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渓谷の翼竜
第9話 決闘
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帰れ!!
――と言われてもなぁ……。
せっかく、ここまで来たんだ。
帰れと言われたから帰ります、とはいかない。
こっちはちゃんと授業料を払っている。
道場に入る権利はある。
それにこんな子供に、とやかく言われたくはない。
俺はこれでもこの世界で、百年以上は生きている。
前世のことはよく覚えていないが、人間として数十年は生きていたはずだ。前世を含めた人生経験は、こんな子供とは比べ物にならない程に積んでいるのだ。
年上に対してもっと敬意を持つように、ガツンと言ってやろう。
……いや、待て。
相手は年端も行かない子供なんだ。
こんな子供を叱りつけるというのも、大人げない気がする。
ここは大人として、優しく諭してあげよう。
俺はゆっくりと、口を開く。
「あのな、坊や。俺は自分で仕留めた魔物を、この村に提供したんだよ。それと交換で、ここで剣術を習うことになったんだ。――ちゃんと報酬を支払って勉強に来たって訳だ。……解ったか? 解ったら、そこを通してくれ」
「は? 何言ってんだ、お前? よく分からんことを、ごちゃごちゃ言いやがって、邪魔だからここから消えろ!! 言う通りにしないと痛い目を見せるぞ」
生意気なガキは、俺を睨みながら凄んでくる。
…………。
……頭悪いな、コイツ。
こういうガキは、しっかり躾けないといけないな。
大人として――
それが行く行くは、こいつの為にもなるだろう。
きっと――
俺は喧嘩をすることにした。
まずは、挑発する。
「……やってみろよ?」
売り言葉と買い言葉の交換は、喧嘩を始める前の作法だ。
「……あぁ? なんだって?」
「やってみろ、と言ったんだよ。……頭だけじゃなくて、耳まで悪いのか、お前は――? 『痛い目』とやらを見せてくれよ。お前のような雑魚に、出来ればだけどな!!」
俺が適当に挑発すると、そいつは顔を強張らせ、凄い形相で睨みながら震え出す。
「……お前、殺すぞ」
声を押さえて、脅しをかけてくる。
俺は構わずに、笑いながら挑発を続ける。
「やってみろよ、ザコ助」
「…………ッ」
もう、言葉はいらない。
後は戦うだけだ。
俺と『ドウイチ』は訓練場の真ん中で、お互いに木刀を構えて向かい合う。
『ドウイチ』というのは、この無礼なガキの名前だ。
この道場の他の奴らから、そう呼ばれていた。
この道場の師範と、村長の息子らしい。
村長は俺が十五年前に、助けたあの少女だ。
コイツがこの世に生まれて、生きていられるのは俺のおかげでもある。
――だというのに、こいつの俺に対する無礼な態度はなんだ?
恩を仇で返すにもほどがある。
今の俺は人間の姿だから、竜神だと解らないのも無理はないが、ムカつくものはムカつく。
きっちり躾けてやろう。
この道場で木刀や刀を思い思いに振るっていた十数名の門下生たちも、俺たちの決闘を見物するようだ。
半円を描くように囲んでいる。
見物人たちは、このガキ――
『ドウイチ』のことを、心配しているようには見えない。
薄情な奴らだな。
木刀でも骨は折れるし、当たり所が悪ければ死ぬ。
それとも、こいつが結構強くて負けるとは思われていないのか?
……。
そうかもしれない。
この道場のトップの息子だし、それなりに――
「でりゃぁっぁあああああ!!!」
「――うおっ!!」
ガシッ!!
俺が考え事をしていると、いつのまにかクソガキに打ち込まれていた。
気付かないうちに、距離を詰められていた。
頭を狙い、振り下ろされた木刀――
俺は寸前で、腕で受けて防ぐ。
腕の骨にひびが入ったな、こりゃ……。
折れているかもしれない。
「やるじゃないか、クソガキ……」
頭を狙い振り下ろされた木刀を腕で防いだ俺は、痛みに構わず木刀をいなす様に腕で振り下ろす。
ガッ!!
ドウイチの木刀が地面を叩く。
地面を叩いたドウイチの木刀を、勢いよく足で踏んで押さえる。
クソガキはバランスを崩して、木刀も手放している。
これで奴は武器を失い、隙だらけになった。
俺はドウイチの首筋に、木刀の刃を押し付ける。
「――俺の勝ちだな」
勝利宣言をする。
不意を突かれて腕を負傷したが、それと引き換えに相手の首に木刀を突き付けた。
だが、クソガキは自分の負けを認めない。
「はぁ!? 俺の勝ちだろう。真剣でやってれば、お前の腕は切れていた。それで勝負あり――お前の負けだ!!」
…………。
――ふむ。
そう言われると、そんな気もする。
俺には、真剣を握って戦っているという認識が無かった。
そこまでの想定はしていない。
油断もあった。
だが、これは真剣勝負の決闘だ。
木刀ではなく、真剣で戦っているという想定で、このクソガキと向かい合わなければいけなかった。
……だがなぁ。
これで俺が負けになるのは、なんかおかしくないか?
俺が甘かったことは認めるが、腕を斬られたとしても、その後で、俺はこいつの首を切り離すことが出来たじゃないか――
だったら『相打ち』だろう。
それに、コイツは俺の手の内を知らない。
この勝負はやっぱり、俺の勝ちだ。
このガキに、大人の世界の厳しさを教えてやる。
「いや、この勝負は――木刀を手放したお前の負けだ。お前の攻撃は、俺の腕を切断するレベルでは無かったし、たとえ切られても、俺にはこれがある」
俺はそう言うと、赤く腫れあがった腕を前にかざして、回復魔法をかける。
復元魔法を使い、傷んだ腕を元の状態に修復する。
このくらいの怪我なら治癒魔法で十分だが、瞬時に治せることをこいつに見せつけるために復元魔法を使う。
演出ってやつだ。
「俺が回復魔法を使える可能性を、失念していたお前の負けだ!!」
俺は子供相手に、大人げなく勝ち誇る。
がははははっ!!
俺がドヤっていると、ドウイチは悔しそうな顔をする。
「くっ、お前、貴族だったのか――」
ん?
――貴族?
見物人たちの空気も、なんか微妙になる。
どうやらこの世界で魔法を扱えるのは、貴族だけらしい。
そっか……。
それなら俺は、『貴族の生まれ』という設定にしておこう。
「俺の生まれのことは気にするな。――家は出てきた。今の俺の目標は『最強の剣士』になることだ!!」
適当に口から出まかせを言う。
「……フンッ、気に入らないが、ここで剣を振るうことは許してやる。だがな、お前のことを信用した訳じゃないぞ!!」
いや、お前の許しはいらないだろ。
――煩わしいガキだ。
だが、コイツとの言い合いで目標が出来た。
『最強の剣士』
口から出まかせで、適当に発した言葉だが――
目指すのも悪くないな。
――と言われてもなぁ……。
せっかく、ここまで来たんだ。
帰れと言われたから帰ります、とはいかない。
こっちはちゃんと授業料を払っている。
道場に入る権利はある。
それにこんな子供に、とやかく言われたくはない。
俺はこれでもこの世界で、百年以上は生きている。
前世のことはよく覚えていないが、人間として数十年は生きていたはずだ。前世を含めた人生経験は、こんな子供とは比べ物にならない程に積んでいるのだ。
年上に対してもっと敬意を持つように、ガツンと言ってやろう。
……いや、待て。
相手は年端も行かない子供なんだ。
こんな子供を叱りつけるというのも、大人げない気がする。
ここは大人として、優しく諭してあげよう。
俺はゆっくりと、口を開く。
「あのな、坊や。俺は自分で仕留めた魔物を、この村に提供したんだよ。それと交換で、ここで剣術を習うことになったんだ。――ちゃんと報酬を支払って勉強に来たって訳だ。……解ったか? 解ったら、そこを通してくれ」
「は? 何言ってんだ、お前? よく分からんことを、ごちゃごちゃ言いやがって、邪魔だからここから消えろ!! 言う通りにしないと痛い目を見せるぞ」
生意気なガキは、俺を睨みながら凄んでくる。
…………。
……頭悪いな、コイツ。
こういうガキは、しっかり躾けないといけないな。
大人として――
それが行く行くは、こいつの為にもなるだろう。
きっと――
俺は喧嘩をすることにした。
まずは、挑発する。
「……やってみろよ?」
売り言葉と買い言葉の交換は、喧嘩を始める前の作法だ。
「……あぁ? なんだって?」
「やってみろ、と言ったんだよ。……頭だけじゃなくて、耳まで悪いのか、お前は――? 『痛い目』とやらを見せてくれよ。お前のような雑魚に、出来ればだけどな!!」
俺が適当に挑発すると、そいつは顔を強張らせ、凄い形相で睨みながら震え出す。
「……お前、殺すぞ」
声を押さえて、脅しをかけてくる。
俺は構わずに、笑いながら挑発を続ける。
「やってみろよ、ザコ助」
「…………ッ」
もう、言葉はいらない。
後は戦うだけだ。
俺と『ドウイチ』は訓練場の真ん中で、お互いに木刀を構えて向かい合う。
『ドウイチ』というのは、この無礼なガキの名前だ。
この道場の他の奴らから、そう呼ばれていた。
この道場の師範と、村長の息子らしい。
村長は俺が十五年前に、助けたあの少女だ。
コイツがこの世に生まれて、生きていられるのは俺のおかげでもある。
――だというのに、こいつの俺に対する無礼な態度はなんだ?
恩を仇で返すにもほどがある。
今の俺は人間の姿だから、竜神だと解らないのも無理はないが、ムカつくものはムカつく。
きっちり躾けてやろう。
この道場で木刀や刀を思い思いに振るっていた十数名の門下生たちも、俺たちの決闘を見物するようだ。
半円を描くように囲んでいる。
見物人たちは、このガキ――
『ドウイチ』のことを、心配しているようには見えない。
薄情な奴らだな。
木刀でも骨は折れるし、当たり所が悪ければ死ぬ。
それとも、こいつが結構強くて負けるとは思われていないのか?
……。
そうかもしれない。
この道場のトップの息子だし、それなりに――
「でりゃぁっぁあああああ!!!」
「――うおっ!!」
ガシッ!!
俺が考え事をしていると、いつのまにかクソガキに打ち込まれていた。
気付かないうちに、距離を詰められていた。
頭を狙い、振り下ろされた木刀――
俺は寸前で、腕で受けて防ぐ。
腕の骨にひびが入ったな、こりゃ……。
折れているかもしれない。
「やるじゃないか、クソガキ……」
頭を狙い振り下ろされた木刀を腕で防いだ俺は、痛みに構わず木刀をいなす様に腕で振り下ろす。
ガッ!!
ドウイチの木刀が地面を叩く。
地面を叩いたドウイチの木刀を、勢いよく足で踏んで押さえる。
クソガキはバランスを崩して、木刀も手放している。
これで奴は武器を失い、隙だらけになった。
俺はドウイチの首筋に、木刀の刃を押し付ける。
「――俺の勝ちだな」
勝利宣言をする。
不意を突かれて腕を負傷したが、それと引き換えに相手の首に木刀を突き付けた。
だが、クソガキは自分の負けを認めない。
「はぁ!? 俺の勝ちだろう。真剣でやってれば、お前の腕は切れていた。それで勝負あり――お前の負けだ!!」
…………。
――ふむ。
そう言われると、そんな気もする。
俺には、真剣を握って戦っているという認識が無かった。
そこまでの想定はしていない。
油断もあった。
だが、これは真剣勝負の決闘だ。
木刀ではなく、真剣で戦っているという想定で、このクソガキと向かい合わなければいけなかった。
……だがなぁ。
これで俺が負けになるのは、なんかおかしくないか?
俺が甘かったことは認めるが、腕を斬られたとしても、その後で、俺はこいつの首を切り離すことが出来たじゃないか――
だったら『相打ち』だろう。
それに、コイツは俺の手の内を知らない。
この勝負はやっぱり、俺の勝ちだ。
このガキに、大人の世界の厳しさを教えてやる。
「いや、この勝負は――木刀を手放したお前の負けだ。お前の攻撃は、俺の腕を切断するレベルでは無かったし、たとえ切られても、俺にはこれがある」
俺はそう言うと、赤く腫れあがった腕を前にかざして、回復魔法をかける。
復元魔法を使い、傷んだ腕を元の状態に修復する。
このくらいの怪我なら治癒魔法で十分だが、瞬時に治せることをこいつに見せつけるために復元魔法を使う。
演出ってやつだ。
「俺が回復魔法を使える可能性を、失念していたお前の負けだ!!」
俺は子供相手に、大人げなく勝ち誇る。
がははははっ!!
俺がドヤっていると、ドウイチは悔しそうな顔をする。
「くっ、お前、貴族だったのか――」
ん?
――貴族?
見物人たちの空気も、なんか微妙になる。
どうやらこの世界で魔法を扱えるのは、貴族だけらしい。
そっか……。
それなら俺は、『貴族の生まれ』という設定にしておこう。
「俺の生まれのことは気にするな。――家は出てきた。今の俺の目標は『最強の剣士』になることだ!!」
適当に口から出まかせを言う。
「……フンッ、気に入らないが、ここで剣を振るうことは許してやる。だがな、お前のことを信用した訳じゃないぞ!!」
いや、お前の許しはいらないだろ。
――煩わしいガキだ。
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