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過去と現在
103.願いというよりやっぱり苦言
しおりを挟む「それは、全部まことのことか?」
「嘘だとお思いならばどうぞお確かめ下さい」
言い切ったシュアクーンから視線を落として、ただ底に薄ら冷めた茶の入ったカップをじっと睨みつけている王様。
この僕とのこの一件で。
他人の物を無闇矢鱈に欲しがってはいけないという基本的な事柄を学んで欲しい。
そして、約束は守ること。決められているルールにはそれが決められた理由がある。
……などの事を妹が学んでくれるといいな。
視線を落としてしばし黙り込む王様をじっと見つめるシュアクーン。
おい父よ、ちゃんと躾しとけ??
妹は確かに末っ子で女児で姫なので可愛がられているから、我儘が許される立場かもしれないけど、それじゃあ結婚したらときに困るのは妹だろうが。
まさか。
「ローゼタンはいつまでも国に居ればいいよぉ?」なんてバカなこと考えていないだろうな?と、思ってはいたが……それを口にしたのは。
「ロゼルーテ姫様はずぅーーっとここにいらっしゃるのでなーーんの心配も問題もございません。婿取りですよ、婿をお取りになられるのです!」
失礼致します。と、王様の茶器を新しい物に取り替えにしゃしゃり出て来たルバルテルだった。
なんだ?お前は親戚のお小遣いたくさんくれる気前の良いおじさんか???
王様に現状を訴えて、妹のやった事はこれで手打ちにしようと思っていたけど、ルバルテルが口を出すなら全然全くちっとも安心できない。
「王様」
「ん、なんだ?」
「僕からは妹の躾がちゃんとされているか監視役としてアンテルーレを送り込みたいと希望します!」
元々優秀だから妹付きになったんだもの。
僕のところにいてもあんまりアンテルーレの仕事はない。優秀な人をいつまでも遊ばせているのはもったいないし、損失だよね?
シュアクーンの、藪から棒な発言に驚く王様よりも先にそれに反応したのはルバルテル。
「しかし!かの者は乱暴だとロゼルーテ姫様からうかがっておりますれば!!」
なんで何でもかんでも僕の意見に食いついて反対を唱えるだけのルバルテルをこの場に連れてきたのかなあ。父は僕とマトモに会話するつもりがはなから無かった?そういう事??
だとしたら、僕はもう自分の考えを伝えるのはやめて、あとは僕の知らないところでやってて欲しいよ。
僕は僕と僕の周囲が泥を被らなければ妹のロゼルーテのことなんてどーーでもイイからね。
赤いリボンつけた座敷犬(妹)がドッグラン(学園)に出た時に、出禁になっても知らないし僕には関係ない。
なんかもうどうでもよくなった僕は、そのあと妹の態度で耳にしていた悪い話を、全部その場でぶちまけた。
▫️▫️□▫️□▫️
落ち着いて良く良く話しを聞いてみれば。
どれもこれも横暴暴虐我儘、そんな話ばかり。
幼少期から利発なシュアクーンが自分にこのような粗雑な嘘を吹き込むわけもなく真実本当の話であるのだと王は納得するしかない。
そして、王妃も王妃。
いくら兄妹とはいえ、人の所有物を対価も示さずに譲れと命令してくるとは。なんという振る舞いか。
王様は無意識のうちに頭に手をやっていた。
頭を指で支えながら王様はシュアクーンの苦情とも言える苦言に返答した。
「あいわかった。よーーく理解したぞ。安心しろ、そのレプコルラビの剥製とやらは取り返してやろう」
「いいえ。それは結構です。もう既に一度妹にやると言ってしまったので」
「そうか。よいのかの?それではその代わりに何か所望する物はないか?」
ちゃんと口に出した約束を守ろうとする息子を誇らしく思いながら、姫と王妃をさてどうするかと悩む王様。
「今の所、他には何も要りません。是非妹に教育を」
「相分かった。姫だけでなく、王妃にもよくよく言い聞かせておくのでこの先何かを取り上げられる様なことはもう起こらないから、安心せよ」
今回みたいなことはもう二度とごめんだ。元々あげようと思ってたモノだったから良かった様なものだけど、これが気に入ったからと人を引き抜かれたり、商売道具を奪われでもしたらと思うとゾッとする。
面白そうだからと商会をよこせなどと言い出す可能性だってある。
「……有り難き幸せに存じます」
敢えて堅苦しく礼をとり、父としてだけでなく王としても何とかしろよ!と圧をかけるシュアクーン。
こうして王様との面談は終了した。
「よく頑張られました。シュアクーン様」
「王様に直接お会いして話を聞いてもらえるなんて滅多にないからね。
妹のことを訴えるいい機会だったよ」
「王妃様もシュアクーン様をご自分の臣下か何かのように思ったようなお振舞いを改めていただけたら良いのですが……」
まったくだよ。どうしてこうなっちゃったかな?
「さ、話し合いは恙無く終わりましたし、こちらの要望は全部通りました。あとはお部屋でゆっくりとお寛ぎください」
「そうだね、僕!お腹空いちゃったよーー!」
妹の話で長引いて馬の耳もとっくに過ぎている。
二人は足取りも軽く自分たちの居場所に戻っていった。
▫️▫️□▫️□▫️
「ラルクラート」
「はい。王様」
昼間の一件からラルクラートは王様から呼び出されていた。
「あの兎。中身は精霊だという話では無かったのか?」
「はい。しかし、飛び兎をはじめとするあの辺りの魔獣はあの地を離れては生きて行けないのは本当です。しかも、中の精霊はシュアクーン様と契約を結んでおります。主以外の所から逃げ出すのは当然かと」
「それは、そうだな。私とて、そうするであろう」
王の背後でロンディが仕切りに頷く。
ここにいるのは王様とロンディそして呼び出されたラルクラートだけだ。
シュアクーンは知らないが、ラルクラートは全てを包み隠さず王へだけは全てを報告していた。
「勇者聖女の持ち物を見たいというのは恐らくエルフの里での一件のせいかと」
報告はあげてはいたが改めて魔法瓶の話をするラルクラート。
「なるほど。同じような仕組みのものがこの世界に持ち込まれていないのかと考えたのだな?」
「ええ、多分そういうことではないかと」
シュアクーン様がいうにはあれの仕組み自体はごく簡単なモノで、故に魔石も使わなくてもよいのだという。
「フェジンを使って、もうエルフの里の商会ギルドで仮登録をなさっていましたからね」
「ほう。それは面白い。もしも本当に作れたのなら、私も一つ欲しいものだ。
ラルクラート。これからもそれとなくシュアクーンに関しての情報収集、頼んだぞ」
「今回はシュアクーン様にしてやられましたな王よ」
「いうなロンディ。私もまさかロゼルーテがそこまで酷いことになっているだのとは思わなんだよ」
「……ロゼルーテ様には私のようなモノをお付けになられていない、などとは思えないのですが?」
「ああ。誰かが何かをしているのだろうな。多少の我儘はあれど健やかに育っておるという報告がされているのだ」
「王妃様、でしょうか?」
「いや、分からん。どうせ女なのだからと放っておいた私も悪かったしな」
セレという名前の精霊については今大々的に明らかになれば騒ぎになる。せめて露草が芽吹き、花咲き、種をつけてくれるまでは最低でも隠しておきたい。
「おぬし、その精霊とは仲良くなれたのだろう?」
「はい。頼っていただいています。兎から抜けた後のアヒルを用意したのは私でございます」
「そうか、そうか。ラルクラート、これからも国に反する事がない限り精霊には良くしてやってくれ。精霊に嫌われて没した国もあると聞く。対応は慎重にな」
「ははっ。かしこまりましてございます」
話が終わると音もなく退出するラルクラート。
「さて、王様。王妃様とお話しなさいませんと」
「わかっておる!!わざわざいうな!」
ラルクラートがいなくなった部屋で王様とロンディの言い合う声だけがいつまでも聞こえていた。
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