偽神に反逆する者達

猫野 にくきゅう

文字の大きさ
11 / 51
渓谷の翼竜

第11話 性格

しおりを挟む
 村の討伐隊が、街道を進む。

 俺はその後を、少し離れて付いて行く。

 剣術の手練れで構成された討伐隊が、猿の魔物の生息域へと近付く。
 すると、こちらの接近に気付いた敵勢力から、攻撃を仕掛けてきた。





 猿の魔物の数匹が、縄張りへの侵入者を感知すると、キィーキィーという甲高い警告音でこちらを威嚇しつつ、仲間に敵の接近を知らせる。

 警告を受けた敵集団は、戦闘態勢に移行する。



 敵部隊は森に潜み、こちらを取り囲む。
 投石部隊がすばやく木の上に登るのが、気配で分かった。
 

 ――ヒュッ!! ヒュッ!! ヒュッ!!


 まずは石を投げつけてくる。

 討伐隊は石の軌道を見極めて、小楯でガードする。


 俺は討伐隊から少し離れた位置で、飛んでくる石を刀で斬って防ぐ――
 盾とか、装備してないからな。


 遠距離攻撃が一段落すると、山の中からサルの群れが突撃してきた。

 三方向からそれぞれ約二十の群れが、討伐隊を囲むように現れる。



 猿の魔物は木の上から石を投げつける投石隊と、こちらに接近して、爪や牙で攻撃してくる近接部隊を組織していた。

 魔物の分際で、ちゃんと役割分担が出来ている。




 ザシュッ!!!

 俺は自分に接近する猿の魔物を、順番に切り伏せていく。
 刀を振るい、猿の首、手足、胴……。

 自分の動きが止まらない様に、間合いに入った敵に致命傷を与えていく。
 動きを止めないことが最優先で、止めを刺すのは後回し――

 
 周囲の敵を行動不能にした俺に、一斉に石が投げつけられる。
 投石攻撃の間は、近接部隊は近寄ってこない。
 
 石を避けることに専念する。


 投石が途切れると、近接部隊が突撃を再開する。

 俺がそちらに意識を向けると、死角から、気配を隠した敵が接近――
 良い連携だ、が……。

 俺は敵の足音を拾い、気配で存在に気付いている。 



 不用意に近づいてきた敵の、身体のどこかを振り向きざまに斬りつける。

 ザシュッ――


 どこを斬ったのかを、確かめる余裕はない。
 近接部隊が、迫っていた。


 ……。
 …………。
 十数分の攻防で、俺は猿の魔物を三十匹以上は仕留めた。

 




「他の奴らは、どうかな――?」

 周囲の魔物を、あらかた倒し終えた。
 余裕の出来た俺は、他の討伐隊の様子を確認する。


 討伐隊の周囲には、致命傷を受けて倒れている猿の魔物が、多数転がっている。

 討伐隊の側も、倒れている人間が数名見える。


 死人を蘇らせることは出来ないが――
 傷を負って倒れているだけであれば、回復は可能だ。

「死んでなきゃ、良いけどな……」
 

 早く治してやった方が、生存率は上がる。
 だが今は回復よりも、敵の殲滅の方を優先すべきだろう。 


 治している隙に、攻撃を受ければ対処しきれない。
 楽に倒しているように見えるかもしれないが、少しでも気を抜けば不覚を取る。

 一撃でも食らえば大怪我だ。
 


 敵の身体能力は高い。
 油断があれば、こちらが殺される。


 敵の第二陣が、俺に向かってくる。
 高速で飛来する石を、軽く身のこなしで避ける。

 避け終えて、体勢が崩れたところに――

 敵の群れが、押し寄せてきた。

 



 俺は討伐隊から離れ、一人で複数を相手にしていた。
 他の討伐隊は五人一組で互いの背中を守り、猿の魔物を迎え撃っている。


 それぞれ刀を装備して、腕に小楯を付けている。

 鎧は粗末な革鎧を着込んでいた。


 敵の投石や牙や爪の攻撃を、盾と鎧で防ぎつつ、刀で敵を切り捨てている。
 敵の攻撃にやられて倒れている者が、少し増えている。

 
 俺が受け持っていた敵は、殲滅済みだ。

 治癒能力促進の魔法を遠距離から倒れている者達にかけながら、俺はまだ戦っている者達の動きを見物させて貰う。



 身体捌きや、剣の振り方、敵との間合いの取り方――
 討伐隊の力量には、かなり開きがある。


 強い奴の戦いを見ることにする。
 一番強いのは師匠だ。

 師匠の戦いは参考になる。
 この機会にじっくりと観察して、技を盗ませて貰おう。





 俺が戦いを観察し出してから、五分後――

 敵の投石部隊は玉切れになると、木から降りて近接部隊に加わっていた。


 もう、向かってくる敵はいない。

 討伐隊は敵を、全て倒し終えた。


 ――良い修行になったな。
 俺がそんなことを考えていると、不機嫌そうな怒鳴り声が聞こえて来る。






「オイッ、お前ッ! なに、ボーとしてるんだ。敵と戦いもしないで、ずっと見てるだけだったろ! ったく、何しに来たんだよ。この役立たずがッ!!」


 見当はずれな文句を付けてきたのは、村長のドラ息子のドウイチだった。

 あいつは元々、討伐隊のメンバーでは無かった。
 十二歳未満の子供は、最初から対象外だったのだ。


 ドウイチは『実力は大人にも引けを足らない。それにあいつよりも年上だ。付いていく――』と俺を指さして主張し、強引に付いて来ていた。

 偉そうなことを言うだけあって、ドウイチは最後まで倒れずに戦っていた。



 まあ、そこは立派だと思うよ。

 大人に交じって戦って、遜色なかった。


 だが自分の戦闘で、手一杯だったのだろう。
 俺の活躍と、戦果を見ていないようだ。


 俺は奴の三倍以上は、敵を倒している。

 生意気な糞餓鬼には、『解らせ』が必要だな。

 

 俺は刀に風魔法を纏わせて、剣を振るってそれを放つ。
 風魔法を斬撃として、敵に放つ『空牙』――

 竜の姿の時は、爪を振るって使っていた魔法だ。
 

 ヒュゴォォオオ!!!



 ザシュッ!!!!!

 飛ぶ斬撃は、まっすぐにターゲットへと到達して――
 そいつの身体を、縦に切り裂いた。


 俺の風魔法の刃は、気配を消してドウイチの背後に忍び寄っていた、猿の魔物の身体を半分に切り裂く。




 ドォオンンンン!!!!

 敵の群れの中でも、ひときわ大きな個体が地面に倒れ地響きが起こる。


 俺はたて続けに空牙を放ち、気配を消して接近していた、残りの三匹の猿の魔物を始末した。




 ――魔物の中には、気配を消すのが上手い奴がたまにいる。

 見つけにくいが、感覚器官を魔法で強化できる俺なら、発見は可能だ。
 姿を隠す魔法の精度は個体差があるので、レベルの高い使い手は見つけにくい。

 でも、頑張れば探し出せる。



 ドウイチの奴は、後ろを振り返って驚いていた。
 
「なッ!! ――いつの、間に……」




 馬鹿がアホ面を下げて、驚いていやがる。

「おいおい、何をボーっとしてんだよ。敵がまだ残ってるってのに、油断してんじゃねーよ。クソガキ! お前さ、俺が助けてやらなかったら、死ぬとこだったんだぞ。無理やり付いてきておいて、足引っ張ってんじゃねーぞ。この、役立たず!!」

 がははははっ!!
 
 俺は勝ち誇って笑う。

 クソガキは、凄い形相で睨みつけてくる。
 ――だが、何も言い返せない。

 怒りでプルプルと震えている。



 ――ふう。
 制裁完了。

 俺はひとしきり笑った後で、怪我人の治療に入った。


 ……それにしても、俺の性格は前世から、かなり変ったように思う。

 前世の俺がどんなだったかは、よく覚えていない。

 だが、こうでは無かった。
 


 そう、確か……。

 学校に通っていた時なんかは――

 誰かと張り合っったり、罵り合ったりするのではなく、誰とでも仲良くして、クラスで争いが起きない様に調整する。

 ……そんな奴だったはずだ。
 

 竜に生まれ変わって、百年以上も生きて来た。
 性格も変わるよな――

 それに、この村での俺は『余所者』でしかない。
 集団の中での、立ち位置が違う。

 人との関わり方も変わるか――



 でも、まあ……。

 人との付き合い方が変わっても、魂までは変わらない。
 俺はしつこく睨みつけてくるドウイチを無視して、怪我人の治療を続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

処理中です...