転生先が自作の黒歴史小説とか聞いてない! ~残念王国への追放だけは絶対回避します~

猫野 にくきゅう

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第5話 逃避行の果て――真実の愛

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 私は王都にいた。 
 新調した豪奢なドレスをまとい、最高級レストランで優雅にフィレ肉を切り分けていた。

「……美味しい。でも、目立ちすぎるわね」

 本当は目立たないように、フードを被って露店で串焼きでもかじりたかった。 
 だが、それができない切実な理由がある。 
 私の所持金はゼロ。
 あるのはタマキン王子から巻き上げた「プラチナカード」のみ。 

 この世界の決済事情において、露店は現金(硬貨)のみだが、高級店にはカード決済用の魔道具が備わっているのだ。

「カードが使えないんじゃ仕方ないわよね。食い逃げするわけにもいかないし」

 私は赤ワインを傾けながら、通りを行き交う衛兵たちを見下ろした。 
 彼らは必死な形相で、緑髪の国際テロリスト(手配書の似顔絵)を探している。 

「でも、いつまでもこの生活を続ければ、いずれ足がつく」

 レストランを出た私は、その足で高級宝飾店に入り、貴金属を購入した。 
 そして、それを裏通りの質屋に持ち込み販売する。

「これでマネーロンダリング完了よ」

 いわゆる資金洗浄である。
  カバンに大量の金貨をねじ込み、私は不敵に笑った。

「さて、行きますか」

 私は愛馬に跨り、王都の門をくぐり抜けた。 
 さらば、都会の喧騒よ。
 私は田舎でスローライフを送るのだ。


 ***

 王都から地方へと続く、人気のない街道。 
 私は危機に瀕していた。

 下品な笑みを浮かべた盗賊たちが、後ろから迫ってくる。 
 
「油断していたわ。質屋に入る前からマークされていたのね!」

 私は馬に鞭を入れた。 
 この馬は、「チン=ポコリン王国で一番足の速い馬」だ。並大抵の駄馬に追いつけるはずがない。 盗賊たちが放つ矢も、馬が勝手にステップを踏んで回避していく。

「ナイスよ。馬!」

 だが、この馬は昨日、チン=ポコリン王国からデス=ロード王国まで、不眠不休で走り抜けてきていた。

 ガクンッ。

「え?」

 速度が低下する。
 スタミナ切れだ。 

「へっへっへ、観念しな」 
「まずはその服を剥いでやるよ」

 あっという間に、薄汚い男たちに周囲を取り囲まれる。 
 絶体絶命のピンチ。

 私が目を閉じた、その時だった。

 バリバリバリッ!!

 青白い閃光が走り、轟音が森を揺らした。 
 目を開けると、盗賊たちが白目を剥いて痙攣し、地面に転がっている。
 森の奥に、一人の少女が立っていた。 

 風になびくピンクブロンドの髪。
 凛とした瞳。

「エミリア……?」

 そこにいたのは、王宮にいるはずの正統派ヒロイン、エミリア・ブラウンだった。 
 彼女はまだ紫電を纏う杖を下ろし、私を見て微笑んだ。

「ご無事ですか、リリアンヌ様」

 なんて美しいのだろう。 
 その笑顔を見た瞬間、私の胸が高鳴った。 
 雷に打たれたような衝撃。 

 ああ、私は今、恋に落ちたのだ。


 **

「ど、どうしてここに? グレイトアーサー王子との婚約は?」

 私が尋ねると、エミリアは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「王子との婚約は破棄し、今は実家に……」

 原作とは異なる展開だ。 

「ええっ!? なんでまた!?」

 エミリアは深くため息をついた。

「あの方が……王子が、リリアンヌ様のあのお姿を忘れられないと仰って……」 「あのお姿?」

「あの奇妙な謝罪スタイルです」

 私は耳を疑った。

「王子は事あるごとに、『エミリア、そこの床にはいつくばって、身を丸めるんだ』と強要してくるのです。あの人は、変態でした」

「…………」

 なんということだ。 
 私の決死の土下座が、王子の性癖を歪めてしまったらしい。エミリアは、ドン引きして逃げ出してきたというわけだ。

「私は男爵家の領地で暮らしています。辺境ですが、静かで良いところです。リリアンヌ様、もし行く当てがないのなら……一緒に来ませんか?」

 エミリアが手を差し伸べてくる。 
 私はその手を、迷わず握り返した。


 ***

 それから数ヶ月後。 
 デス=ロード王国の辺境にある、小さな男爵領。 
 のどかな田園風景の中に、私の姿はあった。

「ふふふ~ん♪」

 私は鼻歌交じりに、洗濯物を干していた。 
 手にあるのは、エミリアの肌着だ。

 かつて公爵令嬢だった私は今、エミリア専属のメイドとして働いている。 
 ここでは私は、ただの「リリー」だ。

「リリー、お茶にしましょうか」

 屋敷からエミリア様が顔を出す。 
 彼女の笑顔を見るだけで、私の心は満たされる。

 変な名前の国に嫁ぐこともなく、変な性癖の王子に付き合うこともない。 
 愛する人に尽くしながら、ひっそりと暮らしていく。

「はい、ただいま!」

 私は彼女の元へと駆け出した。 
 これが、私のたどり着いたハッピーエンド。 
 元悪役令嬢は、世界一幸せなモブキャラとして、この世界で生きていくのだ。

 ―END―
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