寝取ってハーレム王! ~残念イケメンがモブ主人公の青春を破壊する。

猫野 にくきゅう

文字の大きさ
15 / 23

第15話 歪んだ正義感と、深まる疑念

しおりを挟む
(山口啓介の視点)



 青山と氷室先輩が勝負をした翌日。



 俺は、学校に向かう足取りが重くて仕方なかった。

 あの時の出来事が、頭から離れない。先輩があんな奴に負けるなんて、信じられなかった。

 そして、もしそれが「わざと」だったとしたら――。



 その可能性を考えるだけで、心が張り裂けそうだ。



 氷室先輩みたいに芯のある人が、あんなチャラ男に騙されるなんて――

 そんな光景、絶対に見たくない。そんなことが現実に起きていいはずがないんだ。けれど、あの二人が親しげにしている姿を見てしまえば、認めざるを得ない。もう取り返しがつかなくなる。



 その不安のせいで、教室の空気さえ鉛のように重く感じられた。



 朝のホームルームが終わっても、俺は落ち着かずにそわそわしている。



(青山の奴はいつも通り、だが――)



 窓の外を流れる雲さえ、不吉な予兆のように思えてきた。




 ***



 放課後、恐る恐る部活に顔を出すと、俺の予想とは裏腹に、先輩と青山は、特にいちゃついていることはなかった。



 先輩は、いつも通りクールな表情で、黙々と練習メニューをこなしている。

 青山も自己流の練習メニューを、いつものように勝手にやっていた。たまに美緒と何か話しているが、それもいつも通り。



 ふいに青山が、氷室先輩の元を訪れた。

 しかし、その時も、ただの後輩として先輩に指導を仰いでいただけ。



 二人の間に、親密さなど微塵も感じられない。

 まるで昨日の勝負が、夢か幻だったかのように――



(なんだよ。何も変わっていないじゃないか……)



 俺は安堵した。

 胸のつかえが取れた気がして、心が軽くなる。



(そうだよな。あんな勝負で、付き合うことになるとか、あるわけないよな……)



 俺は、氷室先輩を心配するあまり、妄想を暴走させていただけだと、心の中で自分を納得させた。あんな男に、俺の憧れの先輩が本気になるはずがない。只の口約束、そんなものを律儀に守る必要はないのだ。



 それに昨日の先輩は、調子が悪かっただけ。



 プロのアスリートだって、常に百パーセントの実力を発揮できるわけではない。たまたま調子の悪い日に、青山の奴が先輩に勝負を挑んだ。

 だから、先輩は実力で負けたわけじゃない。きっと、先輩はあの後、あの男の無神経な挑戦を許したことを後悔したことだろう。



(まったく。氷室先輩も迂闊だぜ。青山の挑発なんて、無視しておけばよかったんだ)



 勝負は無効。



 ハーレムがどうとかいう、ふざけた話も当然なし――

 青山の奴は、結局先輩に振られたんだ。



 そう思うと、全身から力がみなぎってくる。

 俺の世界は、まだ崩壊していなかった。



「だよな! 世の中、お前の思い通りに、なるわけないだろ。馬鹿め」



 俺は、誰にも聞こえないように、小さく、そして優越感を込めて、そう呟いた。




 ***



 だが、俺が安心するのは、あまりにも早かった。

 気を抜いてはいけなかったのだ。



 氷室先輩と青山の勝負から数日が経ったある日のこと。

 俺が校舎の廊下を歩いていると、窓から差し込む夕陽が二つの人影を作っているのが目に入った。



 それは、青山と九条先生だった。



 生徒と教師が、こんなところで二人きり――

 まさか、先生は青山に気があるのか?



 あの“ハーレム王”の告白も、先生はただのイタズラだと受け流していたはずなのに。



(なのに、どうして……?)



 思わず足を止め、柱の陰に身を隠す。俺は、じっと二人の様子を観察した。



 先生は、少し困ったような顔をしている。

 そして青山は、いつもの不敵な笑みを浮かべながら、先生に何かを話しかけていた。声までは聞こえないが、どう見ても親密そうな雰囲気だ。



(なんて奴だ。節操がないにもほどがある)



 氷室先輩にこっぴどく振られたからって、今度は先生にまで言い寄るつもりかよ。

 そう考えると、俺の青山への嫌悪感は、さらに増していく。俺の「正義感」が、再び火を噴く。



 俺が先生を守らないと……。



 俺は強く、そう思った。

 この学校の生徒、そして教師も、あの男の毒牙にかかってしまう。そうなる前に、俺が食い止めなければならない。俺はすぐに行動に移した。



「先生、あいつに付きまとわれて困っていたら、俺に言ってください。あんな奴、俺がやっつけますから!」



 俺は、青山の姿が見えなくなってから、先生にそう言っておいた。

 俺の「正義感」がそうさせたのだ。俺は、あのチャラ男から女子生徒たちを、そして、先生を守りたいという気持ちをぶつけた。



「な、何を言ってるの、山口くん。青山くんは別に、私に付きまとってなんて……」



 梓先生は慌てて否定するが、それは嘘だろう。



 先生という立場上、生徒のことを悪く言えないのだ。

 それに、先生は、生徒の悩みを聞くのが仕事だ。だから、嫌でもあいつの話を聞かなければならない。



 そんな先生に、俺は決定的な事実を突きつけた。



「そんなこと言ったって、あいつは入学初日にいきなり、ハーレムとか言い出した変な奴ですよ! 先生まで、騙されちゃダメです!」



 俺は、先生の目を真っ直ぐに見つめて言った。



 やはり、俺が守らなければ。

 俺の忠告を聞いた先生は、少し困ったような顔をしている。



(ほら見ろ。やっぱり迷惑していたんだ)



 俺は、自分の正しさを確信した。

 青山の奴の奇行に、嫌気がさしているのだろうことは明白だった。




 ***



 俺はこの時、全く気付いていなかった。

 いや、気付こうともしなかった。



 思いもよらなかったのだ。



 先生の困った顔は、俺の言葉にではなく、俺の独善的な行動に起因していること。

 そして、俺が「守ってやる」と勘違いしているその裏で、先生が青山に心を許し始めていたのだということに……。



 だが、そんなことは、この時の俺が知る由もない。



 俺は、自分の「正義」を信じ、その場を後にした。

 足元に見えないヒビが入り始めていることに、俺はまだ気づいていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

自称未来の妻なヤンデレ転校生に振り回された挙句、最終的に責任を取らされる話

水島紗鳥
青春
成績優秀でスポーツ万能な男子高校生の黒月拓馬は、学校では常に1人だった。 そんなハイスペックぼっちな拓馬の前に未来の妻を自称する日英ハーフの美少女転校生、十六夜アリスが現れた事で平穏だった日常生活が激変する。 凄まじくヤンデレなアリスは拓馬を自分だけの物にするためにありとあらゆる手段を取り、どんどん外堀を埋めていく。 「なあ、サインと判子欲しいって渡された紙が記入済婚姻届なのは気のせいか?」 「気にしない気にしない」 「いや、気にするに決まってるだろ」 ヤンデレなアリスから完全にロックオンされてしまった拓馬の運命はいかに……?(なお、もう一生逃げられない模様) 表紙はイラストレーターの谷川犬兎様に描いていただきました。 小説投稿サイトでの利用許可を頂いております。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...