この世界の一員となりたくて

アネモイ

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この世界の一員となれるように

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 ヴィランが少女に向けて手を差し出す。だが少女は、未だヴィランたちに対する不信感が拭いきれず、その手を取ることができない。
 するとヴィランは少女からの信頼を勝ち取るため、まずは少女と自分が同類であることを証明することにした。
 ヴィランは自身の聖獣であるククを召喚する。
 「何、その小鳥?」
 「あなたの天狗さんと同じです」
 「どういうこと?」
 「私もあなたと同じ、獣亜人として、世界から拒絶される存在としてこの世界に生まれました」
 『きゅあ!』
 「!?」
 少女は目を見開いた。
 「私だけではありません。ここにいる私の仲間全員が獣亜人として生まれた者ばかり。私たちは自ら、同じ時を生まれた獣に対し敬意をこめて聖獣と、そして私たちは獣亜人ではなく聖獣奏者と名乗っています」
 「聖獣奏者・・・ここにいる全員が?私と同じ?」
 「はい、同じです」
 ヴィランはにっこりとほほ笑んだ。
 「そして私たちはあなたと同じ、この世界で否定されてきた実情を覆すため、私たちならではのやり方で戦おうと集いました」
 「別のやり方で?」
 「あなたにもぜひ手伝っていただきたいのです」
 そしてヴィランはまるで友達と世間話をするかのように、目線を合わせて楽しげに語りだした。
 グーラン王立魔導学園にて聖獣奏者学部という居場所を作り出したことから、そこから自分たちが世界に認めてもらえる存在になるべく、多くの障害を乗り越えながら奮闘していることも含めて。
 その話を少女は身を乗り出しながら聞いており、時には質問を挟んだりもしていた。
 その光景を遠くから見つめていたセレナは、自分がヴィランと初めて会った日のことを思い出していた。
 「どうしたのお姉ちゃん?」
 「ううん。ただ、私もあの手に救われたんだなと思い出してね」
 「そうだったね」
 「ミリアは違うの?」
 「私の場合は・・・ちょっと違うかな。私に手を差し伸ばしてくれたのはお姉ちゃんが最初だった」
 セレナはミリアの意味深な発言が気になったが、それ以上を特に聞こうとは思わなかった。
 一方、現状の全てを語り終えたヴィランは、再び少女に手を差し出す。
 「確かに私たちは、あなたの言う国の飼い犬であることに間違いはありません。ですが、私たちは王になりたいわけではないのです。それはあなたも同じではないのですか?」
 「・・・」
 「私たちは聖獣と共に生まれたことで人ならざる存在として扱われてきました。しかし私たちは、それを覆したい。この世界に生きる人間として、住人として認めてもらうために。この世界でまだ誰もやったことがないやり方で」
 “まだ誰もやったことがないやり方”。その一言が少女の心に大きく引っかかった。少女は差し出された手を見つめる。
 「これは救いなどという、烏滸がましいつもりはありません。私はただ、同じ境遇であるあなたと友達になりたい。そして願わくば、あなたにも私の見据える未来に向けてお手伝いをお願いしたいのです」
 「私は・・・」
 「もちろん強制ではありません。しかし、あなたとしても、他人からこうして隠れる生き方は本望ではないのではないですか?あなたが普通の人間として生きることを望むのなら、私にそれを手伝わせてください。この世界は互いに助け合うことで成り立っているのですから。あなたと天狗さんのように」
 すると少女は天狗の方に目を向ける。天狗は少女と目が合うと、こくんと頷いた。
 それを合図に少女の意が固まり、迷いを失った手はヴィランの差し出された手を流れるように掴む。
 「いいわよ。あなたの作戦に乗ってあげる。正直、この生活にもうんざりしていたところだったし」
 ヴィランは立ち上がり、掴まれた手を思いっきり引き上げる。少女はその反動で、立ち上がった。
 「ただし、私に理があることが絶対だからね。それが叶うんだったら、あなたの野望とやらに手を貸してやろうじゃない」
 「保証はできませんが、あなたの望む未来に繋がるよう全力でお手伝いさせてください」
 「交渉成立ね」
 こうして、聖獣奏者学部に新たな仲間が加わった。
 一同は外に出ると、外はすっかり日が暮れていた。
 今晩はここでキャンプを張ることに決め、各々が準備に取り掛かる。
 アイリクとミチルは薪拾いを任された。アイリクは自身の熊型聖獣であるガルドを召喚。そして仲間になった天狗との4人で薪拾いに勤しんでいた。
 『あらためて感謝する。貴殿らと打ち解けて、あのような主の笑顔は久しぶりに見た。アイリク殿の言う通り、ああして時には立ち塞がることも必要だと、痛感させられたよ』
 「いいって、いいって。それより忘れてねえよな?俺との約束」
 『もちろんだ。お主に力ではなく、技術での戦い方を伝授しよう。自己流ではあり、拙さはあるが、借りの一部にはなるであろう』
 2人の会話を傍らで聞いていたミチルは、その非現実な光景に慣れない様子で薪を拾っていた。
 「それにしても、セレナの聖獣以外にも人の言葉を話せる聖獣がいるとはね。これでもう、セレナのことを例外とは言えなくなったな。こうして主がいない場所で話すというのも変な感じだ」
 『我もこうして、主以外と話ができることが新鮮であり、なんとも不思議な気分だ。だが案外悪くもない』
 一方の女性陣は、夕飯の準備に取り掛かっていた。するとミリアが少女に向かって素朴な疑問を投げかける。
 「そういえば、あなたの名前まだ聞いていなかったよね?あの天狗さんも“主”ってしか言わないし、名前教えてよ」
 「・・・ない」
 「え?」
 一瞬で辺りが沈黙に包まれる。
 「名前がないってどういうこと?」
 「正確には無いわけじゃないんだけど、正直あの人たちが親の最低限の義務で付けた名前なんていらない。それだけ」
 「でも、それじゃあ不便じゃない?」
 「うん。だからヴィランがつけてよ」
 「私ですか!?」
 ヴィランは思わず今まで聞いたことがない甲高い声を出した。
 「だって私をここから連れ出してくれるんでしょ?私にとって再起になるんだし、それぐらいの責任は取ってもらわなくっちゃ!」
 「そんなこといわれても・・・」
 体をモジモジとさせるヴィラン。いつもは気品あふれるヴィランが見せる可愛らしい姿にセレナはふっと笑みをこぼしながら、さりげなく背中を押した。
 「まあ、彼女がそれを求めているなら名前ぐらいいいんじゃない?」
 「名前ぐらいって、人が墓まで持っていくのに唯一無二の存在ですよ。そんな大役を私なんかが・・・」
 「そんな大役に彼女はヴィランを選んだんでしょ?」
 ヴィランは少女の方を振り向くと、少女はキラキラした表情を浮かべている。その期待の眼差しにヴィランは大きくため息をついた。
 「そんな目を向けられたら断れるわけがないじゃないですか・・・。わかりました。頑張って考えますが、変な目は向けないでくださいよ」
 「期待しているからね。ヴィランママ」
 「ママじゃありません」
 ヴィランは一生懸命に頭を悩ませた。すると、肌に当たる森の清らかな風を感じ、空を見上げ、ある1つの単語が浮かび上がる。
 「シエル・・・」
 「シエル?」
 「確か異国の言葉で“空”を意味する言葉だったはずです。小さな箱庭から、大空へはばたける意味を込められたらと・・・」
 ヴィランが横目でちらりと少女の方を見る。すると少女は、満天に輝く星を見上げながらぶつぶつとつぶやいていた。
 「シエル・・・・シエル・・・」
 そして少女は、にっこりとほほ笑んだ。
 「気に入った!」
 静寂な夜に響く少女の声。セレナたちは、森の中から獣やら魔獣やらがその声に誘われてこないかと、内心ひやひやしている。
 「今日から私は“シエル”を名乗らせてもらう。その名に恥じないよう、私は大きく羽ばたいてみせる!」
 「気に入っていただけたようで何よりですが、ほどほどにお願いします」
 その時、薪拾いに出ていた男性陣と合流した。
 『シエルか・・・。よい名をもらってよかったな、主』
 「うん!」
 『あらためて貴殿にも感謝を、ヴィラン殿。主共々、これからよろしく頼む』
 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 こうして夜も更け、一同はシエルが開発した研究施設で一晩を過ごした。
 夜が明け、身支度を整えた一行は、グーラン王国への帰還を目指し遺跡を後にする。
 「よかったの、シエル?手荷物そんなに少なくて」
 「うん。忘れたいわけじゃないけど、一からやり直すためには、思いっきりも大事かなって」
 「そういえば1つ気になっていたんだが、こんな山奥で食料とかはどうしていたんだ?」
 するとシエルはやや言いにくそうに口を開く。
 「ああ・・・山の中にある自然の恵みとか、あとは・・・この遺跡を調査に来た戦闘職の人たちから手荷物を奪っていたりしてたりなんて・・・」
 「なるほど、それである程度痛めつけた後、そのまま彼らを帰していたのか」
 「報告を受ければ、また新たな調査員が来るからね」
 「それを考えると、もしかして私、一度は警察の厄介になっちゃったりするのかな?」
 青ざめるシエルをヴィランは必死にフォローする。
 「その辺は私がお母さんに掛け合って、必ず穏便に済むようにしてもらいます。生きるのに必死だったシエルの事情をくみ取ってもらえれば、情状酌量の余地は十分にあるはずですから」
 「・・・ご迷惑おかけします」
 シエルの輝かしい門出となるよう、しっかりしなければと決意を固めるヴィランであった。
 こうして帰りの汽車に乗り、一同はグーラン王国へと向かう。依頼を達成したという実績と新たな仲間という手土産に携えて。
 それから学園へと到着した一行。そこからセレナたちの環境は一気に変わった。
 まずは、これまで多くの戦闘職の魔導士や騎士たちが失敗してきた依頼を達成したという実績は学園どころか国中に広まり、隠れてセレナたちに同行していた観察員たちの報告とも合わさって、聖獣奏者学部の評価は大きく跳ね上がることになる。
 結果、聖獣奏者学部は国が所有するべき大きな勢力として認められることになり、無事に聖獣奏者学部が正式に設立されることになった。
 しかし、学部が正式に設立されたとはいえ、教育機関としては圧倒的に教材不足であることに変わりはない。そのため、当面の聖獣奏者学部の活動はこれまでの活動と同様に、戦闘訓練や依頼をこなしていきながら教材制作をしていくことになる。
 依頼達成から数日後。セレナたちは、今回の依頼で見つかったそれぞれの課題克服のため、それぞれ独自で活動を行っていた。
 今回の依頼において見つかった各々の課題は、それぞれの大きな反省点となっていた。この反省点をそのままにしては、自分たちは決して前には進めない。聖獣奏者学部全体でそれに関しての会議が行われ、それぞれのレベルアップのため、一時活動休止をすることに決めたのだ。
 「なんだかんだ久しぶりですね。こうして学部内の女子たちでお茶をするというのは」
 「寮では顔を合わせるけど、みんな一日忙しくて簡単な会話しかしなかったもんね」
 今日は久しぶりの聖獣奏者学部の女子会だ。
 「天狗さんは、今日もアイリクと武道学部での訓練ですか?」
 依頼から帰って、アイリクはしばらく天狗の元で武術の訓練をしていたが、学園からの勧めで武器や魔法を使わない武術のみを極めた格闘騎士を育成する機関、武道学部での合同訓練に参加するようになった。
 「そっ。兄貴も元は好戦的で、いつかは誰かと競い合いたいと夢見ていてね。この学園はその夢に最適だったみたい。毎日誰かと競い合えることに喜びを感じているよ」
 「最初は聖獣と言葉を交わす現実に、武道学部の人たちは皆戸惑っていたみたいだけどね」
 ちなみに最初は警察の厄介になるのではないかと不安でいっぱいのシエルだったが、その辺はヴィランの計らいによって何とか無事に治めることができた。
 シエルの生い立ちやこれまでの実情、また戦闘職の面々に顔を見られていなかったことも幸いし、厳重注意と反省という形で無事に収まることになった。
 また、シエルの心を開いたきっかけがヴィランである報告を観察員から受けたヒリス学部長は、泣いて喜んでいたという。
 そして、シエルの学園への編入が決まったその日、聖獣寮では盛大な歓迎会が催された。
 「ミチルさんは今回のことがきっかけで本格的に指揮官としての勉強を始めたみたいですし」
 ミチルは今回の依頼で指揮官としての未熟さを思い知り、アイリクが他学部との合同訓練に参加していることを聞きつけ、ならば自分もと他学部への授業に参加するようになった。
 ミチルが参加しているのは、将校学部と呼ばれるいわゆる指揮官を育成するための学部だ。学部の中では聖獣奏者学部に次いで2番目に生徒が少なく、将来は軍事を預かる役どころに務めることが多い。
 「お姉ちゃんとサラは、騎士学部での合同訓練で頑張っているもんね」
 「うん。サラはいつにも増して生き生きしているよ」
 セレナは自身の狼型聖獣ウルルの植物属性を使いこなせるようになるため。サラは遺跡での調査で剣に水を纏わせた心地よい感触が忘れられず、剣術を極めようと2人で騎士学部の合同訓練に参加するようになった。
 サラは剣術を極めたのち、将来は魔法剣士となって、武器である剣を新しく新調するつもりらしい。
 ヴィランとミリア、そしてシエルも魔導学部との魔力強化の合同訓練をしながら、聖獣奏者として更なる高みを目指している。
 「そういえば、シエルはあれからどうなったの?なにやら、技術提供とか、いろんなところから声が掛かっていたみたいだけど」
 「あれね・・・」
 今回の依頼達成において、国が一番に目を付けたのはシエルの技術力だ。遺跡内部にあるあの機械仕掛けの部屋や特製の鉄を生み出した独自の開発力と技術力は、国にとって無視できるはずもなく、できれば手中に収めたいものであった。
 「それに関しては、少し時間をもらいたいってお願いしたよ。今の私にとって大事なのは、この学園で生きた感触を味わいたいことだから。この学園でお腹一杯になるぐらい皆との楽しい時間を味わえたなら、将来この国に技術提供をしてもいいって言ってあげた」
 「それについては私と母からも国に掛け合いました。今は存分にシエルに、今まで得られなかったものを与えてあげたいって。国もシエルの生い立ちを知ってからか、すぐに納得してくれました」
 「でも、みんなを守るためなら開発でもなんでも喜んでするけどね。寮にも私専用の研究施設を用意してくれたし」
 それぞれが目標に向かって次のステージに進んでいく毎日。それは彼らにとって、今まで味わったことのない充実した日々であることに間違いないようだ。
 「ねえ?」
 「なんですか、セレナさん?」
 「ようやくここまで来たね」
 「・・・そうですね」
 セレナはようやく自分が今生きた心地を実感している現実が嬉しくてしょうがない。だが人とは欲望の塊のようなもの。その現実に満足すれば、さらにその先に足を踏み入れようとする。
 「でも、まだまだこれからです。私たちはまだ居場所を造っただけ。何も成し遂げてはいません」
 「そうだね。むしろここからが始まりだね」
 「楽しい未来だったらいいな」
 「楽しみ」
 セレナたちは将来が明るいものであることを夢見て、真っ青な空を見上げる。
 「頑張ろうよ。私たちがこの世界の一員になれるように!」
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