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新たな地へ向けて
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この世界の創造神であるアネモイは、昨晩の出来事で、ようやく自分がこの世界に降り立つ意味を見つけ出すことができた。
そのきっかけとなった、フィルスという少女と共に、一度はこの腐りきった世界を滅ぼすと決めた。新たな世界を再構築するために。
日が昇り、アネモイにとっては、実に何十年ぶりの気持ちのいい朝だった。
「朝日をこれほど気持ちく感じたのはいつぶりだろうか」
「まさに心機一転って感じだね」
「神だから必要ないと思っていたが、目的を持つというのもいいものだな」
アネモイは朝日に向かって、精一杯の背伸びをする。
そんなアネモイに、フィルスの父であり、独立国家をまとめる長が近づいてきた。
「アネモイ様・・・」
「おお、長か。集落の皆のこと、すべて任せて悪かったな」
「い、いえ・・・」
「しかし、さすがの統率力だ。こんなにも早く全員の気を落ち着かせるとは。私も人の上に立とうとする身として、見習わないとな」
「もったいないお言葉です」
「えっへーん、すごいでしょ!」
「すごいのはお前の父親であって、お前ではない」
「いや、身内が褒められたんだから、喜んだっていいでしょ?」
長はアネモイに対し、かなり緊張しているようだった。
アネモイは長の気持ちを察し気づかないふりをしていたが、長が突然アネモイの目の前で膝をついた。
「何をやっている?」
「お父さん!?」
「今までのご無礼。大変申し訳ありませんでした。知らなかったとはいえ、神の前でなんと無礼なことを・・・」
「頭を上げてくれ。私も気づかれないよう、人間に紛れていたんだ。むしろ人間にうまくなじめず、迷惑をかけて悪かった」
「いえ、こちらこそ。そちらの事情も汲み取れず、こちらからばかり押し付けて申し訳ない。それに昨晩のことも」
長は自分のせいで、集落が一度は滅んでしまったことを後悔しているようだった。
「結局私は、理想郷ばかり掲げるだけの形だけの長に過ぎなかった。その甘さがあの惨劇を引き起こし、守るべきはずの皆の命を危険に晒した。あなた様の言う通り、勇気と無謀を履き違えた結果がこれです。今思えば、恥ずべきことばかりです」
「長・・・」
「私はもう長ではありません。昨晩の出来事で、私はもうその器でないことは身をもって知りましたから」
そしてフィルスの父親は、アネモイに懇願の意を向ける。
「創造神アネモイさま。どうか私たちをお導きください。聞けばあなた様はこれから、この世界を再構築するため、新たな国を造るとのこと。私たちをその国の民としてください」
もともとアネモイは、彼らを自身の国の民として向かい入れるつもりではあった。しかしいざその時が来ると、思わずその手を取るのを躊躇してしまう。
昨晩の長の失態を間近で見守っていたアネモイにとって、人間の命を預かる責任の重さを改めて思い知らされ、とても他人事のように思えなくなったからだ。
「私もそのつもりではあったが、本当に良いのか?そなたも知っての通り、私はこの世界を腐食に導いた神の張本人。人間を導くどころか、力でしか解決を知らない出来損ない。お前たちに恨みを買われてもおかしくない相手なのだぞ?」
「それは私とて同じこと。むしろ力がない分、私よりあなた様が上に立たれた方が、みんなも安心でしょう」
「今は導く手も持っていないでもか?」
「構いません。私たちは今のあなた様が掲げる、世界の理を変えようとする姿勢。そこに惹かれたのです。むしろ今の世界に、あなた様の探している答えが存在しないのはむしろ当然のこと。ですからともに見つけていきましょう。あなた様の理想となる世界の在り方を」
すると、集落にいた住民全員がアネモイのもとに集まってきた。どうやらフィルスの父親によって、昨晩のことは蘇ったことも含めすべて聞かされているようだ。
アネモイの正体が誰であるかも知ったうえで、それでも集落の住民は一斉にアネモイに跪いた。
「ここにいる者たち、皆アネモイ様に恩を感じております。あなた様の目指す理想郷、ぜひとも私共にお手伝いをさせていただきたい。そしていつか私たちに見せてください。あなたの理想とする国を」
「アネモイ様!」
「アネモイ様!」
アネモイにとって、こうして人間に膝をつかれるのは世界の創世記以来だった。
この地に住む住民たちに恨みを買われていたと思っていた矢先、まさか再び神として崇められる扱いを受けるとは夢にも思っていなかった。
あまりにも久しぶりな立場に、こんなときどうすればよいか思い出せず、時が止まったように動かなくなったアネモイ。その背中に、フィルスが拳をぶつける。
「痛っ!?」
「あはは。神様にも痛覚あるんだ。しかも私程度の力で」
「ただの条件反射だ!」
「はいはい、そうですか」
フィルスはアネモイに顔を近づけた。
「いい加減、1人ですべてを抱え込もうとするのは止めなさいよ。不慣れなやり方で世界を変えようとしているんだったら、まずは上に立つあなたが人間を頼ることを覚えなきゃ。これから先、あなたにとって私たち人間の協力は必要不可欠なはずでしょ?」
「それは確かにそうだが・・・」
フィルスのアネモイに対する態度に、間近で見ていた父親は、心臓が停止しそうな恐怖に襲われている。
「お、お前・・・神に対して・・・」
「いいんだよ、お父さん。神様だろうと、出来損ないには、はっきり言ってやらないと!」
「ア、 アネモイ様?」
フィルスの父親は恐る恐るアネモイの顔色を窺っている。
アネモイは反撃を試みようとするが、フィルスの言うことに間違いを見つけられず、結局何も言い返すことができなかった。
広げられた心の傷が痛む中、アネモイは大きく深呼吸をする。
「よかろう!私の理想郷となる国を造るため、お前たちを存分に利用させてもあろう。その代わり、神の力でもってお前たちを守ると約束しよう!存分に私について来い!」
「ははっ!」
こうして神が造り上げる新たな国に、独立国家の丸々1つが領民として加わることになった。
「うん。まあ及第点かな」
「どうしてお前はそんな上から目線なんだ」
「なんでだろう。アネモイに対しては、なぜかそれでいい気がして・・・」
「・・・」
そして、アネモイとフィルス、そして代表者何名かによってこれからのことが話し合われる。
「それで長よ。これからのことなんだが・・・」
「長はおやめください。これからはあなた様が私たちの領主なのですから。“カルトロ”と、名前でお呼びください」
「わかった」
アネモイは改めて話を進める。
「私とフィルスはこれからある場所に向かう。以前旅をしていた時に通りかかった場所で、もともとある独立国家が国を造ろうとしていた土地だ。しかし、他国から強襲と引き抜きがあって、今は建物の残骸だけが残るゴーストタウンになってしまっている。とりあえずその地を最初の拠点とする」
「ゴーストタウンって何?」
「すまん。他の世界の言葉で、人のいなくなった町のことを言う。そういえば、他の世界のことで思い出したんだが・・・」
「ん?何?」
「いや、やはりそれは後ででいい」
するとここで、カルトロがアネモイに疑問をぶつける。
「お2人だけで行かれるのですか?」
「ああ。なにせ前に通りかかった時は、ずいぶんと前だからな。今はどこかの国が支配していてもおかしくない。当然そうなれば、その地に住む者も含めて乗っ取ること可能性もある。だから守る対象は少ない方がいい」
「なるほど」
アネモイのこれからの予定を傍らで聞いていたフィルスは、それを聞いて少し悲しそうな表情を見せる。
「やっぱり、力で支配するんだね」
「すまんな。今の私には、この世界の理、つまり力で支配する以外の知識がない。今はまだな・・・」
「・・・わかってる」
そしてアネモイは領主として、カルトロに最初の指令を出す。
「お前たちはこの地で待機しておいてもらいたい。支配が完了すればすぐに迎えに来る。その間、この地は神の結界で覆っておくから、この地が外から見えることはない。食料も数週間分ぐらい置いてゆく」
「つくづく神様って何でもありだね」
「願ってもないことを。ありがとうございます」
「迎えに来るまでの間、国の方針なんかを皆との話し合いで考えておいてくれ。私も道中で考えておく。その地を得て合流したのち、お互いの意見を照らし合わせよう」
「承知いたしました」
「では、フィルス。我々はさっそく出発するぞ」
「うん!」
カルトロはフィルスに対し、念入りに釘を打った。
「フィルス。領主様をしっかり支えるのだぞ」
「うん。この出来損ないが暴走しないよう、しっかり見張っておくから!」
「「一言多いわ!!!」」
アネモイとフィルスはさっそく旅立つ準備に取り掛かる。とはいえ、アネモイの荷物は昨晩のうちにすでにまとめ終えており、一方のフィルスは昨晩の火事でほとんど私物は無くなっていた。
「ていうか、神の力で私たちの荷物も元に戻してくれればいいのに。魂と肉体を再構築するよりよっぽど簡単だと思うけど」
「あえて元に戻さなかったのだ。今回の敗北で植え付けられたトラウマは、きちんと教訓に刻んでおくべきだと考えてな。元々このような惨劇を生み出した原因は、勇気と無謀を履き違えたお前たちの失敗にある。プライドなどという自己保身にしか使うことができないものを優先したせいで生まれる、大切なものを失った悲しみと後悔。お前たちはしっかりと味わうべきだ」
「それは・・・そうかもだけど・・・」
「アネモイ様の言う通りだ」
そこに現れるカルトロ。
「本来、私たちは命すらなくなっていたんだ。今回の事態を引き起こしたきっかけは私ではあるが、無力を棚において、この地に集まったのは皆も同じ。失ったものに対し、命以上のものを求めるのは、それこそ目の前のお方から正真正銘の罰が下るぞ」
「あはは、確かに。命を救ってもらっただけ幸せなことだよね」
アネモイとフィルスは旅立つ準備を終えた。すると集落の住民全員が集まり、その場で見送られることになった。
「神である領主様にこんなことを言うのは無粋かもしれませんが、どうかお気を付けて。私たち一同、領主様のお迎えを心よりお待ちしております」
「ああ。必ず迎えに来る。それまで彼らのことは頼んだぞ」
「はっ。長としての最後の務め、必ず果たしてみせます」
「しっかり頼むぞ、フィルス」
「うん!行ってきます!」
「「「いってらっしゃいませ!!!」」」
こうしてアネモイとフィルスは、集落の住民に見送られながら、一足先に自国の領土となる土地を目指し、旅立つのであった。
そのきっかけとなった、フィルスという少女と共に、一度はこの腐りきった世界を滅ぼすと決めた。新たな世界を再構築するために。
日が昇り、アネモイにとっては、実に何十年ぶりの気持ちのいい朝だった。
「朝日をこれほど気持ちく感じたのはいつぶりだろうか」
「まさに心機一転って感じだね」
「神だから必要ないと思っていたが、目的を持つというのもいいものだな」
アネモイは朝日に向かって、精一杯の背伸びをする。
そんなアネモイに、フィルスの父であり、独立国家をまとめる長が近づいてきた。
「アネモイ様・・・」
「おお、長か。集落の皆のこと、すべて任せて悪かったな」
「い、いえ・・・」
「しかし、さすがの統率力だ。こんなにも早く全員の気を落ち着かせるとは。私も人の上に立とうとする身として、見習わないとな」
「もったいないお言葉です」
「えっへーん、すごいでしょ!」
「すごいのはお前の父親であって、お前ではない」
「いや、身内が褒められたんだから、喜んだっていいでしょ?」
長はアネモイに対し、かなり緊張しているようだった。
アネモイは長の気持ちを察し気づかないふりをしていたが、長が突然アネモイの目の前で膝をついた。
「何をやっている?」
「お父さん!?」
「今までのご無礼。大変申し訳ありませんでした。知らなかったとはいえ、神の前でなんと無礼なことを・・・」
「頭を上げてくれ。私も気づかれないよう、人間に紛れていたんだ。むしろ人間にうまくなじめず、迷惑をかけて悪かった」
「いえ、こちらこそ。そちらの事情も汲み取れず、こちらからばかり押し付けて申し訳ない。それに昨晩のことも」
長は自分のせいで、集落が一度は滅んでしまったことを後悔しているようだった。
「結局私は、理想郷ばかり掲げるだけの形だけの長に過ぎなかった。その甘さがあの惨劇を引き起こし、守るべきはずの皆の命を危険に晒した。あなた様の言う通り、勇気と無謀を履き違えた結果がこれです。今思えば、恥ずべきことばかりです」
「長・・・」
「私はもう長ではありません。昨晩の出来事で、私はもうその器でないことは身をもって知りましたから」
そしてフィルスの父親は、アネモイに懇願の意を向ける。
「創造神アネモイさま。どうか私たちをお導きください。聞けばあなた様はこれから、この世界を再構築するため、新たな国を造るとのこと。私たちをその国の民としてください」
もともとアネモイは、彼らを自身の国の民として向かい入れるつもりではあった。しかしいざその時が来ると、思わずその手を取るのを躊躇してしまう。
昨晩の長の失態を間近で見守っていたアネモイにとって、人間の命を預かる責任の重さを改めて思い知らされ、とても他人事のように思えなくなったからだ。
「私もそのつもりではあったが、本当に良いのか?そなたも知っての通り、私はこの世界を腐食に導いた神の張本人。人間を導くどころか、力でしか解決を知らない出来損ない。お前たちに恨みを買われてもおかしくない相手なのだぞ?」
「それは私とて同じこと。むしろ力がない分、私よりあなた様が上に立たれた方が、みんなも安心でしょう」
「今は導く手も持っていないでもか?」
「構いません。私たちは今のあなた様が掲げる、世界の理を変えようとする姿勢。そこに惹かれたのです。むしろ今の世界に、あなた様の探している答えが存在しないのはむしろ当然のこと。ですからともに見つけていきましょう。あなた様の理想となる世界の在り方を」
すると、集落にいた住民全員がアネモイのもとに集まってきた。どうやらフィルスの父親によって、昨晩のことは蘇ったことも含めすべて聞かされているようだ。
アネモイの正体が誰であるかも知ったうえで、それでも集落の住民は一斉にアネモイに跪いた。
「ここにいる者たち、皆アネモイ様に恩を感じております。あなた様の目指す理想郷、ぜひとも私共にお手伝いをさせていただきたい。そしていつか私たちに見せてください。あなたの理想とする国を」
「アネモイ様!」
「アネモイ様!」
アネモイにとって、こうして人間に膝をつかれるのは世界の創世記以来だった。
この地に住む住民たちに恨みを買われていたと思っていた矢先、まさか再び神として崇められる扱いを受けるとは夢にも思っていなかった。
あまりにも久しぶりな立場に、こんなときどうすればよいか思い出せず、時が止まったように動かなくなったアネモイ。その背中に、フィルスが拳をぶつける。
「痛っ!?」
「あはは。神様にも痛覚あるんだ。しかも私程度の力で」
「ただの条件反射だ!」
「はいはい、そうですか」
フィルスはアネモイに顔を近づけた。
「いい加減、1人ですべてを抱え込もうとするのは止めなさいよ。不慣れなやり方で世界を変えようとしているんだったら、まずは上に立つあなたが人間を頼ることを覚えなきゃ。これから先、あなたにとって私たち人間の協力は必要不可欠なはずでしょ?」
「それは確かにそうだが・・・」
フィルスのアネモイに対する態度に、間近で見ていた父親は、心臓が停止しそうな恐怖に襲われている。
「お、お前・・・神に対して・・・」
「いいんだよ、お父さん。神様だろうと、出来損ないには、はっきり言ってやらないと!」
「ア、 アネモイ様?」
フィルスの父親は恐る恐るアネモイの顔色を窺っている。
アネモイは反撃を試みようとするが、フィルスの言うことに間違いを見つけられず、結局何も言い返すことができなかった。
広げられた心の傷が痛む中、アネモイは大きく深呼吸をする。
「よかろう!私の理想郷となる国を造るため、お前たちを存分に利用させてもあろう。その代わり、神の力でもってお前たちを守ると約束しよう!存分に私について来い!」
「ははっ!」
こうして神が造り上げる新たな国に、独立国家の丸々1つが領民として加わることになった。
「うん。まあ及第点かな」
「どうしてお前はそんな上から目線なんだ」
「なんでだろう。アネモイに対しては、なぜかそれでいい気がして・・・」
「・・・」
そして、アネモイとフィルス、そして代表者何名かによってこれからのことが話し合われる。
「それで長よ。これからのことなんだが・・・」
「長はおやめください。これからはあなた様が私たちの領主なのですから。“カルトロ”と、名前でお呼びください」
「わかった」
アネモイは改めて話を進める。
「私とフィルスはこれからある場所に向かう。以前旅をしていた時に通りかかった場所で、もともとある独立国家が国を造ろうとしていた土地だ。しかし、他国から強襲と引き抜きがあって、今は建物の残骸だけが残るゴーストタウンになってしまっている。とりあえずその地を最初の拠点とする」
「ゴーストタウンって何?」
「すまん。他の世界の言葉で、人のいなくなった町のことを言う。そういえば、他の世界のことで思い出したんだが・・・」
「ん?何?」
「いや、やはりそれは後ででいい」
するとここで、カルトロがアネモイに疑問をぶつける。
「お2人だけで行かれるのですか?」
「ああ。なにせ前に通りかかった時は、ずいぶんと前だからな。今はどこかの国が支配していてもおかしくない。当然そうなれば、その地に住む者も含めて乗っ取ること可能性もある。だから守る対象は少ない方がいい」
「なるほど」
アネモイのこれからの予定を傍らで聞いていたフィルスは、それを聞いて少し悲しそうな表情を見せる。
「やっぱり、力で支配するんだね」
「すまんな。今の私には、この世界の理、つまり力で支配する以外の知識がない。今はまだな・・・」
「・・・わかってる」
そしてアネモイは領主として、カルトロに最初の指令を出す。
「お前たちはこの地で待機しておいてもらいたい。支配が完了すればすぐに迎えに来る。その間、この地は神の結界で覆っておくから、この地が外から見えることはない。食料も数週間分ぐらい置いてゆく」
「つくづく神様って何でもありだね」
「願ってもないことを。ありがとうございます」
「迎えに来るまでの間、国の方針なんかを皆との話し合いで考えておいてくれ。私も道中で考えておく。その地を得て合流したのち、お互いの意見を照らし合わせよう」
「承知いたしました」
「では、フィルス。我々はさっそく出発するぞ」
「うん!」
カルトロはフィルスに対し、念入りに釘を打った。
「フィルス。領主様をしっかり支えるのだぞ」
「うん。この出来損ないが暴走しないよう、しっかり見張っておくから!」
「「一言多いわ!!!」」
アネモイとフィルスはさっそく旅立つ準備に取り掛かる。とはいえ、アネモイの荷物は昨晩のうちにすでにまとめ終えており、一方のフィルスは昨晩の火事でほとんど私物は無くなっていた。
「ていうか、神の力で私たちの荷物も元に戻してくれればいいのに。魂と肉体を再構築するよりよっぽど簡単だと思うけど」
「あえて元に戻さなかったのだ。今回の敗北で植え付けられたトラウマは、きちんと教訓に刻んでおくべきだと考えてな。元々このような惨劇を生み出した原因は、勇気と無謀を履き違えたお前たちの失敗にある。プライドなどという自己保身にしか使うことができないものを優先したせいで生まれる、大切なものを失った悲しみと後悔。お前たちはしっかりと味わうべきだ」
「それは・・・そうかもだけど・・・」
「アネモイ様の言う通りだ」
そこに現れるカルトロ。
「本来、私たちは命すらなくなっていたんだ。今回の事態を引き起こしたきっかけは私ではあるが、無力を棚において、この地に集まったのは皆も同じ。失ったものに対し、命以上のものを求めるのは、それこそ目の前のお方から正真正銘の罰が下るぞ」
「あはは、確かに。命を救ってもらっただけ幸せなことだよね」
アネモイとフィルスは旅立つ準備を終えた。すると集落の住民全員が集まり、その場で見送られることになった。
「神である領主様にこんなことを言うのは無粋かもしれませんが、どうかお気を付けて。私たち一同、領主様のお迎えを心よりお待ちしております」
「ああ。必ず迎えに来る。それまで彼らのことは頼んだぞ」
「はっ。長としての最後の務め、必ず果たしてみせます」
「しっかり頼むぞ、フィルス」
「うん!行ってきます!」
「「「いってらっしゃいませ!!!」」」
こうしてアネモイとフィルスは、集落の住民に見送られながら、一足先に自国の領土となる土地を目指し、旅立つのであった。
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