神の創造し魔法世界

アネモイ

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2年の歳月

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 フィルスはアネモイから受け取ったお守りを首から下げつつ、単独で教会に忍び込む。
そこでリアと再会。リアは偽りの神父であるグールスがフィルスを操ったことも含め、それをさも自分がしでかしたことのように謝罪し、涙を見せた。

 フィルスはその涙が本物だと信じ、彼女を抱きしめ、彼女の力になると誓ったのだった。

 そしてリアも、彼女を信じ、グールスが描いたとされる物語の裏側にある真実を語りだす。

 「グールスって、元から住んでいたわけじゃないんだ」

 リアは黙って頷いた。

 「はい。グールスは3年前、突然スプリブルク王国に現れました。そしてその日を境に、私の・・・いえ、私たち家族の運命の歯車が狂わされたのです」
 
 そしてリアの記憶は、グールスがスプリブルク王国に訪れた日まで遡る。

 「グールスはスプリブルク王国に訪れると、まず手始めに自身の神術を用いて、スプリブルク王国の領主を含めた王宮の関係者たちを手中に収め、あっという間に王宮内に溶け込みました」
 「一瞬でその国を、文字通り掌握しちゃったんだ。そのグールスって人は何、王様にでもなろうとしたの?」
 「そういうわけではなさそうなんです。彼は王宮を掌握してからほとんど表には顔を出してはいません。王宮以外の国の領民にその神術をかけることもせず、潜伏という形で王宮内部で何やら計画を企てていたとのこと。事実、当時普通の領民だった私が彼の存在を把握したのは、彼が潜伏してから1年後のことです」
 「計画って?」
 「それは私にもわかりません。私はあくまでも利用される立場だったのですから。そして彼が王宮を掌握してから数カ月後、彼は動き出しました」

 フィルスは思わずごくりと生唾を呑み、背中に緊張が走る。

 「彼はまず、計画を遂行するにふさわしい土地を確保するべく、掌握した国の軍を動かして、国の近辺にある適切な独立国家を襲い、そこを植民地としました」
 「独立国家を襲ったのも、グールスの計画の一部だったんだ。それで、計画を遂行するための舞台を1年かけて造り上げたということか」
 「次に彼は、その計画を雲隠れしながら遂行するべく、そのためのシナリオを立ち上げ、それにふさわしい役者を探しました。そして役者として白羽の矢が立ったのが、私です」
 「そのシナリオって言うのが、2年前にこの植民地を救ったとされる2人の英雄談だね。“神の恩恵”っていう神術を演技で実践するなら、リアの治癒の神術は確かにピッタリかも。リア自身も聖女みたいで可愛いし、その角度から見ても他に人がいないのは納得」
 「唐突に褒めないでください・・・」

 リアは思わず赤面した顔を隠そうとする。そして照れが半分残る中で、リアは話を続けた。

 「そして2年前、スプリブルク王国がこの地を植民地としてすぐ、私は国からの要請で王宮に赴き、その時初めて彼と会いました。彼は領主様を操り、計画の詳細は明かさず、私に彼の企てる計画に参加するよう命令を下したのです。当時は彼の力を把握できていなかったため、領主様からの勅令と思い込み、断ることができませんでした」
 「ひどい。操った領主を利用して、リアに断る選択肢を失くすなんて。そんなの、リアの意志は完全に・・・あれ?」

 その時、フィルスの脳内にある疑問が浮かび上がる。

 「なんでグールスは、リアに直接神術をかけなかったの?わざわざ領主を操るような回りくどいことをしてまで。そっちの方が結構簡単そうだけど」
 「彼の人の心を操る神術は、ある2つの条件下では機能しないそうなのです。そのうちの1つは、対象者が神術をその身に宿す“天才”であること」
 「なるほど。リアも治癒の神術を持っていたから、あいつの神術にかからなかったんだ」
 「そしてもう1つの条件ですが・・・」
 「対象者が、その能力を予め把握、もしくは自分が操られていると自覚すること。つまり術の正体を知っていれば、掛かることはない。でしょ?」

 リアは思わず目を見開いた。

 「驚きました。まさか知って・・・いえ、むしろ知ってて当然でしたね。グールスの神術にかかってなお、それを乗り越えてここに来たのですから」
 「大切な人からの受け売りなんだけどね」
 「その方はずいぶんと博識なんですね。グールスの神術は、かなり珍しい部類でしょうに」
 「あはは・・・(なんたってそりゃ、神術を設計した本人なんだし。当然といえば当然)」

 さすがのフィルスも本当のことを言えず、とはいえ嘘とは無縁の彼女は笑ってごまかすしかなかった。
 
 「話は戻りますが、私は神術を生まれつき賜っていたおかげで、グールスの神術にかかることはありませんでした。それが幸なのか不幸なのかはわかりませんが」
 「それでも、リアはあいつの計画に加担することを選んだんだよね?それは領主様の口から命令されたから?・・・だけじゃないよね?」
 
 リアは悲しそうな表情で頷いた。
 
 時は遡ること2年前。スプリブルク王国にある王宮内。
 領主の命令で呼び出されたリアは、領主の口からグールスの計画に加わるよう命じられた。
 
 「我が国の進展のため、この国はある計画を遂行することとなった。数いる領民の中から、そなたはその計画の協力者として選ばれた。これは大変に名誉なことである」
 「はぁ・・・」
 「そなたはこの者と、我が国が所有する植民地へと赴き、この者の指示の下、計画を遂行せよ」
 「ですが私はまだこの国で・・・」
 「領民であるそなたに拒否権はない!」
 
 こうしてリアは、本人の意思が尊重されることなく、植民地に移り住むことになった。
 国の権限で、リアがかつて勤めていた治療院にはすでに手が回っており、先輩や同僚との別れも言えないまま退職の手続きだけが済まされていた。
 家族にも、リアの移住のことは告げられており、リアは生まれて初めて家族と別れて暮らすことになる。
 
 「家族とは一緒に来なかったの?」
 「この植民地で家族とともに住みたいと打診しましたが、国からの許可は降りませんでした」
 「どうして?」
 「当時は私もその理由が分かりませんでした。しかし後から気づいたことですが、これもまた彼の計画のうちの1つだったのです。それに気づいた時には、すでに何もかもが手遅れでした」
 
 そしてリアが植民地に移住して数日後、グールスの予言通り、植民地内に疫病が蔓延。リアは植民地に住む領民の治療に勤しんでいた。
 
 そしてすべての領民が病から解放されたころ、リアはようやく計画の一部を知ることになる。

 時は、領民たちが病から解放されたその日の晩のこと。

 「はぁ、はぁ・・・ようやく終わりました・・・これで皆さんが、病で苦しむことはしばらくないでしょう」
 「お疲れ様です。実に素晴らしい仕事ぶりでしたよ」
 「ありがとうございます・・・」
 「しかし、優等生過ぎるのも、逆に問題であると自覚させられましたがね」
 「?」
 
 するとここで、リアがずっと気になっていたことを、恐る恐るグールスに尋ねる。
 
 「ところで、どうして私の神術を隠す必要があるのですか?聖女のふりをして、祈りのポーズで治療させたり、“神の恩恵”という偽りの神術を用いたりまでして」
 
 グールスはそれを聞いて、少し悩む様子を見せながらも、特に計画の進行に影響はないと判断したのか、不敵な笑みをこぼしながらリアの質問に答えた。
 
 「そうですな。今更あなたに知れたところで問題はないでしょう。あなたが聖女のふりをして、偽りの形で彼らを治療していた理由は1つ。私の神術を奴らにかける上で、注意を逸らすためです」
 「あなたの神術?あなたの神術は予言だったのでは?」
 
 すると、グールスの目がまるで他人にないものを見せびらかすかのような、さらに不敵な笑みを浮かべだす。他人から見れば、不快に感じるほどに。
 
 「私は生まれつき、神から選ばれた存在でね。その証拠に、私は生まれながらに2つの神術を持ち合わせているんですよ。1つは予言。そしてもう1つは人の心を意のままに操る力」
 「人の心を操る・・・まさか、それを領民たちにそれをかけたのですか!?」
 「ええ。あなたに祈りのポーズで治療を指せている間、私は2階から領民全員にこの神術をかけ続けた。もはやここの領民すべては私の掌の中。私が心に語り掛ける命令は特に疑問を持つことはなく、素直に遂行する操り人形と化したのだ」
 「そんな・・・」
 
 するとここでグールスは気分がよくなってきたのか、調子に乗って、本来言う必要のない部分も明かし始める。
 
 「そして掌の中にあるのは、スプリブルク王国も同様。王宮内の関係者全員に神術をかけ、私があたかも国の関係者だと信じ込ませた」
 「そっか。あなたが突然王宮内の重鎮に成り上がったのはそれが理由」
 「そしてこの術はお前の家族にも・・・」
 「!?」
 
 途端に体中が恐怖で震えだし、顔は真っ蒼に青ざめる。
 
 「あなた・・・まさか!?」
 「もうすでにお前の家族は私の掌の中だ。普段は何気なく普通の暮らしをしているだろうが、お前が反逆の意を少しでも示したその時は・・・」
 「何をする気!?」
 「さあな。高台に行けと指示するか、毒を飲めというのもいいな。いずれにしても、奴らは何の疑問も持たずにそれを遂行する」
 「そんな・・・」
 
 グールスは上機嫌のまま、笑いながらその場を後にした。
 
 「お前が逆らわなければいいだけの話だ。せいぜい私の奴隷として、一生を尽くしてくれたまえ!」
 
 「それから私はグールスに逆らえなくなり、彼の言われるがまま、ここで聖女のふりをしてきました」
 「こんなに辛い暮らしを2年も・・・」
 
 フィルスは怒りで体が震え始める。
 
 「それからも幾度となく訪れる疫病から、領民を守るため、治癒の力で治療を行う日々。それだけならまだいいのですが、旅のお方を見かければ、“神の恩恵”と偽ってその方をグールスの術にかける手伝いをさせられる始末」
 「植民地であるこの町にこれだけの人口がいるのは、旅人が訪れる度にその人に術をかけて領民にしているからだったんだ。危うく、私もされそうになったし」
 
 だが現時点でフィルスが一番気になったのは、今もなお疫病が定期的にこの植民地を襲っているという点だ。
 
 「(グールスの神術が予言というのがフェイクであるなら、彼が言い当てたという疫病自体もてっきりフェイクだと思ってた。でもリアの話では、疫病は実在する。
 リアは、グールスの持つ神術が2つだと信じているみたいだけど、アネモイがそれはあり得ないって教えてくれたし。だとすれば、どうしてグールスは最初の疫病を予言できたの?)」
 
 フィルスは精一杯頭を悩ませるが、真実に近づけるものが何一つ思い浮かばない。何も聞かされていないリアに聞くのは無駄だと知りつつ、助け舟を求めずにはいられなかった。
 
 「ねえ、リア。その疫病って・・・」
 「それについて、彼女に問いかけるのは無駄というものですぞ」
 「!?」
 
 後方から掛けられた声にいち早く反応するフィルス。椅子から立ち上がり、思わず戦闘態勢を取った。
 
 「来たな、タヌキ爺!」
 「まさかの言われようですね。たった1日でこうも見方が変わってしまうとは、とても残念です」
 「全部あなたがしでかしたことでしょ?」
 
 するとグールスの視線がリアへと変わる。
 
 「残念ですよ、リアさん。賢いあなたなら、自分が置かれている状況をよく理解できていると思っていましたが」
 「グールス!」
 
 リアは遠隔操作で家族が殺される恐怖が頭から離れず、うまく言葉が出ない。
 一方のフィルスは、すでに勝ちを確信したような、不快な笑みを浮かべるグールスに、より一層の戦闘意欲が芽生えだす。
 
 「負けるもんか!」
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