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*** 125 『いやー、マジで面白かったねえ♪』 ***
しおりを挟む上級神ヴラビエールが怒気を孕んだ声を発した。
「ラウスジーヌよ」
「はっ!」
「こやつを連れて神界に帰れ。
この者は1階級降格の上、わたしの副官職から解任する。
神界で謹慎するよう申し伝えよ」
「しっ、しかし、ヴラビエールさまっ!」
「お前たちは、わたしが『これは命令ではなく懇請である』と言ったのを忘れたのか?
しかもこの重大な任務を己の矮小なプライドのせいで邪魔しおって。
今すぐ神界に連れ帰れっ!」
副官がすぐに初級野郎を連れてその場から消え失せた。
もうひとりが慌てて『クリーン』で床を綺麗にしている。
はは、ローゼさまとエルダさまが止まっていた息を大きく吐いているわ。
「わたしの部下がたいへん失礼をした。
それで理由を聞かせてもらってもよろしいか?」
俺は何事も無かったかのように続けた。
「はい、先ほども申し上げた通り、天界よりの『ご命令』でしたら何の問題も無かったのです。ご命令に従うだけですから。
ですが、金額までご提示いただいての『仕事』ですと、話は違って来てしまうのです。
この世界の中央大平原に居住するヒト族以外の知的生命体400万人は、今たいへんな危機に晒されています。
マナ噴気孔を修理して頂いたこともあって、中央平原のマナ濃度が薄れてしまい、ヒト族がいつ侵攻して来て彼らを殺戮し、または奴隷化してしまうかわからない状況なのです。
しかも、ヒト族から避難して来た種族を受け入れるために、ここでは悪魔族の子供たちが300人も働いております。
私がこの地を離れている間に、彼らに万が一のことがあったら……
わたくしは自分を許せません。
結果として、ヒト族に対抗出来得る最高戦力であるわたくしが、報酬の為に仲間たちを見捨てたことになってしまいますから……」
「そうか…… この世界でも知的生命体が大変な危機に瀕していたのだったな……」
ああ、ヴラビエールさん、本当にがっくし来てるわ。
「ですから次善の案は如何でしょうか」
「次善…… とな」
「なあ、アダム。
お前、30日間だけ「惑星ニューウール」に出張してくれないかな。
そうして向こうで神さまたちに、『魔法マクロ』を使わせてやって欲しいんだよ。
その間、留守を預かるイブはたいへんだろうし寂しいだろうけど、なんとかお願い出来ないもんかな」
(先ほどからイブとも話していたのですが、仮にサトルさまが「惑星ニューウール」に向かわれた際にも、わたくしは同行させて頂くつもりでしたので、おなじことでございますよ)
(サトルさま、わたくしも精一杯がんばりますので、どうかお気づかいございませんようにお願い申し上げます)
はは、ヴラビエールさんがびっくりしとるわ。
「と、ということは…… 『10億都市』の建設は……」
「ええ、ヴラビエールさま。
もう既に魔法マクロの根幹は完成してますからね。
実行も実施済みですし。
後はちょっと収容人数が多くなるように改造するだけですから、それならむしろ、わたくしなどよりもアダムの方がよっぽど優秀ですよ」
「あ、ありがたい……」
「ところでヴラビエールさま、最後にひとつだけ条件をご提示させて頂いてよろしいでしょうか」
「う、承ろう……
建設代金のことならば、1000億クレジットから多少の上乗せは……」
「その『10億都市』の建設代金なんですが……
材料費もなにもかも含めて、『1億クレジット』でしかお引き受け出来ません。
なあシスティ、それでいいだろ?」
「うふふ、さすがはサトルだわ。もちろんいいわよ♡」
「な、なんと……
提示金額の1000分の1でよいと言うのか……」
「いや、材料費って言いましても、元は全部神界から頂いたものですからねえ。
それに困ってる方々を助けてカネ儲けなんて……
1億クレジットでも高いぐらいですよ。
でもすみません、この世界を救うために、1億クレジットで買いたいものがあったものですから……
まあ、余ったカネは、ニューウールの住民たちの食糧費にでも回してやってください」
その後、上級神ヴラビエールさまに『9時街』の視察を勧めたんだが、まずは「ニューウール」での建設の準備があるということで、視察は後日ということになった。
ヴラビエールさまは、お顔はいっそう疲れたご様子だったが、嬉しそうに帰って行かれたよ。
(それにしてもあのサトルという漢)……
あのゼウサーナが加護を与え、神界中がその一挙手一投足に熱狂し、さらにはあの最高神さままでもが目をかけている理由も、よくわかったわい。
これからはわたしも欠かさず『ガイア観察日記』を見るとするか……)
そのころ神界の最高神さまの執務室では……
「いやー、マジで面白かったねえ、ゼウサーナくん♪
ボクもう興奮しちゃって血圧上がりっぱで、脈拍も180近かったよぉ」
「はい……」
「ぷぷぷ、あの初級神、サトルくんに睨まれただけで、『ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ~っ!』だって……
し、しかも粗相までして気絶しちゃうなんて……
うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ……
そ、それにさ、サトルくんったら、『1億クレジットでしかお引き受け出来ません』だってさ!
あんなカッコいいセリフ、ボクもいちど言ってみたいもんだねぇ♪
あ、『サトル名言集』に加えておかなきゃ♪」
「はあ……」
(いくらサトルの大ファンであらせられると言っても、本当に大丈夫だろうかウチの最高神さま……)
そのころのガイア、システィの天使域では……
ローゼさまとエルダさまが、ぐったりとテーブルに倒れ伏していた。
エルダさまが小さな声でなんか言ってる。
「ほんに、お前というやつは…… 寿命が1万年は縮んだわ……
まったく、お前の心臓には毛でも生えてるのではないかの……
それも鋼鉄製の剛毛が……」
「わ、わたくしも…… 恐ろし過ぎて、これを『ガイア観察日記』に書く自信がありません…… 書けば大ウケ間違いなしなんですが……」
「サトルって…… ステキ♡」
システィだけは平常運転か……
(ところでサトルさま)
「ん? なんだアダム」
(サトルさまは当然お気づきですよね)
「ああ、体内マナ保有力とマナ操作力の違いのことだろ」
(はは、やはりお気づきでしたか。
それでどうされるおつもりですか?)
「ああ、いくらマナ保有力が有り余ってる神界土木部の連中でもさ、あれだけの細かい作業の繰り返しがあると、マナ操作力が絶対的に足りないよな。
だから、ユニット住宅の建設にたどりつく前に、魔道具作り辺りでぶっ倒れるんじゃないか?」
(はい。間違い無くそうなるでしょうね……
ですが、もしもその部分を分割して10人で行ったとしても……)
「ああ、たとえ100人でかかっても、都市1コで全滅だろうな。
あの力が完全枯渇するとキッツいからなあ。
ヘタにデカいマクロ走らせると、勢い余ってマナ操作力がマイナスまで突っ込んじゃうし。まあ全員1週間は使い物にならないんじゃないかあ?」
(その場合はいかがいたしましょうか……)
「そのときはヴラビエールさまのいるところで俺に連絡して来いよ。
い~い方法があるから♪」
(サトルさまの周囲に、見たことも無い程の巨大な黒オーラが渦巻いておりますが……)
「ま、まあ気にするなって。
そうだアダム。
お前自身の倉庫に『純粋マナ結晶』たくさん入れて持って行けよ♪」
(………………)
翌日、俺たちは急いで準備に取り掛かった。
まずは地球への硬質プラスチックの要請だ。
すぐにエルダさまが地球の悪魔さんたちを総動員してサンプルを集めてくれたよ。
最も固くて使いでが良さそうだったのが、なんとペットボトルの再利用品だったわ。
ブロック状になってて、接着剤でくっつけてレンガの代わりの建材にするつもりだったらしい。
今地球ではペットボトル再利用材が余って困ってるそうで、10万トンぐらいならすぐに集められるとのことだった。
まあ、体積にすれば100メートル×100メートル×15メートル程度の話だからな。
これは地球から直接「ニューウール」に転移されることになったんだ。
次は【衛星都市建設】のマクロの見直しだ。
これはユニット住宅の輪の間を、現行の100メートルから50メートルに変更すれば、街の半径は4200メートルで足りる。
多少狭く感じるだろうが、まあ絶滅よりはマシだから我慢してもらおう。
ウールの住民の平均身長は150センチ程だそうだから、そんなには狭く感じないだろうしな。
ひとつの都市ごとの住宅ユニットの数は、約2万7000棟。
これで100万都市が出来上がる。
多少の余裕をみて、この都市を1200個造ることにした。
都市の半径も5000メートルにして、周囲は農地にしてやるか。
それから、都市ごとに城壁を造るのではなく、これら1200の都市群をまとめて城壁で囲むことにしたんだ。
ウールにもニューウールにも危険な大型猛禽類はいないそうだし、大型の肉食獣も跳躍力は大したことはないらしいから、城壁の高さは30メートルほどでいいだろう。
アダムの3Dシミュレーター内部でのシミュレーションも上手くいった。
でも、予想される必要体内マナ総量と、必要マナ操作総量を見て、アダムのアバターが顔をしかめていたけど……
そうして俺たちは神界土木部門と転移部門への依頼事項をまとめて、ヴラビエールさまの司令部に送ったんだ。
その依頼事項とは、
「縦横500キロほどの都市建設予定地域の植物を神域倉庫へ転移しての保存」
「その地域の表土をおなじく全て神域倉庫に転移しての保存」
「その地域の岩盤の水平化と地ならし」
「建設予定地内に、それぞれ11キロの間隔を空けて、縦30個、横40個のマーカーの設置」
「場所は問わず、標高のやや高い地域での水資源用湖の建設、極地大陸の氷のそのダムへの転移」
というものだった。
まあ、神界土木部には朝飯前の仕事だろう。
また、神界転移部門に対しては、マナ建材や各種金属資源、ガラス資源、肥料などの建設現場への転移を依頼した。
いずれの依頼も、それぞれの部門がすぐに達成してくれたようだ。
神界の真剣さが伺えるな。
そうして全ての準備が整うと、俺たち全員に見送られて、アダムの本体とアバターが惑星ニューウールに転移して行ったんだ。
はは、イブのアバターがアダムのアバターに抱きついてキスしてたよ。
仲が良くってなによりだ。
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