたか!
ドワーフ共は半数以上が逃げ出した!
砦に残っておるのはもう多くとも500ほどだろう。こちらはその10倍の5000だ!
城壁攻略用の梯子の組み立てが終り次第、一気に砦を落とすぞ!」
「「「「「「「「 おおおおう!!! 」」」」」」」」
「む、砦が見えて来おったか。
わははは、なんだあのみすぼらしい城壁は!
あれでは城壁と言うより単なる塀ではないか。あんなもの走ってでも抜けられるわ!
だが一応砦のすぐ前にも2つ目の城壁があるのか。
ということは1枚目の壁は馬避けの塀か…… 小癪なドワーフめ!
工兵隊に梯子の準備を急がせろ!
その間兵たちは小休止だ!」
「ははっ!」
「それでは奴隷兵隊長を集合させよ」
「隊長集合―っ!」
「うむ、皆敵砦を目前にして気合いが入っているようだの。
必死で駆けて来おる。流石は我が先鋒軍だ!
よいか、まずはこの場に馬を繋げ。
それから工兵隊に最初の塀に梯子をかけさせる。
そして第1第2隊長!」
「「 はっ! 」」
「お前たちは兵を率いて梯子を昇り、塀の内側に敵兵がいた場合はこれを殲滅せよ! いない場合にはその場に留まり、後続を待て」
「「 ははっ! 」」
「兵たちの塀内突撃後は、工兵隊は速やかに塀の撤去作業に入れ。
少なくとも荷駄を積んだ馬が通り抜けられるだけのスペースを確保せよ」
「「 はっ! 」」
「第1隊と第2隊が塀の内側を確保次第、全隊は塀の内側に布陣せよ。
中央は俺と直衛隊だ。前面と左右を固めろ」
「「「「「「 ははっ! 」」」」」」
「俺が布陣についた後は、第1隊から第4隊には第2の城壁内部への突撃を命じる。後続軍のために速やかに城壁内部のドワーフ共を掃討し、城門を開け!」
「「「「 ははっ! 」」」」
「その後はタイミングを計り、残りの第5隊から第8隊には逃亡したドワーフ軍の追撃を命じる。敵の抵抗があればこれを殲滅しつつ軍路を確保せよ。
目標地点は第2砦までの中間地点だ。
夜までに野営地を確保出来るよう進軍を急げ!」
「「「「 ははぁっ! 」」」」
「いかがでしょうか軍監閣下。それでよろしゅうございますでしょうか」
「うむ。見事な采配である。
速やかなる進軍はビクトワール陛下もお喜びになるだろう」
「ははぁっ!」
(ふふ、ここで俺の有能さを見せつけておけば、この子爵の部下に引き上げられるかもしれんからな。
侯爵閣下は物資・奴隷の隠匿が見つかったら殺せとは言っていたが……
それよりも俺を欲しいと思わせる方が遥かに有用だろうて……)
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