神の創造し魔法世界

アネモイ

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世界の住民

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 国から遣わされた白装束の男たちの神術によって、あっという間に火の海と化した独立国家の集落。その火球の雨は、独立国家に所属するすべての命が全滅するまで止むことはないようだ。

 そして火球が降り注いでから数十分後。民が全滅するのを確認するべく集落に立ち入った装束の男たちが次々と合流してゆく。

 「隊長。ご命令通り、集落にいた独立国家の民たちは壊滅しました。運よく逃げ延びた者もいるかもしれませんが、少なくともこの集落には、女子供限らず人っ子一人いません」
 「構わん。生き延びたところで我が国の脅威となるはずもない。放っておけ」

 傍らで白装束の男の報告に聞く耳を立てていたフィルスの父親でもある集落の長は、自身の選択のせいで失われずに済んだ命が失われてゆく現実に、落胆した表情を隠しきれない。

 「哀れなもんだ。覚えておくがいい。これが喧嘩を売るということ。文字通り命懸けというものだ」

 落胆のまま、言い返す気力などすでに失ってしまった長。
 だがそれでも長の娘であるフィルスは、白装束の男たちを睨みつけるの止めなかった。

 「それで隊長?この者たちは?」
 「いやなに。運がいいのか悪いのか、確認しうる範囲で、この独立国家で唯一の生き残りだ。その命が尽きる時も、もう時間の問題だがな」
 「・・・私が言うのもなんですが、隊長も随分とよい趣味をお持ちで」

 そうこうしているうちに、白装束の男たちが全員集まった。
 その背後には、先ほどまで平和に暮らしていたはずの集落が、炎に包まれながら見るも無残な姿に変わってゆく。フィルスの目尻には、うっすらと涙が溜まっていた。

 「本当に、全員殺してきたんだね」
 「この絶望的な状況でもその鋭い目を我々に向けてくるとは。その若さでありながら大したものだ。過去にそのような経験でもしてきたのか?」
 「んなわけないじゃない。こんな残酷で胸糞悪い現実は初めてよ」
 「そうなのか?この状況でも己が意志を保つ強き心。それは、このような状況を経験し、乗り越えた者でないと得られないはずなんだが。まあいい・・・」

 すると隊長と呼ばれる白装束の男は、フィルスの持つ強靭な心が気に入ったのか、意外な取引を持ち掛ける。

 「ところで娘よ。我々と一緒に来る気はないか?お前の持つ戦場で自我を保つ強き心。この場で失うのには惜しい」
 
 隊長を取り囲む白装束の男たちは互いに顔を見合わせながら驚いた表情を見せる。しかし、突然の勧誘にもフィルスの表情は微塵も変わる様子はない。

 「私の大切な人たちの魂を踏みにじってまで、そしてその仇となる奴らのところになんて素直に行くと思う?」

 すると白装束の男は静かに首を振った。

 「いいや。素直に手を取るとは思ってはいない。少し試したくなっただけだ。それだけに残念だ」

 白装束の男はフィルスと正面から向き合った。
 
 「見たところお前は、体内に魔を持つ“天才”ではないようだ。それでもまだ我らと戦うつもりか?」
 「当たり前でしょ。私だってこの独立国家の一員。私の運命は皆と一緒にある!」

 するとそんなフィルスを止めるように、父親である長が膝を地に着いた状態でフィルスの服を引っ張った。
 
 「やめろ、フィルス!今は逃げろ!ここを生き延びることだけを考えろ!」
 
 するとフィルスは腰を下ろし、父親と同じ目線となる。
 
 「ごめんね、お父さん。ここで逃げたら、私はきっと死ぬより辛い後悔をすることになると思う。それにもう、逃げないって、何もしないで後悔する運命はたどらないって決めてるの」
 「お前、何を言って・・・」
 「本当に何を言っているんだろうね。“もう”って言いながら、こんな経験したことなんてないはずなのに。それでも私は、やっぱりここで逃げたくない」
 「フィルス・・・」
 
 フィルスは立ち上がる。一歩足を踏み外せば、背後には断崖絶壁のような立ち位置でありながら、その目はまっすぐ何かを見つめていた。
 
 その様子を遠くから眺めていたアネモイ。そのフィルスの行動に理解が追い付かない様子。
 
 「なぜだ?なぜ立ち向かう?勝ち目などないと分かっているはずなのに。それでもなぜ、そんな未来を見据えた目で遠くを見つめることができるのだ?」
 
 すると隊長と呼ばれる白装束の男が、せめて最期は自分手で葬ってやると言わんばかりに、フィルスとその父親に向かって両手を伸ばす。
 
 「最期に聞かせてもらおうか、娘よ。お前は今、その目の輝くの先に何を見ている?」
 「私がこの世界の住人となる未来!」
 
 フィルスは迷わずその言葉を口にした。
 そしてその一言が、アネモイの心に大きく引っかかった。
 
 一方、質問を投げかけた白装束の男は、その答えに対して鼻で笑っている。
 
 「おかしなことを言う。この世界にいる以上、お前はすでに世界の住人とやらではないのか?」
 
 今度はフィルスが静かに首を横に振った。
 
 「私はこの世界でまだ何も成し遂げてはいない」
  
 するとフィルスは空を見上げた。つられてアネモイも空を見上げると、そこには満天の星空が天を覆っている。
 
 「私が目指す未来は、誰もが自分の意志で生き、自分のやるべきことが自分で見つけられる世界」
 「・・・」
 「でも今のこの世界は、私の理想とはかけ離れすぎている。力ある者しか夢を詠えず、力無い者はそいつの夢を叶える道具へとなり下がる。それが今の腐敗した世界」
 
 そしてフィルスは正面を向き直した。
 
 「でも私は別に、王様の部下になりたくないわけじゃないの。誰かに下に就いたとしても、そこに私の意志があればいい。私の目指す未来が、その人と同じでありたい。だから、その力になりたい。そしてそれは、私の意志で決めたい」
 「夢物語だな」
 「そうかな?自分が王様になりたいんだったら、それは限られた人にしかできない夢物語かもしれないけど。だけど私は、上に立つ人も下に就く人も、互いに助け合いながら、同じ道をたどり、世界をよりよくしていきたいだけ。協力し合う関係なら、それは別に現実的に可能だと思うけど?」
 
 するとその時、白装束の男の手がわずかに震えた。初めて敵であるフィルスの言葉に心が揺さぶられた瞬間だった。

 しかし、一度はフィルスの志す未来に心を揺さぶられながらも、白装束の男はすぐに我に返り、両手の先に魔力を込め、火の玉を作り出す。
 
 そんな命の危機的状況にも、フィルスは続けた。

 「今の一匹狼の王様ばかりが創る世界じゃ、そこに残るのは限られた意志のみ。そんな限られた人だけが得する世界なんて、つまらないだけでしょ?だから私は今の世界を変えたい。今度は私の手で。だって私も、この世界の住民なんだから!」

 その一言がアネモイの心を大きく揺るがし、ある決意となって固まった。
 
 「そうか・・・そういうことか」

 一方白装束の男は、無力で立ち向かうフィルスに対し、目に見えない恐怖を感じ取っり、それを表すかのように額から汗が流れ落ちる。

 「・・・お前のその考え方、考えさせられないことはないが、我が王が目指す理想においてはあまりにも危険すぎる。悪いが、ここで消えてもらう!」

 白装束の男は、フィルスの返答を待つことなく、フィルスに向かって火球を放った。
 今、その場から離れれば、避けることも可能。しかし、フィルスは全身に力を振り絞り、頑なにその場から動こうとしない。
 
 「フィルス!!!」

 長の懸命なフィルスを呼ぶ声が集落に響き渡る。
 フィルスは再び空を見上げた。すると重力に従うまま、フィルスの頬を涙が流れ落ちる。

 「ああ・・・今度こそ完成させたかったな。私たちが目指す世界を・・・」
 
 フィルスは己の運命を受け入れたかのように、静かに目を閉じた。

 「ならば、その世界。私と共に創り上げてみるつもりはないか?」
 「えっ!?」
 
 どこからともなく聞こえてきた声とともに、フィルスと白装束の男たちの間に立ちはだかる巨大な光の壁。巨大な壁は、フィルスを守るように放たれた火の球を受け止め、消失させる。

 「なんだこれは!?」

 突然現れた巨大な壁に、その場にいた全員が目を見開く。
 するとそこに、ゆっくりと戦場に降り立とうとする1つの影。

 「何を諦めている?お前はこの腐りきった世界において、足掻くと決めたのであろう?」
「ア、 アネモイ!?」
「ならば死ぬことは許さん。お前の掲げる理想郷と私がこの地に降り立った意味を確かなものとするため、お前はこの世界に居てもらう必要がある」

 戦場に堂々と降り立った1人の男。男が出現させたと思われる巨大な壁と、肌がピリつくような男の存在感に、白装束の男たちの思考は時間が止まったように停止する。
 そんな中、真っ先に脳が回り、現状を把握したのは、隊長と呼ばれる白装束の男だった。

 「な、何者だ!?一体どこから!?いやそれより、この巨大な壁は貴様が・・・」
 「やかましい」

 アネモイは白装束の男の問いに答える気はなく、男の言葉を遮るように巨大な光の柱を出現させた。
 白装束を含むその場にいた男たち全員は、その巨大な柱の中に閉じ込められた。男たちは見たことがない巨大な力を前に、動揺を隠しきれない。

 「なんだこれは!?あの壁といい、あの男がやったのか!?」
 「馬鹿を言うな!こんな巨大な力、人間のできるものではい!」
 「だがこれは・・・」

 そんな中、隊長と呼ばれる白装束の男はまっすぐアネモイの方を見つめていた。

 「貴様・・・いったい何者・・・」
 
 その質問に対し、アネモイは初めて白装束の男と向き合った。

 「君は、神の存在を信じるか?」
 「・・・は!?」
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