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初めての対人戦
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グーラン王立魔導学園から聖獣寮に帰宅した一同。来たるべき明日のセレナの初の対人戦に向け、最終調整を行っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「よし、こんなものでいいだろうね。これ以上やっても付け焼刃に過ぎないし、明日の模擬戦に影響を与えたら元も子もない」
「そうだな。セレナ、あとはもう休めよ」
「うん・・・そうする・・・ありがとう」
アイリクとミチルは、自身の部屋へと戻ってゆく。セレナは中庭の芝生で大の字になって寝転がった。
「つっかれたー」
「お姉ちゃん、お疲れ様」
ミリアがセレナにタオルを持ってきてくれる。
「ありがとう、ミリア。ここまでみんなのしごきに耐えられたのも、ミリアが毎朝ランニングに連れ出してくれたおかげだよ」
「えへへ」
そこに、ヴィランとサラもセレナを気遣うように寄り添ってくる。
「お疲れ様でした。4属性と獣能の使い分け、だいぶ様になってきましたね。この短期間でさすがです」
「最初のうちはどうなることかと思ったけどね。まったく、自分の才能が末恐ろしいわ」
「私たちが聞くと別の意味に聞こえるから不思議ですけど、他の方が聞いたら皮肉にも捉えかねないので、言わないでくださいね。絶対に」
セレナは上空に広がる青空を見上げた。
「それにしても、サラって本当に容赦ないよね。おかげで、戦闘の恐怖を嫌というほど叩き込まれたけど、どうしてそんなに好戦的なの?」
「好きだから」
「シンプルイズベストだね」
これもサラが、ここまで歩いてきた人生の中で見つけてきた、彼女なりの生き方なのかもしれない。それがどのような経緯でサラに刺激を与えたのか、彼女の過去が少し気になりだすセレナだった。
それから夜になり、セレナたちは夕食を終え、それぞれの部屋へと戻る。部屋が隣同士のヴィランとセレナ。その別れ際、ヴィランがいつもとは違う挨拶をセレナに投げかける。
「セレナさん、今日は本当にごめんなさい」
「もう気にしてないって言ってるのに」
「いえこれは、私がそうしたいからそうしているのです。恐らくこの後悔が続くかぎり、ずっと」
「・・・だったら、明日でその後悔が終わるよう、精一杯頑張るよ」
「はい・・・」
自室へと戻ったセレナとミリア。明日に備えて、今日は早めの就寝をしようと、セレナはベッドに横たわる。するとミリアが枕を持ってセレナのベッドに近づいてくる。
「ミリア?」
「お姉ちゃん、一緒に寝てもいい?」
少し不安そうな顔をするミリア。セレナは断る理由などなかった。
「いいよ、おいで」
「うん!」
ベッドの中でミリアは、セレナの服をぎゅっと握りしめる。その力強くも震える手に、セレナはミリアが何かしらの恐怖を抱えていると感じ取った。
「お姉ちゃん・・・」
「ん?何?」
「お願いだから、どこにも行かないで。もう、1人は嫌だよ・・・」
明日の対人戦で、負けると何を要求されるかわからない現状。最悪、セレナがこの学園を追い出される可能性だって十分にあり得る。ミリアにとって、そんな来てほしくもない最悪な未来に怯えずにはいられなかった。
一方、ここまで自身のことを必要としてくれているミリアに、不甲斐なくもかける言葉が見つからないセレナ。その代わりにその小さな手を、黙って優しく握り返す。
「(この対人戦を受けたのも私の独断。私も、ヴィランのことを悪くは言えないな)」
セレナは確かに感じる温もりの中で、秘かに反省するのだった。
翌日、学園内ではカーリット対セレナの模擬戦の話題で持ちきりだった。それはある黒い噂が原因だが、その話題は生徒だけでなく、教師や研究員にまで広がっていた。挙句の果てには・・・。
「学園長!」
「どうかされたかな?」
グーラン王立魔導学園における最高責任者であるグルセリア学園長の耳にまで届いていた。
「実は・・・」
学園長は学園の事務員からある報告を受けていた。
「またカーリット君からの模擬戦申請か。入学以降負けなしの23連勝じゃったかな?成績だけを見れば、立派なものじゃ。成績だけを見ればな・・・」
「ええ。これが学生同士のただのお遊びであるなら、ここまで我々の頭が痛む必要はないのですが」
「やれやれ・・・」
学園長たちはあることに頭を悩ませていた。
「しかし、今回はなぜ事後ではなく事前報告なのじゃ?」
「それが、今回の対戦相手なのですが・・・」
事務員は学園長にある情報を打ち明ける。
「ほぅ、なるほど。確かにそれは興味深いな」
すると学園長の口角が上へと上がった。そして何かを企んだ表情のまま、椅子から立ち上がる。
「学園長?」
「その試合とやらに興味がある。彼らを呼べ。何かが起きる気がしてならんのじゃ」
「学園長自ら・・・かしこまりました!」
そして時は経ち、ついにその時間はやってきた。夕刻、今日という一日はセレナにとってこれほどまでに長く感じたことはなかった。
「ここが模擬戦場か。ていうか、人多くない?」
「まぁ、学生同士の模擬戦は、興味本位でそれなりに人は集まるものですから。でも確かに、この人数は私も見たことがありませんね」
「異様と思えるほどの注目度だな」
模擬戦場には観客席が備えられており、様々な目的で生徒たちが見学に来る。通常であればまばらに埋まる程度で、半数以上の席が埋まれば注目度が高いものとして評価される。だが今回は、ほぼ満席に近い。これは生徒同士による模擬戦において、かなり珍しい例だ。
「お姉ちゃん・・・」
だが周囲から様々な目を向けられるこの状況、あの町での冷たい視線を耐え抜いてきたセレナにとっては慣れたものでしかない。
「大丈夫だよ。傍で見ていてね」
「うん!」
頼もしく見えるセレナの表情に、ミリアたちはほっと胸をなでおろし、関係者専用の観客席へと向かった。
「(まさか、あの町での経験がこんな形で役に立つとはね)」
そして目の前に現れるカーリット。その表情はすでに勝った気でいるような表情そのものだった。
「逃げずによく来たな」
「・・・」
「ふん、挨拶もなしか、まあいい。どうやら僕の雄姿を見るべくして、これだけの人数が集まってくれたようだ。僕としても予想外だったが、嬉しい誤算に違いない。僕の輝かしい将来のために、悪いけど土台になってもらうよ」
相変わらずセレナを見下すその姿勢。だがセレナにとって、その余裕が逆に違和感にも覚えた。
「(妙だな。いくら自信があるとはいっても、相手の力量も知らずにあそこまで余裕でいられるものなの?)」
『気を付けるんじゃ、セレナ。奴は戦う以前に、何かを企んでいるような気がしてならん』
「(うん。分かってる)」
戦いの前に視線の刃を交わす2人。会場に緊張が走る中、1人の女性のひと声によって、会場はしんと静まり返る。
「これより、魔導士学部選抜組カーリットと聖獣奏者学部セレナによる模擬戦を行います。審判兼見届け人はわたくし、戦闘課のバイルが行います。それぞれ、自身の力を精一杯出し切り、正々堂々と戦うように」
いよいよ、戦いの火ぶたが切られる。
「それでは、始め!」
先に動いたのはカーリットだった。
「恐れ慄け、我が火力の前に!“炎竜放射”!!!」
カーリットは、炎を魔力によって竜の形に姿を変え、セレナに向けて放つ。
挨拶代わりといわんばかりに放たれたストレートな攻撃。セレナは冷静にその攻撃の対処をする。
「コロン!」
『うん。“火壁”!!!』
セレナの目の前に燃え広がる炎の壁。その炎によって、カーリットの放たれた炎は相殺された。
「それが君の持つ属性の1つか。まさか僕と同じ炎の属性とはね。残る属性は3つか」
長期休暇での特訓の中で、セレナは4体の聖獣が持つそれぞれの属性と獣能を把握することを第一目標としてきた。それから周囲の協力もあり、4体の属性と3体の獣能の把握に成功している。
アルマジロ型の聖獣コロンの属性は炎。だが、コロンの炎はカーリットのように攻撃として放つことはできず、目の前で壁のように展開することしかできない。しかしその反面、防御面では強固となる耐久を見せ、特訓中ヴィランたちのあらゆる攻撃を立ちはだかる壁のように防いで見せた。
セレナたちは、これがコロンの持つ獣能と判断し、その能力を“防壁”と名付けた。臆病ながらも芯が強く、いつもセレナを守ることばかりを考える実にコロンらしい能力だった。
ちなみに、あの町においてセレナの家を燃やした力の正体でもある。
「まったく、いきなり炎を放たれるなんて、魔導士との戦いは生きた心地がしないな」
セレナはカーリットの攻撃をコロンのおかげで完璧に防いで見せるも、攻撃が当たってしまう恐怖に思わず冷や汗が流れてしまう。
『大丈夫だよ。何があっても、僕がセレナを守るから』
「ありがとう、頼りにしてるよ」
『うん!』
初手の攻撃を防がれたカーリットだったが、それでも彼の余裕そうな表情は変わらない。
「一度ぐらい攻撃を防いだぐらいで調子に乗るなよ。今のせいぜい挨拶代わりだ。僕の勝ちを揺るがすほどのものではない」
「それじゃあ、その挨拶が終わらないうちに勝負を決めさせてもらおうかな。あいにく初心者なもので、こっちは挨拶どころか勝負を堪能する余裕もないからね」
するとセレナは、戦闘態勢を構え、カーリットに向かって走り出した。
「馬鹿正直に一直線に向かってくるか。さすがは初心者だな」
向かってくるセレナに、カーリットは右手を前に出す。正面から向かってくるセレナに対し、正面から応戦する気だ。
「僕の炎の威力をとくと味わうが・・・」
「ウルル!」
『いくぜ。“電光石火”!!!』
「なに!?」
セレナのスピードが突然上がり、カーリットの視界から消えた。あまりに突然のことでカーリットの思考が止まってしまう。
「(ちっ、これでは・・・)」
これが狼型の聖獣ウルルの獣能。発動した瞬間に、自身の移動速度と身体能力を底上げする、能力向上型の獣能。セレナたちはこの獣能を“神速”と名付ける。普段より倍以上の速度が出るため、3体の獣能の中で使いこなすのに最も苦労した。そして・・・。
『“草薙剣”!!!』
「ぐわぁ!!!」
カーリットの思考が止まった一瞬の隙を突き、セレナが背後から斬りかかる。
「剣だと!?そんなもの持ってなどいなかったはず!?」
「剣だけど、剣じゃないんだなぁ、これが」
「なんだと!?だが、今の感触は確かに・・・」
カーリットが背中にある防具に手を回すと、確かに刃物のようなもので斬られた跡があった。
奇襲に成功したセレナは、一旦カーリットと距離を取る。セレナのいう言葉の意味が理解できないカーリットは、セレナの方を振り返ると、その手に持っているものの存在に目を丸くした。
「葉っぱ・・・だと!?そんなもので斬られたというのか!?」
セレナの手の中にあったのは、約100センチメートルの見た目は長剣の細長い葉っぱだった。だがただの葉っぱではないのは見て明らかだった。確かに見た目は細長く、弱々しい葉っぱではあるが、重力に逆らうように空に向かって不自然にまっすぐと伸びている。
防具の上からでも凄まじい衝撃だったのか、痛みに必死に耐えるカーリット。だがそんな状況でも、自分に一体何が起こったのか、カーリットは気になってしょうがない。
「いったいなんだそれは?」
「これが私の聖獣ウルルが持つ2つ目の属性の力だよ」
ウルルは植物属性を持っていた。文字通り、植物を操る力だが、それは自然界にある植物ではなく、自身の魔力を植物と同じ形に変えることができる、生産系の属性だ。
さらに生み出した植物は、自在に形だけでなく、質までも変えることができる。葉っぱを剣のように鋭くしたり、大木を生み出してハンマーのように重量を重くしたりと使い方次第では戦闘だけでなく日常生活でも様々な場面で活用できる。
「(本当はここから一気にとどめを刺したいけど、ここから先はほぼ剣術が必要になる。剣術素人である今の私には奇襲が精一杯なのが悔しいな)」
セレナは自身の力には見合わない実力不足に思わず歯を食いしばる。
そんなセレナの感情とは裏腹に、セレナの属性と獣能を使い分けた戦い方に、会場は驚きと歓声に包まれる。痛みに悶えるカーリットとそれを冷静な目で見つめるセレナ。会場の誰もが勝負はもう決まったと思っている一方で、セレナは勝負をつけようとしない。それは、実力不足だけが理由というわけではない。
「ねぇ。どうしてお姉ちゃんは何もしていないの?さっさととどめを刺せばいいのに」
「できない理由があるんですよ」
「見えない恐怖ってやつか?」
カーリットの今の状況に違和感を覚えるセレナ。それは会場にいる一部の生徒や職員にも感じられるものだった。
「ねぇ、あなた23連勝中って聞いていたけど、本当なんだよね?それにしちゃあ、痛みに慣れていないっていうか」
「・・・」
「確かに私はあなたの不意を突いた。でもうまく行き過ぎた。うまく行き過ぎて怖いくらいに。一体何を企んでるの?」
「・・・れ」
カーリットの体が震えだす。それが痛みを悶える震えなのか、怒りを表す震えなのか、それとも作戦を実行するため何かしらを発動させたことによる衝撃なのか、いずれにしても正体が分からない以上うかつに手を出せないセレナ。
するとカーリットが突然大声を上げる。
「黙れ、初心者が!今のは不意を突かれて、力の発動が間に合わなかっただけだ。不意を突くことでしか攻撃できない卑怯な奴の考えなんて予測できるはずがないだろう」
「いや、それも立派な作戦のうちだと思うけど」
「黙れと言っている!!!」
カーリットはセレナに向けて最大火力での炎を放った。だが・・・。
「コロン!」
『“火壁”!!!』
コロンの防御壁の前には何物も通さない。だが他の人から見れば、このカーリットの攻撃は、反撃にしてはあまりに無策な行動でしかなかった。だが実際に戦うセレナにとっては、この攻撃が何かしらの意味があるものと深読みをせざるを得なかった。
「(これまで3度の攻撃がすべて直球勝負。でもこれが、視界を隠すための広範囲攻撃であるなら、次の攻撃が来るはず。後ろか、上か、それとも・・・)」
だがその用心深さが、別の意味で役に立った。
『セレナ、下じゃ!!!』
「えっ?」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「よし、こんなものでいいだろうね。これ以上やっても付け焼刃に過ぎないし、明日の模擬戦に影響を与えたら元も子もない」
「そうだな。セレナ、あとはもう休めよ」
「うん・・・そうする・・・ありがとう」
アイリクとミチルは、自身の部屋へと戻ってゆく。セレナは中庭の芝生で大の字になって寝転がった。
「つっかれたー」
「お姉ちゃん、お疲れ様」
ミリアがセレナにタオルを持ってきてくれる。
「ありがとう、ミリア。ここまでみんなのしごきに耐えられたのも、ミリアが毎朝ランニングに連れ出してくれたおかげだよ」
「えへへ」
そこに、ヴィランとサラもセレナを気遣うように寄り添ってくる。
「お疲れ様でした。4属性と獣能の使い分け、だいぶ様になってきましたね。この短期間でさすがです」
「最初のうちはどうなることかと思ったけどね。まったく、自分の才能が末恐ろしいわ」
「私たちが聞くと別の意味に聞こえるから不思議ですけど、他の方が聞いたら皮肉にも捉えかねないので、言わないでくださいね。絶対に」
セレナは上空に広がる青空を見上げた。
「それにしても、サラって本当に容赦ないよね。おかげで、戦闘の恐怖を嫌というほど叩き込まれたけど、どうしてそんなに好戦的なの?」
「好きだから」
「シンプルイズベストだね」
これもサラが、ここまで歩いてきた人生の中で見つけてきた、彼女なりの生き方なのかもしれない。それがどのような経緯でサラに刺激を与えたのか、彼女の過去が少し気になりだすセレナだった。
それから夜になり、セレナたちは夕食を終え、それぞれの部屋へと戻る。部屋が隣同士のヴィランとセレナ。その別れ際、ヴィランがいつもとは違う挨拶をセレナに投げかける。
「セレナさん、今日は本当にごめんなさい」
「もう気にしてないって言ってるのに」
「いえこれは、私がそうしたいからそうしているのです。恐らくこの後悔が続くかぎり、ずっと」
「・・・だったら、明日でその後悔が終わるよう、精一杯頑張るよ」
「はい・・・」
自室へと戻ったセレナとミリア。明日に備えて、今日は早めの就寝をしようと、セレナはベッドに横たわる。するとミリアが枕を持ってセレナのベッドに近づいてくる。
「ミリア?」
「お姉ちゃん、一緒に寝てもいい?」
少し不安そうな顔をするミリア。セレナは断る理由などなかった。
「いいよ、おいで」
「うん!」
ベッドの中でミリアは、セレナの服をぎゅっと握りしめる。その力強くも震える手に、セレナはミリアが何かしらの恐怖を抱えていると感じ取った。
「お姉ちゃん・・・」
「ん?何?」
「お願いだから、どこにも行かないで。もう、1人は嫌だよ・・・」
明日の対人戦で、負けると何を要求されるかわからない現状。最悪、セレナがこの学園を追い出される可能性だって十分にあり得る。ミリアにとって、そんな来てほしくもない最悪な未来に怯えずにはいられなかった。
一方、ここまで自身のことを必要としてくれているミリアに、不甲斐なくもかける言葉が見つからないセレナ。その代わりにその小さな手を、黙って優しく握り返す。
「(この対人戦を受けたのも私の独断。私も、ヴィランのことを悪くは言えないな)」
セレナは確かに感じる温もりの中で、秘かに反省するのだった。
翌日、学園内ではカーリット対セレナの模擬戦の話題で持ちきりだった。それはある黒い噂が原因だが、その話題は生徒だけでなく、教師や研究員にまで広がっていた。挙句の果てには・・・。
「学園長!」
「どうかされたかな?」
グーラン王立魔導学園における最高責任者であるグルセリア学園長の耳にまで届いていた。
「実は・・・」
学園長は学園の事務員からある報告を受けていた。
「またカーリット君からの模擬戦申請か。入学以降負けなしの23連勝じゃったかな?成績だけを見れば、立派なものじゃ。成績だけを見ればな・・・」
「ええ。これが学生同士のただのお遊びであるなら、ここまで我々の頭が痛む必要はないのですが」
「やれやれ・・・」
学園長たちはあることに頭を悩ませていた。
「しかし、今回はなぜ事後ではなく事前報告なのじゃ?」
「それが、今回の対戦相手なのですが・・・」
事務員は学園長にある情報を打ち明ける。
「ほぅ、なるほど。確かにそれは興味深いな」
すると学園長の口角が上へと上がった。そして何かを企んだ表情のまま、椅子から立ち上がる。
「学園長?」
「その試合とやらに興味がある。彼らを呼べ。何かが起きる気がしてならんのじゃ」
「学園長自ら・・・かしこまりました!」
そして時は経ち、ついにその時間はやってきた。夕刻、今日という一日はセレナにとってこれほどまでに長く感じたことはなかった。
「ここが模擬戦場か。ていうか、人多くない?」
「まぁ、学生同士の模擬戦は、興味本位でそれなりに人は集まるものですから。でも確かに、この人数は私も見たことがありませんね」
「異様と思えるほどの注目度だな」
模擬戦場には観客席が備えられており、様々な目的で生徒たちが見学に来る。通常であればまばらに埋まる程度で、半数以上の席が埋まれば注目度が高いものとして評価される。だが今回は、ほぼ満席に近い。これは生徒同士による模擬戦において、かなり珍しい例だ。
「お姉ちゃん・・・」
だが周囲から様々な目を向けられるこの状況、あの町での冷たい視線を耐え抜いてきたセレナにとっては慣れたものでしかない。
「大丈夫だよ。傍で見ていてね」
「うん!」
頼もしく見えるセレナの表情に、ミリアたちはほっと胸をなでおろし、関係者専用の観客席へと向かった。
「(まさか、あの町での経験がこんな形で役に立つとはね)」
そして目の前に現れるカーリット。その表情はすでに勝った気でいるような表情そのものだった。
「逃げずによく来たな」
「・・・」
「ふん、挨拶もなしか、まあいい。どうやら僕の雄姿を見るべくして、これだけの人数が集まってくれたようだ。僕としても予想外だったが、嬉しい誤算に違いない。僕の輝かしい将来のために、悪いけど土台になってもらうよ」
相変わらずセレナを見下すその姿勢。だがセレナにとって、その余裕が逆に違和感にも覚えた。
「(妙だな。いくら自信があるとはいっても、相手の力量も知らずにあそこまで余裕でいられるものなの?)」
『気を付けるんじゃ、セレナ。奴は戦う以前に、何かを企んでいるような気がしてならん』
「(うん。分かってる)」
戦いの前に視線の刃を交わす2人。会場に緊張が走る中、1人の女性のひと声によって、会場はしんと静まり返る。
「これより、魔導士学部選抜組カーリットと聖獣奏者学部セレナによる模擬戦を行います。審判兼見届け人はわたくし、戦闘課のバイルが行います。それぞれ、自身の力を精一杯出し切り、正々堂々と戦うように」
いよいよ、戦いの火ぶたが切られる。
「それでは、始め!」
先に動いたのはカーリットだった。
「恐れ慄け、我が火力の前に!“炎竜放射”!!!」
カーリットは、炎を魔力によって竜の形に姿を変え、セレナに向けて放つ。
挨拶代わりといわんばかりに放たれたストレートな攻撃。セレナは冷静にその攻撃の対処をする。
「コロン!」
『うん。“火壁”!!!』
セレナの目の前に燃え広がる炎の壁。その炎によって、カーリットの放たれた炎は相殺された。
「それが君の持つ属性の1つか。まさか僕と同じ炎の属性とはね。残る属性は3つか」
長期休暇での特訓の中で、セレナは4体の聖獣が持つそれぞれの属性と獣能を把握することを第一目標としてきた。それから周囲の協力もあり、4体の属性と3体の獣能の把握に成功している。
アルマジロ型の聖獣コロンの属性は炎。だが、コロンの炎はカーリットのように攻撃として放つことはできず、目の前で壁のように展開することしかできない。しかしその反面、防御面では強固となる耐久を見せ、特訓中ヴィランたちのあらゆる攻撃を立ちはだかる壁のように防いで見せた。
セレナたちは、これがコロンの持つ獣能と判断し、その能力を“防壁”と名付けた。臆病ながらも芯が強く、いつもセレナを守ることばかりを考える実にコロンらしい能力だった。
ちなみに、あの町においてセレナの家を燃やした力の正体でもある。
「まったく、いきなり炎を放たれるなんて、魔導士との戦いは生きた心地がしないな」
セレナはカーリットの攻撃をコロンのおかげで完璧に防いで見せるも、攻撃が当たってしまう恐怖に思わず冷や汗が流れてしまう。
『大丈夫だよ。何があっても、僕がセレナを守るから』
「ありがとう、頼りにしてるよ」
『うん!』
初手の攻撃を防がれたカーリットだったが、それでも彼の余裕そうな表情は変わらない。
「一度ぐらい攻撃を防いだぐらいで調子に乗るなよ。今のせいぜい挨拶代わりだ。僕の勝ちを揺るがすほどのものではない」
「それじゃあ、その挨拶が終わらないうちに勝負を決めさせてもらおうかな。あいにく初心者なもので、こっちは挨拶どころか勝負を堪能する余裕もないからね」
するとセレナは、戦闘態勢を構え、カーリットに向かって走り出した。
「馬鹿正直に一直線に向かってくるか。さすがは初心者だな」
向かってくるセレナに、カーリットは右手を前に出す。正面から向かってくるセレナに対し、正面から応戦する気だ。
「僕の炎の威力をとくと味わうが・・・」
「ウルル!」
『いくぜ。“電光石火”!!!』
「なに!?」
セレナのスピードが突然上がり、カーリットの視界から消えた。あまりに突然のことでカーリットの思考が止まってしまう。
「(ちっ、これでは・・・)」
これが狼型の聖獣ウルルの獣能。発動した瞬間に、自身の移動速度と身体能力を底上げする、能力向上型の獣能。セレナたちはこの獣能を“神速”と名付ける。普段より倍以上の速度が出るため、3体の獣能の中で使いこなすのに最も苦労した。そして・・・。
『“草薙剣”!!!』
「ぐわぁ!!!」
カーリットの思考が止まった一瞬の隙を突き、セレナが背後から斬りかかる。
「剣だと!?そんなもの持ってなどいなかったはず!?」
「剣だけど、剣じゃないんだなぁ、これが」
「なんだと!?だが、今の感触は確かに・・・」
カーリットが背中にある防具に手を回すと、確かに刃物のようなもので斬られた跡があった。
奇襲に成功したセレナは、一旦カーリットと距離を取る。セレナのいう言葉の意味が理解できないカーリットは、セレナの方を振り返ると、その手に持っているものの存在に目を丸くした。
「葉っぱ・・・だと!?そんなもので斬られたというのか!?」
セレナの手の中にあったのは、約100センチメートルの見た目は長剣の細長い葉っぱだった。だがただの葉っぱではないのは見て明らかだった。確かに見た目は細長く、弱々しい葉っぱではあるが、重力に逆らうように空に向かって不自然にまっすぐと伸びている。
防具の上からでも凄まじい衝撃だったのか、痛みに必死に耐えるカーリット。だがそんな状況でも、自分に一体何が起こったのか、カーリットは気になってしょうがない。
「いったいなんだそれは?」
「これが私の聖獣ウルルが持つ2つ目の属性の力だよ」
ウルルは植物属性を持っていた。文字通り、植物を操る力だが、それは自然界にある植物ではなく、自身の魔力を植物と同じ形に変えることができる、生産系の属性だ。
さらに生み出した植物は、自在に形だけでなく、質までも変えることができる。葉っぱを剣のように鋭くしたり、大木を生み出してハンマーのように重量を重くしたりと使い方次第では戦闘だけでなく日常生活でも様々な場面で活用できる。
「(本当はここから一気にとどめを刺したいけど、ここから先はほぼ剣術が必要になる。剣術素人である今の私には奇襲が精一杯なのが悔しいな)」
セレナは自身の力には見合わない実力不足に思わず歯を食いしばる。
そんなセレナの感情とは裏腹に、セレナの属性と獣能を使い分けた戦い方に、会場は驚きと歓声に包まれる。痛みに悶えるカーリットとそれを冷静な目で見つめるセレナ。会場の誰もが勝負はもう決まったと思っている一方で、セレナは勝負をつけようとしない。それは、実力不足だけが理由というわけではない。
「ねぇ。どうしてお姉ちゃんは何もしていないの?さっさととどめを刺せばいいのに」
「できない理由があるんですよ」
「見えない恐怖ってやつか?」
カーリットの今の状況に違和感を覚えるセレナ。それは会場にいる一部の生徒や職員にも感じられるものだった。
「ねぇ、あなた23連勝中って聞いていたけど、本当なんだよね?それにしちゃあ、痛みに慣れていないっていうか」
「・・・」
「確かに私はあなたの不意を突いた。でもうまく行き過ぎた。うまく行き過ぎて怖いくらいに。一体何を企んでるの?」
「・・・れ」
カーリットの体が震えだす。それが痛みを悶える震えなのか、怒りを表す震えなのか、それとも作戦を実行するため何かしらを発動させたことによる衝撃なのか、いずれにしても正体が分からない以上うかつに手を出せないセレナ。
するとカーリットが突然大声を上げる。
「黙れ、初心者が!今のは不意を突かれて、力の発動が間に合わなかっただけだ。不意を突くことでしか攻撃できない卑怯な奴の考えなんて予測できるはずがないだろう」
「いや、それも立派な作戦のうちだと思うけど」
「黙れと言っている!!!」
カーリットはセレナに向けて最大火力での炎を放った。だが・・・。
「コロン!」
『“火壁”!!!』
コロンの防御壁の前には何物も通さない。だが他の人から見れば、このカーリットの攻撃は、反撃にしてはあまりに無策な行動でしかなかった。だが実際に戦うセレナにとっては、この攻撃が何かしらの意味があるものと深読みをせざるを得なかった。
「(これまで3度の攻撃がすべて直球勝負。でもこれが、視界を隠すための広範囲攻撃であるなら、次の攻撃が来るはず。後ろか、上か、それとも・・・)」
だがその用心深さが、別の意味で役に立った。
『セレナ、下じゃ!!!』
「えっ?」
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